真面目に働いていて仕事の愚痴を言わない。物欲が薄く特定の趣味を持たないので、お金を使うこともしない。何を出しても文句ひとつ言わずに食べて、常に妻に合わせて行動してくれる。これは理想の夫だ!と思う人もいるかもしれない。

【漫画】仏のようと思っていた夫と心が通じない...カサンドラ症候群になった女性の離婚劇

しかし、夫に意見を求めても何も返してくれず、すべての決定を自分がしなければならない。育児の一切ができず、体調が悪くて「食事はお弁当でも買ってきて」と言ったら、子供もいるのに自分だけお弁当を食べている。不安も喜びも共有できない。そうなると話が変わってくるかもしれない。

夫と思いの共有ができず、しかし周囲からもその苦しみをわかってもらえない。孤独と絶望から「カサンドラ症候群」になり、夫との離婚を選んだコミックエッセイ「夫と心が通わない カサンドラ症候群で笑えなくなった私が離婚するまでの話」が注目を集めている。

カサンドラ症候群とは「家族やパートナーが発達障害のひとつであるアスペルガー症候群の特性を持つため、うまくコミュニケーションが取れず苦しんでいる状態」を指す言葉。精神的障害、抑鬱状態、不眠などの不調を起こしやすくなるという。カサンドラ症候群という言葉は医学的な疾患名ではないが、コミュニケーションを取ることや想像力を働かせることが苦手な自閉スペクトラム症(アスペルガー症候群も含まれる)のパートナーとの生活に悩む人が一定数いることも確かで、本作は原案を担当したアゴ山さん自身の体験を漫画にしたもの。結婚前は夫のことを穏やかな「仏のような人」と思っていたが、生活を共にしていくことで「宇宙人と話しているかのような」気分になっていったという。アゴ山さんに、自身の体験を漫画にして発表した理由や、制作に関してのこだわりを聞いた。

■パートナーとの関係に悩んでいる人に「『独りじゃない』と知ってほしい」

ーー本作は、2021年11月からSNSで連載していた漫画がベースになっていますね。なぜ、ご自身の体験を漫画にしようと思ったのでしょうか?

離婚やカサンドラで辛かったことの話を誰かに聞いてほしい、という気持ちが強く、どうにか発信したいと思いX(旧Twitter)を始めました。そこからしばらくしてフォローしていた鳥頭ゆばさんとのDMをきっかけに、ありがたくも私の漫画に共感してもらったこともあり、やりとりが多くなりました。その流れで、ブログの作画に協力してもらうことになったという経緯です。あのとき勇気を出して声をかけてみて本当に良かったと思っております。

ーー漫画にしていくにあたって気をつけたことやこだわったことを教えてください。

Instagramで発信しているときは、結構日記のようにあまり何も考えず気楽に載せているところがありました。いざ書籍にするとなると、Instagramのようにはいかず、一つの作品としてストーリーをまとめるのが大変でした。それから、発達障害にかかわる話は、どんなに気を付けて描いても必ず傷つく人、批判する人は出てくると思っていたので、できる限り言葉遣いなどに気を付けて制作しました。結果それが上手くいったとは言い切れませんが、カサンドラ症候群について少しでも共感してくれる人がいればいいなと思っています。また、書籍化にあたり、専門カウンセラーの先生にも夫婦の幸せの在り方を赤裸々に相談しているので、私のように悩んでいる方にとって救われるような内容を収録できたかと思います。

ーー自身の体験を漫画にしていったことで、アゴ山さん自身に心境の変化などはありましたか?

体験を発信しだしてから、本当に驚くほど、同じように悩んで苦しんでいるという方から、たくさんのDMやコメントをいただきました。やはり共感してくれる人がたくさんいるということは、それだけで心が救われます。漫画を制作して客観的に自分や夫婦の在り方を考えることができたなとも思います。

ーーユーマさんとはどこで知り合い、どういった形でお付き合いがスタートしたのでしょうか?交際期間はどれくらいでしたか?

学生時代のバイト先での知り合いでした。当時は友人関係でしかありませんでしたが、10年後にお互いが社会人になってから再会したことで交際が始まりました。交際期間は1年ほどで、お互いがちょうどいい歳だったこともあり、結婚することになりました。

ーーユーマさんにはご友人はいましたか?どんなふうにご友人と接しているのかアゴ山さんは見たことがありましたか?

バイト先では全員とても仲が良かったので共通の友人はいました。ユーマを含めてその仲間大勢で遊ぶことも多かったです。ただその頃からユーマは無口でぼーっとしていたので、漫画でも描いたようにユーマの友人からは天然でおもしろいキャラとして扱われていました。

ーーユーマさんは「発達障害」というものに強い拒否感を抱いていました。過去、ユーマさんご自身が「発達障害」と言われたことがあるのでは?と感じたのですが、そういった話はありましたか?

そういう話は全くありませんでした。義両親からもそういう話は全く聞いたことはありません。きちんと大学を出て就職もしているし、そんな自分がまさか…というように、自分が発達障害だとは微塵も思ったこともないと思います。ユーマは発達障害をよく知らず、ただ偏見でしか見られていなかったと思います。

ーー「その辺で待ってて」と言ったらその場で立って待っているなど、ユーマさんの、言葉の読み取れなさや共感性の乏しさは作品内で数多く言及されていますね。仕事で困っているような様子はなかったんでしょうか?

仕事のことは情報を漏らさないということを頑なに守っていたので、仕事の愚痴や苦労話を一切聞いたことがありませんでした。最初は、愚痴を言わないタイプなんだなと思って尊敬していました。

ーー最終的にユーマさんとは離婚という道を選ばれましたね。現在、お子さんとはどのような関係でしょうか?養育費については滞りなく支払われていますか?

離婚時に決めた会う回数をきっちり守って、養育費もきちんともらえています。上の子は、ユーマへの苦手意識が強くて会うのを拒否しているので、ほぼ下の子ばかり会っている状態です。

ーー同じようにパートナーとの関係で悩んでいる方にメッセージをお願いします。

私は結果として離婚という選択をしましたが、相手の特性を理解しながらうまく結婚生活を続けている夫婦もたくさんいらっしゃるので、配偶者のアスペルガーや自閉スペクトラム症などの特性をきちんと理解してあげることが大事なのかな、と思っています。同じように相手のことを理解できずに悩んだら、「独りじゃないよ」と知ってほしいし、周りにも相談してほしいと思います。

カサンドラ症候群という言葉を知ることで、アゴ山さんは同じ悩みを抱えている人がいることを知り「全てが腑に落ち、何かが浄化されたような感覚が体を駆け巡った」という。自分がどういう状況にあるかをまず把握することが、どういった道を選ぶにせよ、自分とパートナーとがよい形で生活していくための第一歩なのかもしれない。パートナーとの関係に悩んでいる人は参考にしてみてはどうだろうか。

取材・文=西連寺くらら

体調不良で夕食が作れない!アコは夫のユーマに「お弁当でも買ってきて…」と伝えるのだが…。「夫と心が通わない カサンドラ症候群で笑えなくなった私が離婚するまでの話」より/(C)アゴ山/KADOKAWA