東海道フェリー」なる構想が国の委員会で浮上しています。東名・新東名などに代わりトラックの受け皿になる航路があれば……その思いは実現するのでしょうか。需要は確かにありそうです。

トラックドライバーには少なくとも「ムーンライトながら」以上

2023年9月現在、物流政策を話し合う国の委員会のなかで、「東海道フェリー」なる新航路の構想が持ち上がっています。現時点でフェリー航路のない東京湾と伊勢湾を結ぶもので、いわば東名・新東名高速の並行航路といえます。

国土交通省9月13日に開催した「第3回モーダルシフト推進・標準化分科会」にて、流通経済研究所が「東海道フェリーの利用可能性 アンケート調査報告」と題した資料を公表しました。

流通経済研究所によると、この「東海道フェリー」については以前から国交省とのあいだで話はあったといいます。今回、トラックから輸送手段を切り替えて物流の効率化を図る“モーダルシフト”の推進について検討する場で、改めて、この構想の利用可能性について調査する機会を得たとのことです。

フェリー輸送はCO2の削減だけでなく、乗船中にドライバーは休息がとれることから、時間外労働の上限規制が適用される2024年4月以降も長距離輸送を維持するうえで重要な手段として期待されています。流通経済研究所の調査によると、こうした内航海運の利用を拡大したい意向の物流事業者は8割を占めたものの、実際の国内幹線輸送における利用割合は10%未満という企業が多く、現状では限定的な活用に留まっているといいます。

その理由は、課題に挙げた事業者が多い順に「運送コストの上昇」「リードタイムが伸びること」「運航ダイヤが合わない」と続き、「適当な航路がない」を挙げた企業も3割以上だったといいます。そこで流通経済研究所は「運送コスト・リードタイムという基本的な課題に加え、運航ダイヤの調整、新航路の検討が今後対処すべき課題」とまとめています。

内航海運の利用を拡大したいとする企業に、対象のルートを聞いてみると、多い順に「関東→九州」「九州→関東」「関東→北海道」「関西→関東」「関西→九州」「四国→関東」「関東→関西」が挙がったとのこと。このなかで現時点において航路がないのが「関東~関西」、つまり「東海道フェリーがあったらいいな」となるルートです。

これを受け、より踏み込んだ調査を行った結果が、今回の「東海道フェリーの利用可能性 アンケート調査報告」にまとめられています。

実は過去に存在 しかしすぐ撤退

流通経済研究所は今回、「神奈川県三重県」「19時発・翌5時着」というルートとスケジュールを想定し、物流企業へ利用意向調査を実施しました。

その結果から、関東→関西は「トラック輸送コストと同等の場合は17社ベースで月間1900台以上の利用可能性が見込まれる(関西→関東は月間1400台以上)」と試算。さらに「コストが割高になると利用割合は大きく低下するが、それでも一定以上の利用ニーズはある」としています。

さらに、東海道フェリーについては、関東~関西の道路に代わる輸送ルートとして「BCP(事業継続計画)対策からも非常に有意義」との声も。長距離トラック輸送のコストは上昇が見込まれるため、今後、海運のニーズはさらに高くなると予想しています。

流通経済研究所は、東海道フェリーの可能性についてさらに調査を進めるとしていますが、現時点で就航地などは全く決まっていません。ただ、東海道フェリーに類する航路は、実は過去には存在しました。

それが、1974年に東京~松阪(三重)へ就航した「フジフェリー」です。しかし巨額の赤字を抱え、79年に航路は九州急行フェリーに引き継がれた(東京~苅田航路の一部便を松阪寄港とした)ものの、1981年には撤退となりました。九州急行フェリーは後に商船三井フェリーへ吸収合併されています。

関東発着のフェリー航路は長らく、大洗(茨城)~苫小牧北海道)の商船三井フェリー、東京~徳島~北九州オーシャン東九フェリーのみだったところ、2021年に横須賀北九州を結ぶ東京九州フェリーが新たに就航しました。しかし、苫小牧~仙台~名古屋太平洋フェリーが関東に寄港していないなど、ダイヤを有利にするうえでは、ある一定の距離が必要であることが伺えます。

それらより短いものの、航路としては「あったらいいな」の東海道フェリー。流通経済研究所に聞くと、やはり「採算ベースに乗せるには難しく、当面は国の補助で支える必要があるでしょう」ということです。旅客輸送のうえでは、廃止された東京~大垣間の夜行快速「ムーンライトながら」の代替にもなりそうですが、新たな航路の誕生へとつながるでしょうか。

太平洋フェリー「きたかみ」。伊勢湾に発着する唯一のフェリー(画像:太平洋フェリー)。