2020年からハーレーのCEOを務めるヨッヘン・ツァイツ氏(右)。プーマ出身の敏腕として知られる。左はハーレーダビッドソンジャパン・野田一夫社長
2020年からハーレーのCEOを務めるヨッヘン・ツァイツ氏(右)。プーマ出身の敏腕として知られる。左はハーレーダビッドソンジャパン・野田一夫社長

アメリカを代表するバイクブランド「ハーレーダビッドソン」が、今年で創業120周年を迎えた。世界中の男を魅了するハーレーの未来は? 取材の鬼と化したモーターサイクルジャーナリストの青木タカオ氏が濃厚解説する。

【写真】新型CVOシリーズ2台をチェック!

■本社CEOが中免モデルに言及

今年、創業120周年という節目を迎えたハーレーダビッドソン。誰もが知るアメリカの大型バイクブランドで、輸入二輪車では唯一登録台数1万台を突破(2022年)し、JAIA(日本自動車輸入組合)の統計でもシェア1位を譲ったことはない。

ちなみにニッポンは米国に次ぐ2位のシェアを誇る、非常に重要なマーケットだ。というわけで、6月に米国本社CEO(最高経営責任者)のヨッヘン・ツァイツ氏が来日! メーカーが威信をかけて開発した最高峰モデル・CVOストリートグライド&CVOロードグライドを本邦初公開した。

ハーレーの伝統に沿っていながら(2台の新型は)新技術が盛り込まれています」

ヨッヘン・ツァイツ氏は、その出来栄えの良さに胸を張った。一方、ハーレーダビッドソンジャパンの野田一夫(かずお)社長もこう言う。

ハーレーとして新しい扉を開いただけでなく、バイク界のベンチマーク(指標)を1段階も2段階も引き上げる、人生の中で一度あるかないかの大刷新です」

さらにヨッヘン・ツァイツ氏は注目の電動モデルについてこう言及した。

「電動化をリードする」

電動二輪車の新ブランド「ライブワイヤー」の日本市場投入を明かしたのだ。

実はアオキ、開発段階の2015年にマレーシアの「セパンサーキット」にて試乗し、米国で発売となった19年にはオレゴン州ポートランドで市販版(価格2万9799ドル=当時日本円で約322万円)に最速試乗した。

米国発売時に現地で乗った電動ハーレー「ライブワイヤー」。ハンパない加速を誇る。日本発売は秒読み?
米国発売時に現地で乗った電動ハーレー「ライブワイヤー」。ハンパない加速を誇る。日本発売は秒読み?

停止時から時速100キロ到達はたったの3秒というスーパーカー並みの加速力を誇り、モーター音もジェット機のようにサウンドチューニングされ、大コーフンせずにはいられない新感覚であったことをよく覚えている。

容量15.5kWhのリチウムイオンバッテリーを積み、航続可能距離は最大235㎞と十分なスペックを持ち、日本でも20年12月に神田明神東京都千代田区)で発表会を開くなどしたが、直後に電動ブランドを独立させた関係で、日本発売を見送った。今後の展開に注目である!

さらにヨッヘン・ツァイツ氏は、中国で発表したアンダー400㏄モデル「X350」の日本導入を検討中であるとブチまけた。中免(普通二輪MT免許)で乗れるハーレーが誕生すれば、日本市場でのさらなる躍進も夢ではない。

ちなみに今年4月には世界初となるハーレーダビッドソン認定中古車店「ハーレーダビッドソンサーティファイド埼玉」(埼玉県深谷市)がグランドオープン。野田社長はこう説明する。

「05年には新車と中古車の販売比率は1対1程度でしたが、価値があり長く愛用されることから現在では中古車が新車の約3倍です。しかし正規ディーラーでは15%程度しか扱われておらず、品質低下が心配でした。そこで、安全安心な正規店でお買い求めいただけるようにしました」

要するにハーレーは新規ユーザーを獲得するため、着実に裾野を広げているのだ。

■大陸横断を前提に開発された新型モデル

鳴り物入りで登場したハーレーダビッドソンの新型CVOシリーズ2台を「富士スピードウェイ」(静岡県小山町)で速攻試乗! 実車を間近で見て、まず目を引いたのは両モデルに与えられた新しい顔。どちらもシャープかつ迫力が増して新鮮な印象だ。

それでいて、誰の目にもハーレーとわかる。カウルの内側には画面を従来の6.5インチから12.3インチに拡大したインフォテインメントシステムディスプレーがあり、ライドモード(雨天時に出力特性を穏やかにするなど)を切り替えられたり、ロックフォードフォズゲートの高級オーディオを操作できる。

ハーレーダビッドソン「CVOストリートグライド」価格 549万7800~621万2800円。ヤッコカウルと呼ばれる伝統のフェアリングが空力を追求、精悍なフォルムに変身。エンジンは1977㏄とハーレー史上最大排気量
ハーレーダビッドソン「CVOストリートグライド」価格 549万7800~621万2800円。ヤッコカウルと呼ばれる伝統のフェアリングが空力を追求、精悍なフォルムに変身。エンジンは1977㏄とハーレー史上最大排気量

高級四輪車同様、ナビや音楽、ライドモード等の設定ができるインフォテインメントシステムを採用
高級四輪車同様、ナビや音楽、ライドモード等の設定ができるインフォテインメントシステムを採用

Vツインエンジンはなんと1977㏄にまでスケールアップされ、従来型よりトルクを約8%、馬力を9.5%アップし、最高出力は115PS/5020rpm。それでいながら燃費を3~5%向上し、欧州の排出ガス規制ユーロ5フェーズ2の環境性能にも対応。

いざ走らせるとハーレーらしい味わい深い鼓動を感じつつ、低速からスムーズに回り全域で力強い。約1.5㎞にも及ぶ長いホームストレートでは、レブリミッターが利く6000回転超えまでスムーズかつパワフルに回るではないか! トップエンド(レッドゾーン付近のエンジン回転数)で鈍るこれまでとは明らかに違う。

吸気路やエアボックスを見直した新作シリンダーヘッドや可変バルブタイミング機構による働きが大きく、パワーバンド(エンジンが効率よく出力を発揮する回転域)が広がり、アクセルを開ければどこからでも鋭く加速する。

足まわりやシャシーの剛性も上がっていた。シャキッとした応答性と快適な乗り心地を実現! コーナーアプローチでイメージどおりに減速でき、狙ったラインを外さない。

ハーレーダビッドソン「CVOロードグライド」価格 549万7800~621万2800円。新型はオメガシェイプのLEDライトに刷新された。サーキットの全開走行でも高い防風効果でチョー快適。長距離も疲れ知らず
ハーレーダビッドソン「CVOロードグライド」価格 549万7800~621万2800円。新型はオメガシェイプのLEDライトに刷新された。サーキットの全開走行でも高い防風効果でチョー快適。長距離も疲れ知らず

見た目からは想像できないほど車体が軽快で、これは排気量を拡大したにもかかわらず、先代モデルより車体重量をCVOストリートグライドで14㎏、CVOロードグライドで15㎏も減らしたのが効いている。

両モデルとも空力特性が徹底追求され、開閉式のディフレクター(整流板)も備えた。走行風から体をしっかり守ってくれ、長距離走行でも疲れ知らず。大陸横断を前提に開発されただけのことはあり、どこまででも走り続けられる。

さらに500Wのハイパワーアンプを組み込むオーディオは、フルフェイスヘルメットをかぶるライダーの耳へ上質な音楽を届けてくれる。まさにこの上ないプレミアムグランドツーリングである。

気になる受注はどうか?

野田氏を直撃すると、「順調だ」と頬を緩めていた。

■大盛況のブルスカでハーレー女子を直撃!

8月26、27日は1998年の初回以来、毎年恒例となっているハーレーの夏フェス「ブルースカイヘブン」(通称ブルスカ)が今年も富士スピードウェイで開催され、約9500人が来場!

アオキは取材だけでなく、ハーレー専門誌『ウィズハーレー』(内外出版社)の編集長として、正規ディーラーによるカスタムコンテストウィズハーレー賞をステージで発表。さらにウィズハーレーの出展ブースでは、「急増中」と野田氏も目を細める"ハーレー女子"によるトークショーを行なった。ちなみにこのトークショーはブルスカの名物企画となっている。

ハーレーの夏フェスは大盛況! 音楽ライブやニューモデル試乗会など、コンテンツ充実のブルスカ。写真は毎年恒例のパレード。先陣を切ったのは野田社長である
ハーレーの夏フェスは大盛況! 音楽ライブやニューモデル試乗会など、コンテンツ充実のブルスカ。写真は毎年恒例のパレード。先陣を切ったのは野田社長である

そんなブルスカのライブステージにも立った歌手のMnka(マナカ)さんは、2016年からブルスカに参加。当初はバイクに興味がなかったそうだが、一昨年限定発売されたフォーティーエイトファイナルエディションを新車購入!

「唯一無二の存在感やフォルムで、足つき性に優れるのもいい。女のコが乗っていると目立つし、ファッションにもこだわりたい。音楽とモーターサイクルが融合したブルスカは自分のためにある!」(Mnkaさん)

Mnka。彼女の愛車は生産終了により、お宝と化したフォーティーエイトファイナルエディション
Mnka。彼女の愛車は生産終了により、お宝と化したフォーティーエイトファイナルエディション

一方、愛車との旅の風景をSNSなどでシェアするインフルエンサーの秋田ライダーえむちゃんは、アオキが声をかけたのをキッカケにウィズハーレーアンバサダーにも就任。好きが高じて今夏会社を辞めた。その目的は米ミルウォーキーでの120周年記念イベントに参加するため。そして見事、ルート66を疾走した筋金入りのハーレー女子だ。

ハーレーに乗っていると仲間が増える。それは世界共通で、SNSで発信し同じ趣味を持つ人と、どんどんつながれるのが楽しいですね」(えむちゃん)

えむちゃん。スポーツスターで国内を駆け回っていたが、「ルート66を走りたい!」と渡米、夢をかなえた
えむちゃん。スポーツスターで国内を駆け回っていたが、「ルート66を走りたい!」と渡米、夢をかなえた

また、ニューモデルに乗れる試乗会には、タレントでバイク女子の平嶋夏海(ひらじま・なつみ)さんや夜道雪(よみち・ゆき)さんを招き、ハーレーユーザーじゃない人にも足を運びやすくしていた。

長年、ブルスカを取材し続けてきたアオキだが、近年は来場者の若返り、国産&欧州車ユーザーの姿も目立つようになってきた。次の120年を見据えた、ハーレーダビッドソンの改革は前へ進んでいる。

青木タカオ 
モーターサイクルジャーナリスト。著書に『図解入門 よくわかる最新バイクの基本と仕組み[第4版]』(秀和システム)など。『ウィズハーレー』(内外出版社)編集長。YouTubeチャンネル『バイクライター青木タカオ【~取材現場から】』を運営

撮影/井上 演 栗田 晃 写真提供/ハーレーダビッドソンジャパン 取材協力/ウィズハーレー編集部

2020年からハーレーのCEOを務めるヨッヘン・ツァイツ氏(右)。プーマ出身の敏腕として知られる。左はハーレーダビッドソンジャパン・野田一夫社長