いまや当たり前になりつつあるパソコンのBTO(Build To Order)だが、日本における先駆者とも呼べる存在がマウスコンピューターだ。1993年に設立された同社は、国産BTOメーカーのリーディングカンパニーとして業界を牽引してきた。

 今年30周年を迎えた同社では、飯山工場にてメディア向け工場見学や親子パソコン組み立てイベントなどを開催。それを通じて見えてきたマウスコンピューターならではの強みやこだわりをお伝えしよう。

BTOメーカーとしての知見が集積した地・飯山工場

 国内生産を掲げるマウスコンピューターの拠点は幾つかあるが、最も象徴的な場所が長野県飯山市にある飯山(いいやま)工場だ。飯山市長野県北東部にあり新潟と県境を接する場所。冬には雪深くなる当地周辺は山野や棚田など日本の原風景が広がっている。

 唱歌『故郷』『春の小川』などを手掛けた地元出身の国語学者・高野辰之はそんな原風景をイメージして作詞したとされている。そんな飯山市を流れる千曲川ほとりにあるのがマウスコンピューター飯山工場だ。

 工場と聞くとレーンに流れる部品......のような場所を想像しがちだが、さにあらず。工場というよりマウスコンピューターの”モノ作り”の聖地と呼べる場所でもある。

 飯山工場の体制を簡単に説明すると「開発本部」「品質管理本部」「生産本部」から成り立っており、機能テスト・部材管理・組み立て・梱包・発送までを一元化。「開発部門」では温度や振動、落下、開閉試験、長期使用テストなどを行っており、新たに公開された音響室では、全方位からの音響環境を細かくモニタリングしているという。

 この開発部門でのデータを元に「生産本部」用の製造マニュアルなども作られるという。また、部材管理をおこなう「品質管理本部」では工場にメーカーから納入された部材にエラーがないか、また最終ユーザーに渡った後もサポートなどで活用されるシリアル付与などを行っている。

一人一台の担当制「セル生産」でPCを組み上げる

 興味深いのは「生産本部」がメインとする組み立てで、飯山工場ではピッキングから発送までをひとりの職人が全工程を担っている。ノートPCでもデスクトップPCでも最初から最後までひとりのスタッフが責任を持って作業することで、スピーディーかつ丁寧なモノ作りへと繋がるという。

 これがマウスコンピューターならではのこだわりと強みのひとつだ。また今回、新たにメディアに披露された部分ではこれまで紙で行っていた受注マシンの情報閲覧・管理をタブレットに集約。これにより製造スタッフはより確実な処理が可能となり、同時に環境問題に配慮したペーパーレス化も実現していた。

親子パソコン教室から垣間見られるマウスコンピューターの気風

 生産に際して行われる部材ピッキングや組み立てにいたるまでを全方位で担当する製造スタッフはもはや”職人”と呼ぶのが相応しいくらいだが、そんな製造スタッフたちから直に手ほどきを受けられると人気なのが夏季限定の「親子パソコン組み立て教室」である。

 コロナ禍によって一時中断していたが、今年は復活、全国各地から抽選で選ばれた親子が飯山工場を訪れ、先に紹介した3セクションの中で「生産本部」が担当する組み立てを体験する。それは部材のピッキング、組み立て、機能検査、梱包、出荷まで。子どもたち自身が事前注文したオーダーに沿って作っていくのである。

 当日はマウスコンピューターの小松社長や、飯山市長も駆け付け、子どもたちに熱いエールを送っていた。また子どもたちにはそれぞれ生産本部のスタッフがひとりひとり付き、マンツーマンで指導してくれる。

 まずは部材のピッキングから。「生産管理部」が保管する倉庫から必要部材をピックアップ。実際の作業と同じエリア・工程を使ったもので本格的。1000種類以上の部材があるエリアから子どもたちはタブレットに表示されるデータを確認しつつ、バーコードでひとつひとつチェックしながら部材をケースに集めていく。最初は戸惑いつつも慣れてくるとサクサクとピッキングする子が多く、それだけにシステムの完成度の高さも伺えた。

 ピッキングが終わったら組み立て作業を行う「第一工場」へ移動。ここで一旦、基礎知識がない子どもたちでも分かりやすいようにマザーボードへメモリ組み込むなどをレッスン。こちらは流石に通常の工程にはない親子教室だけの特別授業。レッスン後には親子揃って休憩タイムも設けられるなど、きめ細やかなサポートを得意とする同社ならではの配慮が光る。

 

  教え子に教えられ 先生も悪戦苦闘?

 休憩を終えたら「第一工場」中央にある作業台で組み立てを開始。マウスコンピューターでは作業台毎にモニターが設置してあり、受注アイテムのデータや、先に触れた「開発本部」が作成したマニュアルが表示される仕組み。

 今回は子どもたちがオーダーしたデータが名前と共にモニター上に表示されていく。素人目にはこれを見れば簡単と思いきや、そこはBTOパソコンの世界。筐体の大きさから部材構成、配線などマシン環境は千差万別。先生役のスタッフも細かい構成まで含めると、自身も初見というマシンも当然出てくる。とはいえそこはプロ。マニュアルを読み解きつつ、子どもたちが組み立てやすいように要所要所でアドバイスしていく。

 子どもたちの作業を真剣に見守っている先生役のスタッフに聞くと「経験がない子に分かりやすく教えようとすることで、改めて自分が気付かされる部分も多いですね」とコメント。実は歴代の「親子パソコン組み立て教室」を教えるのは入社数年以上が経過した準中堅クラス。指導役の先輩がいなくてもひとりで組み立て作業ができる段階だが、子どもたちに教えるとなるとまた違った視点がでてくる。教え子が生まれることで自身の成長にも繋がっているというのが奥深い。

 もちろん、親子教室では先生役の先生みたいなベテランも配置され、各所で先生役を見守っているのが印象的。「自分も数年前は同じことをしてましたね」と目を細める。そして同じく子どもを見守る親御さんのなかには「自分用のパソコンを作ることも目的ですがそれを通じて、モノ作りの大変さ、楽しさに気付いてもらいたいと思って参加しました」というお父さんも。

飯山工場で弾ける笑顔、子どもたちに寄り添うホスピタリティ

 先生役のスタッフの指導で続々と組み上げが進む子どもたち。2時間もすると早くもノートPCの子どもから組み上がっていく。ある程度、筐体の大きさや工程が絞られるノートPCは早いそう。

 組み上げが終わったら検査へ。このあたりもリアルな体験だ。すべて問題ないことが確認されたら完成。後は梱包と発送台への移送までも自らの手で行う。なお、パソコン組み立て教室では組み上がってすぐに持ち帰りたいという子もいるので車に移送する子もいるそうだ。完成後には修了証書を貰って笑顔で記念撮影。ひとり、またひとりと完成していく。

 そのなかで目についたのが、小型デスクトップPCに取り組んでいた男の子だ。先生の話を聞きながら何故、そのような構造なのかをじっくり観察し、理解しながら作っていた姿が印象的であった。

 それは前述の「モノ作りの大変さ、楽しさに気付いて貰いたい」と語っていた親御さんの男の子であったが、一生懸命組み立て作業を続けていく。

 先生役もじっくり横についてマンツーマンで指導。先生自身もみずからの知見に頼ることなく、手の大きさも違う子がどうやったら上手くできるだろうかを考えながら教えてくれている。すでに時間は開始から3時間を過ぎていたのだが、工場内の大人たちは温かい目で見守っている。

日本の原風景が残る飯山には、モノ作りの原風景も。

そして最後になった男の子もついに完成。工場内には大きな拍手の音が広がる。修了証書を受け取った男の子は「自分のPCができて嬉しいです!」と満面の笑み。

 そして「先生がどうやったら配線が綺麗にできるのかを教えてくれて、普段は見られない部分も知れて楽しかった」「ネジ止めの作業でもうちょっと上手くできたかも……」との感想も。モノ作りを通じて理解と思考する楽しさも体感した模様だ。笑顔で車に搬入し、先生役と最後の挨拶。優しい光景だ。

 と同時に、そんな風景を見ながら筆者は飯山工場に宿る日本のモノ作りの原点を見た気がした。子どもたちが対面する現実を見ながら、それに合わせて現場で一緒に考え、現物を手にしながらモノ作りを進めていく。

今年、30周年のマウスコンピューター。飯山工場はモノ作りの拠点となる。

 それはかつて日本の製造業が得意としていた三現主義のような精神性。現物・現場・現実に触れつつ、最適解を皆で探りながらモノ作りを進めていく。飯山工場には自然とそのような精神性があった。

 前述した「開発本部」「品質管理本部」「生産本部」が同じエリアにあることでモノ作りの情報と意志が統一されており、更には子どもたちに接してきたスタッフからも伝わるユーザーに寄り添った心温まるホスピタリティ。やはり国産BTOメーカーの雄だ。今夏、工場見学と親子パソコン教室を通じて、今年30周年のマウスコンピューターの強みと魅力に触れることができた。日本の原風景が残る地・飯山には、日本のモノ作りの原風景も広がっていたのである。

国産BTOメーカーのこだわりと魅力を聖地・飯山工場にて知る