『呪い返し師-塩子誕生』(22)などを手掛けてきた赤羽博監督による最新作『二十歳に還りたい。』が、9月29日(金)より公開となる。一代で大企業を築きあげながらも孤独な日々を送る80歳の寺沢一徳が、20歳の青年に戻って「今度こそ悔いのない人生を送ろう」と第2の人生を歩み始める姿を描く本作。青年期の一徳を田中宏明、老年期を津嘉山正種が演じ、人生の成功と影、青春のみずみずしい輝きを体現している。そこでMOVIE WALKER PRESSでは、赤羽監督と田中、そして青年期の一徳に恋をする女性、山根明香を演じた三浦理香子にインタビューを敢行。撮影現場の様子を振り返ると共に、本作から受けた刺激を語り合った。

【写真を見る】 一徳は見知らぬ大学のキャンパスで20歳の青年となっていた

■「本作に必要なのは、“文学的な余韻”を残すこと。それがとても難しかった」(赤羽監督)

――「もしも青春をやり直せたなら…」という誰もが一度は胸に抱く想いをドラマチックに映像化した本作。原作と脚本を読んだ感想を教えてください。

赤羽「まず『二十歳に還りたい。』というタイトルを目にした時に、『主人公が20歳だった時代に戻って、人生をもう一度やり直す話なのかな?お客さんは“20歳に戻れたらいいな”と思うのか、思わないのか、どちらなんだろう』と感じました。20歳当時の自分を考えてみると、傲慢で、人にずけずけと物を言ったり…。そのころの自分に戻るのは、僕は嫌だなあと思って(苦笑)。でも実際に脚本を読んでみたら、主人公の寺沢は、いまの時間軸のまま、現代を生きる20歳として歩みを進めていくことになる。『あの時にこちらの道を選べばよかった』と自分に都合よく過去を変えるのではなく、まったく新しい人生を生きる話なんですね。これならばとても意義深いことだし、僕も『還ってみたいな』と思いました」

――映像化するうえで大切にしたのは、どのようなことでしょうか。

赤羽「製作総指揮の大川隆法総裁からは、“文学的な余韻”の残る作品にしてほしいというお願いがありましたが、これが本当に難しかったです。前作(『呪い返し師-塩子誕生』)など、勧善懲悪で、悪霊や悪魔を退治するような作品は、僕が得意とする分野ですが、『“文学的な余韻”の残る映画とはどういうものだろう?』と撮影前にだいぶ悩みました。『観ているお客さんが、それぞれの人生を考えられるような映画にしたい』ということをたくさん考えて、撮影に臨みました」

■「80歳の経験、知識を持った青年を演じるために、知識面、身体面、両方から役作りしました」(田中)

――本作で田中さんは、80歳の経験と知識を持ったまま、20歳の青年に戻るという、とても難しい役に挑むことになりました。青年期の寺沢を演じるために、特別に準備したことがあれば教えてください。

田中「80歳という年齢に加え、経営者という立場、さらに20歳に戻っていろいろな出会いを果たす…という経験ももちろんしたことがありません。そういった条件を考えると、『僕は人間的にも経験値が足りない。とても難しい役だ』と感じて。準備することもとても難しいなと思ったんですが、『できることはなんでもやってみよう』という意気込みで臨みました。まずは80歳という年齢を想像するために、知識面として老いや成熟に関する本を読んで勉強をしつつ、身体的な面では高齢者疑似体験キットを使用して、自宅で過ごしてみました。キットには、耳が聴こえづらくなるイヤーマフや、関節が曲がりにくくなるようなサポーター、姿勢が前屈みになるようなベルトなどが入っているんです」

――身体的にも、老いを経験してみようと思われたのですね。

田中「そうなんです。寺沢は80歳の経験をもったまま20歳に還るので、自宅で高齢者体験キットをつけたまま過ごして、『若いっていいな』という気持ちになるまで青春映画を観てみたりもしました。また経営者の方の気持ちを理解するために、実際に経営者の方にインタビューする機会を設けていただき、いろいろなお話を伺うこともできました。すると経営者の方は、あらゆるプレッシャーのなかで決断を迫られることの連続だということ、従業員や取引先の方、家族に対しての責任を感じながら孤独を味わっているということがわかり、まさに本作の寺沢のようなご苦労をされているんだということを知りました。自分には経験したことがないことばかりでしたが、経営者の方々の気持ちも身に染み込ませながら、知識面、肉体面でもいろいろな蓄積をすることで、少しずつ自信を持って演じてみようと思うことができました」

――三浦さんが演じた明香は、純粋でまっすぐな女性です。演じるうえでは、どのようなことを大切にしましたか?

三浦「明香はまっすぐで、常に一生懸命で、とても明るい女性です。まるで太陽のような存在だなと思いました。そして津嘉山さんと田中さんが演じる寺沢さんに大きな影響を与えていく女性です。とにかく台本を読み込んで撮影に臨み、津嘉山さん演じる寺沢さん、田中さん演じる寺沢さん、それぞれにしっかりと対峙し、『相手になにかを働きかけられるような存在でいたい』と意識しながら、演じていました」

田中「三浦さんはたくさん赤羽監督とディスカッションをされていて、こちらにたくさんの影響を与えてくれるような明香を演じてくれました。三浦さんは控えめだけれど芯があって、本当に明香役にぴったりだなと思いました」

三浦「ありがとうございます!田中さんも、寺沢さん役にぴったりでした。田中さんはとにかくまじめな方で、ほかの人が青年期の寺沢さん役を演じることは、考えられないほどです。明香は、一途に寺沢さんに想いを寄せていて、不器用ながらも一生懸命に花嫁修行をしてみたり、習い事をしてみたりするんですね。私も不器用なところがあって、このお仕事をしていてうまくいかないことや、『なにをやってもダメだ』『自分って不器用だな』と悩んだりすることもたくさんあります。でもすべてにおいて、その時の自分にできることを一生懸命にやろうとするところは、私も明香に似ているなと感じています」

■「田中さんは、いつも現場をリラックスさせてくれます」(三浦)

――先ほど赤羽監督からは「“文学的な余韻”を大切にしたい」というお話がありました。役者さんにはどのようなお願いをしましたか。

赤羽「お2人には、セリフではなく、表情から登場人物の気持ちを出してほしいと思っていました。僕は言うだけだからいいけれど、それを演じる側としては大変ですよね(笑)。とにかくこちらは『想像しろ』『考えろ』『迷え、どんどん迷え』ということを言っていました。迷うと、表情が変わってくるものなんです。寺沢という役は本当に難しい役で、津嘉山さんにはこれまで生きてきた歴史があるけれど、田中くんはまだ若い。それでいて80歳の役を演じるんですから、想像する力がとても重要になる役です。また、オーバーにやってほしくないとも思っていましたので、余計なことはせずに、削ぎ落とすということも大切。三浦さんは、寺沢と出会った時、父親に怒られた時、褒められた時など、その時々の表情を素直に出せるところがとてもいいなと思いました。オーディションでお会いした時も、華美な自己PRをせず、おとなしい雰囲気がありながらも、目はしっかりと生きていた。そういった魅力は、“文学的な余韻”を残す作品に活きてくるなと思いました」

――現場作りで大切にしていることはありますか?

赤羽「僕は、俳優さんももう一人の演出家だと思っています。このシーンについてどのように考えて、どのように演じるかと、おもしろいものを一緒に目指していくわけですから。そういった時に大切になるのが、本音を言い合えるような関係を作ること。いつも『なにかあったらなんでも言ってくれ』と話しています。監督がそんなことを言っても、言いづらいかもしれないけれどね(笑)」

田中「僕は監督を信頼しているので。相談もさせていただきますし、監督がひと言投げかけてくれるだけで感情も動きます」

赤羽「うれしいことを言ってくれるね(笑)」

――現場のムードメーカーとなった方はいらっしゃいますか。

田中「やっぱりそう考えると、赤羽監督ですね。赤羽組は、監督をリーダーとした一体感があって、そこに入っていけば大丈夫だと思わせてくれます。とても重要な場面の撮影では、赤羽監督がものすごく僕たちに寄り添ってくださって、たくさんアドバイスをしてくれました。撮影前日には、三浦さんとも『明日は頑張ろうね』と声を掛け合い、お互いに気持ちを乗せながら、集中して演じることができたなと思っています」

三浦「もちろん赤羽監督もムードメーカーですが、田中さんもムードメーカーだと思います」

田中「(ムード)メイクしていますか!?」

三浦「田中さんは、『見守っています』という感じの穏やかな雰囲気を醸しだしていて、いつも現場をリラックスさせてくれるんです。サッカーのシーンの撮影日も印象的です。私はサッカーが好きなので、撮影の合間にゴールに向かってボールを蹴ったりして、それを田中さんに受けてもらったりと、結構遊びましたよね」

田中「青春を味わいました(笑)!」

■「津嘉山さんの姿から、たくさんの刺激を受けました」(田中)

――本日はいらっしゃらないのですが、老年期の寺沢を演じた津嘉山さんから、田中さんと三浦さんに向けて、「現場で赤羽監督ともよく話していたのですが、若い方たちは、あまり作りこんだ芝居をせずに、素直ないい演技をされていました。田中さんと三浦さんという若い俳優たちが生き生きと演じていたので、私は見守っているという感じでした」とのコメントをいただいています。この津嘉山さんからの言葉を、どのように感じましたか?

田中「僕は、津嘉山さんと同じ寺沢という役を演じていたので、『津嘉山さんは、青年期の寺沢をどう思っているのだろうか』とずっと気になっていたんです。そんなふうに言っていただけて、ホッとしましたし、とてもうれしいです。衣装合わせの時に津嘉山さんとお話をさせていただいたんですが、津嘉山さんが20歳のころのお写真を持ってきてくださって。監督からは僕と当時の津嘉山さんが似ていると言われました。津嘉山さんは『20歳のころは劇団に入りたてで、なんでもやろうという気持ちだった』と当時の気持ちを教えてくれました。映画が完成したあとの試写会でも、『初心を思いだした。そのままの純粋な感じでお芝居をやっていってくださいね』と声をかけてくださって、本当にありがたかったです」

――劇中では、寺沢が俳優の道に進む場面もありましたが、今後、田中さんが役者業を邁進していくうえでも、津嘉山さんからの言葉が力になりそうですね。

田中「本当にそう思います。津嘉山さんは現場でも、本番直前までいろいろなパターンでセリフの言い方を考えられたり、繰り返し練習をされたり、監督に相談をされたりと、研究をし続けていらっしゃいました。経験を重ねられても、その役をどこまでも突き詰めている姿を拝見して、とても刺激を受けました」

三浦「津嘉山さんからそういった言葉をいただき、私もとてもうれしいです。津嘉山さんは、心が広く、器の大きい方だなと感じています。車椅子を押しながら話すシーンでは、津嘉山さんにたくさん引っ張っていただきました。気取らず、どっしりと構えて現場に佇んでいる姿を拝見して、ものすごく勉強になりました」

――寺沢の数奇な人生を通して、本当の成功や幸せについて考えさせられる映画です。皆さんは本作を通して、どのようなメッセージを受け取りましたか。

赤羽「本作を観ると、人生を歩むうえでも一度立ち止まって、足元を見つめてみようという気持ちになるのではないかと思っています。向かい風か追い風かはわからないけれど、いま自分にどんな風が吹いているのか。その風を感じながら人生を振り返れば、過去には反省すべきことが見え、前を向けば、夢や志が見えてくる。地平線の向こうに、きっとなにかが見えてくるはず。皆さんにもぜひ、自分を見つめ直す機会にしてほしいです」

田中「若い時には、早いうちにお金や仕事の成功をゲットできたら幸せだと考えがちなものですが、僕は本作を通して、人のためになにかをすること、無償の愛を注ぐことこそが大事で、誰かを愛することで人生は変わっていくものなんだと思いました。僕自身、役作りにおいてもそうですが、映画の物語からも人間として成長することをたくさん勉強させていただきました。すばらしい作品に関われて本当によかったなと思っています。ご覧になる方にも、物語としてのおもしろさと共に、愛や人生について感じていただければうれしいです」

三浦「私は、本作を通して、たとえ失敗があったとしても、後悔しないような生き方をしたいと思いました。寺沢さんは20歳に戻りましたが、誰しもが人生は一度しかないものなので、自分できちんと選択して、責任を持って行動をしていけば、何があっても『後悔はない』と思えるはずだし、それこそが幸せな人生なのかなと思っています」

取材・文/成田おり枝

9月29日(金)公開の『二十歳に還りたい。』より、赤羽博監督、田中宏明、山根明香にインタビュー!/撮影/杉映貴子