
サラリーマンが収入アップを実現する方法の1つに「出世する」というものがありますが、生涯平社員とエリート社員の間には、生涯賃金にして「家一棟分」もの差がつくというのが平均的な姿といえそうです。ところが、たとえば同じ「部長」の席に登り詰めたとしても、高卒・大卒では待遇に大きな差が。あくまで平均値を見る限り入社前の時点で勝敗が決まっているというのが、この国の現実なのかもしれません。詳しくみていきましょう。
平社員とエリート社員…生涯賃金の差は?
サラリーマンの主たる収入源である会社からの給与。給与を増やすには、就業時間外に副業や兼業に勤しむ、より待遇の良い会社へと転職するという方法のほかに、社内で経験と実績を積んで出世するという方法があります。
それでは、ねらい通り出世できたとして、どれほどの給与アップが望めるのでしょうか。
厚生労働省『令和4年賃金構造基本統計調査』によると、役職に就いていない男性サラリーマン(学歴計・平均年齢41.4歳)の平均給与(所定内給与額)は月30万1,000円。賞与などを含めた年収は推定493万円です。
続いて係長(平均年齢45.3歳)に昇進すると、月収は37万9,100円、年収は推定648万円。月収で7万円、年収で150万円超の給与アップです。課長(平均年齢48.8歳)になると、月収49万5,600円で推定年収は800万円。さらに部長(平均年齢52.8歳)へとステップアップすると、月収は59万3,100円、推定年収は926万円。
役職に就いていなかった40代前半頃から、年収は2倍近くになっていることがわかります。
引退まで平社員を貫いたサラリーマンと、平均的なスピードで係長→課長→部長へと昇進していったサラリーマンの間には、生涯年収にしてどれほどの差が生じるのでしょうか。
まずは、生涯平社員の場合。20代前半で22万2,400円だった月収は年齢を重ねるごとに順調に上がり、30代後半で31万4,200円、平均月収は50代後半の34万7,400円でピークに達します。この頃の年収は565万円ほどであり、60歳の定年退職までの生涯賃金は、およそ2億円。
一方で順調に出世街道に乗ったサラリーマンの場合、途中までは上の平社員の給与水準と同じですが、役職に就いて以降、差が広がり始めます。45歳で係長、48歳で課長、52歳で部長になったとすると、生涯賃金は約2億4,000万円。
生涯平社員と出世街道を爆進したエリート社員の間には、生涯賃金にしておよそ4,000万円、20歳代後半の平社員の年収の10年分ほどの差がつくことがわかりました。この差を「家を一棟買えるほど」の大きな差と捉えるか、はたまた役職者が負う重責を考慮すると「もっと貰ってもいいのでは?」と捉えるのかは、ひとそれぞれでしょう。
高卒・大卒で明確な給与差…「大学は出ておいたほうがいい」が現実か
上にみた役職以上のステップアップを図るとなると、次は「経営陣」ですから、サラリーマンとしてのいったんのゴールは部長ということになるでしょうか。
この部長職について、学歴ごとの給与差をみてみると、男性・高卒の部長の月収は49万3,100円、年収で751万9,000円であるのに対し、大卒であれば月収63万5,000円、年収で1,000万8,000円、高卒部長と大卒部長の間には、年収で250万円ほどの給与差が生じています。
昨今では「学歴は関係ない」というような風潮が強まっているものの、「給与」に着目してみると、日本社会ではまだまだ学歴による差が明確に存在しているようです。
そしてこの差、定年退職を迎えて年金支給が始まる65歳以降の生活にも影響を及ぼします。
現時点では、20~60歳の40年間に未納期間がなければ国民年金の老齢基礎年金を年間77万7,792円受け取れることになっています。会社員として勤めてきた人であればこの老齢基礎年金に加えて、老齢厚生年金を受け取れるわけですが、これを構成する「報酬比例部分」の計算に、現役時代の給与差が影響を及ぼすことになるのです。
この「報酬比例部分」は、2003年3月以前は①「平均標準報酬月額×7.125/1000×2003年3月以前の加入月数」、2003年4月以降は②「平均標準報酬額(標準報酬月額+標準賞与額)×5.481/1000×2003年4月以降の加入月数」によって計算します。つまり、高い給与で長期間働けば、それだけ受け取れる年金額が増えるということです。
同じ「部長」であっても、高卒者と大卒者の間には年収にして250万円もの差がついています。それ以前の「課長」「係長」時代にも平均でそれぞれ50万円ほどの差が生じており、やはり学歴による給与差は明白です。
10代のうちから社会に出て、腕一本でバリバリと出世街道を駆け上がり、部長の座を手繰り寄せた高卒サラリーマン。現役時代は大卒サラリーマンよりも給与が少なく、それに伴って、4年分も多く保険料を納めているにも関わらず将来受け取れる年金は少ないという現実を前にすれば、思わず「意気消沈」となってしまうかもしれません。
もちろん、大学を出ていなくとも、起業に成功するなどして大きな報酬を得ている人は珍しくありません。それに、仮に大学を卒業したとしても賃金の良い職に就くことができず、「30代後半まで続く奨学金を返せない」と苦しんでいる人は多く、数百万円の借金を背負ってまで大学に行くことが必ずしも正解とは言い切れないでしょう。
とはいえ、平均値をみる限りは、学歴が高いほど収入が多いというのが現実です。親族から莫大な財産を引き継いだとか、抜きん出たビジネスのセンスがあるなどという特殊な条件を満たしていない限り、日本でサラリーマンになるのであれば、まだまだ「大学は出ておいたほうがいい」というのが事実なのかもしれません。

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