ブレイクという言葉がどのような状態に達したら使われるのか明確な基準はない。神サイ、こと、神はサイコロを振らないはバンドの略称の浸透度、そして何より精力的なライブ活動と数々のタイアップによる楽曲のクオリティですでに多くの人にその存在を認識されている。4月にリリースしたシングル「修羅の巷」は、話題となったTBS系日曜劇場『ラストマン―全盲の捜査官―』の挿入歌となったことで、彼らの音楽はさらに広がっていった。そして、9月27日(水) に2ndフルアルバム『心海』がリリースされる。合わせてアナウンスされた全国ホールツアーとともに、いよいよ神サイのブレイクは本格的に加速していく。その重要な時期におけるバンドメンバー4人とのインタビューをお届けする。

お客さんのいろんな表情が見られるのが生きがいになって、つまりそれが音楽をやる理由になっているんです(柳田)

――まずは少し振り返ったところから伺います。今年1月から2月にかけて行われたZeppでの全国ワンマンツアー『雪融けを願う飛行船』はバンドにとってどんなツアーになりましたか?

柳田周作(Vo) 本当に最高でした。僕らも1ステップずつバンドとしてのレベルが高まっているという実感を得られましたし、同時に神サイファンの「ライブを一緒に作ろう!」っていう気迫みたいなものが、Zeppツアーではより濃くなったなと感じました。一緒に最高の景色を作ろうとしてくれている感じが今までにはない熱量で伝わって来ましたね。

黒川亮介(Ds) Zeppツアーは東京のファイナルから声出しが解禁になったんですよ。自分たちは今までコール&レスポンスとかシンガロングを一緒にできる曲をずっと作って来たんですけど、声が出せなくて。デビューしたのがまさにコロナ禍だったので、バンド人生でお客さんが歌っているのを初めて聴いたツアーになりました。それを体験すると、やっぱり自分たちのパフォーマンスが上がっていくっていうのが身をもって体験できましたね。ライブをお客さんと一緒に作るっていうのはこういうことかっていうのを実感しました。

吉田喜一(Gt) このツアーをきっかけに今後のライブがすごく楽しみになりましたね。もっとこうしたい、ああしたいっていうことがポジティブな意味でたくさん出てきて、メンバーともよく話し合いました。例えば(曲と曲の)つなぎの部分で今までにはなかったアイデアが生まれてきたり、本当に有意義なツアーでした。

桐木岳貢(Ba) もちろんまだまだ未熟な部分はたくさんあるんですけど、でもそれ以上に楽しめましたね。やっぱり大きかったのはお客さんとの見えない絆というか、つながりが感じられたことでした。

――Zeppツアーの時点、あるいは終わった直後くらいのタイミングで、今回のアルバムのイメージというのはあったんですか?

柳田 全然ですね。ツアーの時はツアーのことで頭がいっぱいでした。で、ツアーが終わってすぐくらいに制作が始まったのが「修羅の巷」(4月30日リリース)で、ドラマ(TBS系日曜劇場『ラストマン-全盲の捜査官-』)の挿入歌が決まったっていうタイミングでした。それをやりながら今回のアルバムに収録されている新録曲を同時に作り出したっていう感じだったと思います。

柳田周作(Vo)

――1stフルアルバム『事象の地平線』はバンドのそれまでの歩みのすべてを詰め込んだ作品だったと思うのですが、今回の『心海』はどうなんでしょう。よりアルバム1枚の世界観というものを突き詰めていった作品という印象を受けるのですが。

柳田 全曲をアルバムのコンセプトに沿って作ったというわけではないんですけど、改めてできた曲たちを並べてみると、タイトルも含めてコンセプチュアルなものにできそうだなっていう手応えがありました。前回のアルバムは、言ってしまえば最強の楽曲たちを詰め込んだ、良い意味でのリードトラックを詰め込んだベスト盤みたいな感じだったんですけど、今回は――もちろん全部リードトラックなんですけど――ひとつのコンセプトのもとに束ねられている、いわゆるフルアルバムらしい作品に仕上がったなと思います。

――1曲目のインスト「Into the deep」がまさにアルバム世界の扉を開けるような感覚になりますよね。

柳田 そうですね。それも夢のひとつだったというか。神サイとしてインストを入れられたのも初めてだったので。実は「Into the deep」とその次の2曲目「What's a Pop?」はもともと1曲だったんですよ。だから1曲目は2曲目に続く長いイントロというか。で、「What's a Pop?」を作り始めたのは結構前で、Zeppツアーを回っている時だったか、そのすぐ後だったか、まだ次のツアーも何も決まっていないタイミングで、次ツアーをやるならどういう景色を見たいかっていうことで作った楽曲なんです。ピアノの音があり、ベースの音が入ってきて、四つ打ちで飛び跳ねる――そういう景色を想像することから生まれた曲ですね。

――ライブの経験というのがそのまま曲に注入されているんですね。

柳田 昔はわりと根暗な曲が多かったんですけど(笑)、だんだんお客さんがハッピーになるような曲も増えてきて、そうするとお客さんのいろんな表情が見られるようになってきたんですよね。それが生きがいになって、つまり僕らが音楽をやる理由になっているんです。みんなが幸せそうに飛び跳ねている姿をイメージしてリズムを作って、そこにベースを入れていってという感じで。

――そうすると、Zeppツアーで得た良い手応えとイメージが「What's a Pop?」のきっかけになり、それがそのままアルバム制作へとつながっていったのでしょうか?

柳田 「What's a Pop?」を作った直後にアルバムを制作しましょうっていう話が出てきたので、実は……って言って「What's a Pop?」を聴いてもらったんです。当然、大事なアルバムの1曲目が全くの新録曲でいいのかっていう議論はあったんですけど、僕としては、インストがあって「What's a Pop?」が始まるっていう揺るぎないイメージがあったので、そこはこだわりました。そうすることによって、コンセプチュアルなアルバム世界を構築できるっていうイメージも同時に湧いたので。

――なるほど。

柳田 メンバーに聴いてもらった時に、ベースの桐木が、普段デモを送っても「ありがとう」ぐらいで、あんまり良いも悪いも言わないんですけど、珍しく「この曲いいね」って言ってくれたんですよ。

――「What's a Pop?」のベースはめちゃくちゃカッコいいですよね。音の説得力もあるし。

桐木 確かに、一番きれいにまとまって作れたベースラインだなって自分でも思いました。

桐木岳貢(Ba)

――デモを聴いて感じたのはどんなことだったんですか?

桐木 単純にメロディとか歌詞の内容がグッとくるものがありましたね。だからそれに素直に感じたままベースラインをつけていったっていう感じでした。

吉田 「What's a Pop?」のデモが送られてきた段階では、まだアルバムの制作も決まっていなくて。でもそのあたりのタイミングで、柳田からガンガン曲が送られてきてたんで、正直デモの段階での記憶が曖昧なんです(笑)。実際に制作が始まって「What's a Pop?」を仕上げていくなかで、この曲すごくいいなって思いましたね。どんどん頭角を現してくるというか。曲によって、一発で好きになる曲と何回か聴いてだんだんハマっていく曲ってあるじゃないですか? その両方を兼ね備えてる曲なんですよね。

黒川 たしかに。「What's a Pop?」とか「Popcorn 'n' Magic!」とか、同時期に曲のピースたちが送られてきて、どっちがどっちだったっけ? みたいな感じはありつつ(笑)、「What's a Pop?」はドラム自体のレコーディングはしてないんですよ。

――打ち込みですもんね。

黒川 そうなんです。だからライブでどう表現しようかなっていうのが、これからの楽しみとしてありますね。

幅は広がっているんですけど、深くもなって行っている(黒川)

――アルバムの制作に突入して、最初にイメージしたのはどんなことでしたか?

柳田 まずは「What's a Pop?」があって、で、最後は「告白」で終わるんですけど、最初と最後にこの2曲を置いて、あとの曲を挟み込むっていうイメージは最初からありましたね。何もいじってないというか、素のままの音で締め括りたいっていうか。

――アルバムのコンセプトにも関わってくるところなのかもしれないのですが、今回収録されている曲は、コンポーザーである柳田さんの思考がかなり凝縮されたものが多いなと感じました。

柳田 そうですね。パーソナルな部分っていうのは凝縮されていますね。それは僕だけじゃなくて、演奏面でもバンドの今のモードというか、かなり鮮度の高いものになっていると思います。

――そしてもうひとつ大きな特徴として、各曲が明確にこのジャンルだと言えないような曲が多いですよね。単純にバラエティ豊かなアルバムっていうのではない、もっと本質的な部分でそのことは神サイを表しているように思います。そこはやはり意識して“自分たちはこういうバンドだ”っていうことに囚われないでやっていったということなのでしょうか?

柳田 まさにおっしゃる通りで、神サイは始まった時からずっとそういうスタンスだったんですよ。例えば、わかりやすく言うと、僕らメロコアバンドですっていうわけでもないし、ファンクバンドでもないし。その時その時でみんなが好きなものを取り入れてひとつの曲にしていくっていうことを、結成して8年くらいずっとやってきていて、今回はそれの集大成というか。いわゆるジャンルレスの究極体みたいなものがこの『心海』なんだろうなって思います。

吉田 ジャンルって決めたこともないですね。普段聴いてる音楽もみんなバラバラだし。どういう曲やりたい?っていうことは話すんですけど、俺らはこれで行くんだ! みたいなのはないですね。

吉田喜一(Gt)

桐木 単純にみんな音楽が好きなんですよね。柳田のところにみんなで集まって、ただ音楽を聴いたりしてるんで、そういうことでそれぞれが今気になっているものを知るというか。だからそういうのが自分たちで作る音楽のベースになっているんですよね。

黒川 しかもみんな楽器が好きなんで、各々がプレイヤーとして追求していくっていうマインドがあって、幅は広がっているんですけど、深くもなって行っているなっていうのはすごく感じますね。

柳田 とにかく1曲ごとにやりたいこと、チャレンジしたいことっていうのを詰め込んでいます。

――今回の収録曲の中でバンドにとって一番のチャレンジになった曲は何ですか?

柳田 間違いなく「スピリタスレイク」ですね。

――アレンジはサウンド・プロデューサーのYaffleさんですね。

柳田 まさにここ(このインタビューが行われた部屋)で、初めてお会いして、どういう方向性にしようかっていうことを話したりしました。僕はドラムを中心に曲の世界観を作りたいっていう話をして、「じゃあドランクビートってどう?」っていう話になったんです。ただ神サイではやったことがなかったので、Yaffleさんに「ドラムの黒川くんはドランクビートできる?」って言われて、「できるかどうかわからないけど好きだと思います」って。

黒川 ははは。

柳田 とりあえずチャレンジしてみるっていう姿勢で臨みました(笑)。

――いかがでした?

黒川 レコーディングが、マジでこれ大丈夫かな?ってくらい不安ではあったんですよね、正直。聴くのは好きだったんですけど、自分がプレイヤーとしてやるってなるとまったく別の話になってきて。で、自分の中で一応形にして、僕の信頼するテックさんにデモを送ったんです。そしたら、そもそもドランクビートってヒップホップがルーツの打ち込みビートなので、それを生ドラムで表現しようとした時に、めっちゃ悪く言えば下手くそに聞こえる可能性もあるっていうふうに言われたんですよ。それでレコーディング当日に実際にやってみて、レコーディングした音を聴いたらそのテックさんに、Yaffleさんが打ち込んでるドラムだと思ったって言われて。ヨレてるけどちゃんとつながってるって言ってくれたんで、そこは自分なりにクリアできたのかなって思います。あとはレコーディングの前にベースの桐木とテキーラで乾杯したのも良かったのかもしれないです(笑)。

――はははは。

柳田 スピリタスウォッカ)を飲ませたかったんですけどスーパーになくて、なのでうちにあったテキーラとショットグラスを持ってきて。

黒川 めちゃめちゃチャレンジもできたし、ドラマーとしての新たな扉がまたここで開かれたなって、やってて思いましたね。

黒川亮介(Ds)

――そういう、やったことのないことへのチャレンジを通じて、バンドの輪郭がハッキリするというような感覚はあったりするのでしょうか?

柳田 何をやっても成立するなっていう確信は深まりますよね。最初の頃は、こうやっていろいろなことに手を出すものだから、ライブハウスの店長さんからは、「神サイってどこに行きたいの?」みたいなことを言われたりはしたんですけど、でも今も変わらずその旅を続けているというか。いろんなものを見て、いろんなことを吸収して、それを4人でやってちゃんと形にしていってるので、だからそれが神サイっていうか。特に「スピリタスレイク」は冒険でしたね。

――それで言うと、「修羅の巷」も相当なチャレンジでしたよね?

柳田 そうですね。

――プロデュースに亀田誠治さんが入られて、曲の印象で言えばわりと柄の大きいロックというか。ブルージーな匂いも漂っていますし。

柳田 聴く人によってはロックバラードっていう人もいますね。僕は遅いテンポのロックが好きで、スタジアムが似合いそうというか、広い景色に映えそうな音楽というか。テンポが遅い分、遊びがたくさん入ってて、フェイクもいろんなパターンが即興で入れられるし、ライブがすごく楽しいんですよ、この曲は。音源にはないアウトロをやったり、すごく自由ですね。

好きも嫌いもどちらも貫き通していないからこそ豊かな作品が作れている(柳田)

――すでにお話に出た亀田さんやYaffleさんをはじめ、今回はいろんな人が関わっているというのも特徴としてありますね。5曲目に収録されている「六畳の電波塔」ではラッパーのRin音さんとコラボレーションしました。

柳田 Rin音くんは、僕らの「夜永唄」が割と知られてきてたのと同時期に彼もサブスクでガッと来てて気になっていたんです。そしたら強面のラッパーの人たちとバチバチやり合ったりしてて、でも声はすごくやさしいので、神サイの世界観に絶対に合うだろうなって思って一緒にやりました。ラスサビの〈柄にもなく賽の目を振った〉以降のリリックっていうのはもともとなかったんですよ。でもレコーディング当日に僕が、その前の〈たった一つ叶うなら〉のメロに対してラップを入れてほしいってリクエストしたんです。というやり取りがあって当日生まれたのがラスサビのラップです。

――ここがあるのとないのとではかなり印象が違ってきますね。

柳田 だから鮮度ってすごく大事だなって思いますね。思いついた瞬間のエネルギーっていうんですかね。例えばスタジオミュージシャンの方はプロとして要求されたことをやらなければいけないと思うんですけど、バンドってまた違う部分が要求されるというか。何をやってもいい自由さはある。でもだからこそ発想の豊かさだったり、それに合わせてプレイヤビリティも必要になってくるんだと思うんですよね。

――なるほど。先ほどの話に戻ると、「神サイって結局何がやりたいの?」っていう率直な疑問は、ある意味で音楽を知っているから思うことですよね。でも、そもそも音楽って自由じゃんっていうそこの根本を愚直に信じているのが神サイの4人で、だからその場の鮮度というものが大きな意味を持ってくる。

柳田 そうですね。

――そこで聞きたいのが、そうした神サイの4人が、じゃあ一緒に掴んでいるものは何なのか? ということです。

柳田 何だろう……。おれ今回はこういう感じのことをやりたいんだよねって言って断られたことってないんですよね。ん? いや、あったな。あったあった。わかりやすく速いテンポのビートを提案した時に、ドラムの黒川は最初ちょっと嫌がりましたね。

黒川 何ていうんですかね、自分じゃなくてもいいかなって思ったのかもしれないですね、その時は。でも今はそれ、ちょっとやってみたい感じもありますけどね、逆に(笑)。だからそれも、やったことのないことだからチャレンジしたくなるんですよ。それが神サイなんだと思います。

桐木 時期みたいなものもあると思うんですよ。昔は柳田が4つ打ちは絶対嫌だって言ってたので。

柳田 たしかに。

――今、バリバリ4つ打ちやってますよね(笑)。

柳田 なんならこのアルバムの半分そうですから(笑)。だからほんと不思議ですよね。たしかに時期によって各々にこれをやりたい、あれをやりたくないっていうモードはあるんですけど、そこが一貫してないっていうか、要するに否定しているわけではないんですよね。好きも嫌いもどちらも貫き通していないからこそ豊かな作品が作れていると思うので、とにかく制限は設けたくないですね。貪欲にいろんなものを取り入れたいし、自分にないものを追い求めていきたい。“らしさ”がないのが“らしさ”なのかなって思いますね。

――あくまで今回のアルバム『心海』における神サイの音楽的中心にあるものは何かと考えた時に、12曲目の「夜間飛行」がそれなんじゃないのかなって思ったんですよね。で、それを突き詰めると、この曲ってもっともわかりやすいけど、でも何のジャンルとも言えないっていう曲なんですよね。だからそれが神サイっぽいということなのかと。

柳田 今回のアルバムは全部で13曲入っているんですけど、最後の「告白」は僕の中では“あとがき”っていうイメージに近くて。なので本編は12曲目の「夜間飛行」で終わりなんですよ。で、1曲目の「In the deep」は、最初に言ったみたいに「What's a Pop?」のイントロって考えると、実質「What's a Pop?」が1曲目になるんです。“ポップスとは何ぞや?”って「What's a Pop?」で提起した疑問を、最終的に「夜間飛行」で〈I wanna be a Rockstar〉、“僕はロックスターになりたいんだ”という決意で物語を完結することが今回のキモというか。ポップスっていうのはあくまでもジャンルの話ではなくて、人に伝える手段であって、じゃあ人に伝わるっていうのはどういうことなのか? どうやったら自分以外の人琴線に触れることができるんだろう? みたいなことを模索したこの1年半くらいだったんですよね。

――Popは微妙にPopcornにもかかってるし(笑)。

柳田 ははは。「Popcorn 'n' Magic」は一番最後にできた曲だったんですよ。僕の中ではデザートというか。もうこの曲は脳みそ空っぽにして楽しめるようなものにしたいなって思って。それまでの「スピリタスレイク」とかでいろいろチャレンジしたことを全部取っ払って、とにかく楽しく曲を作ろう、これはおれにとってのご褒美だ!っていう感覚で作った曲です。

――バンドにとってもご褒美だったんですか?

吉田 全然! ギターは大変でした(笑)。まあでも楽しかったですけど。

桐木 録りも最後だったので、リズムに関してはそれまでにいろいろ試したこととか気づいたことを踏まえて良いトライができましたね。

柳田 この曲ができてから、こればっかり自分で歌ってたからボーカル・レコーディングは2テイクぐらいですぐ終わりました(笑)。

――曲順のストーリーも、もはやこれしかないというものですよね。

柳田 そうですね。ジャケットが今回4色展開なんですけど、色違いで上がってきたアートワークを見た時に、喜怒哀楽を表せるかもって思ったんですよ。だから曲順も3曲ずつで喜怒哀楽になっているんです。あとがき的立ち位置の「告白」を除くと全12曲になって、頭から3曲ずつで「喜」「怒」「哀」「楽」でブロックごとになっています。そこがうまくハマって、心のあり様を表しているということでアルバムタイトル『心海』という言葉が出てきました。偶発的にいろんなピースがハマっていったっていう感じですね。

柳田周作(Vo)

無理難題を自分たちに強いて、それができるようになったらまたひとつレベルが上がっている(柳田)

――4曲目「Division」は「FREDERICAフレデリカ)」というRPGゲームの主題歌ですね。

柳田 書き下ろしになるんですけど、ゲームのストーリーで重要になるのが言葉を失った世界なんですよ。言葉っていうのは人を救うこともできれば、逆に傷つけることもできる諸刃の剣みたいなもので、今SNSが当たり前になった社会において、心ない言葉みたいなものが飛び交う現状を見るにつけ、僕も心が苦しくなるんですよね。だからもっと人を楽しませたり笑わせたり、そういうことのために言葉は使われるべきなのになっていう思いを込めて作りました。

――このアルバムの中ではもっともストレートなロックと言ってもいい曲ですね。

柳田 結構硬派なロックになったなという感じですね。シンガロングがあったりして、だからこれもライブをイメージすることでできた曲です。

吉田 ポストロック的なギターだったり、リズムも疾走感があってシンプルにカッコいい曲なので、ライブ映えしそうだなっていうのは作っている時からきちんとイメージできていましたね。

柳田 もうすでに各地の夏フェスなんかでもやってるんですけど、ライブでやるとBPMがめっちゃ遅く感じるというか。耳で聴くのとプレイするのとでは全然感覚が違うんですよね。なんならバラードを歌っているような感覚になるんです、ステージだと。

――へー、そうなんですね。そのあたりはリズム隊としてはいかがですか?

黒川 最初の頃はたしかにそんな感じもあったんですけど、今はもう疾走感を感じながらやれています。だからまあ、ライブで成長していく曲なんでしょうね。10月から始まるホールツアーまでにどう仕上がるかが楽しみです。

桐木 そういう意味でも神サイのギラギラ感が結構詰まってる楽曲だと思いますね。

――7曲目の「僕にあって君にはないもの」について伺います。というのも、これ、かなり不思議な曲なんですよね。不完全でいてすべてのバランスが取れている曲というか。生っぽい暖かみの中にギザッとしたものがあったり。

柳田 それこそドラムシンバルを取っ払って、サビ頭にバシャーンと行かないあたりもちょっとモヤッとするというか、ギターのアーミングの浮遊感であるとか、いろんなことが少しずつ奇妙ではあるんですよね。ボーカルも過去最高くらいに(音程が)高くて、アルバムの中で一番歌的には難しい曲なんですよ。

――テンポも独特ですよね。

柳田 そうなんですよね。ただでさえボーカルは高いのに最後、亀田さんのフラッシュアイデアで転調してるんですよ。結局この曲も無理難題を自分たちに強いて、それができるようになったらまたひとつレベルが上がっているっていうような曲で、アルバム通してそれの繰り返しでしたね。練習してどうのこうのじゃなくて、無理やり自分で可能性をこじ開けていくっていう感じです。

――ギターはどんなイメージだったんですか?

吉田 レディオヘッドジョニー・グリーンウッドが好きなんですよ。そういう、神サイのもともと持っていたシューゲイザ的な要素も醸し出しつつ、(エレキギターの)シングル(コイルピックアップ)のリア(ポジション)でガコッとしたアルペジオとアーミングのソロを作ろうかなっていう提案をしました。そしたら柳田の変な動画が送られてきて。

柳田 何度かアイデアのパス交換があった中で最終的に上がってきたものが、浮遊しながらアルペジオが進んでいくっていうようなギターで、すごいこの曲を汲み取ってくれてるなって思って。曲を作った身としてはそういう瞬間ってすごくうれしいんですよ。やっぱちゃんと伝わってるんだなって。それがあまりにもうれしかったので……思わず送っちゃいました。

――内容は聞かないでおきます(笑)。きっとバンドにしかわからないことなのでしょう。

柳田 ありがとうっていう精一杯の感情表現ですね(笑)。

吉田 決してありがたいものではなかったですけど(笑)。そんなこんなでチームでやり取りして作ったギターソロなので結構思い入れのある曲ですね。しかも音もだいぶこだわったので。

――ちょっと枯れてる感じが曲の世界観をうまく表現していますよね。リズムはどうでしたか?

黒川 ドラムは3点(キック、スネア、ハイハット)だけで。前回のアルバムにも3点だけの曲が1曲あって、ドラマーとしてビートだけを刻む曲が2ndアルバムでも作れたっていうのが、自分のビートの成長を聴いて感じられるなって思いました。あと、レコーディング中に思ったのが、亀田さんとかに「次はこういう気持ちでやってみて」って言われて、それでやると音の長さが変わるっていうか、自分の気持ちで音の長さが変わるという部分もちゃんとコントロールできるようにならないといけないんだなっていう発見もありましたね。細かいことですけどペダルも「スピードキング」っていうやつを使っていて、そのペダルの音がしっかりするんですよね。踏み心地も独特というか。

桐木 この曲に限ったことではないんですけど、ベースっていう楽器の役割がより知れたというか。曲の心臓部分ってドラムだと思ってたんですけど、本当に曲を支えるものはベースなんだなっていうことを認識できたんですよね。めっちゃ曲を壊すこともできるし、良くすることもできるから、すごく責任重大な楽器なんだなって改めて思いましたね。

――お話を伺っていると、このアルバムを通してプレイヤーとしての進化が如実に感じられるということが言えるわけですね。

柳田 今までももちろんそうだったんですけど、今回は特に自分がどうしたいじゃなくて楽曲としてどうしたらいいかっていうところに対する姿勢がワンステップ上がったように思いますね。全部が固まってひとつの楽曲になるっていう、同じ方向を向いてみんなが進むことができたっていうのが一番成長した部分だと思います。やっぱりバンドだし、そこがすべてなのかなっていう気がしますね。

――「PIA MUSIC COMPLEX 2023」をはじめとした夏フェスシリーズの後には、全国ホールツアー「心海パラドックス」が10月から始まります。

柳田 初めてのホールツアーだし、ホールツアーを妄想しながら作った曲たちばかりなので、ライブでのアレンジも楽しみです。

――演出面も含めて何かありそうな気がしています(笑)。喜怒哀楽という裏テーマもありますし、ジャケットで描かれたアートワークがどう表現されるのか、とか。こちらも妄想をたくましくしておきます。

柳田 楽しみにしていてください!

Text:谷岡正浩 Photo:石原敦志
ヘアメイク:荒木美穂 スタイリスト:石黒亮一(ota office)

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<リリース情報>
神はサイコロを振らない 2ndフルアルバム『心海』

発売中

【CD収録内容】
1. Into the deep
2. What’s a Pop?
3. カラー・リリィの恋文
4. Division
5. 六畳の電波塔
6. 修羅の巷
7. 僕にあって君にないもの
8. スピリタスレイク
9. 朝靄に溶ける
10. Popcorn 'n' Magic!
11. キラキラ
12. 夜間飛行
13. 告白

初回限定盤A(雪融けを願う飛行船 Live盤)
【1CD+1Blu-ray】5,500円(税込)
※ブックレットは、スタジオとアウトドアロケーションで撮り下ろしたアーティストフォトのアザーカットを収録。ここだけでしか見られない貴重なショットの数々で構成。

神はサイコロを振らない『心海』初回限定盤Aジャケット

【Blu-ray収録内容】
■『Zepp Tour 2023「雪融けを願う飛行船」 』at Zepp Haneda(TOKYO)
・巡る巡る
・タイムファクター
・イリーガル・ゲーム
・LOVE
・1on1
・REM
・朝靄に溶ける (Guest : asmi)
・目蓋
・徒夢の中で
・解放宣言
・桃色の絶対領域(Cover)
・愛のけだもの
キラキラ
クロノグラフ彗星
・夜間飛行
・パーフェクト・ルーキーズ
・illumination

初回限定盤B(最下層からの観測&事象の地平線 Live盤)
【1CD+2Blu-ray】6,600円(税込)
※ブックレットは、『最下層からの観測』『事象の地平線』『雪融けを願う飛行船』の3本のライブの未公開ライブスチールショットを含み、ライブ映像と共に楽しめるような内容で構成。

神はサイコロを振らない『心海』初回限定盤Bジャケット

Blu-ray Disc-1収録内容】
■『東阪野音Live 2022「最下層からの観測」』at 日比谷野外大音楽堂
・未来永劫
クロノグラフ彗星
・揺らめいて候
・パーフェクト・ルーキーズ
少年よ永遠に
・illumination
・泡沫花火
・初恋 (Guest :アユニ・D(BiSH/PEDRO))
・目蓋
・導火線
遺言状
・イリーガル・ゲーム
・夜永唄
・あなただけ
・巡る巡る
・タイムファクター
・LOVE
・1on1

Blu-ray Disc-2収録内容】
■『Live Tour 2022「事象の地平線」』at LINE CUBE SHIBUYA(Day2)
・タイムファクター
・1on1
クロノグラフ彗星
少年よ永遠に
・illumination
・泡沫花火
・六畳の電波塔 (Guest : Rin音)
・愛のけだもの
・夜永唄
・あなただけ
・イリーガル・ゲーム
・揺らめいて候
・カラー・リリィの恋文
・未来永劫
・僕だけが失敗作みたいで
・LOVE
・巡る巡る

●完全数量限定Goods盤(UNIVERSAL MUSIC STORE限定発売)
【1CD+T-shirt】6,600円(税込)
Mサイズ:身丈69・身幅52・肩幅46・袖丈20
Lサイズ:身丈73・身幅55・肩幅50・袖丈22
XLサイズ:身丈77・身幅58・肩幅54・袖丈24
※ブックレットは、素の表情が垣間見え、プライベート感も感じられるスチールショットで構成。

神はサイコロを振らない『心海』完全数量限定Goods盤ジャケット
神はサイコロを振らない『心海』完全数量限定Goods盤 Tシャツデザイン

●通常盤【CD Only】3,300円(税込)

神はサイコロを振らない『心海』通常盤ジャケット

購入リンク:
https://kamisai.lnk.to/2nd_alPR

<ライブ情報>
『PIA MUSIC COMPLEX 2023』

9月30日(土) 東京・新木場若洲公園
OPEN 9:30 / START 11:30

チケット料金:12,000円(1日券)
公式サイト:
https://piamusiccomplex.com

神はサイコロを振らない Live Tour 2023『心海パラドックス

10月28日(土) 大阪・オリックス劇場
11月4日(土) 北海道・札幌道新ホール
11月11日(土) 福岡・福岡市民会館 大ホール
11月18日(土) 宮城・仙台電力ホール
11月23日(木・祝) 岡山・岡山芸術創造劇場ハレノワ 中劇場
11月25日(土) 新潟・新潟市音楽文化会館
12月1日(金) 愛知・日本特殊陶業市民会館フォレストホール
12月17日(日) 東京・東京国際フォーラム ホールA

チケット料金:5,500円(税込)
https://w.pia.jp/t/kamisai-tour2023/

公式サイト:
https://kamisai.jp/

神はサイコロを振らない