2023年10月に100周年となるディズニーアニメーション映画でつづる「シンデレラ」「美女と野獣」など、“プリンセス”の世界は子どもたちの憧れとなってきた。近年は続々とそれらの作品が実写映画化されている。時代に合わせてアップデートされ、俳優陣が体現する、さまざまな魅力を持った実写版のプリンセスたちを振り返る。(以下、ネタバレを含みます)

【写真】「リトル・マーメイド」ではハリー・ベイリーがキュートな人魚姫“アリエル”役に!

ディズニープリンセス実写化最新作は「リトル・マーメイド

ディズニーアニメーション映画の実写化最新作は、2023年6月に劇場公開され、9月20日から配信がスタートした「リトル・マーメイド」。実姉とR&Bデュオとしても活躍するハリー・ベイリーが主人公の人魚姫アリエルにオーディションで抜てきされ、ミュージカル作品である本作を澄んだ歌声で盛り上げる。

そして好奇心に満ちたキュートな笑顔だったり、恋にときめくキラキラ感やけなげさだったり、さまざまな表情でまだ見ぬ世界に憧れを抱き、王子との出会いで未来への希望を灯すプリンセスを好演している。

イギリス出身の名優が監督した「シンデレラ」ではリリー・ジェームズが主人公に

リトル・マーメイド実写版公開からさかのぼること8年。2015年に劇場公開された「シンデレラ」は、イギリス出身の俳優で、シェイクスピアの戯曲を得意とし、監督や2022年の第94回アカデミー賞において映画「ベルファスト」で脚本賞を受賞した脚本家、プロデューサーとしても活躍するケネス・ブラナーがメガホンを取った。

童話を原作にしたディズニーアニメ版は1950年に公開され、記録的ヒットを果たした。“シンデレラストーリー”という言葉が一般的にも定着したほどに、一般市民の女性がプリンセスへの階段を駆け上る有名な物語だが、実写版のブラナー監督と主演のリリー・ジェームズは新しい命を吹き込んだ。

アニメ版には登場しなかった実母が病で亡くなる前、のちのシンデレラことエラに教えたのは「勇気と優しさを持つこと」。エラは、その言葉を胸に強く生きていこうとする。演じるリリーの優しい雰囲気の中にある意思の強そうなまなざしがそれを表す。

それでもある日、継母とその連れ子である姉たちの意地悪に耐え兼ね、気分転換に馬に乗って出掛けた森で王子と出会うことに。身分を隠してエラと話した王子は、その豊かな心に引かれ、エラもまた王子の聡明さに引かれる。このシーンがあることで、再会の場となる舞踏会のロマンティックさや恋物語がグンと生きてくる。

■知的な雰囲気がぴったり!エマ・ワトソンによる「美女と野獣」のベル

続く実写化は「美女と野獣」(2017年)。元となったアニメ版(1991年)は、アニメーション映画として初めてアカデミー賞作品賞にノミネートされ、美しきラブストーリーとして大きな評価を得て、今なお愛されている。

そんな作品の“プリンセス”となる、主人公・ベルを任されたのは、映画「ハリー・ポッター」シリーズのハーマイオニー役でブレイクしたエマ・ワトソン。4歳のときにアニメ版を見て以来、大ファンだったというエマ。ミュージカル作品として巨匠アラン・メンケンが担当した名曲でかれんな歌声を披露しているが、なんといってもアメリカの名門大学を卒業した才女であるその知的な雰囲気がベルにぴったりなのだ。

アニメ版のベルは、発明家である父と2人で暮らし、読書家で空想の冒険が大好き。実写版では、読書家な面はそのままに、ベルが考案したロバの力を活用して洗濯するシーンが。そこで女の子に文字を教える一幕もあるのだが、それを村人に怒られてしまう。描かれている時代はまだ女性の地位が低く、学問など必要ないというような世界。実写版は、ベル自身が発明もする才知ある女性であることが際立たせられている。

そして読書家な面は、傲慢さから魔女によって野獣の姿に変えられてしまった王子と心を通わせるきっかけにも。父の代わりに城にとどまることになったベルが大喜びするのが豪華な図書室。アニメ版ではあっさり終わるシーンだけれど、実写版ではベル以上にたくさんの本を読んでいるという設定に。ベルがそんな野獣へのときめきが始まるような表情は見逃せない。

女性の権利を訴える活動にも力を入れるエマが、大好きな物語であり、知的で勇敢さや愛を貫く芯の強さがさらに増したベルを演じたのは運命だったのではないだろうか。

■女性として伝統に立ち向かう強さを持つ「アラジン」の王女

魔法のランプや魔法の絨毯が登場するファンタジックさで実写化は難しいのではといわれていた「アラジン」(1992年)。けれども「美女と野獣」の実写化で、燭台や時計、ティーポットなどに変えられた野獣の使用人を見事に表現したディズニーだけに、2019年に劇場公開された実写版アラジン」も期待以上の仕上がりとなっている。

その実写版で貧しくも清らかな心を持ち、人生を変えたいと願っている青年アラジン(メナ・マスード)が巡り合う王女ジャスミンを演じたのは、ナオミ・スコット。

イギリスロンドンで生まれ、イギリス人の父とウガンダ出身のインド系移民である母を持つナオミ。エキゾチックな美しい顔立ちが印象的だ。

そんなナオミによる実写版ジャスミンも、現代女性に大きなメッセージを放つ。王女として次期国王になってくれる男性との結婚を待つのではなく、自ら国王になりたいと願っているのだ。

父である現国王に「女性の国王は今までいなかった」と言われても、自分の意思で国民のことを思い、その国を治めたいと思う。女性だからというだけの伝統を打ち破ろうとする強さが魅力的だ。

実写版ではそのジャスミンの思いを表現するのに追加されたソロ曲「スピーチレス~心の声」をじっくりと聴いてほしい。

ディズニー史上最も強い、アジアンビューティーなヒロイン「ムーラン

古代中国を舞台に、父の代わりに男性と偽って兵士となったムーランの活躍を描く「ムーラン」(アニメ版1998年実写版2020年)。実質的にプリンセスだったり、やがてプリンセスになったりというのではないが、主人公ムーランディズニープリンセスの一人に数えられる。

ディズニー史上最強ヒロインといわれるムーランを実写で演じたのは、リウ・イーフェイ。2008年にジャッキー・チェンジェット・リーが共演した「ドラゴンキングダム」でハリウッドデビューを果たしているが、その前後は主に中国のドラマや映画で活動していた。

アニメ版では、守護竜・ムーシュや幸運のコオロギ・クリキーがムーランの役に立とうと奮闘するが、実写版では登場はなく、人間ドラマに特化(とはいえ、新たなキャラとして先祖の使いの不死鳥が姿を見せるシーンはある)。リウが大迫力のアクションシーンもこなし、娘は結婚して家に名誉をもたらす存在ということに生きづらさを感じ、愛する家族を違う角度から守ろうと、戦士となりつつ、本当の自分を見出していく。

ディズニープリンセスたちは、その持ち前の勇敢さや強さを、それぞれのアプローチ方法で自分たちの未来へとつなげていく。その姿にいつも大きな力をもらえる。

新作情報として、世界初のカラー長編アニメーションである「白雪姫」(1937年)の実写版が2024年にアメリカで公開予定だという。新たな実写版ディズニープリンセスがどんな姿を見せてくれるのか楽しみだ。

リトル・マーメイド」「美女と野獣」など、ディズニー映画過去作はディズニープラスで配信中。

◆文=ザテレビジョンシネマ

黄色いドレスもよく似合う! 実写版「美女と野獣」で主人公ベルを演じるエマ・ワトソン/(C)2023 Disney