朝井リョウの同名小説を、稲垣吾郎新垣結衣、磯村勇斗、佐藤寛太、東野絢香らを迎えて岸善幸監督が映画化した映画『正欲』が、11月10日(金)より公開となる。このたび本作が、第36回東京国際映画祭コンペティション部門に正式出品されることが決定。キャスト陣のコメントとともに、新場面写真も解禁された。

【写真を見る】ショッピングモールで接客中の夏月(新垣結衣)がなにかに耐えているような表情が気になる

原作小説は、2009年「桐島、部活やめるってよ」で第22回小説すばる新人賞を受賞、2013年「何者」では直木賞を受賞した朝井が、作家生活10周年で書き上げた渾身の一作。自身が「小説家としても1人の人間としても、明らかに大きなターニングポイントとなる作品です」と語り、2021年3月に発売されるやいなやその内容が波紋を呼び、第34回柴田錬三郎賞を受賞した話題作だ。

家庭環境、性的指向、容姿など様々に異なる背景を持つ人たちを同じ地平で描写しながら、人が生きていくための推進力になるのはなんなのかというテーマをあぶり出していく衝撃的な物語を、原作とは違い、ある種のラブストーリーとして映画化するのは、『あゝ、荒野』(17)、『前科者』(22)などを経て、その手腕に磨きがかかった演出家の岸と、原作を大胆に再構築しながら演出の可能性を拡げていく脚本家の岳彦。2人のタッグにより、生きていくための原動力が、「当たり前」とは違う形である人たちの人生を、大胆な演出表現をもって映像として浮かび上がらせる。

検察官として横浜検察庁に務め、妻と息子と3人でマイホームに暮らす寺井啓喜役に稲垣、広島のショッピングモール契約社員として働く桐生夏月役に新垣、親の事故死をきっかけに広島に戻ってきた夏月の同級生、佐々木佳道役に磯村。そして佐藤がダンスサークルで活動し、大学の準ミスターに選ばれるほどの容姿を持つ諸橋大也役を、東野が大也と同じ大学に通う神戸八重子役を演じている。物語が進むにつれ、別の場所でそれぞれの人生を歩んできた彼らの関係が、少しずつ交わっていく。どうしたって降りられないこの世界で、生き延びるために大切なものを、強い衝撃や深い感動とともに提示する。

解禁されたのは、新たな場面写真7点。家族団らん中のはずが、啓喜(稲垣)を見る妻、由美(山田真歩)と息子の泰希(潤浩)の表情は穏やかではない様子。ショッピングモールでの接客中の夏月(新垣)は、なにかをこらえるようにうつむき、佳道(磯村)はなんとも言えない表情で一心に誰かを見つめているようだ。ダンスサークルのリーダー、高見優芽(坂東希)が同席するなか、学祭実行委員として大也(佐藤)にイベント出演依頼をする神戸(東野)や、啓喜にある事件の資料を渡す検察事務官の越川秀己(宇野祥平)、パソコン画面をのぞき込む子どもたちと由美、右近(鈴木康介)、目を閉じて一心不乱に水を浴びる中学生時代の夏月(滝口芽里衣)と佳道(齋藤潤)など、物語を彩るさまざまな登場人物たちの気になる場面写真が到着した。はたしてどんなシーンに仕上がっているのか、映画本編への期待は高まるばかりだ。

第36回東京国際映画祭は、10月23日(月)~11月1日(水)に開催され、本映画祭が『正欲』のワールドプレミアとなる。出品決定に際し、本作メインキャスト陣からコメントが到着。稲垣は「観た後、それぞれ違った感じ方をしていただきたい映画」と、新垣は「自分が想像しえない世界は確実にあって、そこにいまも生きている人がいる。それがどういうことなのかを常に考えながら撮影した作品」と、改めて完成した本作への想いを語った。また磯村、佐藤、東野もそれぞれコメントを寄せている。

傑作か、問題作か。日本映画界を代表する実力派俳優が集結し、いま、この時代にこそ必要とされるであろう、心を激しく揺り動かす、痛烈な衝撃作を早くスクリーンで楽しみたい。

■<キャストコメント>

稲垣吾郎(寺井啓喜役)

「観た後、それぞれ違った感じ方をしていただきたい映画になっていると思います。すべてに疑問を持ちながら、純粋な気持ちで演技に向き合うことができました」

新垣結衣(桐生夏月役)

「問われている感覚が、原作を読んだ時から、映画が完成した後もずっとそばにあります。自分が想像しえない世界は確実にあって、そこにいまも生きている人がいる。それがどういうことなのかを常に考えながら撮影した作品でした」

●磯村勇斗(佐々木佳道役)

「観終わった後、温かい気持ちになり、自分を大切にしようと思いました。この『正欲』を通して、我々と観て下さった方が『なにか』を共有し育み、互いに勇気を持って、一歩でも半歩でも自分の人生を進めていけるようなれたらうれしいです」

●佐藤寛太(諸橋大也役)

「善く生きるということ。人と共存するということ。人生の意義を考えること。暮らしのなかでは保留することができる答えのない問いが、映画という実態を伴って眼の前に現れました。僕はこの作品を引きずって大人になっていこうと思います」

●東野絢香(神戸八重子役)

「完成された『正欲』は、人間の命がとても美しく描かれた映画でした。上手に息が吸えない私たちに、今を生きるための酸素を送り届けてくれる作品です。この映画が、少しでも多くの方に届くことを、心から願っております」

文/山崎伸子

寺井啓喜(稲垣吾郎)を見る妻の由美(山田真歩)と息子の泰希(潤浩)は穏やかではない様子/[c]2021 朝井リョウ/新潮社 [c]2023「正欲」製作委員会