ミュージカル時をかける少女』が2023年10月6日(金)から東京・日本橋公会堂(日本橋劇場)で上演される。1960年代に発表された筒井康隆による原作は、TVドラマ、映画、アニメ映画などさまざまな形で話題を集めてきた名作だ。今回、劇中設定及びオリジナル挿入歌などを加えて潤色された初のミュージカル版で「芳山和音」を演じる田中梨瑚と「深町一夫」を演じる蒼木陣に、作品に懸ける思いや見どころを聞いた。

自分が歌わない曲も口ずさんでしまうほど、キャッチーな楽曲群

――お稽古はどんな状況ですか?

田中 お稽古が始まって1週間が経ちましたが(取材時)、どんどん歌の稽古も入ってきている状況です。私たちがメインで歌うときもありますけど、アンサンブルの皆さんの声が重なると、より厚みや迫力が増すなと感じています。

蒼木 そうですね。自分が歌っていないパートを前から見る機会があったんですけど、すでに圧がすごいです! 劇場で、しかもお客様が目の前にいたらどんな風にエネルギーが届くのだろうと楽しみです。

田中 曲自体は全部出来上がっているので、あとはみんなで練習をして高めていくだけ。全部キャッチーな曲なので、自分が歌わない曲もついつい口ずさんじゃうんですよね。

蒼木 分かる分かる。「陣さん、それ歌わないっすよね?」とよく言われる(笑)。どの曲も耳に残りますよね。

――原作は筒井康隆さんの小説ですが、そこからテレビドラマや映画、アニメ映画などにも派生している作品ですよね。今回はミュージカル化ということですが、それぞれご出演が決まったときのお気持ちを教えてください。

田中 もちろん『時をかける少女』は知っていました! 私はアニメ映画が一番馴染みがあったんですけど、このお話をいただいて、原作や原田知世さんが演じた映画(1983年公開)を見ました。今回のミュージカルは原作の要素は入っていますが、脚本家の園田(英樹)さんの色も足されていて。SF要素が強まって、原作よりももっと大きい幅の時空を超えるんです。それに歴史的要素も加わって、めっちゃ時をかけれちゃう!(笑)

実は私は最初、ミュージカルとはお聞きしていなかったんです。途中から「歌が入る劇になるよ」と聞いて「歌えるんだ、楽しみだな」と思ったり、その後「ミュージカルになるから、踊るよ」と聞いて「踊るのか〜」と思ったり。いろいろな心情の移り変わりがありました。

蒼木 僕は、ミュージカルでソロの歌唱パートを担わせてもらう機会が今回初めてなので、お話しいただいたときからずっとビビっていますね(笑)これまで経験した2.5次元作品は、おもに若いお客さまが支持してくださっている原作がもとになっているものが多いように感じていますが、この『時をかける少女』は若い方からご年配層まで、幅広い年代の方に長く愛されている作品だと思うんです。

その時代時代で、ドラマやアニメなどといろいろな描かれ方がされてきましたが、ミュージカル化は今回が初。そこを担わせてもらえるのは純粋にありがたいなと思っていますし、観に来てくださった方の心に残るような作品になればいいなと思います。

――出演が決まる前に、映画版やアニメ版はご覧になられていますか?

蒼木 もちろん! 僕もアニメ映画の方が馴染みはありました。

田中 「お前タイムリープしてねえ?」ってね(笑)

蒼木 「未来で待ってる」ってね(笑)。でも今回はキャスト一覧に織田信長が出てきたりして……!台本を読む前に、いちお客さん目線ですごくワクワクしました。きっと観劇を予定されている方も「え、どうなるんだろう」と思ってくださってると思うので、その期待に応えられたらいいなと思っています。

観客も「時をかけちゃった!」と思えるような演出も

――今回はミュージカル版ということで、ネタバレにならない程度に、見所になりそうな演出や楽曲を教えてください。

蒼木 織田信長森蘭丸といった人物たちがどうこの作品に絡んでくるんだろうというのはひとつの見どころになるのでは。お客様にもワクワクしていただける気がしています。

田中 私は……アンサンブルさんが後ろでお芝居をしているんですが、そこにも物語がちゃんとあることかな。私たちは前を向いてお芝居してるから直接は見られないんですけど、たまにちらっと見ると、面白いことをしているんです。何回も本番を観に来てくださる方もいらっしゃると思うので、そういう“裏芝居”にも注目していただけたら、意外な面白さがあると思いますね。

蒼木 確かにそれはあるかも。「ちょっとやりすぎかな」と言われるぐらい、熱心にやってくださっているよね。

田中 そう。それぐらい皆さんこの作品に懸けていて、そこでも物語をつくろうとしているんですよね。

蒼木 演出の(田中)優樹さんが「そのシーンの軸になってない、いわゆるアンサンブルの方たちでもそれぞれストーリーがあるんだよ、みんなそれぞれ物語があってここにいてね」と伝えてくださるからこそでしょうね。みんな多分これからもっともっと個性も出ていくと思います。

――田中さんは芳山和音/イサキ役、蒼木さんは深町一夫/ケン役。現状、役についてはどのように感じていらっしゃいますか?

田中 私は原作があるものだったり、2.5次元作品をやらせていただいたりしているんですけど、 その中でも割と自分に合っているなという感覚があります。どうしても原作があると、お客様も「キャラクターをそのまま見ているようで、楽しい」と思うと思うので、なるべくキャラクターの声や喋り方に寄せることが多いんですけど、今回は結構自分のままでやっていて。芳山和音は自分自身のキャラクターと似ているので、「めちゃめちゃ演じている」感じがしなくて、素で楽しんでいるんですよね。

蒼木 でも分かるよ。すごく等身大な感じがする。普段からパワフルだし、エネルギッシュな方なんだろうなと思っているよ。

田中 ありがとうございます! 自然体でお芝居できている気がします。

蒼木 僕は時を超えるシステムってそもそもなんだろうと紐解こうとしているけど、全然分からなくて。だって、実際には時は超えられないからね(笑)。とはいえ、恋愛要素と言いますか、過去に想う人がいて、今改めて想う人もできて……いろいろSF的な要素はありつつ、台本の中で描かれているのは「人の想い」や「誰かのために生きている様」だと思うんです。一緒に作品を作る方のことを愛して、 一緒にシーンを作っていけたらいいなと今思っています。

――今少しお話に出ましたが、お互いの印象を教えてください。

田中 私はもう本読み稽古の段階で、深町くんの温かいところや包容力、優しさを感じていました。まだ本読みの段階でですよ! 温かい人だなと思って……。

蒼木 もっと褒めて~(笑)

田中 その後改めてミザンス(※舞台上での動きのこと)をつけて、ちゃんとお芝居のお稽古をしていく中でも、すごく優しさや温かさを感じます。包容力が半端じゃない。お兄ちゃんのような温かさがある方だな、と思いました。……あと、なんだろう、面白い話あるかな?

蒼木 いいんだよ、無理に引き出さなくて(笑)。梨瑚ちゃんの第一印象は、ビジュアル撮影のとき。稽古が始まる前に撮影があって、僕の後に梨瑚ちゃんが撮影だったんですが、そのときからすごく元気で。「日焼けしちゃった〜」と明るく話している姿が印象に残っているんですよね。稽古が始まってご一緒しても、変わらず エネルギッシュで、みんなを巻き込める方なんだなと思っています。

田中 いや、実は撮影の日、お腹が痛かったんです。でも、人と一緒にいると楽しくなっちゃって(笑)。あまり体調不良な感じを出さないでおこうと思っていたんですよね(笑)

蒼木 そうだったんだ。全然分からなかったよ、しっかり騙されているわ(笑)。稽古場でもみんな梨瑚ちゃんのパワーに引っ張られているなと思います。

田中 嬉しい! 頑張ります!

――ベタな質問かもしれませんが、もしタイムトラベルできるとしたら、どんなことをしたいですか?

田中 私はずっと昔から思っていることなんですけど、自分の母親が私と同じ年頃だったころにタイムトラベルして、友達として接してみたいです。当然ですけど、母親が若かりし頃のことって、本人や周りの人から聞くしかないじゃないですか。実際どうなのか? 同じ目線になったときに仲良くなれるのか? すごく気になるので、タイムトラベルができたら楽しいだろうなと思っているんです。というのも、母は私と性格が真逆なんですね。多分、同じクラスにいたら同じグループにはいなさそうだなと予想はするんですけど(笑)

蒼木 「○○するな!」と言っているくせに「当時のあなたはやっているじゃない!」ということ、ありそうだね(笑)今まであまりタイムトラベルをしたいと思ったことはなかったけれど、今の梨瑚ちゃんの話を聞いていたら、僕も自分の両親が出会った様子とか見てみたいかも。それから昔飼っていた猫に会いに行きたいな。

――おふたりとも「織田信長会いたい」などではないんですね。

蒼木 だって、織田信長と会ったら何を喋ったらいいか分からなくないですか?(笑)

田中 あはは。それこそ私たちが“異人”に見られるでしょうしね。……でもちょっと気になりますけどね。歴史の本や資料館で見るようなところに行ってみたら、どんな世界なんだろうって。

蒼木 夢は広がるね。

――ちなみにどんな方法でタイムトラベルしたいですか?

田中 えーどうだろう?「タイムマシーン」かなぁ? わんわんわんわんと飛ぶのかな? 乗り物系が面白そうだなと思います。

蒼木 痛くなくて、体に害がなさそうな方法がいいです(笑)

ーー改めて観劇をお楽しみにされているお客様にメッセージをお願いします!

田中 本で知ったよ、 映画で知ったよ、アニメ映画で知ったよ、ドラマで知ったよといろいろな方がいらっしゃる作品。それぞれまた違う色で、違う良さがあると思うんですね。今回、私たちは原作の要素はもちろん大切にしつつ、ちょっと違った形も取り入れています。特にポイントとなる歌、ダンス、音楽で楽しんでいただけたらなと思いますし、観ているお客様たちも一緒に「時をかけちゃった!」と思えるような演出も出てきますから、ぜひ楽しんでいただけたらなと思っております。

蒼木 最初にもお話ししましたが、個人的には初めてのソロ箇所があったり、芸能生活10周年迎えたりと、ひとつの節目でまた新しい挑戦ができることがすごくありがたいなと思っていて。……年齢的に制服が似合うかなという不安があるんですけど(笑)

田中 安心して! 似合ってましたよ!(笑)

蒼木 よかった(笑)。この座組みだからこそ届くような作品にきっと仕上がると思うので、お客様にも何度でも楽しんでいただければなと思っています!

取材・文:五月女菜穂

<公演情報>
ミュージカル時をかける少女

原作:筒井康隆時をかける少女<新装版>』角川文庫
脚本:園田英樹
演出:田中優樹
音楽:外崎銀河
振付:暁矢薫

出演:田中梨瑚 / 蒼木陣 / 小川優 / 天翔愛(特別出演) 他

2023年10月6日(金)〜 10月10日(火)
会場:日本橋劇場(中央区日本橋公会堂・ホール)

チケット情報
https://w.pia.jp/t/tokikake-musical/

公式サイト
http://tokimu.net/index.html

左から)田中梨瑚、蒼木陣