ビートたけしによる青春自伝小説を原作とした、音楽劇『浅草キッド』が10月8日(日)から明治座ほかで上演される。

初の舞台化となる本作で主演・北野武役を務める林遣都、武の師匠であり、武の人生を決定づける深見千三郎役の山本耕史、そして脚本・演出を担う福原充則。8月の終わり、製作発表会見を終えたばかりの3人に話を聞いた。

たけし役を演じることで、自分も肝が座っているような感覚に

――稽古が始まりました。どんな作品にしたいと思って稽古に臨まれていますか? 実際に稽古に入ってから感じていることもあわせて教えてください。

福原 こんな風に作りたい、というのはいろいろあるんですけど、脚本を書いているときからずっと思っていることは、武も深見もあまり本音を語るような人たちじゃないんですね。仮に繊細な会話劇として作ろうとすると、お互い核心に触れない会話が続きそうだなと思って、歌に本音を込める形で作ろう、と。稽古はまだ始まったばかりなんですが、例えば、武が最初に歌うシーン。僕もそうですけど、稽古場でそれを聴いている役者さんの空気の締まり方というんですかね。そのシーンに出ていなくて脚本を読んでいた人も顔を上げるぐらい、キュッと空気が締まって。早くお客さんに見せたい気持ちでいっぱいです。

――林さんはずっと福原さんの作品に出演したいと思われていたそうですね。実際に参加してみていかがですか?

 楽しいです。毎日結構長い時間、稽古をやっているんですけど、本当にあっという間に感じます。最初に全キャストとスタッフの皆さんが集まって本の読み合わせをしたときに、福原さんが「いっぱい間違えてください。自分で読んで感じたことや、やろうと思ったことをとにかく自由に出してください」と仰ってくださったのですが、その言葉通りの稽古場だなと思います。そういう時間がすごく楽しいですよね。

――山本さんは稽古についてはいかがですか?

山本 僕は序盤に出ないこともあって、まだ僕自身のお芝居の稽古は本格的には始まってないんですけど、タップや歌の稽古を中心にしています。いや、正直、今のままでももう出来上がっているのでね。この芝居がどういう風になっていくのか、すごく楽しみです。今みたいにわちゃわちゃしている感じもそれはそれでいいけど、福原さんがこれからどんな風に演出するのかなと思いながら見ています。

――製作発表会見では読み合わせの感想を「思った数倍良かった」とお話されていました。

山本 僕、ドラマ版も映画版も観ていないんですよ。Netflixの映画版は大泉(洋)さんがやっているらしいというのをなんとなく知っていて、観ようかな? どうしようかな? と思っているんだけど、今回の台本を読んでイメージができますからね。何かに寄せようとか、(深見千三郎)ご本人を研究しようとか、それも必要ない気がしていて、その中で自分をどういう風に入れるのかを今、考えている感じですね。

――ちなみに林さんはビートたけしさんに寄せるのでしょうか......?

 うーん......そういった考えは最初からないです。

山本 ちょっと待って。今の言い方、ちょっとたけしさんに似ていなかった?(笑)。1年間たけしさんを意識してきたから似てきたのかな?(林さんのマネージャーに)いつもこんな感じですか?

 (マネージャーに対して)いつもこんな感じだよね?(笑)。......いや、実は今日の会見がすごく楽しかったんです。僕はこういった場が1番苦手なんですよ、緊張するし、自分の言葉を伝えなければいけないので。でも、今、たけしさんの役をやっているからなのか、周りを気にしすぎるのを辞めて、たけしさんのように、自分も肝が座っているような感覚でいられるんです。そうしようと決めたわけではないんですけど。いつもは周りの方が喋っているときですら見え方をすごく気にするタイプだったんですけど、気にしないでいると、それは楽だなと思ってきて......。今まで自分が大事にしてきたことは継続しつつ、自分らしくいることの良さみたいなものを、たけしさんの役を通じて気づかせてもらっている気がします。

孤独な人が舞台上で輝いている姿を見たい

――脚本の中で好きなセリフはありますか?

山本 いっぱいありますよ。「人を演じていればいいんだ」という素敵なキーワードになりそうなセリフも「なるほどな」と思うし、例えば「うるせー馬鹿野郎」「何やってんだこの野郎」とちょっと口悪いセリフも、なんか愛情を感じる部分もあるんです。むしろ、そこが意外と大事になってくる気もしています。ネタバレではないけど、僕のアイデアとしては、僕自身がちょっとたけしさんっぽくやる瞬間も入れてみたらどうなるかなと思っていて。「ビートたけし」になる前の武に影響を与えたのが深見だから、僕の方が今のたけしさんっぽさを入れてみてもいいのかな、なんて。

 小説でも福原さんの脚本でも、刺さる言葉は僕もいっぱいあるんですけど......言葉というより、福原さんの演出で面白かったのは、学生運動をしている大学生が話すシーン。福原さんが演じている役者さんに「ちゃんと本当に言葉が分かるように」と強く仰っていたんです。言葉が届いても訳がわからないセリフなんだから、だからこそちゃんと伝えなくては、と。面白いなと思いましたよね。

――福原さんは林さんと山本さんにどんなことを期待していますか?

福原 ふたりともいい意味で、表現者として影があって、孤独そうに見えるなと思っています。それがネガティブな意味ではないのは、自分の足で切り拓きながら歩いてるなとか、矢面に立っているなとか、 果たすべき責任から逃げずにいるな、みたいな意味での孤独感を感じているからで、そういう役者さんが役に自分を少し投影しながらも、 舞台上でいろいろな人と関係性を築いて輝く瞬間がなんか愛おしいんですよ。孤独な人が舞台上でいろいろな人とコミュニケーションをとって輝いている姿を見たい。実際どうなのかは知りませんよ? 今、おふたりは「俺たちほどのパーティー人間はいない!」って思いながら聞いてるのかもしれないんですけど(笑)、それは片思いでもいいというか。台本の誤読と一緒で、別に役者の人間性なんて僕は間違っちゃっていいと思っているので、勝手な幻想を抱いて、今、見ています。

――林さんと山本さんはそれぞれの役のために、どんなことが今必要になってきていると感じていますか?

山本 タップですよ! お芝居とかそういうものはちょこっとやってきてはいるけど、誤魔化しの効かないことがやっぱりあるから。振付のRONxII(ロンロン)さんのタップを見ていると「これ、俺、本当にできる?」という感じなんですけど(笑)、ロンロンさんが「本番までには間に合います」と彼なりのビジョンを持って教えてくれているので、それを信じてやっています……でも、昨日、林くんは大量に振付の“刑”にあったらしくて(笑)。もうやめて〜って思うよね(笑)

 本当に(笑)。でも本番まであと1ヶ月の段階で、脚本から音楽、振りも揃っているのは、多分幸せなことだなと思うんです。今、役のために必要なことは何かと言われたら、その明確に提示された課題を、残りの期間でクリアすること。これに尽きると思います。

山本 そうだね。あとは、僕は指がない設定(編注:山本さんが演じる深見千三郎は、戦時中に徴用された軍需工場で左手の指を4本失っている)。例えば目の前の飲み物を飲みたい場合、どう動くのかとかね。こういうこともいろいろ考えないといけないなと思っています。昔、片腕の剣士の役をやったことがあって、それに近いかもしれません。意外と書いてあることができないんですよね。僕は稽古場にあるものや使えるものを結構いろいろ使うタイプなんですけど、深見ならどうするかな? これはできるかな? と楽しみながら考えていきたいです。

影響を受けた先輩は?

――会見では作品にちなんで師匠は誰かという話が出ましたが、福原さんの師匠は?

福原 影響を受けた人でいえば本当にいろいろな人に影響受けたんですけど、中でも、鈴木さんという師匠がいまして。今、鰻屋です。この師匠にいろいろお芝居のことを教えてもらったんですが、師匠の親戚が中野にある「川二郎」という有名な鰻屋をやっていたこともあって、そこで何年か修行して、独立して、今、東中野で鰻を焼いています。で、師匠、十何年、芝居をやっていなかったんですけどね、ちょっと前に久々に芝居をやったんです。そうしたら死ぬほど面白くて! 嬉しかったけど、ちょっと落ち込みました(笑)。敵わない人には一生敵わないんだなと思ったし、死ぬほど面白かったんだけど、40人ぐらいしか入らない劇場だったので、師匠の芸は(世間には)伝わらないのかなぁと思ったりね。

――林さんは歌唱指導の益田トッポさんのお名前を挙げていましたが、先輩俳優の中での「師匠」として思い浮かぶ顔は?

 役者の先輩でいうと、大竹しのぶさんです。3年前ぐらいに舞台をご一緒させてもらったんですけど、もう楽しくて楽しくて。お芝居の楽しさ、演劇の素晴らしさを教えてもらいました。それ以降、役者として、人生についても、悩んだときは連絡させていただいています。

――山本さんは、(武の先輩芸人・高山三太役の)松下優也さんに「師匠」と言われてましたけれども、ご自身として俳優業の師匠はどなたかいらっしゃるんでしょうか?

山本 俳優業としての師匠。変な話「先輩だけど、考えたら(年下の)俺の方が芸歴長いじゃん」ということが結構あって、難しいんですよね(笑)。お世話になっている方だと、(佐藤)浩市さんの顔が浮かぶけれど、師匠という感じでもないかな......。あ、俳優としての技術だったら、僕、盗んだのが、意外かもしれませんけど池田成志さんです。もうびっくりするぐらい面白いから、「この人はどうやっているんだろう」と。それから福田転球さん。あの感じは真似できないし、酒を飲むとどうしようもないんだけど(笑)、あの頃の演劇の人たちからは影響を受けたかもしれないですね。

福原 今回の脚本を書くときに「馬鹿野郎」と普段から言う人が身の回りにいないかなと思い、イメージしたのは成志さんでした(笑)。成志さん、僕の芝居を観に来てくれて「福原、面白かったじゃないか。馬鹿野郎」「馬鹿野郎、面白い芝居作りやがって」と言うんです。たんだけど、40人ぐらいしか入らない劇場だったので、師匠の芸は(世間には)伝わらないのかなぁと思ったりね。

山本 そうなんですね(笑)。20代前半で成志さんとご一緒したときに、どうやってアイデアを出すのか聞いたら、「 いや、俺、別に人を笑わそうと思ってなくて、自分が面白いと思うことをやっている」と言っていて。そのメンタルはすごく大事じゃないですか。誰かを笑わそうと思わず、自分が面白くてたまらないことをただやるというね。だから、僕は稽古場で面白いことをやって、「シーン」となったときに「よし」と思う。逆に笑われたら、ちょっと変えようとするところがあるな。

――「シーン」となったときに「よし」と思うのは、なぜですか?

山本 いや、俺だけしか面白いと思ってないということだから。みんなが面白いと思うことは、ある程度想像してできますよ。やれと言われたらやるけど、それよりは自分が腑に落ちたことをやった方がいいじゃない。自分が絶対面白いなと思うことだけをやると、周りの反応ひとつで落ち込まない精神状態ができると思うんです。

どのキャストも背景になってほしくない

――改めてこのカンパニーの雰囲気についてどう感じていらっしゃいますか?

 個人的には同い年の松下優也くんがツボですね。関西人だからか、話のトーンやタイミングが面白すぎるんです。稽古場でも、松下くんはキャップをかぶって短パン姿でいることが多いのですが、(松下さんが演じる)高山のイメージでもなくて。そんな感じでいるのに歌や踊りがめちゃくちゃ上手じゃないですか。すごすぎて笑けて(笑えて)くるんですよ(笑)。自分でいろいろな踊りを自由に入れてくるのですが、そのレベルが高すぎて。お芝居もすごい。見ていてすごく刺激を受ける存在です。その松下くんが師匠と言っていたのが、耕史さん。松下くんも“怪物”だなと思っていたんですけど、じゃあ耕史さんはそれを超す、どんな“怪物”なんだという。恐ろしさとワクワクでいっぱいです。

山本 稽古場はどこかの居酒屋に来たみたいな雰囲気なんですよ、いい意味で。すごく心地いいお店なのね。仲間同士で固まって嫌だなと感じる店でもないし、それぞれのいい距離感があって、熱くてドライで、一人ひとりが互いを信用してるようでしていなくて。だって普通、(松下)優也くん、浮くでしょ?(笑)あんな歌上手くて、背も高くて。だけど、彼すらその「お店」の中の一部になっている。だから、俺もそこに入ると思うと、どういう一部になるんだろうなとすごい楽しみですよね。なんかミニチュアの中に入る感じ。本当は枠を飛び出てバーンとやりたい方なんだけど、この枠はとても重要な気がする。たまにぴゅっと出るのはいいけど、横にはみ出さないようにしたいなと思っています。

福原 僕が関わる舞台は、何度も出演してもらってる人も多くて。こんな言い方をしたら怒られるかもしれないけど、泥の中で一緒に芝居してきた人たちを集めているので(笑)、楽しくやってます。いわゆるアンサンブルキャストに背景になってほしくないんですよね。彼らもグルーヴを生む大事な要素だと思っていますから。

山本 ああ、いつもやっている人たちなんですね。いや、いい意味でプライドを感じるんです。稽古場で後ろに座っているキャストたちから「テレビから来てこの野郎、舐めんなよ」みたいなね。「いい度胸してるじゃねえか」とは思うんだけどね(笑)。そういう気概は必要だと思ってます。

取材・文:五月女菜穂 撮影:渡邊明音

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<公演情報>
音楽劇『浅草キッド

原作:ビートたけし
脚本・演出:福原充則
音楽・音楽監督:益田トッシュ
出演:林遣都 松下優也 今野浩喜 稲葉友 森永悠希 紺野まひる あめくみちこ /山本耕史 ほか

【東京公演】
2023年10月8日(日)~22日(日)
会場:明治座

【大阪公演】
2023年10月30日(月)~11月5日(日)
会場:新歌舞伎座

【愛知公演】
2023年11月25日(土)・26日(日)
会場:愛知県芸術劇場 大ホール

チケット情報
https://w.pia.jp/t/asakusakid/

公式サイト
https://www.ktv.jp/asakusakid/

左から)山本耕史、林遣都、福原充則