日本には、国民の生活を支えるさまざまな制度がある一方、その制度について知る機会はあまり多くなく、知っている人だけが得をする仕組みになっています。そこで今回、税理士法人グランサーズの共同代表で税理士公認会計士の黒瀧泰介氏が、国や自治体が教えてくれない「申請すればもらえる」手当金を9つ紹介します。順番にみていきましょう。

知らないと損…「申請すればもらえるお金」

――日本は「冷たい」とか「弱者に厳しい」とか言われるじゃないですか。でも、実は一方で、国民の生活を支えるためにいろいろな制度を用意していて、しかも、それについては全然教えてくれないんですよ! これって、なかなかの“ツンデレ”だと思いませんか?

黒瀧氏(以下、黒)「ツンデレかどうかはともかく、そういう支援制度について国が積極的に教えてくれないのは確かですね。知らないと見過ごしてしまうものが結構あると思います」

――そうですよね!

黒「もちろん各自治体も広報はしていますが、国民1人ひとりの状況まで把握しているわけではないので、該当する場合は自分で申請しないと、もらえるものももらえないということになってしまいます」

――それはもったいない! ということで今回は、申請するだけでお金がもらえるお得な手当金を9個ピックアップします。まずは、病気・ケガでもらえる手当金をご紹介します。該当するなら申請しないと損ですから、ぜひチェックしてみてください!

いざというとき役立つ「病気やケガ」のお金

1.高額療養費制度

黒「1つ目は『高額療養費制度』です。ひと月の医療費負担額が高額になった場合、一定額を超えた分が払い戻されます」

――どのくらい戻ってくるんですか?

黒「年齢や所得によって自己負担限度額は異なります。たとえば、

・70歳未満

・報酬月額27万円~51万5,000円未満

の場合は、以下のような式で計算します。

8万0,100円+(医療費-26万7,000円)×1%

この場合、窓口負担が30万円だったとしても、実際の自己負担は約9万円で済むことになります」

――ということは、20万円ほど戻ってくるんですね! これはありがたいです!

黒「ただし、利用には健康保険組合への申請が必要です。医療費を払う前でも後でも大丈夫ですが、申請しないと適用されないのでご注意ください」

2.傷病手当金

黒「2つ目は『傷病手当金』です。健康保険の加入者が、病気やケガのため働くことができず、お給料がもらえなくなった場合に支給される手当です。休業の4日目以降が支給対象期間になり、最長で1年半、日給の3分の2程度の金額を受け取ることができます。ただしこちらも自動的に受け取れるものではなく、申請が必要です」

――実際ケガなどをするとそれどころではないかもしれませんが、自身の生活を守るために忘れずに申請したいですね。

3.障害年金

黒「3つ目は『障害年金』です。これは国民年金厚生年金に加入している方が、病気やケガで障害が残った場合に受けることができます。目に見えてわかる障害以外にも、がんや糖尿病など、病気で生活や仕事が制限されるようになった場合も支給対象となります。

支給額は、

1級:99万3,750円

2級:79万5,000円

となっています」

――病気やケガっていつ起こるかですもんね。覚えておきます。

地域によっては「人間ドック」も助成を受けられる

4.人間ドック受診料助成

黒「次は『人間ドック受診料助成』です。国民健康保険に加入していて、保険料滞納がなければ、人間ドック受診料の助成を受けられる地域があります。たとえば、東京都東大和市では上限2万3,000円の助成を受けることができます。

また、兵庫県西宮市のように自己負担が4割以下で済むケースもあります。

市町村によって実施の有無や条件などが異なるため、興味のある人方は確認してみてください」

――人間ドックって保険適用外ですから、これもありがたいですね。

出産だけで50万円超…ぜひ頼りたい「出産・育児」手当

――では続いて、出産・育児に関する手当てについて教えてください。

5.出産手当金

黒「はい。まずは、『出産手当金』です。出産のために会社を休んだ際に支給される手当で、健康保険に加入している会社員・公務員が対象です。母親本人が被保険者である場合に適用されます。

出産42日前~産後56日までの期間に休んだ日数に、標準報酬日額の3分の2をかけた額が支給されます。たとえば、月30万円お給料を貰っていて対象日数が98日の場合、60万円以上支給されることになります

――これってパートの方も対象になるんですか?

黒「はい。勤務先の健康保険に加入している被保険者であれば、パート・アルバイトの人も対象になります」

6.出産育児一時金

黒「もう1つ、出産時の費用をサポートしてくれる制度として『出産育児一時金』があります。対象になるのは健康保険の被保険者、または、被扶養者で、妊娠4ヵ月以上で出産した場合です。支給額は、子ども1人につき50万円に増額されました」

――さっきの「出産手当金」は、出産する本人が健康保険の加入者であることが条件でしたけど、こっちは扶養に入っている妻が妊娠した場合でも対象になるんですね。

黒「そうなんです。また『出産手当金』との併用も可能でして、条件を満たしていれば両方受給することもできます」

――そうなんですね! 出産費用だけでも50万円くらいかかりますから、こういうものは上手に活用したいですね。

月1万円もらえる「児童手当」だが、「所得制限」に注意

7.児童手当

黒「7つ目は『児童手当』です。0歳から中学生までのお子様を養育するご家庭を対象に、1人当たり1万円~1万5,000円が支給されます。受給には自治体への申請が必要です」

――子育てはなにかと物入りなので、毎月1万円は助かりますね。

黒「そうですね。ただし所得制限がありまして、年収が960万円以上の場合、子どもの年齢に関係なく支給額が5,000円(図中下から2番目)、年収1,200万円以上の場合は不支給(図中1番下)になってしまいます。

――これ、かなり話題になってましたよね。たしか「改革する」といったニュースを耳にした記憶があるのですが……? 

黒「はい。岸田首相が23年1月に表明した『異次元の少子化対策』の一環として、児童手当の所得制限撤廃や、対象年齢を18歳まで延長するといった方針が打ち出されています。

――なるほど。今後に期待ですね。

8.子ども医療費助成制度

黒「8つ目は、『子ども医療費助成制度』です。自治体によって詳細は異なりますが、中学生までの子どもにかかる医療費自己負担額の一部、または全額が助成されます。利用するには自治体で申請を行い、『子ども医療証』を交付してもらう必要があります。

また、旅行先などで受診し自己負担が発生した場合も、そのあとに申請して払い戻しを受けることができます」

9.高等学校等就学支援金

黒「最後は『高等学校等就学支援金』です。こちらは、教育費負担を軽減するために、高校の授業料について返還不要の援助が受けられる仕組みになっています。

支給額ですが、

年収590万円以上910万円未満世帯……年額11万8,800円

年収590万円未満世帯……年額39万6,000円

が目安となっています。なお、家族構成などによっても所得基準は変わってきます」

――こちらも世帯収入が多いと、支援が受けられないことがあるんですね。

黒「そうなんです。この判定には市町村民税の課税標準額が関わってきます。ボーダーより少し上の人は、各種の控除を活用することも検討してみてください」

黒瀧 泰介

税理士法人グランサーズ共同代表/公認会計士税理士

(※写真はイメージです/PIXTA)