劇団チーズtheaterの人気舞台「川辺市子のために」を、同劇団を主宰する戸田彬弘が監督を務め、杉咲花を主演に迎えて映画化した『市子』(12月8日公開)。同作が東京国際映画祭に正式出品されることが決定し、あわせて新カットも解禁された。

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川辺市子(杉咲)は、3年間一緒に暮らしてきた恋人の長谷川(若葉竜也)からプロポーズを受けるが、翌日に忽然と姿を消す。途方に暮れる長谷川は、市子の行方を追って彼女の昔の友人や幼なじみ、高校時代の同級生などから証言を得ていき、市子は以前に違う名前を名乗っていたことを知る。そして部屋から見つけたある一枚の写真をきっかけに、市子が生きてきた壮絶な過去と真実を知ることになるのだった。

このたび、第36回東京国際映画祭のラインナップが発表され、『市子』のNippon Cinema Now部門で正式出品されることがわかった。同部門は、この1年の日本映画を対象に、特に海外に紹介されるべき日本映画という観点から選考され、昨年は『ケイコ 目を澄ませて』(22)や『百花』(22)が同部門で出品されている。

同映画祭のプログラミング・ディレクターを務める市山尚三は同作について「海外の映画祭関係者と話すと『日本映画は身の回りの話で完結しているものが多く、社会が見えない』という声をよく聞く。『市子』はそうではない日本映画が確実に存在することを示している。杉咲花の抜群の演技は今年の様々な女優賞の最有力候補となることは間違いない」とコメントしている。

また、あわせて公開された新カットは雑多な部屋の中で壁にもたれかかり、無表情で、冷静にも虚ろにも見える過去の市子を捉え、痛ましいほどに荒んだ彼女の生活環境が読み取れる1枚となっている。

国内はもとより国際的にも評価の高い作品が集まるNippon Cinema Now部門への出品で、同作が海外からどんな評価を受けるのか注目したい。

文/入江奈々

荒れた部屋で呆然とする、過去の“市子”/[c]2023 映画「市子」製作委員会