今夏、8月22日から9月17日までの期間限定で、東京・原宿の『ネスカフェ 睡眠カフェ in 原宿』に登場した縦型仮眠ボックス『giraffenap(ジラフナップ)』。”ジラフ”は立ったまま寝るキリンに由来し、仕事中などで疲労や眠気を感じた際に立ったままひと休みできる仮眠ボックスとして、北海道・旭川に本社を構える広葉樹合板が開発したものだ。たった20分の短時間でリフレッシュし、疲労回復やストレス軽減、記憶力や集中力の回復、創造力の向上など、仮眠後のパフォーマンス向上に役立つとして、働き方改革の進む、現在のオフィス環境などへの導入を提案している。

【写真】話題の立ったまま寝る仮眠ボックス『giraffenap』

 『ネスカフェ 睡眠カフェ in 原宿』で展開されたひと枠30分の体験イベントは期間中、ほぼすべての時間帯が予約で埋まるなど、世代性別を超えて大反響を得た。立ったまま寝るという衝撃的な提案はもちろんのこと、それだけ良質な睡眠・仮眠への関心が高まっているといえるだろう。

『giraffenap(ジラフナップ)』はスペーシア(写真左)、フォレストの2タイプがある

 ところで、立ったまま寝られる仮眠ボックスは世界初という。開発したのは各種合板の卸売を手がける広葉樹合板だが、なぜこんなユニークな箱を創り出したのか? 

 「広葉樹合板は合板の卸売が主体の会社ではありますが、そのほか住宅建材や店舗演出什器の製造まで手がけておりまして、今回の『giraffenap』の開発はその延長線上でつくることができた製品といえますね」とは同社関東支店長の野原嘉人さん。

 きっかけは2021年の秋。地元・北海道北洋銀行が主催した「知財ビジネスマッチング」で、会の終了間際に「人体収納用構造体及び睡眠用筐体」についての開放特許を所有するイトーキの担当者に広葉樹合板・山口裕也社長が声をかけられたことだった。「これはおもしろい!」と感じた山口社長はその翌日、旭川本社に野原さんを呼び出したのだという。

イトーキの「人体収納用構造体及び睡眠用筐体」の技術を使用
頭部、臀部、スネ、足裏の4点保持で脱力姿勢をキープ

 「正直、立って寝るってなんなんだ!? と不思議な感覚でしたけどね。よく話を聞いてみると、足裏、スネ、臀部、頭部の4点保持の構造を使って人が休憩できる特許だと。僕もこれはおもしろいなと思いまして、4点保持の位置により快適なポジショニングの工夫ができれば、製品化できるのではないかと考えました」(野原さん)

 『giraffenap』本体の開発と並行して、立ち寝と仮眠の効果に関する裏どりにも着手した。北海道大学・台湾の国立成功大学との共同研究で、立ったまま寝た場合に睡眠段階2(軽い寝息をたてる程度の睡眠状態)まで到達し、30分以上の継続が実証。仮眠の効果を実感でき、熟睡しすぎないため頭がぼーっとすることなく仕事への復帰が素早く行える効果が期待できることが明らかになった。

 筐体はイトーキの「人体収納用構造体及び睡眠用筐体」を用い、小型の公衆電話ボックス程度のサイズの仮眠ボックスのなかに、頭、お尻、スネ、足裏の4点を保持するクッション材付きの固定パーツを装備。この4点を固定することで、どんなに脱力してもリラックスした立ち寝姿勢がキープできるというわけだ。頭とお尻の位置は自分の体型に合わせて自由に高さの微調整ができる仕組みになっている。

ウレタン製クッションで、カラダの4点をやさしくホールド
スネを完全固定させているのが4点保持の技術的なキモ

 「開発の際には固定する4点のうち、どの部位を上下させれば快適に調整できるかを考えましたが、ポイントはスネを動かさないこと。構造上、スネには約4割の体重がかかるので、スネが動いてしまうと体重がかかる場所が変わってしまい、カラダが安定しないのです。

 スネ位置を固定することで、足裏の位置が合わせやすくなり、ボックス内にも入りやすくなります。これも実際に開発していくなかで何度もテストをすることでわかったことでしたね。立ち寝仮眠ボックスという、いままでにないモノですから、なかなか頭部の固定位置が決まらなかったり、とにかく試行錯誤を繰り返しました。実質的な開発期間は約10ヶ月ほどでしたが、あっという間でしたね」(野原さん)

森のなかをイメージした「フォレスト」は約8分でクリーンルームに!

 『giraffenap』には近未来をイメージした「スペーシア」と森のなかをイメージした「フォレスト」の2種類をラインアップしているが、とくにこだわったのは木の外観に壁面には不織布を使用した「フォレスト」だという。

木+不織布+空気清浄機でクリーンルーム化を実現

 「これは北海道大学・石橋晃教授の特許であるクリーンユニットシステムプラットフォームを利用させていただいていますが、不織布と空気清浄機を組み合わせることで、室内が約8分でクリーンルーム化できるのです。当初はスペーシアのみの予定でしたが、開発過程で私が実験として『giraffenap』のなかに入って仮眠した後に、では次は女性スタッフに体験をお願いしようとしたら、反応が微妙でして。あ、そうか、空気清浄が必要なんだなと思ったんです。4点を保持する各部のクッションシートも撥水性・撥油性のあるフッ素加工を施しています」(野原さん)

 そのほか、人がなかに入っても倒れない構造など、安全面にも注力。耐震実験などを実施し、東日本大震災クラスの地震が起きても筐体が倒れない構造を実現した。『giraffenap』は2024年1月から販売開始予定で、価格は約300万円程度を予定。協力会社との連携で量産体制も確保した。さらにクッション部をよりやわらかな触り心地にするなど、発売までに今後も改良を重ねていくという。

9月17日まで行われていた「ネスカフェ 睡眠カフェ in 原宿」での体験席

 『ネスカフェ 睡眠カフェ in 原宿』での『giraffenap』体験は終了してしまったが、今後も都内での体験型イベントを企画中。現在、すでに大手商社での導入が1社決まっているほか、病院、消防、鉄道会社関連などからも問い合わせが続いているという。そのほか海外のデザイン会社からのアプローチや、リース・サブスク展開、さらにはより心地よい眠りに誘うイヤホンやアイマスクといった他ジャンルのメーカーとのコラボオファーがくるなど、発表からはや2ヶ月で着実に『giraffenap』ワールドの可能性は広がっている。

 「20年前に札幌で広葉樹合板に入社しましたが、その際に決め手になったのが当時、会社が掲げていた”世界に羽ばたく若者よ、集まれ”のキャッチコピーでした。以来、ずっと営業職を担当していますが、内心はなかなか世界に羽ばたく機会がやってこないなと思っていました。20年たってまさにいまこの時か、という感じですね。違う世界を見させていただいているようで、今後も『giraffenap』を使って幅広いジャンルに新しいコトを提案できたらうれしいですね」(野原さん)

 小生も『ネスカフェ 睡眠カフェ in 原宿』でのイベントで、giraffenapによる約20分間の立ち寝仮眠でリフレッシュ効果を体感済みだが、みなさんもオフィスへの導入を会社に検討してもらってみてはどうだろうか。

文=shimo

仮眠ボックス『giraffenap』の秘密