山田涼介が出演する映画「BAD LANDS バッド・ランズ」が2023年9月29日(金)に公開される。本作は原田眞人監督が黒川博行の小説『勁草』をもとに、安藤サクラと山田が演じる、特殊詐欺をなりわいにする姉弟の生きざまを描くクライムサスペンスエンターテインメント。山田は、今作で安藤の弟・矢代穣を演じる。『燃えよ剣』以来2度目の原田組への参加は「喜びが1番大きかった」そう。インタビューでは矢代穣という役柄について、そしてプレッシャーとの向き合い方についてなど、たっぷり語ってもらった。

【写真】子犬のような眼差しで安藤サクラを見つめる山田涼介

■今回の作品で「自分の中の価値観が変わりました」

――原作からはアレンジが加えられている脚本だったかと思います。山田さんは最初に読んでみて、どのような印象を受けられましたか?

すごく内容が複雑なので、 理解するのに少し時間がかかりました。やはり聞き馴染みのない言葉がいっぱい出てくるので、そこを1つ1つ調べるというところから始めましたね。

――山田さんはどんなところに面白さを感じましたか?

僕がというか、普通に生きている人からしたら携わることのない世界の話だと思うんです。ですが、こうやって影でしか生きられない不器用な人たちが、世の中には現在も存在していて…。それこそ詐欺のニュースなどを見ると、その人たちを肯定するつもりはさらさらないですが、彼らの背景みたいなものを考えるんです。それはやはり、この役を演じたからこそですし、これがいいことなのかは分からないですが、自分の中の価値観が変わりました。

――価値観を広げたり、新たなジャンルについて理解を深めるのも、映画を見る楽しみの1つだったりしますね。

もちろん詐欺をする人は完全な悪です。ですが、悪は悪なりにちゃんと自分たちの正義があるので、なんだか人間って面白いなと思いました。

■関西弁は焦りながら練習していた

――原田監督の作品への参加が「燃えよ剣」以来2度目でした。作品の出演が決まったときはどんなお気持ちでしたか?

単純に原田組にもう1度戻れるんだっていうところで、喜びが1番大きかったです。原田監督とは現場で多く話すという感じではないんです。 僕もすごい人見知りだし、原田監督はやることがたくさんあるので。

互いが互いのやるべきことを遂行する感じが、プロの現場だなと感じます。 余計なことは話さないので、作品のことだけに集中しているような空気感が僕はすごく好きなんです。それは「燃えよ剣」の頃から感じていたことですし、もう1度原田組に戻ってやってみたいって思った理由の1つでもありました。

――現場での原田監督の指示は、どういう感じなのでしょうか?

喋っている人のセリフ尻に、さらに言葉をかぶせてくるのが原田組の演出の特徴で、セリフを待たないのが当たり前のルールというか、大前提にあって、指示みたいなものはあまりないです。

作品が始まる前に本読みを全キャスト全スタッフそろってやるんですけど、そこで原田監督のイメージと違ったら言われます。ただ今回はあまり言われなかったので、原田監督が思うジョーのイメージと俺が思うジョーのイメージは、本読みの段階で一致していたのかなと思いました。

あとは、アドリブが求められることが多い現場でしたね。「こっち撮ってるから、なんかそっちでもちょっと喋っといて」みたいな感じで言われて…アドリブで関西弁は難しいなと(笑)。セリフは練習していけるけど、アドリブって練習できないので「あ、わかりました」とは言うんですけど、めちゃめちゃ焦りながら裏で方言指導の先生と練習していました。「こういうこと言いたいんだけど、関西弁教えて!」 みたいなやり取りをたくさんしていましたね。

――作品を拝見させていただきましたが、山田さんの関西弁全く違和感なかったです。

本当ですか?(笑)。僕、ここは確実に間違えているなって部分はあるんですよ。でも、芝居が良かったからそのまま使われている部分もあって。関西弁を見せたい映画ではないので、ちょっと違和感を覚えるシーンはあると思うのですが、そこは映画に集中してもらって楽しんでいただけたら幸いです。

――「燃えよ剣」から、ご自身の成長を感じる場面などはありましたか?

自分の成長は本当に今まで1回も感じたことがなくて…。自分の成長というよりは、僕の成長を周りがどう感じるかだと思っています。「あ、ここ成長したな」とか、「ここ上手くなったな」という実感は全くないです。毎回毎回違う役を演じているので、如実に“伸び”みたいなものを感じるのは難しいのかもしれません。

ただ、1番最初にお芝居させてもらったときは本当に訳もわからず、ただ言われたことをやっていただけでしたが、やはり大人になってからはどういう役柄なのか、ちゃんと自分なりの考えを持つようになりました。当たり前のことなんですけど、子どものときはなかなかそれができなかったですね。

ジョーは“分かりやすい子”

――今回のジョーという役柄をどのように作り上げていきましたか?

先ほども少しお話しを出したのですが、今回は関西弁の役柄でもあったので、そこの準備はもちろんしていました。ですが、ジョーの空気感とか役にどう近づけていくかというのは、あまり考えていなかったです。 現場で感じたものを、どう吸収してジョーに吹き込んでいくかを1番大切にしていました。

役のことはもちろん自分なりに一生懸命考えていくけど、ジョーが出す空気感というのは現場でしか出せないんです。自分がプラン立てていたものが、原田監督と全く違うプランで、現場で直すとなったら多分焦っちゃうので…。できるだけフラットな状態で現場に行って、言われたことに対して自分なりの解釈をして吐き出していくというか。その作業がどの現場でも多いです。

――フラットな状態で現場にいけるようになったのは、経験を重ねていくうちにといった感じなのでしょうか。

最初からフラットでした。役について考えるようになる前から、あまり役を引きずるタイプではないです。けど、衣装着て現場行くとそこで切り替わるというか…。多分スイッチのオンオフが激しいんだと思います。

やはりグループの仕事になると切り替えないとやっていけないので、小さい頃からずっとその環境でやっていたからこそ、フラットでいようという気持ちが自分の中にあるのかもしれないですね。

――山田さん自身は、ジョーについてどんなふうに思っていましたか?

ジョーは「自分サイコパスですから」みたいなことを言っていますけど、ただのアホでかわいらしい弟ですよね。だけど、後先考えずに突っ込めるタイプなので、いつか自滅しちゃうんじゃないかなという危なっかしさもあります。

お姉ちゃんのことになると、何振り構わず特攻隊長みたいな感じで突っ込んでいける潔さがあるのに、 自分のことになるとすごいビビリで、本当に0か100かの人です。お姉ちゃんのことになれば100になるけど、自分のことになると別に0でもいいやっていう。分かりやすい子なんだろうなっていう印象でした。

■実際の姉とは“友達”のような関係性

――今回は安藤サクラさんとのバディ感と姉弟感も映画の魅力の1つだなと感じました。安藤さんとは、現場で積極的にコミュニケーションを取っていたのでしょうか?

お昼休憩とかもお弁当を一緒に食べるんですけど、安藤さんがセリフ言い始めたら、 僕も勝手にお弁当を食べながらそこでセリフを言ってみるみたいな、役としてしか対話をしていなかったです。あんまり僕も経験したことない不思議な現場でした。

――では、安藤さんから演技の面で学んだことはありますか?

もう見ていたら全部全部勉強になるので、芝居しているときは余計なことは考えていないんですけど、それこそ映画見終わった後とかは「やっぱり安藤サクラってすごいな」って僕は第一に思いましたね。安藤さんから学ぶことは、僕ら世代の役者だったらみんなあると思います。

――その安藤さん演じるネリ姉にジョーはすごく懐いていて、かわいらしい姿が印象的でした。山田さん自身にもお姉さんがいますが、実際のお姉さんと山田さんはどのような関係性ですか?

もう友達みたいな感じです。姪っ子がいるので、姪っ子をお出かけに連れていこうとすると姉もついてくるじゃないですか(笑)。だから一緒に出かけるみたいなこともありますね。

■努力を惜しまないのは“最高のエンタメを届けたいから”

――山田さん自身が、この映画を見終わって感じたことはなんですか?

生きるのって難しいよね、というのは感じました。あと、死ぬってなんだろうみたいな、生についても考えました。しがみつきながら生きている人もいれば、のらりくらり生きている人もいる。そこの差を僕はこの映画を見てすごく感じました。

映画はエンタメなので、人それぞれの受け取り方があるし、どのキャラクターに自分をリンクさせるかで見え方もすごく変わると思います。なので、それぞれの受け取り方があっていいと思うし、みなさんには単純に楽しんで見てもらえたらうれしいです。

――原田監督から、試写が終わったあとにかけられた言葉はありましたか?

ジョーよかったっしょ」って言われました(笑)。 でもそれぐらいですかね。本当にあまり話さないんですよ。なので、原田監督のことは、雑誌の読者の方と同じぐらいの情報しか知らないです。「原田監督、こういう風に思ってくれていたんだ」みたいなのは雑誌を見て知ります(笑)。いつも密かに喜んでいますね。

――多くの作品に出演されている山田さんは、少なからずプレッシャーや不安を感じる場面もあると思います。山田さんなりのプレッシャーや不安の乗り越え方を教えてください。

作品に出ることにプレッシャーを感じることはあまりないです。でも「燃えよ剣」だけは、とてつもないプレッシャーでした。 歴代、数々の方が演じてきたキャラクターであり、実在した方なので、イメージがついちゃってるじゃないですか。すごく人気の高いキャラクターですし、そこに対してはすごいプレッシャーを感じていました。

だから、誰も文句を言えないぐらいの練習をしました。これ以上できないよね、というくらい自分の限界まで練習をしたので、これでなにか言われたらただの実力不足だから、もうしょうがないと腹をくくろうと。

プレッシャーとの戦い方は、自分が納得できるぐらい練習することじゃないですかね。僕は、どの現場にも剣持っていって、ライブ中にも剣を振っていました。家に帰っても2、3時間ずっと素振りしていましたし…。常に剣と共に生きているくらいの準備をして、それでもダメならもう仕方ない、才能がないだけだから諦めるしかないと思います。でもプレッシャーに打ち勝つには、自分に自信をつけるしかないので努力をすることです。あまり自分で努力していますとは言いたくないですが、それしか方法はないなと思います。

――どんなに辛くても、自分の限界までやり抜く姿勢はとても大切ですね。

それが僕の仕事でもありますので。お金を払って見に来てくださる人に対して、自分がどこかで妥協をするのは、あまりにも失礼なことだと思うんです。自分が限界ですって思うぐらい取り組んだもので、自分が納得できる状態で勝負したい。

もちろん、それでもダメなときはあるかもしれないし、そのときは、その事実をちゃんと受け止めなきゃいけないと思います。でも、評価されたときは練習して良かったなと思えるじゃないですか。結果はどうであれ、そこまでのプロセスは大事にしていきたいです。本当に最高のエンタメを届けたいという思いでやっています。

■取材・文/WEBザテレビジョン編集部

映画「BAD LANDS バッド・ランズ」に出演する山田涼介/(C)2023「BAD LANDS」製作委員会