文=酒井政人

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國學院大の主将が地元を激走

 9月14~17日に熊谷陸上競技場で開催された日本インカレ。〝学生日本一〟を決める舞台だが、夏合宿を優先して参戦しない長距離チームは少なくない。そのなかで志願して男子10000mに出場したのが、國學院大の主将・伊地知賢造(4年)だ。留学生7人が出走したレース。伊地知の狙いは明確だった。

「マークされると思っていたので、あまり前にポジションをとらず、前半の5000mまでは落ち着いて走りました。そこからちょっとずつ上げていき、ラスト勝負を考えていたんです」

 2000m過ぎに留学生7人が抜け出すも、伊地知は動かない。日本人トップだけを目指して、冷静にレースを進めた。そして残り1周で猛烈スパート。日本人トップの8位(29分31秒20)でゴールに駆け込んだ。

「予定通りに走ることができました。暑くてタフな戦いでしたが、僕は埼玉が地元で、ここは一番走った競技場。熊谷が味方してくれたんだと思います。チームに良い流れを作り、駅伝シーズンにつながる走りになりました」

 伊地知は1月末に右足首まわり(後脛骨筋)を痛めた影響で、5月の関東インカレを欠場した。長期故障となり、主将としての責任を痛感。「陸上をやめたいと何度も思いました」というが、レース復帰すると、確実に結果を残していく。

 7月5日ホクレンディスタンスチャレンジ深川大会10000mで28分37秒39。7月16日の関東学生網走夏季記録挑戦競技会5000mは13分40秒51の自己ベストをマークした。この記録は高校時代のベスト(14分43秒)を1分以上も上回るものだった。

 伊地知は自らの進化に手応えを感じており、駅伝シーズンに向けて、熱い言葉を吐いた。

「昨季の出雲と全日本は優勝に届かない2位で、箱根は表彰台に届かない4位。その悔しさを忘れることなくやってきました。今回の結果を踏まえてもスピードに自信をつけることができたので、駅伝(昨年の出雲と全日本はアンカーを務めた)は前半区間でも戦える力がついてきたのかなと思っています。特に箱根駅伝は集大成になるので、良い思い出ではなく、最高の思い出で終わらせたい」

 

創価大は新戦力が躍動

 男子10000mで伊地知に続いたのが小暮栄輝(創価大3)だった。入賞には届かなかったが、日本人2番の9位(29分33秒08)でフィニッシュ。レース中盤では日本人集団を積極的に引っ張った。

 小暮は3大駅伝の出場はなく、突如現れた印象だが、1年時からハーフマラソンを1時間2分台で走っている選手。「日本人3番以内」を目標に掲げていた日本インカレでも結果を残して、駅伝での活躍が期待される。

「伊地知さんに置いていかれましたが、ラストも動きました。自分がエースになれるという自覚を再確認できるレースになりました。今季は駅伝で区間賞争いできる選手になりたいです」

 創価大は留学生3人が出走した男子5000mでも織橋巧(1年)が7位(14分18秒92)に食い込んだ。

「小暮さんが良い流れを作ってくれたので、最低限、入賞はしたいなと思っていました。個人的には悔しいレースになったんですけど、自分の現状の走りができて良かったです。駅伝では集団のなかで戦うレースがしたい。出雲は1区が希望です!」

 織橋は6月上旬のU20日本選手権5000mで2位に入ると、7月1日ホクレンディスタンスチャレンジ士別大会5000mで13分52秒71をマーク。高校時代の5000mベスト(14分10秒89)を大幅に更新しており、今後が楽しみな選手だ。

 創価大はスティーブン・ムチーニ(1年)が10000mで3位(28分22秒31)、リーキー・カミナ(3年)が5000mで優勝(13分52秒16)。箱根メンバー6人が卒業したが、今季の駅伝シーズンも上位争いに絡んできそうな予感が漂ってきた。

順大が3種目を〝制覇〟

 日本インカレで総合3連覇に輝いたのが順大だ。長距離勢もチームに大きく貢献した。

 男子1500mは後田築(1年)が猛スパートを見せる。「位置取りがうまくいかず、集団後方でのレースになってしまいました。追いつけないかなと思ったんですけど、ラスト120mで仕掛けました」。アモスベット(東京国際大1)を抜き去ることはできなかったが、ベットは走路妨害で失格。後田が3分49秒66で〝1年生V〟を達成した。

 男子5000mは吉岡大翔(1年)が14分00秒43で4位。残り500mからのスパートで溜池一太(中大2)を引き離して、日本人トップに輝いた。

「留学生についていき、最低でも日本人トップ。3位以内を目指していました。日本人トップでしたが、留学生とこれだけの差(1位と約8秒)がついてしまっているので、このことを重く受け止めて今後の駅伝に向かっていきたいと思います」

 5000mで高1、2、3年の歴代記録をすべて塗り替えてきた吉岡。本人は納得していなかっただけに、駅伝シーズンでの本領発揮を期待したい。

 男子3000m障害は村尾雄己(2年)が連覇を狙った大吉優亮(帝京大4)を最後に逆転。8分43秒07で優勝した。

「最後はギリギリでしたけど、自分のレースで勝ち切れたのは、良い弾みになったと思います。箱根駅伝は横腹が痛くなってしまって、6区で区間17位。今季は勝負強さを身につけてきたつもりなので、3大駅伝で力を出し切り、より上の順位でタスキをつなげられるようにしていきたいです」

 なお5000mにエントリーしていた三浦龍司(4年)は日本インカレ組と調整合宿を実施。今大会と同時期に開催されたダイヤモンドリーグファイナルの3000m障害で5位(8分15秒45)に入った。夏合宿で走り込んでいる大学が多いなか、順大は日本インカレだけでなく、世界の舞台でも活躍した。

 10月は9日に出雲駅伝、14日に箱根駅伝予選会が開催される。夏合宿を経て各校はどんな進化を遂げているのか。いよいよ駅伝シーズンが幕を開ける。

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