コミックの映像化や、ドラマのコミカライズなどが多い今、エンタメ好きとしてチェックしておきたいホットなマンガ情報をお届けする「ザテレビジョン マンガ部」。今回は、漫画家・悠岡清人さんの『夢岡 under ザ skin』をピックアップ。

【漫画】腕の新タトゥーに込められた意味とは…彫り師だからこそできる“優しさ”の表現が泣けると話題

Webコミックサイト「Comic Walker」に掲載されている読み切りの本作は、あるタトゥーアーティストの元に「腕に彫った恋人の名前を消してほしい」と一人の女性客が訪れるところから物語が始まる。7月5日に作者がX(旧Twitter)に投稿したところ、読者の予想を裏切る感動の展開が話題を呼び、5.3万以上の「いいね」が寄せられ反響を集めた。この記事では作者の悠岡清人さんにインタビューを行い、創作の背景やこだわりについてを語ってもらった。

■アートでコンプレックスをポジティブに タトゥースタジオが舞台の物語

共感性が高すぎる個性派タトゥーアーティストのJ・夢岡と、彫り師見習いの愛路・木野が働くタトゥースタジオ“studioユメオカ”。ある日、彼らの元に「腕に彫った元恋人のイニシャルを消したい」という一人の女性客が訪れる。

恋人に浮気され結婚が破談になったと明かす女性客は、夢岡のことを“カバーアップの神”と噂で聞き、“惨めな思い出が消えればなんでもいい”とデザインは考えず来店したという。カバーアップとは、タトゥーや傷跡の上から新しい絵を彫り覆い隠してしまう手法のこと。そんなカバーアップで一番多いのが「恋人の名前を消したい」という依頼なのだった。

“コンプレックスはアートがポジティブにしてくれる”を信条に持つ夢岡は、女性客の腕にペンで手早く印をつけ始める。一見落書きのように見えるペンの跡を不安に思う女性客だったが、夢岡の「完成した絵はもう僕の頭にあります」の言葉を聞いて、すべてを任せることを決意する。

下絵を使わず、大まかな目印だけを頼りに完全なフリーハンドで絵を作り始める夢岡。魔法みたいに元絵を隠していきながら、失敗の許されない気の遠くなるような作業に没頭すること4時間。ついに完成した新しいタトゥーとそれに込められた意味を知った女性客は、思わず涙して…。

個性派彫り師が、女性客の悲しみにアートでそっと寄り添う姿が感動を呼んでいる本作。X(旧Twitter)上では「めちゃくちゃ良い…!」「タトゥーと同じくらい繊細な漫画」「泣いた」「いい話だなー!」「施術や道具も忠実に再現してあって素敵な作品」「ここでタトゥー彫ってほしい」などのコメントが寄せられ、大きな反響を呼んでいる。

■「思い切り泣きたかった誰かの代わりにこれからも涙を流したい」作者・悠岡清人さんが語る創作の背景とこだわり

――個性派彫り師を描いた『夢岡 under ザ skin』はどのような発想から生まれたのでしょうか。

彫り師という職業の方々は一見した華やかさと、一方で技を磨くために果てしなく地道な努力をなさる堅実さを併せ持ったとても魅力的な職人さん達です。「誰かを楽しませる為の孤独な戦い」に日々挑み続ける姿勢は、漫画家とどこか近しいものもあると思い、タトゥー職人そのものを自分なりに追求してみたいと考えました。

――本作をX(旧Twitter)に投稿後、5.3万を超える「いいね」が寄せられ話題となっています。今回の反響について、悠岡清人さんの率直なご感想をお聞かせ下さい。

恐れや慄きが無かったといえば嘘になります。なので、D.Oさんの「悪党の詩」を一日中聴き、泣いていました。凄い心境にマッチしたので。

――本作は緻密に描き込まれた“線”とインクの“黒”、そして登場人物たちの繊細な表情描写がとても印象的でした。作画の際に特にこだわった点や「ここを見てほしい」というポイントがありましたら教えてください。

本作は職人の話ですので、フィクションといえどその職人が成す物(タトゥー)の仕上がりに、自分が持つ画力のみで説得力を出さなくてはいけないという重責を感じておりました。タトゥー職人の方々への敬意を決して疎かにする事だけは、してはならないと、やれるだけの事はやりました。

――本作の中で特に思い入れのあるシーンやセリフはありますか?

コンプレックスはアートがポジティブにしてくれるという一節でしょうか。本作のテーマといっても差し支えないかと思います。

――悠岡さんは『シャボン玉メドレー』や『さうられど。東京ブルージーズ』をはじめ、登場人物の赤裸々な“恋愛感情”や人間味あふれる“欲望”を多く描かれているようにお見受けしますが、理由やこだわりがあれば教えてください。

涙の描写には拘りがあるかも知れないです。

現実問題、人間にはしばしば、泣きたくても泣けず、むしろ涙流す気力が無いほど疲弊する事もあるでしょうけども、往来でも憚らずみっともない顔で大声で泣くような人間を描いて思い切り泣きたかった誰かの代わりにこれからも涙を流したいと思います。

――最後に作品を楽しみにしている読者やファンの方へメッセージをお願いします。

本当はお一人ずつ目を見てお礼し、お茶でもご一緒したいですがなかなかそうもいかないので、この場をお借りして「どうも有難うございます」と申し上げたいです。

彫り師の元を訪れた一人の女性客…悠岡清人さんの『夢岡 under ザ skin』が話題/(C)悠岡清人/KADOKAWA