1ドル=150円台を目の前にして足踏みを続ける「ドル円」相場だが、マーケットには日本政府による為替介入が警戒されている。その一方で、米国では債務上限問題などの不透明感から、株式市場が軟調な展開を見せている。そんな状況の中で10月はどんな金融マーケットになるのか、ドル円相場はどこまで円安に向かうのか……。外為オンライン・シニアアナリストの佐藤正和さんに10月の為替相場の見通しを伺った。

――円安が進み市場介入が囁かれていますが、その可能性は……?

 1ドル=149円台をつけた9月26日、鈴木財務大臣が「高い緊張感を持って見ている。過度の変動に対してあらゆる選択肢を排除せず、適切に対応していく」と言う、いつも通りの定型コメントを発表しましたが、いまや「口先介入」だけでは効力がないことは明白です。

 かつて為替介入に踏み切った2022年9月-10月には、急激に円安が進行したことが理由のひとつとなって為替介入に踏み切りましたが、今回は極めて緩やかに円安が進行していく相場になっており、市場介入のタイミングが難しいと、市場関係者は読んでいるようです。

 とは言え、いずれどこかのタイミングで市場介入が行われる可能性は高く、問題はその時どこまで円高が進むかです。昨年のように、1ドル=150円前後から、一気に130円台前半にまで円高が進みましたが、さすがに1ドルあたり20円近いような、大きな変動にはならないのではないでしょうか。ひょっとしたら140円割れもないような展開があるかもしれません。

――10月1日は米国の債務上限問題の期限になりますが、その影響は?

 米国議会がまとまらずに、政府債務の上限が延長されない場合は、政府機関が閉鎖されることになります。債務上限問題そのものは、おそらく時間がかからずに解決すると思いますが、問題はその影響が格付けに普及することです。

 8月初旬に大手格付け会社のひとつである「フィッチ・レーティングス」が、突然米国国債の格付けを最上級から1ノッチ引き下げましたが、唯一残っている大手格付け会社の「ムーディーズ」も、ここに来て米国国債に「ネガティブ」な見方を発表したことが注目されています。仮に、短期間でも政府機関が閉鎖されるようなことになれば、ムーディーズも格下げする可能性が高くなってきます

 すでに大手格付け会社3社のうちの2社が格下げしており、ムーディーズが格下げをすれば、大手格付け会社が揃って格下げすることになります。世界中の投資家が保有している米国国債の格付けが引き下がることで、どんな影響が出てくるのか……。ひょっとしたらドルが大きく下落するようなリスクがあるかもしれません。これもひとつのリスクとして認識しておくべきでしょう。

――米国利上げの可能性は、いつになるのでしょうか?

 前回の「FOMC(米連邦公開市場委員会)」では、パウエル議長の「タカ派寄りの発言」が目立ちましたが、ミネアポリス連銀のカシュカリ総裁がウェブサイトで、「年内に1回政策金利を0.25ポイント引き上げる可能性が高い、その確率は60%」と具体的な説明をしていることでもわかるように、市場も年内1回の利上げ予想に傾いています。

 年内にもう一度利上げがあるとすれば、10月末のFOMCになる可能性が高く、これでしばらく米国の金利引き上げは止まるのではないかと考えられます。10月末の次のFOMCは12月になり、決算を控えている中での利上げは、見送られる可能性が高いと思われます。

――植田日銀総裁が期待に反して「動かない」ことが失望されていますが……?

 一時期、読売新聞のインタビューで、年内の金融政策修正を匂わせたものの、9月22日の金融政策決定会合後のインタビューで、長短金利を操作する「イールドカーブコントロール(YCC)」政策を軸とした現行の金融緩和政策を、当分維持することを強調しました。

 とりわけ、YCC修正への期待が膨らんだものの、思った以上に「ハト派」だったことがマーケットの失望を買ったようです。日銀は、現在のインフレの状況を「基調的なインフレ」と言う独自の指標で判断しています。毎月の全国消費者物価指数に加えて、上昇・下落品目比率、刈込平均値といった要素を加味して算出しています。日銀は、現在でも年内までにインフレ率が2%を下回ってくると予想していますが、その可能性は極めて低いと言っていいかもしれません。

 ただ、植田総裁が就任当初語っていたサプライズの可能性をそのまま信じるのであれば、この10月はこれまでの金融緩和政策の転換には大きなチャンスと言っていいかもしれません。ひょっとしたら、金融政策大転換の動きがあるかもしれません。

――10月の予想レンジを教えてください。

 10月は、FOMCが10月31日から11月1日、日銀の金融政策決定会合が10月30日から31日のスケジュールで開催されます。月末に集中しているため、それまでは外為市場がどんな動きになるのか判断が難しいところですが、やはり10月6日にある米国の「雇用統計」がひとつの目安になってくると思います。

 たとえば、非農業部門雇用者数は前月18万7000人増のところ、9月は16万人増と予想されています。失業率は、前回3.8%のところが、9月はやや改善されて3.7%と予想されています。こうした予想にサプライズがあれば、当初のイメージ通りには動かない可能性があります。10月の予想レンジは次の通りです。

●ドル円……1ドル=147円-152円
●ユーロ円……1ユーロ=153円-159円
●ユーロドル……1ユーロ=1.03ドル-1.10ドル 
●英国ポンド円……1ポンド=175円-182円 
●豪ドル円……1豪ドル=93円-97円

――10月相場ではどんな点に注意すべきでしょうか?

 FOMCや日銀の金融政策決定会合が月末に集中しているため、それまでの間に様々な景気指標が発表されるとはいえ、市場は大きな動きを取りづらくなっています。その影響で懸念されている日本政府による為替介入のタイミングが分かりにくくなっています。

 さらに、ひょっとしたら日銀の金融緩和政策転換へのサプライズも、確率は低いものの可能性はゼロではありません。何があるかわからないのが、金融市場の常識。できるだけ、投資したままにせず、小まめにマーケットの動向をチェックして、小さなポジションを中心にした売買を心がけましょう。(文責:ウエルスアドバイザー編集部)。

為替介入への警戒強まる10月だが、サプライズも?外為オンライン・佐藤正和氏