厚生労働省が公表したところによると、22年の日本人の平均寿命は、男性81.05歳、女性87.09歳。60歳で現役を退いた場合、日本人を待ち受ける老後生活は25年前後におよびます。「貯蓄は足りるかな」と不安になる人も多いでしょうが、長い長い老後に欠かせないのが「資産寿命を延ばす」という考え方。詳しくみていきます。

平均的な日本人を待ち受けるのは25年間の「老後生活」

厚生労働省の『令和4年簡易生命表』によると、2022年の日本人の最新の平均寿命は男性が81.05歳、女性が87.09歳。前年比で女性は0.49歳、男性は0.42歳縮んでおり、日本人の平均寿命は2年連続で短くなっています。

【日本人の平均寿命の推移】

1990年 :75.92歳/81.90歳/5.98歳

1995年:76.38歳/82.85歳/6.47歳

2000年 :77.72 歳/84.60歳/6.88歳

2005年:78.56歳/85.52歳/6.96歳

2010年 :79.55歳/86.30歳/6.75歳

2015年 :80.75歳/86.99歳/6.24歳

2020年 :81.56 歳/87.71歳/6.15歳

2021年 :81.47歳/87.57歳/6.10歳

2022年 :81.05歳/87.09歳/6.03歳

出所:厚生労働省令和4年簡易生命表』より

※数値左から、男性平均寿命、女性平均寿命平均寿命男女差

ある年齢で、あと何年生きられるかという「平均余命」をみてみると、たとえば50歳の場合、男性32.51年、女性38.16年。60歳時点では男性23.59年、女性28.84年。65歳では男性19.44年、女性24.30年というのが平均値となります。60歳で定年退職した場合、そこから夫婦で25年間ほどの「老後」が待ち受けているというのが、平均的な姿といえそうです。

株の配当や家賃収入等がない場合、定年退職後の収入は65歳以降の年金に限られることになります。年金だけではカバーできない生活費については、定年時に受け取った退職金を含む貯蓄を取り崩すことになります。仮に60歳で現役を退いたとすると、およそ25年にわたり貯蓄を取り崩す期間が続くことになりますから、さすがに不安を抱く人というも多いのではないでしょうか。

元本5,000万円を年間3%で運用したら…

総務省『家計調査』(2022年)で年代ごとのお財布事情をみてみると、40代では平均貯蓄額1,156万円に対し負債が1,246万円。50代で貯蓄額が負債額を上回り、60代では貯蓄額2,180万円、平均負債額は249万円。およそ2,000万円の貯蓄を持って、老後生活を迎えるというのが平均的な姿といえそうです。老後資金といえば、19年頃に「年金だけでは2,000万円不足する」と大きく報道されたこともあり、必要な貯蓄額として2,000万円を意識する人が多いのかもしれません。

仮に、上にみた平均のおよそ1.5倍にあたる3,000万円の貯蓄がある場合、もう少し早く引退するという選択はアリでしょうか。55歳で早期退職制度を利用して2,000万円の退職金を受け取り、合計5,000万円の貯蓄を持って会社員を引退したケースで、貯蓄がどれくらいもつのかシミュレーションしてみましょう。

厚生労働省令和4年賃金構造基本統計調査』によると、大企業勤務・大卒男性サラリーマン(55~59歳)の平均月収は57万1,900円。残業代やボーナスを含む年収は推定975万円です。この年収帯の世帯の月の消費支出は38万4,580円であり、現役サラリーマン時代と同じ生活水準を保つとすると、年間支出額460万円超。60歳までの5年間で2,300万円もの貯蓄を取り崩すことになります。

それから年金受給が始まる65歳までの5年間、生活水準をグッと落として無職世帯の平均値である月28万7,126円で生活したとすると、5年間の総支出は1,722万円。サラリーマン引退までの貯蓄と退職金を合わせて5,000万円あったお金は、55~65歳までの10年間で4,000万円以上減り、残高は1,000万円ほどになってしまいました。

65歳以降の年金受取額について、厚生労働省令和3年厚生年金保険・国民年金事業の概況』をみてみると、自営業など国民年金の平均受取額は月額5万6,479円、厚生年金(第1号)の受取額は月額14万5,665円でした。厚生年金についてさらに男女別にみると、男性は16万9,006円、女性は10万9,261円。65歳以降の月あたりの収入は、会社員世帯の場合、夫婦共働きであれば約28万円、夫・会社員、妻・専業主婦という世帯であれば約23万円ということになります。

公益財団法人生命保険文化センター『令和元年度生活保障に関する調査』によると、「夫婦2人の最低限の老後資金」は平均月23万2,000円。旅行やレジャー、趣味を我慢しない「夫婦2人ゆとりある老後生活のための必要額」は平均37万9,000円であり、夫・会社員、妻・専業主婦だった世帯では毎月14万円、年間168万円の貯蓄を取り崩すことになりそうです。この世帯の65歳時点の貯蓄は1,000万円ですから、そのペースで取り崩し続ければ貯蓄は70歳前後で底をつき、慌てふためくことになるかもしれません。

上にみたとおり「最低限の老後資金」は月23万円程度ですから、この世帯の場合は貯蓄が尽きた後も年金だけでなんとか暮らしていけるかもしれません。ただ、それまで趣味などに投じていたお金の大部分を節約しなければなりませんから、大きなストレスがかかるはずです。

そこで、安定収入と大きな貯蓄がある現役時代からの備えとして「資産寿命を延ばす」ための対策を練っていくことが重要です。たとえば、貯蓄を「運用しながら取り崩す」という対策。貯蓄5,000万円がすべて現預金だった場合、平均的なペースでお金を使い続けた上記のシミュレーションでは70歳前後で貯蓄が底をついてしまいました。

一方で、仮に5,000万円を年利3%で運用してみるとどうでしょう。

1年後には元本が5,150万円となります。そこから300万円を支出したとすると、翌年の元本は4,850万円。その年は4.850万円を3%で運用し、300万円を支出して残高は4,695万5,000円。このサイクルを繰り返せば、貯蓄の減少スピードを大きく抑えられ、現預金を取り崩していった場合に比べて資産の寿命が6年ほど延びることになります(図1)。

 

ただ、そもそも5,000万円の貯蓄すべてを運用に回すというのは非現実的ですし、毎年安定して3%の利益をもたらし続ける魔法のような商品は存在しません。実際には余剰資金で投資を行い、相場の状況をみながら資産ポートフォリオを見直していく必要がある訳ですが、そうした運用には投資家としての経験や高い金融リテラシーが求められることになるでしょう。安定収入のある現役時代のうちから、さまざまな投資手法に慣れ親しんでおくことが、資産寿命を延ばす1つのコツといえるかもしれません。

(※写真はイメージです/PIXTA)