夫婦はいつまでも一緒に……しかし、どちらかが介護を必要となり、自宅での生活が難しくなったとき、老人ホームへの入居がひとつの選択肢になるでしょう。しかし「夫婦は一緒でなければならない」ということにこだわると、共倒れになるケースも。みていきましょう。

年金だけで暮らせる「共に正社員夫婦」も、最期まで悠々自適とは限らない

厚生労働省令和4年 人口動態統計(確定数)』によると、2022年、50万4,930組の夫婦が誕生しました。平均年齢は、夫33.7歳、妻31.7歳。初婚に限ると、夫31.1歳、妻29.7歳。年の差は、全婚姻で平均2.1歳、初婚に限ると1.4歳です。

このうち、どれだけの夫婦が人生を添い遂げるか分かりませんが、紆余曲折を経て夫婦は現役を引退。セカンドライフをスタートさせることになります。

老後の生活において、ベースになるのは公的年金。いまや共働きのほうが圧倒的に多い世の中ですから、夫婦ともに正社員のまま定年を迎えたとします。厚生労働省の調査によると、男性正社員の平均年収は579.8万円、女性正社員431.4万円。20歳から60歳まで平均的な給与を手にすると仮定すると、65歳から手にできる年金は、国民年金厚生年金の合算で、夫は月16.9万円、妻は月14.5万円、夫婦で月31.4万円ほどになる計算です。年金の手取りは額面の85〜90%程度とされているので、夫婦が実際に手にするのは27万〜28万円になります。

一方で高齢夫婦の1ヵ月の支出は、平均23万円程度。夫婦は年金だけでも十分に暮らしていけると考えられます。

まさに悠々自適な老後。しかし、誰もが最期まで健康でいられるわけではありません。年代別の人口に占める要介護認定者の割合をみていくと、加齢とともにその割合は高まり、80~84歳では25.8%、85歳以上では59.8%となります。

また厚生労働省『2022年 国民生活基礎調査』で介護が必要となった主な原因をみていくと、最多は「認知症」で23.6%。認知症は加齢とともに発症リスクは高まり、有病率は75~79歳が11.7%、80~84歳が16.8%、85~89歳が35.0%、90~95歳が49.0%。また「要介護者等からみた主な介護者の続柄」の最多は「配偶者」で22.9%。つまり夫婦の年齢差から考えて「夫が認知症となり妻が介護する」というケースは、非常に多いと考えられます。

要介護の夫と、介護をする妻が一緒に老人ホームに入居…最適解と思っていたが

認知症の夫の介護。その症状が進んでいくと、介護をする妻の負担は大きくなります。とても在宅での介護は難しい……そうなった場合、施設への入居がひとつの選択肢になってくるでしょう。しかし、

――夫をひとり施設に入れるなんて……できません!

そう考えてしまう人もいるでしょう。そこで検討したいのが「住宅型有料老人ホーム」です。必要に応じて外部の介護サービスを利用するスタイルで、すべてではありませんが、健康な人でも、夫婦でも、認知症でも入居OKという施設も多くあります。このような施設であれば、「夫をひとりにさせたくない」という悩みも一気に解決。夫婦一緒の生活を続けながら、介護サービスも受けることができ、精神的にも肉体的にも楽になるでしょう。

気になる費用は入居一時金が0~400万円程度、月額費用が10万~20万円程度。施設によっては、夫婦での入居でも年金だけで月額費用を賄えるということも可能。経済的にも問題なし、といったところでしょうか。

――あなた、私たちはずっと一緒よ

しかし夫婦が一緒にいられるというメリットは、一方でデメリットにもなります。居室は完全なプライベート空間。そこに介護スタッフはおらず、なにか助けが必要であれば都度、呼ぶ必要があります。基本的に24時間体制ではなく、またケアサービスを増やせば、その分費用はアップします。「あれ、家で介護していた時と比べて、それほど負担が減っていない、しかも経済的負担はそれ以上……」、そんなケースは珍しくなく、夫婦共倒れ……ということも考えられます。

――もう、無理! もう、あなたとは一緒にいられない

90日以内の解約であれば、払い込まれた前払金は入居していた期間分の日割り家賃を引いて返還されます。「想像と違った……」というのであれば、早めに解約を検討したほうがいいでしょう。

夫婦はいつも一緒に。確かにそれは理想ではありますが、それがいつでも正解とは限りません。自身のこれからの生活もじっくり考えて、最適な回答を探すことが重要です。

(※写真はイメージです/PIXTA)