ここからは負けたら終わりのサバイバルマッチである。プール戦であって、KO方式のトーナメントの様相を呈している。残り2試合、日本代表は『ラグビーワールドカップ(RWC)2023』ベスト8入りへ勝ち続けるのみだ。

プールDはイングランド代表が3戦3勝で決勝トーナメント進出をほぼ手中に収め、実質残りはひと枠。日本代表、サモア代表、アルゼンチン代表が1勝1敗で三つ巴の戦いを繰り広げている。机上の空論では日本が次戦・サモアにもし負けたとしても、最終戦でアルゼンチンに勝てば2大会連続ベスト8の可能性を残す。しかし、2勝2敗での勝ち抜けはボーナスポイントや他チームのスコアも絡んでくる。結局は捕らぬ狸の皮算用でしかない。サクラのジャージーをまとう面々は2連勝での1次リーグ突破しか見ていないことだろう。

9月26日、試合登録メンバー発表記者会見の席で、No8姫野和樹主将は次のようにキッパリ。
「この試合がデスゾーンとなるのはわかっていた。厳しい戦いになるが、準備をしてきたので自信はある。リフレッシュする時間もあったので、うまくいっている。
サモアのレベルは上がってきている。経験と当たり負けしない強さがあり、ゲームコントロールもうまい。しかし、我々にはこの試合に勝つゲームプランがあるので、それを信じて100%で遂行する自信がある。集中して、苦しい時にコミュニケーションを取り、ぶつかり合いで勝つためにダブルタックルをしなくてはいけない」

レメキ ロマノ ラヴァ (C)JRFU

イングランド戦で開始早々WTBセミシ・マシレワの負傷退場によって急遽出番が回ってきたにもかかわらず、出色のパフォーマンスを見せたレメキ ロマノ ラヴァは今回スタメンに名を連ねた。FBとして最後尾から戦況を睨むレメキはサモアをこう分析した。
「前の試合(アルゼンチン19-10サモア)を見ていて、キックが良ければサモアは勝てたと思う。FWを使い過ぎていた。我々はFWのエネルギーをセーブしたいので、相手の22mエリアに入る時以外は同じことをしたくない。自分の最大の役割は、冷静さを持つこと。私はただ攻撃するタイプではないので、我慢強さを出してキックを使ってテリトリーを狙っていきたい」

ジェイミー・ジョセフHCはレメキへの信頼を口にした。
「レメキは長い間あのレベルでプレーしていなくて難しい試合だったにもかかわらず、いいプレーをしてくれた。次の試合でも彼はまた同じようなプレーができると確信している」

また指揮官は今回リザーブにSO李承信を並べた意図を説明した。
「さまざまな理由からベンチに10番のスペシャリストを置かないことにしている。しかし、この試合は承信のためのテストマッチだと考えている。彼はこれまでチームのためにとてもいいプレーをしてきたし、まだ若い。ほかの若い選手たちがそうであるように一度悪いパフォーマンスをしたからといって悪い選手というわけではない。彼には立て直す機会を得る必要がある。承信はここ数週間、試合の準備において多くの成長を示した。接戦になると思うので、結果を出すには23人全員の力が必要」

李承信 (C)JRFU

9月17日、日本の第2戦・イングランド戦は善戦と見ることもできるし、完敗ととらえることもできる。後半15分までSO松田力也が4本のPGを成功させて12-13と1点差に食らい付いたが、自陣深くのディフェンスで相手のパスが頭に当たり、日本代表の選手たちがノックオンとセルフジャッジし一瞬足が止まった。このわずかな隙にそのままトライを奪われる不運が勝負の分かれ目となり、さらに後半勝負の終盤にイングランドに2本のトライをまとめられて12-34。

昨秋コテンパンにやられたスクラムではほぼ互角に組んだものの、警戒していたハイパントから連続攻撃を許し、マイボールラインアウトをミスしてトライにつなげられるなど、イングランドプレッシャーにさらされた。

次のサモア戦でもセットピースが鍵となるだろう。フィジカルで勝るサモアはラインアウトからのモールスクラムなど、FWがフィジカルでぐいぐい押してくる。

しかもフィジカル一辺倒ではない。『RWC2019』ではオーストラリア代表として出場したSOクリスチャン・リアリーファノがゲームをコントロールする。36歳となったばかりの熟練の司令塔に、セイララ・マプスアHCも「クリスチャンワールドクラスプレーヤーであり、チームにとって非常に貴重な選手。私たちはクリスチャンが何をできるかをよく知っている。成果が出せない時間もあるかもしれないが、彼を支えるためにほかの14人の選手がフィールドにいるので問題はない。私はクリスチャンをあらゆる点で信頼しているし、チーム全体が彼を100%信頼している。クリスチャン自身もまたフィールドに戻り、力強いパフォーマンスを見せることを待ち望んでいると思う」と全幅の信頼を寄せる。

さらにマプスアHCは2か月前のゲームとは全く別の戦いになると語った。
「日本も私たちのチームも改善した。7月に対戦した時から両チームともレベルアップしているので、あの時の試合内容や結果はあまり参考にならない。全く違う試合になると思うし、両チームともかなり強くなっていると思う。
私たちは日本の強みであるスピードと決して諦めない姿勢を警戒している。彼らのプレーは技術的な精度が高い。それらの強みに対抗して、私たちは基本に忠実でフィジカルを生かしたプレーを実現することを目指している。
日本がかけてくるプレッシャーを確実に吸収できるようにしたい。逆に私たちが日本に同じくプレッシャーをかけるつもりだ」

クリスチャン・リアリーファノ (C)WORLD RUGBY/Getty Images

両チームの試合登録メンバーは以下の通り。

【日本代表】
1稲垣啓太(埼玉パナソニックワイルドナイツ)51
2堀江翔太(埼玉パナソニックワイルドナイツ)74
3具智元(コベルコ神戸スティーラーズ)27
4ジャック・コーネルセン(埼玉パナソニックワイルドナイツ)18
5アマト・ファカタヴァ(リコーブラックラムズ東京)5
6リーチ マイケル(東芝ブレイブルーパス東京)82
7ピーター・ラブスカフニ(クボタスピアーズ船橋・東京ベイ)17
8姫野和樹(トヨタヴェルブリッツ)30
9流大(東京サントリーサンゴリアス)36
10松田力也(埼玉パナソニックワイルドナイツ)35
11ジョネ・ナイカブラ(東芝ブレイブルーパス東京)6
12中村亮土(東京サントリーサンゴリアス)37
13ディラン・ライリー(埼玉パナソニックワイルドナイツ)16
14松島幸太朗(東京サントリーサンゴリアス)53
15レメキ ロマノ ラヴァ(NECグリーンロケッツ東葛)18
16坂手淳史(埼玉パナソニックワイルドナイツ)39
17クレイグ・ミラー(埼玉パナソニックワイルドナイツ)15
18ヴァル アサエリ愛(埼玉パナソニックワイルドナイツ)28
19ワーナー・ディアンズ(東芝ブレイブルーパス東京)9
20下川甲嗣(東京サントリーサンゴリアス)4
21齋藤直人(東京サントリーサンゴリアス)17
22李承信(コベルコ神戸スティーラーズ)10
23長田智希(埼玉パナソニックワイルドナイツ)6
※所属チームの後の数字は代表キャップ数。

サモア代表】
1ジェームズ・レイ
2セイララ・ラム
3ポール・アロエミレ
4クリス・ブイ
5セオドア・マクファーランド
6タレニ・セウ
7フリッツ・リー
8サージョーダン・タウファ
9ジョナサン・タウマテイネ
10クリスチャン・リアリーファ
11ベン・ラム
12アライディアンジェロ・レウイラ
13トゥムア・マヌ
14エド・フィドウ
15ダンカン・パイアアウア
16サマ・マロロ
17ジョーダン・レイ
18マイケル・アラアラトア
19スティーブン・ルアトゥア
20アラマンダ・モトゥンガ
21メラニ・マタバオ
22ネリア・フォマイ
23ダニー・トアラ

ジェイミー・ジョセフHC (C)JRFU

日本×サモアの通算対戦成績はサモアの12勝5敗。『RWC』では3大会連続で対戦することになる。『RWC2015』は26-5、『RWC2019』では38-19といずれも日本が勝利。前回の日本大会ではボーナスポイントも獲得した。本大会直前の札幌ドームでの強化試合では30分リーチの一発退場が響き、サモアが24-22の逆転勝利をマークしたのだった。

果たして、勝ってプールD最終戦につなげるのは中10日というアドバンテージがある日本代表か、中5日のショートウィークを強いられるサモア代表か。『RWC2023』フランス大会・日本代表×サモア代表は9月28日(木)・トゥールーズにてキックオフ。日本はプールD第5戦・10月8日(日)・ナントにてアルゼンチンサモアは7日(土)・リールにてイングランドと対峙。日本×サモアの模様は日本テレビ系NHK BS1/BS 4Kにて生中継。

取材・文:碧山緒里摩(ぴあ)

姫野和樹(写真中央)