『関ヶ原』(17)、『ヘルドッグス』(22)の原田眞人監督が、直木賞作家、黒川博行による小説「勁草」を映画化したクライムサスペンスエンタテインメント『BAD LANDS バッド・ランズ』(9月29日公開)。特殊詐欺を題材としており、犯罪を生業とするネリとジョーの姉弟役に国内外で高く評価される演技派、安藤サクラと、役者としても活躍目覚ましい山田涼介が扮し、話題を呼んでいる。

【写真を見る】ゆきぽよ、へそ出しルックでピース!山田涼介演じる弟キャラ全開のジョーを全肯定の姉気質

映画化にあたっては、主人公を女性に変えるという大胆な変更がなされた。それによりネリとジョー、姉弟の過去や関係性、親子の愛憎が軸となって物語が進む。原作のハードボイルドな空気感は健在で、緩急ある味わい深いドラマになっている。いち早く本作を鑑賞した、恋愛リアリティショーで一躍人気を博し、幅広い世代から支持されるファッションモデルのゆきぽよこと木村有希も、最初こそ「刑事ものや犯罪系のドラマって難しいのかな?と思ったけれど、メチャクチャおもしろかったです!」と興奮気味に語る。

■「ジョーはお姉ちゃんのことが大好きで、ネリもなんだかんだ言って弟が大好き」

序盤は、大阪で特殊詐欺グループの受け子のリーダー、通称“三塁コーチ”を務めるネリが周到な準備のもと、あらゆる危険を想定&察知しながら計画を実行していく様子を、つぶさに目撃することができる。グループを追う刑事たちとの攻防が見どころで、ニュースで日々耳にしてはいるが、その詳しい実態は噂レベルでしか知る由もない犯罪シーンに、ゆきぽよも「知らない用語がたくさん出て来て、“うわ!これがリアルな詐欺の現場なんだ”って思いながら観ていました。“指3本”で中止の合図とか、遠隔から指示を出したりとか。今後、そういうものを街で見かけたら通報しなきゃ(笑)」と、興味津々だった。

物語は、ネリのもとに刑務所に入っていた弟ジョーが舞い戻るあたりから、大きくうねりだす。ゆきぽよもグッと一段ギアを上げて引きつけられたそう。とはいえ、ハードなシーンばかりではないのが、本作の乙なところだ。「犯罪シーンの合間あいまに、いかにも大阪っぽいノリというか、ギャグみたいなツッコミが入って来て、クスッと笑ってしまうんです。それがポンポン来るので、テンポよく観られるんですよね」とおもしろさの理由を分析する。

ネリとジョーの姉弟関係が、心に響いたとも語る。「重い過去を抱えながらも軽やかに生きている2人が、すごくいいコンビでした。きっと撮影中も、充実した空気感だったんだろうなってことが伝わってきます」。しかし劇中、無鉄砲なジョーのせいで事態はたびたび悪化し、毎回ネリは尻拭いする羽目に。衝動的に行動してはトラブルを引き起こす弟に呆れながらも、ネリは決して見捨てない。ジョーの時に愚かとも言える言動は、サスペンス的には緊張感を高めるが、心情的には観る者をやきもきさせる。しかし、ゆきぽよは「私は可愛い弟だなあと思っていましたよ」と全肯定。「とにかく、お姉ちゃんのことが大好きで、ネリのほうもなんだかんだ言って弟が大好き。迷惑どころか、生きて帰って来てくれてありがとう~ってくらい、可愛くて仕方がないんでしょうね。それに最終的にジョーの取った行動は…すごくカッコよかったです!」。

ジョーに対する優しい眼差しは、ゆきぽよ自身が姉気質だからかもしれない。「あんな風に無邪気に頼られたら、私は甘やかすタイプなので溺愛しちゃいますね。私には少し歳の離れた妹がいるのですが、甘えん坊で可愛くて仕方ないんです。なにかおねだりされると、すぐ言うことを聞いちゃう(笑)。たまに電話を掛けて来て、『夢にお姉ちゃんが出て来て、お小遣いくれたよ』みたいに言われたら本当にあげちゃう(笑)。私の中では、妹がいくつになっても赤ちゃんのまま止まっているので」と姉の心の内をのぞかせる。

■「つらい経験をバネにして、超強い女になったネリはカッコいい

弟のジョーのみならず、受け子のホームレスなど、周りからも頼りにされるネリだが、過去が少しずつ明らかになるにつれて、そのあまりに壮絶な経験に思わず胸がふさぐ。ゆきぽよも、「幼少期にメチャクチャなハードルを乗り越えてきた人ですよね。しかも、東京に上京してからもまた酷い目に遭って…。でも、ネリのような目に遭う女の子って、現実にも結構いるんじゃないでしょうか。頼れるところもなく、どうしようと途方に暮れた時に手を差し伸べてくれた人と恋に落ちたと思ったら、一転してひどいことをされる、みたいな…。ネリは、そういうところから抜け出す術を自分で探して、こんなに強くなって生きているからこそ、カッコよく見えるのだと思います」と力を込める。

だからこそ若い女性に、本作を観て欲しいと語る。「あんな風に男に酷い目に遭わされながらも、それをバネにして力に変えて、超強い女になる。そういう、自分で生きる道を切り拓いていくたくましい女性に私もなりたいな、って思いました。というのも、私も失恋したら病むタイプなので。ただ、私は殴られるタイプでもないし、喧嘩をしても勝っちゃうのですが(笑)。みんなにも、ひどい恋愛きっかけでつらい人生を送ることになる女性にならないで欲しくて。もちろん、犯罪に手を染めてもいいわけじゃないけれど、本作を観ると、一度負けてもネリみたいに自力で立ち上がれる女性になれる、絶対こうなれるんだって思えるから!」とキッパリ。

■「安藤さんは、どこか不思議な役もすべてこなせてしまう方」

過去と現在で大きく変化するネリを演じた安藤に対しては、「本当にスゴい女優さん。どこか不思議な役も、すべてこなせてしまう方ですよね。本作でも、誰かに依存している時の喋り方と、大阪弁で舌巻きまくりのしゃべり方、勢いのスゴさがまったく違っていて。それも印象的でした」と手放しで絶賛する。続けて、「こういう世界が合ってる女性なんだろうなと思いました。すごくネリが楽しそうに見えて。できれば犯罪に加担せずに強い女性になってくれていたら、もっとよかったんだけどな」と苦笑い。

一方、ジョーを演じた山田については、「(東京出身の)山田さんの関西弁、すばらしかったですよね。普段のアイドルとしてキラキラしているお顔からは想像できない、悪そうな顔や怖そうな表情などに見入ってしまいました」と感心する。とはいえ、ジョーのせいで、様々な危機が2人に訪れるのだが、仮にピンチに見舞われたら、自分ならどうするかと問うと、「私はピンチを切り抜けようとしないタイプ。されるがままです(笑)」と予想外の回答。それは取材日前日に観たホラー映画で改めて実感したそう。「どうにかして逃げようとするより、“怖い”のほうが勝っちゃって、ただ寝たふりをするだけになりそうです。それでお化けに襲われたら、気絶してそのまま天国に行くコースを選ぶタイプです」と断言する。

■「天童さんは可愛いのに、ものすごく迫力があって怖かった!」

はたして、億を超える大金を手にすることになるネリとジョーだが、しかしなかなかそれを持ちだせない。そんな事態に陥った2人は、いかにして迫りくる様々な敵から金を守り抜き、自分たちのモノにできるのか。色濃いキャラクターがひしめく敵対勢力の一人を演じたのは、なんと天童よしみ。ゆきぽよも、「天童さん、スゴかったですね!メチャクチャ悪くておもしろくてビックリしました。可愛いのに、ものすごく迫力があって怖かったです!」と完全に脱帽した様子だった。

「もし2人のように突然、大金を手にしたら?」という問いに対しても、家族愛にあふれる答えにホッコリさせられた。「まずは妹に車を買ってあげますね。それからフィリピンおばあちゃんの家を広くリフォームする。あとは貯金かな。もし使うなら、やっぱり家族のために使いたいです。職業柄もあって美味しいご飯屋さんに行く機会も多いのですが、そういう時もやっぱり家族と食べたいなって思っちゃうので。私だけ美味しいものを食べているの、なんかズルくない?って」。

■「ちゃんとまっとうな仕事をして、ご飯を食べていくのが一番の幸せだと分かる」

そんな家族想いのゆきぽよが、どうしてもこの映画を観て欲しいのは、「やっぱり若い世代の人たち」だと語る。「いまの時代、よく知らないからこそ危ないバイトに軽い気持ちで手を出してしまう若い子が多いらしくて。一見、おいしそうに聞こえる話には裏があるし、そんな簡単に稼げる仕事なんてないですからね。この映画を観たら、ちゃんとまっとうな仕事をして、ご飯を食べていくのが一番の幸せだと分かるんじゃないかな。(生瀬勝久演じる)高城さんも本作で、『新入りや年寄りはみんな使い捨てだ』って言っていますよね。本当にその通りなんだなって感じますから、反面教師にしてほしい。映画はメチャクチャおもしろいのでとりあえず観てもらって、そうしたら自然と、そういうことも感じ取ってくれるんじゃないかな」とし、エンタメ要素と社会的要素、両面から自信を持って推せる作品だったようだ。

万引き家族』(18)や『怪物』(23)などとはまた一味違う魅力を放つ安藤サクラの存在感や幅広い演技力も最高なら、山田涼介ほか生瀬勝久、吉原光夫、淵上泰史、江口のりこ、宇崎竜童ほか個性派俳優がみなそろって怪演する本作は、いろいろなお楽しみとハラハラ、深い味わいがたっぷり詰まっている。是非、劇場でネリとジョーの闘い、それぞれの行く先を最後まで観届けて欲しい。

取材・文/折田千鶴子

ファッションモデルのゆきぽよが『BAD LANDS バッド・ランズ』のおもしろさを力説!/撮影/興梠真穂