9月15日に来季の続投が発表された中日の立浪監督(前列左から2人目)。疑問の声もあるが、3年目での逆襲はあるか
9月15日に来季の続投が発表された中日の立浪監督(前列左から2人目)。疑問の声もあるが、3年目での逆襲はあるか

中日の苦境が続いている。9月17日時点で借金29のセ・リーグ最下位。チーム防御率リーグ2位ながら、得点は348リーグ5位の広島から120近く離されるなど、とにかく打てない。球場外でも、試合前に選手への白米提供を禁止する〝令和の米騒動〟など、何かと騒がしい。

そんな中、来季も立浪和義監督の続投が早々と発表され、一部ファンからは疑問の声も上がっている。なぜ中日は弱いのか――。山﨑武司氏が、古巣の現状を分析した。

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今の投手陣のメンツを見ても、借金が30近いチームの戦力には思えません。小笠原慎之介、柳 裕也、髙橋宏斗らは全員10敗以上していますが、勝ち星と逆になっていてもおかしくない内容。松山晋也のような力がある若手も出てきて、新戦力の外国人も悪くない。

クローザーにはライデル(・マルティネス)がいて、阪神と比べても遜色なく、むしろ上だとみています。投手陣は申し分ないので、今の順位はとにかく点が取れないから。これに尽きます。

なぜ点が取れないのかというと、チーム内に「競争」がないことが大きい。立浪監督になってから、若手起用にかじを切りました。それ自体はいいことですが、問題はそのポジションが〝与えられたもの〟であること。

若手の中で勝ち取ったといえるのは、岡林勇希細川成也だけ。あとはチーム事情で起用されている選手。だから何がなんでも結果を残す、食らいついてやろう、という切羽詰まった気迫が見えない。

今季それを一番感じたのが、ベテランの大島洋平くらいですから。チーム打率は上位とも大差ないのに、チャンスで打てないのは精神的な部分の影響をどうしても感じてしまうわけです。

采配面で気になるのは、起用方法が定まってないこと。例えば「代打の切り札で誰を使うのか」というチーム方針ひとつをとってもそう。本来なら高橋周平なんでしょうが、彼のようなチームを引っ張るべき中堅が〝いじられ〟すぎて自分の形を見失い、フォームを崩してしまっている。

送りバントの多用も目立ちますが、相手との力関係、試合状況などで使い分けができているのか。また、今季は主軸が出塁したときの代走が多いですが、これは悪手だと思いますね。

特に大島への代走は、確実に選手の無駄遣い野村克也監督は、終盤でも主軸には代走をほぼ出さない方でした。その理由を聞くと「追いつかれた場合、(主軸を交代させたら)点が取れなくなるやろ」と話されていましたが、私も同じように感じますね。

編成面でいうなら、二遊間で苦しみました。立浪監督もテコ入れに注力しましたが、現状では誰が出ても厳しい。ドラフト戦略もあるのですが、例えば「打てないけど守れる」「守れないけど打てる」というような一芸に秀でた人材獲得から考える必要がある。

ドラフト2位で村松開人を指名したなら彼を使い続けるべきだし、龍空(りゅうく)をどこで使いたいのかも明確にすべきでしょう。正直、二遊間はまだまだ時間がかかりそうで、来季も頭を悩ませそうです。

中日が強くなるために必要なことは、まずは監督が動きすぎずに、適材適所で人に任せること。戦力の充実も要素として大切ですが、まずはそこからかな、と。今の選手たちを見ていると、監督とコーチが多方面から別々なことを教えすぎて、困惑しているように映るんですよ。 

先日、広島の新井貴浩監督と対談した際に「僕は本当に何もしてないんですよ。コーチに任せっきりで」と笑っていたんです。

監督はデータなどをいろいろ考えて、どうしても動いてしまう生き物ではありますが、新井監督のようなスタンスはすごく大切。正直、現在2位の広島と中日の戦力が順位ほど違うか、というとまったくそう思わないし、差はわずかです。

この現状は立浪監督だけの責任ではなく、コーチ陣が〝イエスマン〟ばかりになってしまっているのも大きい。今のメンツを見ると、ベン(和田一浩打撃コーチ)くらいしか、監督と対等に話せていません。当然コーチにしかわからないこともたくさんあるし、コーチの助言は重要なわけです。

勝つためには今のような雰囲気は良くないし、私は監督よりもむしろコーチ陣に、「どこを見て野球しているのか」と言いたいですね。そういう意味でも、来季のコーチ人事には注目しています。

現状に対する歯がゆさもあり、厳しい意見が多くなりましたが、噛み合わせひとつで大きく化ける可能性も秘めたチームだと私はとらえています。

今季MVPともいえる活躍を見せた細川が出てきて、石川昂弥や岡林、髙橋はまだ21、22歳と若い。彼らのような〝金の卵〟もいますし、もともと投手力は抜群。

あとは長打を期待できる打者がひとり入るだけで、チーム力はガラッと変わるでしょう。来年にAクラス争いをしても不思議ではない人材はそろっています。

個人的には、根尾 昂のようなプロスペクト(若手有望株)をどう育てるか、という育成方針をはっきりさせるべきと強く思います。

現状の中日の投手陣では、根尾が割って入れる余地は少ない。昨季、非常にいいキャンプを過ごしていただけに、1年間打者として見た上での投手転向でもよかったはず。チーム的には、明らかに野手のほうが足りていないので。

根尾は一例ですが、一部報道で出ていたように「見逃し三振はダメ」という方針を立てる際に、そこに向かうまでのプロセスを明確にしないと選手は育ちにくい。

「バットに当たるとなんとかなる」という考え方は昔から野球界にありますが、今は長打率出塁率が重視される時代。見逃し三振を恐れて、当てにいくバッティングをすれば、小さくまとまった選手になってしまう。チームの主軸となるべき、石川にもそういう打席が散見されますからね。

とにかく、来年に勝負の3年目を迎える立浪ドラゴンズの再建に期待したいです。

取材・文/栗田シメイ 写真/共同通信社

9月15日に来季の続投が発表された中日の立浪監督(前列左から2人目)。疑問の声もあるが、3年目での逆襲はあるか