2004年に講談社「モーニング」で連載がスタートし、世界的なワインブームを牽引した亜樹直原作、オキモト・シュウ作画の「神の雫」。日本やアジア圏の国々はもちろん、ワインの本場フランスでも翻訳版が出版され、コミックスのシリーズ全世界累計発行部数は1500万部以上。2020年に続編の「マリアージュ 〜神の雫 最終章〜」が完結を迎え、ワインをめぐる壮大な旅路と対決の物語に幕が下ろされた。
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そんな人気作に大胆なアレンジを施したアメリカ・フランス・日本の共同製作による国際連続大型ドラマであるHuluオリジナル「神の雫/Drops of God」がHuluで独占配信中だ。山下智久が海外ドラマ初主演を務めた本作で描かれるのは、ワインに運命を翻弄される男女の壮大な物語。世界的なワインの権威アレクサンドル・レジェが亡くなり、パリで暮らすレジェの娘カミーユ(フルール・ジェフリエ)と、レジェに師事していた遠峰一青(山下)は弁護士に呼びだされる。そこで聞かされたレジェの遺言。それは、ワインに関する3つのテストの勝者に、総額160億円にも及ぶ莫大な遺産を譲るという驚くべきものだった。
今回、MOVIE WALKER PRESSでは、原作者である亜樹直(姉:樹林ゆう子、弟:樹林伸の2人組ユニット)にインタビューを敢行。海外で装いも新たに生まれ変わった「神の雫」を、2人はどのような視点で味わったのか。また、これまで「金田一少年の事件簿」や「BLOODY MONDAY」など映像化される傑作漫画を次々と世に送りだしてきた2人の創作の原点とは。
■「はじめは本場フランスで原作が読まれるのさえ怖いと思っていた」(樹林伸)
――まずは「神の雫」が海外でドラマ化されたことについて、お2人の心境からお聞かせください。
樹林伸(以下、伸)「日本では以前もドラマ化されたように、またドラマ化する可能性があると思っていましたが…。しかもHuluで配信される前に世界公開されていて、もうかなりの評判をいただいているという話も聞きました。とてもそこまでのことは想像していませんでした」
ゆう子「正直なところ、またドラマ化されるという話を聞いた時には実現しないような気もしていました。以前、韓国版が作られるという話もありましたが、結局それは実現に至らなくて…。」
伸「そういうこともあったので、尚更今回のドラマ化はビックリしましたね。元々ひとつくらい趣味きっかけで漫画をやりたいなという気持ちで始めた作品だったので、こうして何年も続いて、世界中に喜んでもらえて、様々な賞をいただいたり勲章までもらったり想像できないこと続きです。はじめのころはフランスで読まれるのさえ怖いと思っていたぐらいだったのに」
ゆう子「本当に、フランスでフランスパンを売るようなものよ!(笑)」
■「作品の“世界観”をちゃんと捕まえてくれていれば、性別や国籍は些細なこと」(樹林伸)
――お話にもあったように、「神の雫」はこれが2度目の実写化です。「金田一少年の事件簿」がキャストを変えて何度も映像化されているように、同じ作品が異なるかたちで繰り返し映像化されているのも先生方の作品の特徴かと思いますが、お2人はいつも映像化された作品にどう向き合っているのでしょうか?
伸「ある種、“別物”だと思って観ようとは常に思っています。それは原作者である僕らが原作との違いを気にしだすとキリがなくなってしまう。自分たち以外のクリエイターの手が入ったものに関しては、あまり神経質になりすぎないように心掛けているのです」
ゆう子「今回の作品もそうですが、原作とは別物として楽しめることが一番大事なんですよね」
伸「2人でよく話しているのは、細かい部分ではなくて“世界観”がちゃんと伝わっているかどうかなんです。僕らが表現している作品の世界観をちゃんと捕まえてくれていれば、変更点があっても全然いいんです。そのうえでおもしろい作品になっていれば、どんな変更でも受け入れています。ストーリーが少し違うとか、主人公が男から女になったのなんて些細なことです」
ゆう子「そう。雫をカミーユという女性にするという話は、そのアイデアを聞かされた時に“その手もあるな”と。抵抗感がまったくありませんでした」
伸「企画が動きだした時には、原作と同じ男同士でした。でもしばらくして、フランスの方から大きな変更を相談したい、雫を女性にしたいと提案され、即座におもしろそうだと思いました。原作にも女性はいっぱい出てきますが、雫と一青を男同士にしたのは、男女だと対決よりも恋愛っぽさが見えてしまわないかということが理由でした。でもドラマとして短いスパンで見ると、充分すぎるくらい対決感が出ていたし、ハラハラする感じも強まっていたと感じます。実は僕らはいま『神の雫』の新たな続編の準備をしていて、『マリアージュ 〜神の雫 最終章〜』の最終回で一青とローランの間に子どもができるという終わり方をしましたが、その子どもが女の子で、彼女を主人公にした物語になる予定です」
ゆう子「それはこのドラマの影響もあるんです。ワインにはいろいろな姿があって、そのなかには男のようなワインも女のようなワインもある。今回のドラマで主人公の国籍が変わったことも同じです。そもそもワインは多国籍なものですからね。ワインを通して、世界の広がりがあることを表現できたのはとても良かったと感じています」
■「“天・地・人”。ワインを生みだす世界そのものを肯定している」(樹林ゆう子)
――「神の雫」のように、趣味が高じて生みだされた作品はこれまでもあったのでしょうか?
伸「僕らは子どものころからミステリが好きで、江戸川乱歩の『少年探偵団』シリーズとか、シャーロック・ホームズやアルセーヌ・ルパンとか、そういった子ども向けのミステリ作品が家の本棚にいっぱいあったんです。漫画よりもそっちのほうが原点になっていて…」
ゆう子「それは私が1冊ずつおこづかいで買ったやつなんです。この人はそれを読んでいただけ(笑)」
伸「でも乱歩のシリーズは、僕が立ち読みして読んでいたのを、親がお店の人に申し訳ないと言って買ってくれたんだよ(笑)」
ゆう子「あと私は小学生の時には漫画家志望で、中学生の時には自分で描いた作品を投稿して賞をもらったこともありました」
伸「僕はそれを読んで感想を言ったりしましたね。いまでも僕らが描いた原作を、漫画家さんがどう描いてくれるのかと待つワクワクがすごく好きで」
ゆう子「そういう絵にしたか!って楽しくなるからね」
伸「ミステリが好きだったり、あと僕はサッカーが好きだったり。コンピューターやITにハマった時にはハッカーを主人公にした『BLOODY MONDAY』をやってみたり。そうやって趣味から広がった作品はこれまでにもありましたが、そのなかでも『神の雫』だけは次元が違っていました」
ゆう子「毎日ワインのことばっかり考えて、メルマガも読み焦って」
伸「別の漫画の原作を描きながら、そろそろ飲みたいねってなって(笑)。それでワインを飲んでいるとパッとイメージが浮かんでそれを語りだす。ほとんど遊びでやっていたことだけど、これが漫画になるのかなと初めは思っていました。なので正直な話、漫画にするのはすごく勇気がいることでした」
ゆう子「漫画を読んでくれた人が、作中に登場したのと同じワインを買うと思ったら実際に飲まなきゃ無責任だと思って、1本のワインを書くために10本とか買うわけですよ。でもどんなワインでも悪口は絶対に書かないということだけを決めていたので、勧められないものはそもそも書かない。そうしているととんでもない数を買うことになるんです」
伸「10本じゃ済まないよ…(苦笑)。ものすごい数のワインを買って、どんどん飲みかけのままボツになっていって…」
――それだけワインに真摯に向き合ってきたお2人は、今回のドラマのラストで初めて明示された“神の雫”の答えについてどう感じたのでしょうか?
ゆう子「あれはすごく意外な答えでしたね。私はあれを見た時に、ワインを生みだす世界そのものを肯定しているのだと考えました。原作でも繰り返し言ってきた“天・地・人”。それがあって初めて生まれるものへ敬意を表しているのだと解釈しました」
伸「話のなかではこれが正解だということになっていますが、もっと本当の正解みたいなものがあるのかもしれないとちょっと想像しちゃいますよね。視聴者の方もそう感じることを、わざとねらっているのかもしれませんね。『本当はなに?』って」
――最後に、このドラマを観ながら飲むのにおすすめのワインを教えてください!
ゆう子「各話に1本くらいあるかな…」
伸「まずは最初に一青が飲むシャトー・ル・ピュイを飲んでもらえたらいいと思います。原作の漫画にも登場しているワインで、ちょっと変わっているけれどどういうテロワールなのかわかりやすい」
ゆう子「それに作品を観ながら気になったワインがあったら、その都度検索してみるのも楽しいと思います」
取材・文/久保田 和馬
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