近年、業務の効率化や生産性の向上を目的に、企業のデジタルトランスフォーメーション(以下、DX)化が推進されています。なかでもSaaSを導入している企業は多く、その市場は右肩上がりに成長しています。SaaSとは「Software as a Service」の略です。それまで企業は業務にソフトウェアを使用したい場合、ライセンス販売されているパッケージ化された製品を購入する必要がありました。SaaSは、このソフトウェア製品を企業が購入せずとも、 クラウドサービス業者がソフトウェアを稼働し、ユーザーがアクセスすることによって、必要な機能を必要な分だけ利用できるサービスです。月額または年額(一部無料版も)を支払って利用するサブスクリプション型のため、導入時のコストを大幅に削減することができます。SaaS市場は2025年度に1兆5,000億円(※1)を超え、国内のDX関連全体の市場は、2030年度には約5兆円(※2)を超えると予測されています。そうしたなか、昨今DX化や業務効率化を推進する企業の間では、“ネクストSaaS”と呼ばれている「BPaaS」が注目されています。本記事では、「BPaaS」について分かりやすくゼロから解説します。 (出典:富士キメラ総研) ※1 https://www.fcr.co.jp/pr/22025.htm ※2 https://www.fcr.co.jp/pr/22087.htm

※本稿は、テック系メディアサイト『iX+(イクタス)』からの転載記事です。

「BPaaS」とは?

従来の言葉の意味として、BPOとは「Business Process Outsourcing」の略称で、企業の業務プロセスの一部を一括して外部委託することを指します。それに対して、「BPaaS」とは「Business Process as a Service」の略称で、SaaSとBPOを掛け合わせた造語です。

すなわち「BPaaS」とは企業がアウトソーシング(外注)を行う際、クラウド経由でビジネスプロセスと必要なソフトウェアを含めて外部委託できるサービス形態のことを指します。

最近目にする機会が増えていますが、実のところその定義は明確に定まっていません。

現在求められている「BPaaS」とは、業務のプロセスに必要なサービスの提供に留まらず「サービスを利用するうえで本来、“人”が担うべき労働力までの、アウトソーシングをセットで提供する」サービス形態です。

SaaSやBPOとの違いは?

「BPaaS」の前身とも言えるSaaSやBPOとの明確な違いは何でしょうか。SaaSとは前述のとおり、クラウド上でソフトウェアを提供するサービスを指します。

近年、日本では少子高齢化による労働人口の減少から、働き方改革や業務効率化が求められ、DX化は国策として推進されています。それに伴い、各業界でのテック化(=“●●Tech”)が急拡大しました。

たとえば、銀行や証券などの金融サービスとIT技術を組み合わせたFinTech(フィンテック)や、法律分野にIT技術を導入したLegalTech(リーガルテック)、教育にテクノロジーを活用するEdTech(エドテック)などです。

各企業はこのようなITツールを導入し、業務効率化を進めています。一方で、BPOとは前述のとおり、事業活動における業務プロセスの一部を切り出し、一括して外部に委託する外注サービスを指します。BPOは、業務プロセスを整理した上で、システムの開発から簡単なデータ入力までを請け負うため、非常に広義的です。

日々アップデートされているSaaSのなかには、業務を強力に支援するものや、AI搭載の高機能なものなども存在し、幅広い業界におけるDX化に非常に役立ちます。しかし、実際にそれらのサービスを活用するとなると、入力や登録、確認業務など“人による作業”が新たに生じます。

このように、ツールであるSaaSと、作業そのものを外注するサービスであるBPOが組み合わせたのが「BPaaS」です。

SaaSから「BPaaS」へのシフトチェンジが必要な理由

昨今のSaaSの普及拡大は、新型コロナウイルス拡大の影響でテレワークを導入する企業が増加し、場所や時間を問わずに作業できる環境構築が急がれたことが背景にあります。

さらに、国税関係帳簿書類を電子データで保存することを認め、電子データとして授受した取引情報の保存義務等を定めた「電子帳簿保存法(正式名称:電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律)」が2022年に改正された影響も関係しています。実際に本法律の施行に伴い、バックオフィス分野においては特に、SaaSの普及率が著しく伸びています。

しかし一方で、実際の現場では従来のアナログ作業から突如デジタル作業に切り替わることに抵抗を感じる社員がいたり、SaaSをせっかく導入しても、それに伴うアナログ作業(=労働力)が新しく発生することから、現場で使いこなすことができず、結果的に解約することになってしまったり…という問題が起こっています。

業務効率化を目的にツールを導入しても、そのツールを使うのが人間である以上、SaaSの導入だけでは解決しない場合が多く、新たに発生した作業を担う人力がどうしても必要になるという課題がありました。

このような状況を考えたとき、既存のSaaSと“人による作業=隠れた人力(労働力)”はセットにして提供するべきであり、すなわち、SaaSから「BPaaS」へのシフトチェンジは不可欠であると言えます。

「BPaaS」活用成功のカギを握るポイントは?

「BPaaS」は、クラウド経由でサービスを提供するSaaSと企業の業務プロセスを一括して外部委託するBPOハイブリッドです。

前述のとおり、従来アナログで行っていた業務フローをイノベーティブに改善するためには、必ずそれを支える人力が必要です。それらを踏まえたうえで「BPaaS」の活用には、次の3点が重要なポイントとなります。

まず1つ目はセキュリティです。とある企業の業務を、クラウドを通じて代行するには機密性の高い情報を扱う場合もあるため、十分なセキュリティ体制が不可欠です。

2つ目は業務の納期、3つ目は言語です。「BPaaS」を多言語で提供し、日本国内のクラウドワーカーに加えミャンマーカンボジアベトナムフィリピンなど海外の人材も活用することで、低コストかつ高クオリティなサービスの開発が可能になります。加えて、海外との時差を活用すれば業務スピードを大幅に短縮し、納期に余裕をもたせることも可能です。

また、国籍を問わずシニア層や障がい者など、より多様な人材のなかから適当な人材を活用するサービス業者もあり、企業が導入を検討する際は表面的な利便性や効率性だけでなく、その裏でどのような人材、どのような体制で運営されているかを確認しておくことが「BPaaS」導入成功の鍵を握るポイントと言えるでしょう。

時代に合わせて企業が変革・改善していくために

企業が「BPaaS」を導入することによって得られるメリットは、大きく分けて3つあります。

まず1つ目は業務効率の改善です。紙で行っていた業務をデジタル化し一元管理することで、作業時間の短縮や検索性が向上し、大幅に業務効率の改善を図ることができます。

2つ目は、生産性の向上です。従来のBPOでは、事務作業や問い合わせの対応といった、ノンコア業務を請け負うことが多い傾向がありました。しかし「BPaaS」では、入社手続きや月次の会計処理、給与計算など幅広い業務をスマートに外部委託することができます。そのため本来のサービス機能をしっかりと活用することができ、生産性が格段に向上します。

3つ目は、コストの削減です。「BPaaS」の裏側では、各業界やサービスにおける専門的な知識やノウハウをもつ人材が効率よく業務を実施します。結果、自社の従業員は自身が作業するよりもはるかにコストを抑え、空いた時間でより利益の高いコア業務に集中することができます。

SaaS導入の急拡大により、DX化推進においては“ITツールやAIだけでは完結できない人の手による作業”が必要である、という新たな課題が課せられています。企業がその課題を解決し、組織の在り方や業務への取り組み方を変革・改善していくためには、「BPaaS」のニーズはますます高まっていくでしょう。

SaaSとBPOのハイブリッドとして活用される「BPaaS」・5つの事例

現在、実際に提供されている「BPaaS」サービスは各々が人材の活用範囲や作業依頼方法が異なり、さまざまな様相を呈しています。

たとえば、従来は社員が行う必要があった申請書の提出や発行業務などを外注できるフローとしてサービス内に組み込み完結させているもの。さらに、その延長で申請書の登録・入力作業を依頼したい場合、サービス内のボタンひとつで外部へ追加オーダーできる仕組みをもっているものなど、利便性の高いものが存在します。

ここでは、そのようにさまざまなニーズに応えて活用されている「BPaaS」の5つの事例をご紹介します。

「記帳代行支援サービス」(弥生会計

弥生株式会社が提供している「弥生会計」は、ご存じの方も多いのではないでしょうか。法人や個人事業主の業務に幅広く使われている会計ソフトです。

弥生シリーズの各製品では、経理や給与などのバックオフィス業務の自動化を支援しており、なかでも会計事務所向けの記帳代行サービスである「記帳代行支援サービス」が「BPaaS」にあたります。

会計事務所が決算書を作成するには、請求書や領収書などを記帳する作業が必要ですが、それらをデジタル化するツールの活用には人力が必要です。紙の請求書や領収書を、人の手でスキャンし、入力するという仕組みになっています。

この「記帳代行支援サービス」を導入することで、入力・確認・修正にかかる工数を減らせるだけでなく、担当者ごとの品質のばらつきやミスを減らせるというメリットも得られます。

業務効率化を推進する「BPaaS」活用のメリット

「クラウドサインSCAN」(クラウドサイン)

契約マネジメントプラットフォーム「クラウドサイン」が提供する「クラウドサイン SCAN」もまた、多くの企業に活用されている「BPaaS」です。弁護士ドットコム株式会社により提供されています。

「クラウドサイン」は電子契約を締結できるサービスで、コロナ禍において急成長したサービスの1つです。このサービスを導入することで契約締結業務における印刷、製本、郵送などの手間が省くことができ、作業時間が短縮できます。もちろん、人件費も削減できます。

さらに、書類の紛失や契約書の内容の改ざん防止といった電子契約ならではのセキュリティ面でのメリットに加え、過去に紙ベースで取り交わした契約書をデジタル化し保管する機能も備えており、契約書の一元管理ができます。

しかし、「クラウドサイン」を導入するには、紙の契約書をスキャンしてタグ情報を打ち込むなどのデジタル化作業対応が必要であり、多くの企業においてその人手が不足しているために、クラウドサインサービスへの移行を諦めるといった状況に陥っていました。

「クラウドサイン SCAN」は「BPaaS」として、企業から郵送された紙の契約書を人力でデータ化し「クラウドサイン」に取り込むサービスを提供しています。本サービスを利用することで、過去に紙で締結した契約書と新たに電子で締結する契約書の両方を「クラウドサイン」に集約できます。

「Chatwork アシスタント」(Chatwork)

メール・電話・会議に代わるビジネスチャットツール「Chatwork」を運営するChatwork株式会社は、「BPaaS」の仕組みを使ったオンラインアシスタントサービス「Chatwork アシスタント」を提供しています。

「Chatwork アシスタント」は、「Chatwork」上から必要なタイミングで必要な分だけ業務を外部に依頼でき、経理・労務・総務などバックオフィス関連を中心に、さまざまな領域における業務のアウトソーシングが可能です。

業務効率化のためSaaSを導入したにもかかわらず、ITの知見やノウハウ不足のため、使いこなせないというケースは少なくありません。特に、中小企業はその傾向が顕著に見られます。「Chatwork アシスタント」は専任サポートが効率的な業務設計・運用構築を行い、日々の運用を代行してくれるため、確実に業務効率化を推進することできます。

入札情報速報サービス NJSS

「入札情報速報サービス NJSS(以下、NJSS)」は、株式会社うるるが提供している、入札情報や応札・落札情報の速報サービスです。一般的に、官公庁や自治体など公的機関のwebサイトは、公示された入札・落札情報が探しづらい場合が多く、企業の入札担当者は情報収集に手間がかかる傾向にありました。

NJSSは各機関の情報収集とデータ化に人力を活用し、専門スタッフが運用を行います。人力を活用して収集する入札情報および落札者情報は、従来のクローラー(※3)やスクレーパー(※4)では収集できない網羅性の高い情報となっており、高付加価値を生んでいるサービスです。そのため、ユーザーはデータベース化された情報からさまざまな条件で簡単に検索が行えるため、手間がかかる情報収集の作業時間を削減し、効率的且つ戦略的に入札に参加できます。

※3 ウェブ上の文書や画像などを周期的に取得し、自動的にデータベース化するプログラムのこと

※4 ウェブページからデータを抽出するために構築されたプログラムのこと

fondesk

「fondesk」は、会社や事務所の電話を代行して取次ぎ、チャットやメールで電話の内容をお知らせするサービスです。株式会社うるるが提供しています。

「fondesk」では、オペレーターが行っている電話の一次受けを人力で行っています。これまで、自動音声による電話代行サービスは多く存在していたものの、実際に人が対応することの重要性やニーズが高く、人力を活用するSaaSが求められていました。「fondesk」を利用することにより、オフィスにかかってくる営業電話の対応や、電話番業務をなくすことで、社員の生産性アップが期待できます。

労働力不足という課題解決のために――企業にとって必要不可欠な「BPaaS」という新しい存在

DX推進やSaaS導入の背景には、日本が抱える深刻な人手不足という課題があります。最新システムやAIなどを導入して積極的な業務改善や生産性向上を掲げる企業が増加している一方、便利な最新ツールを活用するためには結局人力が必要であり、ツール単体で完結するサービスはほとんどないと言っても過言ではありません。

それを証明するかのように、SaaSを導入したものの使いこなすことができず解約する企業が多いのも事実で、人力のサポートがないシステムのみを提供しているサービスはチャーンレート(解約率)が高い傾向にあります。

そのような状況から、SaaSとBPOハイブリッドである「BPaaS」は、DX推進のスピードダウンを回避する一手として有効です。今後さまざまな業界において広がりをみせ、定着していくことが予想されます。

これから新たに提供される「BPaaS」においては、各業界特有の作業工程を捉えたうえで、それをどのように効率化し、どのような人力をどこでどう活用していくか? 理解し整備するノウハウがより重要になってくると言えるでしょう。

また、既存のSaaSにそういった要素を付加することで、BPaaS化するものも多く現れることが見込まれます。

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桶山 雄平

株式会社うるるBPO代表取締役社長 

1980年生まれ、北海道出身。うるる創業メンバー。株式会社うるる取締役副社長(現任)。うるるの創業事業であるBPO事業を創業時より担当しており、2014年10月にBPO事業を新設分割、株式会社うるるBPO代表取締役社長に就任(現兼任)する。上場準備期間の2015年4月~2019年までの間は株式会社うるる取締役副社長CFOを兼任。

(※写真はイメージです/PIXTA)