1997年12月にコナミ(現・コナミアミューズメント)から発売され、社会現象を巻き起こした『beatmania』のブームも冷めやらぬ1998年9月28日、アーケード音楽ゲームポップンミュージック』(pop’n music、ポップン)はリリースされた。

【画像】ゲーム画面や参考文献から見る『ポップンミュージック』の歴史

 2023年9月28日の今日は、令和の今なお最新作のリリースが続けられ、音楽ゲームブランドBEMANIの他作品と共にエンターテインメントを提供し続ける同作が、25周年の節目を迎えた記念すべき日である。

 本稿では、『ポップンミュージック』という偉大なゲームが歩んできた四半世紀を振り返り、その魅力をあらためて整理したい。

アーケードゲームとしてのポップン

 アーケード版『ポップンミュージック』のリリースは、前述の通り1998年9月のこと。2016年に株式会社コナミアミューズメント(以下、コナミ)の代表取締役社長に就任し、2022年からはコナミグループ取締役をも務める沖田勝典がかつて開発した『Dance Dance Revolution』(現・DanceDanceRevolution)のローンチと、ほぼ同時期の出来事である。

 初代作のディレクターは日暮成二、サウンドディレクターは竹安弘。全14曲のプレイアブル曲は、竹安を含む8人のコンポーザーにより制作された。クレジットされたスタッフは、CGデザイナーの向井慎太郎や、本作がデビュー作となった杉本清隆新谷さなえ(Sana)らゲストボーカリスト、それにスペシャルサンクスを加えてもわずか26人。

 『ポップンミュージック』という題の命名者は南雲玲生。前年に竹安らと共に『beatmania』の立ち上げを担い、後に設立した株式会社ユードーではトークアプリ『斉藤さん』等をリリースすることになる、BEMANI最初のコンポーザーの一人である。タイトルの由来は南雲が高校生であった時代の“某ラジオ番組”だとインタビューで語られており、明言こそされていないものの、ニッポン放送の『ぽっぷん王国ミュージックスタジアム』(1990-2000)であろうとの推測が可能である。

 1999年初頭発売の公式ムック本によれば、本作の使命は、『beatmania』のヒットにより拓かれた音楽シミュレーションという新ジャンルの強力な認知のもと、さらに音楽ゲームの裾野を広げること。曰く、“メインターゲット女子高生、設置場所はプリクラの隣”。90年代後半は、アトラス/セガ『プリント倶楽部』(1995)に端を発し数百億円もの市場規模に急成長したプリントシール機のブームに牽引され、従来のゲーマーとは異なる若年層がゲームセンターを訪れる機会が増えていた時期である。

 その影響か、本作は多人数プレイなどパーティーゲーム的要素をも意識していることが明確にうかがえ、初代作の販促ポスターやスタンドポップには、2~3人でのプレーを推奨する惹句が踊る。また本作に関連し、稼働前の特許出願を基礎として成立した特許第3031676号では、特定の条件を満たしたときに音楽ゲームの演奏指示の妨害要素が発動するシステム(いわゆるオジャマ)を主に請求していた。

 『ポップンミュージック』は目論見の通り市場から好評をもって受け入れられ、業界紙『ゲームマシン』が集計した99年上半期ベストヒットゲームズでは、完成品タイプTVゲーム機部門の6位を獲得している。

 そして1999年3月にはバージョンアップ作『ポップンミュージック2』を発売。本シリーズはこれを皮切りに、特定ゲーム向けの専用筐体を有しながら、ソフトウェアや基盤を入れ替える改造キットの販売によりシステムやコンテンツを継続的にアップデートする『beatmania』型ビジネスモデルを用いて、同一ゲームを長期間にわたり商業的に展開し続けた。

 アーケードゲーム専門誌『ゲーメスト』元編集長の石井ぜんじは著書の中で、アーケード筐体がオンライン化されていない90年代から、新規コンテンツの持続アップデートによるユーザーの牽引と拡大をコナミが実現していたことに言及。先進的なスキームにより『beatmania』や『ポップンミュージック』を10年以上も続く人気シリーズに仕立て上げた同社の手腕を“一歩先を見据えていた”と高く評価している。

 歴代開発者はゲームのハード、ソフト、そして文化を各方面に拡張しながらバージョンアップを続け、2004年12月の『ポップンミュージック12 いろは』からサブタイトルを採用。第21作の『ポップンミュージック サニーパーク』からは番号付けを外し、2023年9月現在では27作目となる『ポップンミュージック ユニラボ(pop’n music UniLab)』が稼働中である。

 アーケード向けの外伝作としては、足でプレーする「ポップンステージ」シリーズ(1999)、収録曲をアニメソングに絞り独特のシステムも実装した「ポップンミュージック アニメロ」シリーズ(2000)、ディズニーとのコラボによる『ポップンミュージック ミッキーチューンズ』(2000)、コンテンツの提示アプローチを一新した初心者向け派生作『ハロー!ポップンミュージック』(2011)も存在した。

 なかでも『ポップンミュージック アニメロ2号』(2000)が、「ボウリング」と称するゲームモードの一つで、奥行き方向から手前側にノーツが移動する形式を実装していることは特筆に値する。音ゲーで奥行きスクロールが主体となったのは、家庭用作品ではハーモニクスFrequency』(2001)、モバイルではNate True/Tabulous『Tap Tap Revenge』(2008)以降のこと。現在はコナミSOUND VOLTEX』(2012)、レイアーク『DEEMO』(2013)、セガ『CHUNITHM』(2015)はじめ現代音ゲーの主流となった当該スクロール形式を、サブモードの一つとはいえこの時代のアーケード向け商業作で提案していた先見の明には驚くばかりだ。

■家庭用ポップンの系譜

 次にアーケード作品の家庭用コンソール移植版、および一般プラットフォーム向けのオリジナル作品について触れたい。

 家庭用ポップンに先行して存在していたのが、「メタルギア」シリーズや『スナッチャー』『DEATH STRANDING』等で名高い小島秀夫がプロデュースした、『beatmania』のプレイステーション移植版(1998)。同作が提案した、各アーケード作の新規要素に家庭用作品オリジナル要素を追加して移植、専用コントローラーと共に提供するスタイルを、ポップンもまた辿ることになる。

 第1作『ポップンミュージック』はPlayStationおよびドリームキャストをプラットフォームとして開発された。サウンドディレクターに林陽一、家庭版での新規コンポーザーとして中田暁と兼田潤一郎、ゲストボーカルに増田礼子を招聘。後に水口哲也と共に『Rez』『ルミネス』『メテオス』などを手掛けることになる堀田昇がデザインディレクターを担当、グラフィックデザイナーに松岡功や原田広美らを迎えた本作は、専用コントローラーである「ポップンコントローラ」と同時の1999年2月25日に発売された。

 その後コナミは各作品の移植を順次継続し、PlayStation 2版『ポップンミュージック14 FEVER!』で、据え置き機向けの移植を終了。『ポップンミュージック15 ADVENTURE』をPSP向けにカスタマイズしつつ追加要素を加えた『ポップンミュージックポータブル』(2010)として、『ポップンミュージック16 PARTY』を同様に『ポップンミュージックポータブル2』(2011)としてそれぞれ移植。AC版のナンバリングタイトルと直接対応する家庭用作品は、ここでいったん途絶えることになる。

 ナンバリング外の外伝作品としては、ベスト版『ポップンミュージック ベストヒッツ!』(2003)のほか、キーチェーンゲーム『ビーマニポケット ポップンミュージック』(1999)、携帯機向け『ポップンミュージックGB』(2000)、アニメソング中心の『ポップンミュージック アニメーションメロディ』(2000)、ディズニーコラボ作品『ポップンミュージック ディズニーチューンズ』(2000)、PC向けタイピングゲーム『pop'n music打!!』(2000)、キャラクター版権もの『pop'n対戦ぱずるだまONLINE』(2002)、特殊なマウス型コントローラーを携えたPC作品『ポップンミュージック ビーマウス』(2008)、北米向け派生作品『Beat’n Groovy』(2008)、Wii用カスタマイズ作『ポップンミュージック』(2009)、Nintendo DS向けスピンオフ『うたっち』(2010)、フィーチャーフォン専用作品『ポップンミュージックM』(2011)、iOSアプリ『ポップン リズミン』(2013)等もリリースされている。

 2015年、コナミアミューズメント社は直営のプラットフォーム「コナステ」(旧:e-AMUSEMENT CLOUD)上で、同様に家庭用作品への移植が絶えていた「beatmania IIDX」シリーズのPC作品『beatmania IIDX INFINITAS』を公開。かつて家庭用コンソールで展開していた、ACゲーム体験の高度な移植+専用コントローラーの提供という体制を再生しつつ、月額課金と定期的な有償楽曲パックの発売を並立した料金形態、そして独自の運営体制を構築したのち、2020年には『ポップンミュージック』のPC版『ポップンミュージック ライブリィ』(pop’n music Lively)をリリースした。

 『ポップンミュージック ライブリィ』についてはベータ版の公開当時、リアルサウンドテックに解説記事を寄稿している。当該記事では、本作のリリースがもたらすメリットを考察し、「プレイヤーのライフステージ移行への対応」「海外向け展開」「相乗効果によるアーケードと家庭用双方の音楽ゲーム市場拡大」の3点について論じた。

 コナミアミューズメントの沖田社長はコナステについて、PC・スマホ向けにサービスを提供することで若年層にアーケードゲーム作品との繋がりを持たせ、ゲームセンターに誘引したい狙いがあると、2023年の『アミューズメント・ジャーナル』誌上で語っている。

 ここまで「ポップンミュージック」シリーズの発端と経緯、そして現状を簡単に辿ってきた。それでは、果たして「ポップンミュージック」という作品の、音楽ゲーム文化における魅力や独自性はどこにあるのか?

 結論めいたものはプレイヤーの数だけ存在することに疑いはなく、各々の語りも尽きようがないが、本稿でとりわけ注目したいのはシンプルに2点。「楽曲」そして「キャラクター」だ。

■音楽面の独自性

 1998年当時、音楽ゲームとしての『ポップンミュージック』の新しさであり画期的な特徴であったのは、その演奏体験が、特定の楽器や音楽活動を模したものではなかったことだ。同時期もしくはそれ以前に存在した多くの音楽ゲーム作品では、例えばVirtual Music/IBM『Quest for Fame』(1995)はロック、ソニーパラッパラッパー』(1996)やセガ『モグラッパー』(1999)はラップ、『beatmania』(1997)はクラブ音楽、『DanceDanceRevolution』(1998)はダンスミュージックと、音楽ジャンル面での一定の制約が設けられていた。

 一方で『ポップンミュージック』は9つのカラフルボタンという、どの楽器にも似ても似つかない、しかし汎用性の高い演奏感をプレイヤーに与えてくれるインターフェースを有する。従って特定の楽器や音楽文化に囚われず、膨大の種類の音楽ジャンルを、プレイフィール上の違和感をもたらすことなく収録できた。この点は、例えば2020年のeスポーツイベントでコナミ公式が提供した同機種の紹介文でも、シリーズの大きな特徴として挙げられている。

 コナミ音楽ゲームでは伝統的に、サウンドディレクター(サウンドデザイナー、SD。一部作品ではサウンドメインスタッフとも)と呼ばれる職種が作品全体の音楽面をコントロールし、内製・外注楽曲のディレクションを担うとともに自ら作編曲も行う。これまでにアーケード作品の音楽性を主導してきたサウンドディレクターは、クレジットが公開されている「1」~「23」の範囲では竹安弘、村井聖夜杉本清隆脇田潤、古賀博樹、右寺修舟木智介、渡辺大地、田口康裕だ。家庭用ナンバリング作品では、初期は林陽一、中期は水野達也、後期を村井、脇田、舟木、辛島純子が担当している。

 彼ら歴代のSDたちが牽引してきた「ポップンミュージック」の音楽傾向、とりわけ初期のそれをあえて二言で表現するなら、「オールジャンル」「パロディオリジナリティの融合」に尽きる。

 「ポップンミュージック」はその第1作から、収録楽曲を音楽ジャンルで提示するという、最初期の『beatmania』から継いだアプローチを採用していた。そこでは『beatmania』との差異化として、ライトユーザーを惹き付けるポップに寄せた音楽を取り揃え、また一部例外を除いてはジャンル表記の重複を許さなかった。その必然の帰結として、音楽ジャンルのバリエーションを膨大なものとした。

 そして実在のあらゆる音楽ジャンルが収録されるのに加え、無数の架空のジャンルもまた生まれた。しばしば“そんなジャンルは存在しない”的な否定を交えて、あるいはその奇矯な慣習や珍妙な表記への愛着をもって語られるこの切り口。しかしこれを単にジャンル重複回避の苦しい架空として切り捨てる向きには、本稿は大いに反発したい。そもそも実在するあらゆるジャンル名もまた、時代ごとの都度でなんとなく都合良く提唱されてきた、便宜上のカテゴライズに過ぎないのではなかったか。実際のところ、遊び心を交えたこれらのジャンル表記が、楽曲を演出するフレーバーの一つとして効果的に機能していたことは確かである。

 批評家・DJの矢野利裕らによるユニット・LL教室は、2017年に開催した音楽評論イベントの中で、「ポップンミュージック」が音楽ジャンルを切り口にさまざまな楽曲を生み出し、提示してきたアプローチに注目。マンボ、サンバ、ブギウギツイストチャチャチャといった海外のリズムを日本流の歌謡曲に昇華した、国内独自のユニークな音楽文化である「リズム歌謡」と相似するものと分析している。

 こうして生み出される「ポップンミュージック」オリジナル楽曲では、しばしば公式スタッフからも「ごっこ遊び」と表現される通り、既存楽曲のパロディが頻出した。まず第一作の収録曲を概観するだけでも、フリッパーズ・ギター『バスルームで髪を切る100の方法』、YMO『Behind The Mask』『Cosmic Surfin'』、ラロ・シフリン『スパイ大作戦のテーマ』、ペリー&キングスレイBaroque Hoedown』といった多数の名曲へのオマージュを早々に見いだせる。

 強調すべきは、それらが決して既存音楽の単調な劣化コピーに陥りなどしなかったことだ。音楽の世界で数百年にわたり繰り返されてきた営みと同様に、そこでは作家がそれぞれに有する音楽的背景やオリジナリティと、それら先行音楽の要素がシームレスに融合していた。そして、全く誰も見たことのない、「ポップンミュージック」という枠の外に存在し得なかった類の、新しい音楽として提示され続けた。

 とりわけ、25年間のシリーズを貫いて存在するギターポップ(ネオアコースティック)~渋谷系/ポスト渋谷系シーンとの相互作用については、何をおいても特筆すべきだろう。ゲーム音楽史・ゲーム史研究家の田中治久は、シリーズのサウンドトラックのいくつかをレビューするなかで、「メジャーな行き場を失っていた渋谷系を密かに再活性化させる土壌にもなっていた」「ネオ渋谷系としての『ポップン』は、沖井礼二が参加した『13』~『16』でひとつの頂点に達したと見ることができる」と評している。

 田中が指摘する通り、サウンドディレクターたちは自らが渋谷系要素を取り入れた楽曲を制作するのみならず、彼らの縁を伝って多くの渋谷系周辺アーティストを呼び込んだ。元ブリッジのイケミズマユミ、元Cymbals沖井礼二土岐麻子、米山美弥子(CITROBAL)、常盤ゆうrisette)、中田ヤスタカ、わんた(Hazel Nuts Chocolate)、EeL、桜井康史(Corniche Camomile)、北川勝利ROUND TABLE)、metro tripハヤシトモノリPlus-Tech Squeeze Box)……。

 それら先行音楽に刺激されてか、00年代後半以降にスタッフの招聘や公募企画で発掘されたアーティストの中にも、渋谷系・ギターポップ周辺のインディーズシーンで活躍し、あるいは知見を有する次世代ミュージシャンが多く現れ、シリーズの音楽に寄与することになった。この潮流に属するアーティスト・ユニットとしては、m@sumired glassesOSTER projectそよもぎCitrus and Ocean Colourニシジマユーキああああ、マッカチン企画らが挙げられる。

 また日本のチップチューン文化をいち早く取り入れた商業ゲーム作品が、国内チップチューンアーティストSaitoneが参加した『ポップンミュージック13 カーニバル』であることも指摘されている。これは同作のSDであり、チップチューン音源『ファミシンセ』の開発者でもある村井聖夜による招聘であった。

 当該エピソードに象徴されるように、あらゆる音楽に対しての良い意味での貪欲さを持ち合わせたサウンドディレクターたちは、目眩を覚えるほど広大な古今東西の音楽から、要素を巧みにシリーズへと取り入れ、リリースし、そして25年にわたり蓄積してきた。『ポップンミュージック9』(2002)で実施されたゲーム内部の革新により、過去の全てのバージョンの楽曲をアーカイブ・集積可能となったことは、開発者自身もシリーズの大きな転機の一つとして複数回にわたり言及している。

 そうした「なんでもあり」の中にぼんやりと浮かび上がっては消化・昇華され広がってゆく、ポップンらしい音楽という何やら概念めいたもの。もはやその総体を短く言語化することすら困難な、一つの文化としか呼びようのないものを、「ポップンミュージック」は25年にわたり作り上げ、培ってきた。

■キャラクター要素の魅力

 数百を数えるキャラクターたちもまた、「ポップンミュージック」の文化を語る上で外すことのできない魅力である。

 数十人~数百人にも及ぶ多数のキャラクターが存在し、彼女ら/彼らと結び付く楽曲を音楽ゲームとして提示する方法論は、『ラブライブ!スクールアイドルフェスティバル』(2013)や『アイドルマスター シンデレラガールズ スターライトステージ』(2015)以降すっかり一般的なものとなった。

 「ポップンミュージック」はその潮流のはるか以前から、楽曲とそれを象徴するようなキャラクターを、人物的背景とともに提示する試みを続けてきた。楽曲をキャラクター自身が演奏・歌唱するという直接的な設定とは限らず、いわば音楽ジャンルや楽曲の擬人化にも近い、ゲームの表現を借りるなら楽曲を“担当”するという、それは絶妙な距離感であった。

 初代作で“色塗りと背景の一部”を担当、その後アーケード作を中心に長くデザイン面に貢献したshioは、2003年のインタビューで音楽とキャラクターの関係についての質問に、「曲を聴いたら自然と担当キャラを思い出してもらえる」ことを目指していると回答。「曲とキャラがワンセットでひとつのポップな世界が完成するようにしてます」と方針を語っている。

 前出の向井慎太郎、松岡功、原田広美、shioに加え、P-CAT、いぬ千代、tera、ちょび。、ミコシバ、ちっひ、あまもん。、eimy、きの子、mayo、とっきー、林和波、新地奈津子、アオニサイら、世界を形作るキャラクターやデザインの数々を生み出してきたデザイナーたちの功績についても、いくら強調してもしすぎることはないだろう。

 キャラクター要素の重要性についてはメーカー側も自覚的であり、ゲーム内ではほとんど明かされることのないキャラクター設定を、歴代の公式ウェブサイト上の楽曲ページや特設ページで公開してきた(ただしその多くは2018年頃から閲覧できなくなっている)。また2001年の『ポップンミュージック キャラクタービジュアルガイド』をはじめ、キャラクターやデザイン関連資料を主体とした書籍も多数発売された。さらに例えば2012年に公開された音楽ゲーム機種連動イベントのテーマソングでも、「カワイイキャラたち(が)待ってる」ことを、サウンドディレクター自らが「ポップンミュージック」の特色として紹介している。

 1999年の日経ビジネス誌では、『beatmania』以前の1996年に同社がゲームの関連商品の企画・著作権管理を担うCP(クリエイティブプロダクツ)事業本部を設立したことを指摘。キャラクターや音楽、ロゴといった要素を組み入れた関連商品を自社開発し販売、キャラクタービジネスが社内的にも大きな収入源として認識される土壌が築かれていた影響について論じている。

 くわえて、現代の商業エンターテイメント・コンテンツにおいてファンコミュニティや二次創作文化の重要性は今更語るまでもないが、この点でも「ポップンミュージック」は音楽ゲーム業界の先駆者であった。SNSすら存在しない時代から、ウェブ上には個人運営の二次創作系~情報系などファンサイトが無数に現れ、コミュニティを大いに賑やかしめていた。その隆盛を伺える一例として、同人誌即売会コミックマーケットのジャンルコード表の補足欄では、音楽ゲーム分野の単一ゲームタイトルとして初めて記載された『スペースチャンネル5』(C59, 2000年冬)に次ぐ早期に「ポップンミュージック」(C61, 2001年冬)の名が出現している。

 そしてキャラクターもまた楽曲と同様に、さまざまな文化に由来するモチーフの引用が見られる。一作目からしてPUFFYJUDY AND MARYエルヴィス・プレスリークラフトワークなどのオマージュが容易に発見され、その後も一部を概観するだけで浅倉大介西川貴教ジャミロクワイB'zASIAN KUNG-FU GENERATIONと例示に事欠くことはない。実在の人物のみに留まらず、例えばウィリアムブレイク宮沢賢治萩尾望都といった文芸・漫画作品や映画からの引用とおぼしきモチーフも、無粋な明言をほとんど伴わず、その芳香を散らされて遍在する。

 また魅力的なキャラクターがあれば、そこには物語が存在し得る。ストーリー要素のある音楽ゲーム自体は、『パラッパラッパー』(1996)や『beatmania』をはじめ従来から多数存在していた。そして音楽を主役としつつ、これと不可分なストーリーを作品全体で展開し語り上げる手法は、レイアーク社が『DEEMO』(2013)以降で導入し広めたものと認識されている。今日では『Arcaea』(2017)『Cytus II』(2018)『SEVEN's CODE』(2019)『SAYONARA WILD HEARTS』(2019)『A Musical Story』(2022)など、このような高度なストーリーテリングを取り入れた音楽ゲームは珍しいものではない。

 「ポップンミュージック」はナンバリングごとに長編のストーリーを提示する類の作品ではないが、その世界や設定の端々に、ラブアンドピースから戦場まで、ミクロから宇宙まで、原始から未来まで、現実からファンタジーまでの全てを飲み込むかのような世界設定を匂わせ、その総体としての「ポップンワールド」という概念を徐々に構築していった。

 また『ポップンミュージックポータブル2』『ポップンミュージック ラピストリア』『ポップンミュージック peace』といった、ゲーム内イベントを利用して作品を貫くストーリーや文脈を物語る作品もときおり出現している。開発者は2018年のインタビュー中で、キャラクターデザインを一新し若年層にもポップンワールドの魅力を訴求することを目指した『ポップンミュージック ラピストリア』の試行錯誤を、シリーズの大きなターニングポイントとして挙げている。

 2020年にはヴィレッジ・ヴァンガードとの共同企画によりコラボカフェ「Cafe&Diner pop'n music」が実現、2023年も直営のオンラインプライズゲーム「コナプラ」向けに多数のグッズが制作されているなど、キャラクターを活用した展開は今なお健在だ。

ポップン25周年、そしてこれから

 最後に、直近の「ポップンミュージック」からトピックスをいくつか紹介しよう。

 2023年7月29日には、『ポップンミュージック ライブリィ』に対応した新型の専用コントローラーが発売。かつての「ポップンコントローラ2」(2006)にも似た、コンパクトかつ丸みを帯びたボタンを備えた小型のシルエットで、アーケード版の体験を高度に再現した従来の「プレミアムモデル」よりも安価かつ気軽に、家庭用ポップンのプレイ環境を構築可能となった。

 8月9日eスポーツ年次イベント「Konami Arcade Championship(2023)」の予選ラウンドが開幕。同イベントの対象タイトルには『ポップンミュージック ユニラボ』も選出されており、11月25日の決勝ラウンドに向けて、プレイヤーたちの熱いスコア争いが繰り広げられている。

 8月16日には『GITADORA FUZZ-UP』とのコラボが開始。かつて『ポップンミュージック2』(1999)で初登場したゲーム内バンドDeuil(ドゥイユ)のリーダー・ユーリが、ポップンを代表するキャラクターであるミミ・ニャミのコンビと共に、描き下ろしの立ち絵とセリフを携えて登場した。9月13日にはDeuilのドラマー・アッシュもまた、同作に出演を果たしている。

 かくして2023年の「ポップンミュージック」は、1998年9月のリリースから途切れなくナンバリングを続けるアーケード作品本編の最新作『pop’n music UniLab』、そしてその体験を家庭内に再現し現世代と次世代をつなぐ『pop’n music Lively』の2作品を柱として、音楽ゲーム業界の最前線を他のBEMANI作品と並んで走り続けている。

 前述の通り初代ポップンを立ち上げた一人である竹安は、2003年に催された座談会で、制作者やプレイヤーが入れ替わりながら長い時間をかけてその概念を拡大してゆく「ポップンミュージック」を、サグラダ・ファミリアに相似させて以下のように語っている。

 「完成することよりも、時代時代のアーティストや職人が少しずつ手を加えながら、未来まで建築が続いていくことのほうが大きな意味があると思います。(中略)音楽的にもキャラ的にも、ファンも一緒に、ポップン的なもの、ポップンワールドをまだ一緒に作ってる最中、っていう気がするんです。(中略)それでもまだポップンワールドは続いて、完成してない。そういうふうに、ずーっと続いていくとおもしろいなぁと思います」

 そして2023年9月28日。「ポップンミュージック」は25周年を迎えた。四半世紀にわたる過去を常に現在に内包し、時代に適応し、人々がゆるやかに行き交い、未来へ向けてそれぞれの新しさを開拓しながら、ポップンワールドは続いてきた。

 魅力的な音楽やキャラクターが生まれ集積されてゆくこの唯一無二のプラットフォームが、「ポップンミュージック」という夢が、これからの四半世紀もまた続いていくことを、切に願う。

■主要参考文献

ポップンミュージック 公式ガイド」(1999)
ポップンミュージック キャラクタービジュアルガイド」(2001)
ポップンミュージックブック! ポップンな関係エクストラ」(2003
ポップンミュージック スーパーコレクション」(2003
ポップンミュージック キャラクターイラストブック AC & CS pop’n music 1-5 + pop’n stage」(2008
ビートマニア プレスミックス」(1999)
BEMANIぴあ」(2018
「季刊エス 2号」(2003
「ゲームマシン 第590号」(1999)
「月刊アミューズメント・ジャーナル 2023年2月号」(2023)
「日経ビジネス 1999年2月15日号」(1999)
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田中”hally”治久「チップチューンのすべて All About Chiptune」(2017)
(監修)田中”hally”治久「ゲーム音楽ディスクガイド──Diggin' In The Discs」(2019)
(監修)田中”hally”治久、今井晋「インディ・ゲーム新世紀ディープ・ガイド──ゲームの沼」(2022)
石井ぜんじ「ゲームセンタークロニクル」(2017)
Brian Ashcraft, Jean Snow「Arcade Mania: The Turbo-charged World of Japan's Game Centers」(2008
市村圭「音楽ゲームとギターポップの関わり」(「ポプシクリップマガジン 第6号」収録)(2015
市村圭「コナミ音ゲーが家庭に“戻ってきた”意義 『pop'n music Lively』リリースの背景とポスト・コロナの音ゲーを考える」(https://realsound.jp/tech/2020/09/post-618695.html) (2020)
白壁「FURIMUKI style」(https://furimuki.sakura.ne.jp/index.html)(2023年9月10日閲覧)
APPEND TRAVELのうた」(https://www.youtube.com/watch?v=7nONbREeNJs) (2012)
pop'n music | The 9th KAC ダイジェスト」(https://www.youtube.com/watch?v=Auy_1kgXVQY) (2020)

■協力

アズニィ
月刊オトモ編集部

(文=市村圭)

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