1985年から現代にかけてのアメリカを舞台に、姉弟・母と息子という家族の姿から、人が自分の人生と向き合っていくことを描き出すミュージカル『ジョン&ジェン』。登場人物はジョンとジェンの二人のみ。ただし1幕では姉ジェンと弟ジョンの姉弟の話、2幕では姉ジェンが母親となり、その息子のジョンとの関係性が描かれていく、という凝った構成になっている。作曲は『アダムス・ファミリー』『ビッグフィッシュ』のアンドリュー・リッパが手掛け、1995年にオフ・ブロードウェイで初演。日本初演となる今回の上演は、ジョン役に森崎ウィンと田代万里生、ジェン役に新妻聖子と濱田めぐみという実力派が配された。たった二人で紡がれるこの珠玉のミュージカルに挑む森崎ウィンに話を聞いた。

とにかく経験してみたい

――作品の印象を教えてください。

僕はこの『ジョン&ジェン』でミュージカル出演は5作品目になります。今までありがたいことに、大型作品に出演させていただいていましたが、今回“二人ミュージカル”という点に惹かれ、ぜひ挑戦したいと思ったし、そういう作品に声をかけてもらったことが純粋に嬉しいです。また内容も、「これは子役がいるってこと……?」と思ったくらい幅の広い年齢を演じますし、1幕と2幕で同じ名前だけど別の人物を演じる、というところも非常にやりがいがあるなと感じました。

――二人ミュージカルだと、キャストが二人しかいない分、一人にかかる責任が大きくなりますよね。

はい。どんな作品でも「よし、やってやるぞ」という意気込みは抱くものですが、今回は気合いもひとしおです。もちろんやることも覚えることも多く、負担は大きいのでしょうが、まだ二人ミュージカルを経験していない僕には未知の世界すぎて、実際やってみないとわからない。とにかく経験してみたい、自分の身体を動かしてやってみたい、という気持ちが強いです。

――ジョンは劇中で5歳から18歳まで年齢の幅があるそうですが、現段階で演技プランなどは考えていますか?

演出の市川(洋二郎)さんが、「ウィン君はそのままでいけるんじゃないか」とおっしゃっていたので、その言葉を信じてそのままいこうと思います(笑)。頭で考えていても出てこない、身体を動かして生まれてくるものがあると思うので、実際は稽古が始まってから……だと思いますが、昔に比べたら僕もいくつかの作品を経験したことによって、例えば声のレンジなど“自分の持っているもの”がわかるようになっています。ですので、そこを駆使し、「あの時のあの音でやってみよう」といったように作っていけるのではないかなと思います。

――市川さんに「そのままでいける」と言われた“森崎さんらしさ”はどういうところだと思いますか。

市川さんが「ピュアウィン君」と言ってくださるので、そういう部分でしょうか。今日もそれをイメージして白シャツで来ました(笑)。ある意味でミュージカル経験がまだ少ない僕だからこそ出せるものがあると思うんです。ほかのお三方は誰もがご存知のベテランです。肩を並べようと背伸びせず、素直に脚本を信じて、市川さんを信じて、飛び込んでいきたいです。

僕の中の引き出しを増やしてもらっている感覚

――1幕のジョンが1985年生まれということで非常に世代的にも近い。共感するところはありますか。

同じ世代ですが、舞台はアメリカですし、成長して彼は戦争に行きます。僕はアメリカの戦争というのは、海を挟んだ場所から見ていた立場ですので、共感するというよりは同じ世代だけどこういう考え方をするんだ、と僕の中の引き出しを増やしてもらっている感覚かな。育った環境や受けた教育によってその後の人生が影響を受けていくというのは僕にとって勉強になる。ただ家族の話という面では共感できる部分は多いです。僕の家族が暴力的だったということではありませんが、やっぱり家族がバラバラになりかけている時の気持ちなどは「わかるな」と思う部分もあります。

――ジョンは1幕と2幕で別の人物(叔父・甥の関係)になりますが、観客目線では二人のジョンがオーバーラップしてくるという見方もできる作品だと思います。森崎さんは二人のジョンをどう表現していきたいですか?

まさにそこはポイントで、見た目として二者を変えていく必要がある瞬間も出てくると思いますが、僕が思うに、観客の皆さんはこの物語をジェンの目線で観ると思うんです。だからこそ、二人がオーバーラップするところも出てくる。その“ジェンから見たジョン”を提示する瞬間も大事になってきます。でも、良い脚本って、役者が頭で考えて演じる必要がなく、そこに居れば成立するんですよ。この本も2幕のジョンの自我やパーソナリティは、脚本上で充分に語られていますので、自然とそれぞれのキャラクターらしさが出せる。もちろんそれを伝える、表現する技術は必要ですが。だから変に「ああしよう、こうしよう」と作戦を練るより、演じる役者にとって必要なのは、客観的な目をもって「ジェンから見たジョンはこうで、ジョンのパーソナリティはこうなんだ」という理解をすることだと、今の時点では思っています。

――楽曲の魅力は?

実はけっこう難しいなと感じています。インパクトあるキラーソングというより、メロディラインがとても台詞に近いところをなぞっていく。芝居歌、台詞歌だと思う。もちろんその中でも、キャッチーなポイントや、全幕を通して流れていく美しいモチーフがあったりもしますが。3分半くらいの楽曲を何曲も聴くというより、全体を通して1曲になっているような印象です。物語とともに味わう楽曲なので、全部が繋がった時に真の魅力が見えてくるのではと楽しみにしています。さらに、二人しかいない上に楽器も少ないので頼れるところがない。本当に上手い人じゃないと表現できない作品だと思うので、感覚で歌うのではなく、きちんと計算して稽古をしていく必要があるなと思っています。

ワークショップで過ごした貴重な時間

――すでにワークショップが始まっているとのこと。演出の市川洋二郎さんはどういう方ですか?

役者と対等の立場に立ち、すごく細かくコミュニケーションを取る方だなと感じています。国際的に活躍されている方ですし、ロンドンでも演出を手掛けていたり、俳優としての出演もされていますので、感覚がとても“海外っぽい”。ワークショップでは、稽古場でまず「チェックイン」と言って、それぞれが思ったことを話すんです。そして帰る時には「チェックアウト」。稽古に関することじゃなくてもいいし、仕事の話じゃなくてもいい。「昨日、辛い物を食べて美味しかった」でも何でもいいからそこで話す。市川さんは「なんなら『この稽古、嫌です』でも何でもいい、思っていることを話して」とおっしゃっていました。それくらいオープンな気持ちでやりたいんだなと感じますし、そのオープンさが僕が“海外っぽい”と思った点。面白くなりそうです!

――具体的にはワークショップではどんなことをしているのですか。

例えば、田代さんもいらっしゃった時に、作品のバックボーンについてみんなで妄想を繰り広げたことがありました。1幕、ジョンとジェンの姉弟の両親はどういう人たちなのか? 父親はどうして暴力的になっているのかとか。母親がその父をずっと支えているのは何でだろう、それはジェンがいるからだよね、とか……。あるいは、劇中で「ジョージ・ワシントンの愛犬のマーサ」というのが出てくるのですが、実はワシントンはマーサという犬は飼っていなかったんですよ。つまり誰かを犬として例えているのかな? とか。こういう話ができる時間って、稽古が実際に始まるとなかなかとれないんですよ。でもこういうことを考える時間は特に舞台作品においてはとても大切。表現として表に出てくるものではないけれど、そういう肉付けがあると、舞台上で“間”が生きてくるんです。舞台って、何も起こらない時の間が一番怖いのですが、バックボーンが埋まっていると、間を生きられる。そこを作っていくことが一番重要なんじゃないかなと思っているので、このワークショップでの時間は貴重なものになりました。

――ずいぶん芝居的なアプローチから始まっているのですね。新妻さんが「ストレートプレイのような感覚」とコメントされていましたが、そんな感覚?

はい、まさに! 音楽も芝居の延長にある感覚ですので、たしかに新妻さんのおっしゃる通り、ストレートプレイを作っている感覚です。俳優として、やりがいしかありません!

――そして今回の上演はジョンもジェンもダブルキャストで、観客は4通りの『ジョン&ジェン』を観ることができますね。

はい。僕より経験のある方が自分と同じ役を演じることで、「この方はこういう風に捉えるんだ」「こういう風に読み解くんだ」という経験ができるのは、ダブルキャスト制の魅力的なところです。お客さまもその違いが楽しめるし、そこで好みが出てきたりする。どちらが正解ということではなく「こういう風にも見えるよ」と複数の楽しみ方を提示できることはとてもいいことだなと思います。ただ……基本的に、ダブルキャストはあまり好きではありません(笑)。人と比べられるのはどうしても好きにはなれない。「こっちの方がどうだった」と書かれたりするし……まあ、何回か経験する中でだんだん慣れてきましたけど(笑)。逆に言えば、自分の相手役がダブルキャストなのはとても楽しいです! 『ピピン』でも、お祖母ちゃん役が中尾ミエさんと前田美波里さん、二人いらっしゃったのですが、お二人がまったく違っていたし、相手によって自分が変わっていく瞬間がすごく面白かったです。

自分を受け入れる勇気をもらえる作品

――この物語は家族との関係というものが大きなテーマになっています。森崎さんも、成長するにつれ、親との関係が少し変化したなと感じた経験はありますか?

それはとてもあります。自分が大人になるにつれ、両親もひとりの人間なんだな、と感じることが……。ある時期から、両親が僕に対して質問をしてくるようになったんです。弟のことについてとか。その時に、親子というより個人として対等に喋っているなと感じました。親が間違えていると思ったことを指摘したら「そうだね」と受け入れてくれたりもするようになった。多分、両親の方もそのことによって僕の成長を感じ取ってくれているのだと思います。自分の家族に対する考え、どう言葉をかけるか、といったことに関しても考える時間を与えてくれる作品だと思います。

――公演期間は12月。物語の中でもクリスマスが重要なモチーフとして登場します。お客さまにとって、素敵なクリスマスプレゼントになりそうですね。

なるでしょう、何と言っても僕が出ていますから(笑)! 『ジョン&ジェン』、僕にとっても成長できる作品になると思いますし、ご覧いただく方にとっては、自分を受け入れる勇気をもらえる作品になるんじゃないかな。ぜひ劇場に来てください!

取材・文:平野祥恵 撮影:塚田史香

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<公演情報>
PARCO PRODUCE 2023
ミュージカル『ジョン&ジェン』

音楽アンドリュー・リッパ
歌詞:トム・グリーンウォルド
脚本:トム・グリーンウォルド、アンドリュー・リッパ
演出・翻訳・訳詞・ムーブメント:市川洋二郎
出演:
森崎ウィン / 田代万里生(Wキャスト) ・新妻聖子 / 濱田めぐみ(Wキャスト)

【東京公演】
2023年12月9日(土)~12月24日(日)
会場:よみうり大手町ホール

【大阪公演】
2023年12月26日(火)~12月28日(木)
歌舞伎座

チケット情報
https://w.pia.jp/t/johnandjen/

公式サイト
https://stage.parco.jp/program/johnandjen

森崎ウィン