9月に入って北朝鮮ではトウモロコシの収穫が盛んに行われている。トウモロコシとは言っても、日本で売られているような甘くて美味しいものではなく、パサパサした味気ない代物だ。本来は、救荒植物として凶作になったときに命をつなぐために食べるものだが、1990年代以降の北朝鮮で、当たり前のように食べられるようになった。

しかし、それすら手にできず、ギリギリの生活を送っている人は少なくない。農場に動員されて収穫の手伝いを行っている小中高生とて同じだ。動員の帰りにトウモロコシをくすねて帰ろうとする子どもたちが少なくないが、その防止方法を巡りトラブルが続発している。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

平安南道(ピョンアンナムド)の情報筋は、今月第3週から甑山(チュンサン)郡の農場でトウモロコシの収穫が始まり、郡内の小中高生が動員され収穫に当たっていると伝えた。学校の授業は午前中に終えて、午後1時から7時まで収穫を行う。

男子生徒は畑で収穫したトウモロコシを背負子で脱穀場まで運び、女子生徒は皮とヒゲをもぎ取って倉庫に入れるという重労働だ。

作業後は、糾察隊に体の隅々をまさぐられて、トウモロコシを隠し持っていないかチェックを受けてようやく帰宅が認められる。農場の分注所(交番)が農場員のうち何人かを選んで糾察隊を立ち上げ、ボディチェックさせるのだが、以前は成人のみが対象だったのが、今では未成年者も対象となっている。

北朝鮮は、穀物収穫量の増大を今年の主要課題として掲げているだけあって、もしノルマを達成できなければ、地方政府や農場の幹部は詰め腹を切らされることになる。そのため、必死でトウモロコシを守ろうとするのだ。

だが、現場ではトラブルが続出している。

「巡察隊は、生徒がポケットやスカートの下にトウモロコシを隠し持っていないか調べるために体をまさぐるが、『泥棒扱いするのか!』と巡察隊の手を振り払って喧嘩になることもある」(情報筋)

平安北道(ピョンアンブクト)龍川(リョンチョン)郡でも状況は同じだ。

現地の農民によると、今月第3週からトウモロコシの収穫が始まり、男子生徒が実をもぎ、女子生徒が麻袋に入れて脱穀場まで運ぶ作業を行っている。

帰りには、クラスごとに並んで農場巡察隊のボディチェックを受けるが、そこでトラブルが相次いでいる。特に女子生徒が激しく抗議することが多いという。情報筋は、こんな光景を目撃したと語った。

「高級中学校(高校)2年生の女子が、体をまさぐろうとする巡察隊に、自らポケットを裏返して見せて、『トウモロコシ泥棒じゃないのに、私の体に指一本触れたらタダじゃおかない』と抗議し、後ろに並んでいた女子生徒も一斉に抗議の声を上げ、ボディチェックが止まってしまった」

だが、穀物を守る闘いはそれだけでは終わらない。トウモロコシを盗難から守ろうとして、女子生徒からけちょんけちょんに言われた農民が、今度はトウモロコシを盗む側に回るのだ。

国や郡に持っていかれまいと、農民はトウモロコシを隠したり、トウモロコシを入れた袋に小石を入れたりして、重量を水増しし、その差分を盗むのだ。そうでもしなければ冬を越すための食糧が得られず、借金も返せず、来年使用する肥料なども買えなくなる。

無事に農場から運び出されても、今度は運搬担当者など、輸送に関わる人々が寄ってたかって盗み出す。そして、最終目的地の軍部隊に到着すれば、今度はそこの幹部が盗む。かくして末端の兵士に届く頃には、量は減り、中身も質の悪いものに入れ替わってしまっている。空腹に買えかねた兵士たちは、農場を襲撃して食べ物を確保する。このような悪循環が続いているのだ。

北朝鮮の女性兵士(アリランday)