ドイツ国鉄では、遅延回復のために「定刻よりも早く発車」するということが平然と行われるといいます。当然、目当ての列車に乗れなくなる乗客も発生します。

20分早く駅に着いたのにギリギリ

「まもなく到着の列車は、定刻より早めに出発します」

鉄道写真を撮ろうとドイツのとある田舎の駅に赴くと、このような構内アナウンスが繰り返されているではないですか。発車時刻より20分近く早く来たはずなので、「え、もう列車来るの?」と耳を疑いました。その駅は閑散区間で、置いてけぼりを食らえば2時間は次の電車がありません。困惑したまま、駅員に半ば無理矢理に押し込められる形で電車に乗り込みました。

事態が完全に把握でき、「乗れて良かったーー」と鳥肌が立ったのは、不運にも電車に置いて行かれた50代前半くらいと思しき男性が、スーツケースを引きずるのももどかしく抱え上げ、血相を変えながらホームへと走って来ている姿を、走り出した車内から目に捕らえた瞬間でした。相当余裕を持って駅に着き、まったく落ち度がないにも関わらず「非情な仕打ち」を受けたその男性に、車内から心の中で思わずエールを送らずにはいられませんでした。

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所定の発車時刻よりも早く列車が出発してしまうことを「早発」と言います。つくばエクスプレス(TX)が約20秒の早発で謝罪文を出したのも、まだ記憶に新しいかも知れません。英BBCなどで報道されて世界を驚かせたのは約6年前のことで、その後も、秒単位の早発の謝罪が鉄道各社からたびたび発表されて、ニュースを騒がせています。

これほど早発に厳しい日本とはまったく正反対に、ドイツではそれが確信犯で取られる「戦略的な遅延回避措置」だというのだからさらに驚愕です。

遅延回復に「なりふり構わぬ」背景とは

まず、日本で早発は「鉄道営業法」という法律の「鉄道運輸規程」の第22条で禁止されている違法行為ですが、ドイツではこれが違法ではありません。

加えて、ドイツでは鉄道のチケットがかなり前から販売され、事前に買えば買うほど格安に旅行ができる「早割り」のシステムが浸透していることも一因です。乗客にとってはメリットもあるこの仕組みですが、あまりに早くにチケットを販売してしまうため、その後に工事の計画が入って遅延回避のためにダイヤを見直そう(早発)とする時にはチケットの販売済みで“被害者”が出るわけです。

早発の場合、出発時刻の変更をチケット購入者にアプリやメールで連絡することとなっていますが、中にはソフトウェアの不備などで事前通達が一切なく、駅に到着した時に初めて「すでに発車済み」だということに気づくケースもあるようです。また、予定より早く発車したのに目的地に着いたのは結局定刻より遅かったという事例もあるため、何のための前倒し運行だったのかと、振り回される乗客の腹立たしさは想像を絶するものになります。

ドイツ鉄道と言えば時間に正確というイメージを抱いている方も多いと思いますが、実際は遅延だらけ。ドイツ国鉄が発表した2023年7月の長距離列車高速鉄道ICEと急行列車インターシティ)の月間定刻率は、なんと「64.1%」というありさまです。

しかもこの定刻率すら「6分未満の遅延は定刻」という謎の定義の下で算出したもので、ずさんな運行状況が常と言ってもいい状態が続いています。ドイツ国鉄は慢性的な遅延で非難され続けているため、定刻率を水増しするために編み出した"奇策"が早発なのではと疑いたくなります。

ちなみに、そんな案件に巻き込まれて予定の電車に乗られなかった場合、どのような補償を受けられるのでしょうか。ドイツの大手出版社系オンライン雑誌「トラベルブック」によると、乗車券は時間指定があるチケットだったとしても、「同日ならばどの時間帯の列車にも乗車可能」になります。

ただ私の経験上、指定席は無効になるケースが多いです。例え、一等車に指定席を確保していたとしても、別の列車では使えないため、もしも乗り込んだ列車が混んでいた場合、立って行かなくてはなりません。これは、日本の新幹線や特急で指定席を取った列車に乗れなかった場合と似た扱いです。また、鉄道移動自体を取りやめる場合は、全額補償も受けられる可能性があります。

ターミナル駅の時計のイメージ(画像:写真AC)。