日々のちょっとした発言や行動の中で、相手にリスペクト(敬意)を伝える。その積み重ねがあるかどうかが、組織の一体感に大きく影響してきます。組織開発専門家・沢渡あまね氏の著書『悪気のないその一言が、職場の一体感を奪っている』(日本能率協会マネジメントセンター)より一部を抜粋し、職場の一体感を奪うコミュニケーションの具体例とその解決策を紹介します。

【具体例】トラブルが起きてから報告がくる

マネージャ―やリーダーはチームのメンバーから日々、さまざまな報告を受けます。その中には案件スタートの知らせもあれば、進捗状況を伝えるものもあるでしょう。何事もタイムリーに伝達されていればよいのですが、中には業務がかなり進んでから、初めて報告が上がってくるケースもあります。

情報共有が遅れるのはよくはありませんが、それでも順調に進捗しているのであれば、余計な波風は立たないでしょう。しかしときには、トラブルが起きてから報告がくるケースもあります。

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メンバー「すみません部長。じつはA社の〇〇さんとの間で、こんな問題が起こってしまいまして」

マネージャー「えっ?」

メンバー「先週〇〇さんからご依頼をいただいて対応していたのですが、お互いの認識に齟齬がありまして」

マネージャー「聞いてない!」

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報告を受けて、初めて問題が発覚するパターンです。私も過去に同様の経験をしました。このようなケースでは、マネージャーやリーダーは「知らない」「聞いていない!」と言ってしまいがちです。

「聞いてない!」はNG。叱責していたら事態は悪化する可能性

しかし、報告が遅いからといって「私は聞いていない!」「なんでもっと早く言わないんだ!」とメンバーを叱責していたら、事態はますます悪化していくでしょう。

第一に、マネージャーとメンバーが「言った」「言っていない」の議論をしていては、目下の問題への対処が遅れます。それよりも解決を急ぎたいところです。

次に、報告しても叱責されるだけで、マネージャーが問題解決の方法を一緒に考えてくれるわけでもなければ、メンバーは次に同じような事態に陥ったとき、報告をためらうようになるかもしれません。ひょっとして、常にそのような関係性にあり、マネージャーが関与するといちいちめんどくさいから、今回もメンバーは自分だけで解決しようと試みてしまったのではないでしょうか。自分一人でトラブルを収束させてから、事後報告しようと考えるかもしれない。これでは問題を一人で抱え込む組織風土が醸成されてしまいます。それは組織として不健全ではないでしょうか。

目の前の問題を早く解決するためにも、同じ過ちを繰り返さないためにも、対応を変えたほうがよいでしょう。メンバーから「機を逸した報告」が上がってきたとき、マネージャーやリーダーはどのように返答すればよいのでしょうか。

【解決策】報告を受けたら、まずは「感謝」する

「聞いてない!」「どうして早く報告してくれなかったのか」

その一言を言いたくなる気持ち、私も本当によくわかります。私もそのような発言をしてしまった経験があります。

しかし、そこで衝突していては、メンバーとの関係性も職場の風土もよくならないです。

報告を受けたら、まず感謝しましょう。疑問を感じる内容であったとしても、まずは「報告してくれてありがとう」と伝える。そしてそこから状況を把握しつつ、マネージャーとして自分ができることは何か、自分に何を期待しているかを、相手との対話を通じて合意形成していく。

トラブルの報告を聞くのは嫌なものですが、報告を上げる側も苦しんでいます。伝えれば叱責されるかもしれないのを承知の上で、それでもやはり言わなければいけないと覚悟を決めて報告をしている。その思いをくんで、まずはねぎらいの一言をかけましょう。

報告にはまず感謝やねぎらいを示す。それによって、メンバーは「問題が起きたときには、早く報告したほうがいい」「このマネージャーは話を聞いてくれる。日頃からコミュニケーションをとろうかしら」と感じるようになっていきます。

■「なぜ報告が遅れるのか」を考える

報告を受けた際の対応は以上になりますが、それに加えて「なぜ報告が遅れるのか」も考えてみましょう。

同じ問題が繰り返されているのであれば、報告を上げるプロセスに問題があるのかもしれません。例えば、マネージャーやリーダーがいつも忙しくて、席を外しているときが多い職場もあります。そのような環境では、メンバーが報告のタイミングをはかるのが難しいかもしれません。何かを伝えようとしても、マネージャーに「いま忙しいから後にしてもらえる?」と言われてしまう。「そのくらい自分で判断して」と突き放されることもある。

毎日そのようなやりとりが続いていたら、やがてメンバーは「こんな小さな話で手間をとらせたら申し訳ないな」と考えるようになっていくでしょう。

■報告のハードルを下げる

「報告しにくい環境」ができてしまっているのなら、それを見直す必要があります。マネージャーやリーダー、メンバーがフラットに報告・連絡・相談をできるように、業務プロセスの改善をはかりましょう。

その1つに、「報告の時間を設ける」方法。毎日何時から何時までを、報告を受ける時間として設定します。その時間は、マネージャーやリーダーは声をかけられたら作業の手を止めて報告を聞く。周囲に「話しかけにくい」と思われているのなら、その壁を取り除くのです。

壁のない時間をつくり、フラットに話しかけられる環境を用意する。それによって報告のハードルが下がります。

チャットツールで案件チャンネルをつくる

私が顧問をしている企業では、新たな案件が始まるとMicrosoft Teamsのチャット上にその案件名のチャンネルがつくられます。メンバーはそのチャンネルに進捗状況を書く。誰でもいつでも情報を書き込める。マネージャーはコメントを見て、コメントや気づきを返信する。報告・連絡・相談が日常的に、フラットにおこなわれる状況になっているのです。

マネージャーやリーダーは、そのチャンネルを見れば現在の状況を自分の都合のよいタイミングで把握できます。メンバーも、わざわざ報告しなくても、そのチャンネルで日々の仕事のやりとりがおこなわれていますから、マネージャーやリーダーに知ってもらえます。お互い、わからない点だけ質問すればよい。

TeamsやSlackなどのビジネスチャットツールを使っている職場であれば、すぐにでも実践できる方法です(もちろん、一定のテキストコミュニケーションスキルは必要であり、場合によってはその育成に時間とお金を投資したほうがよいでしょう)。

■備忘録もチャンネルに書き込んでいく

TeamsやSlackなどの案件チャンネルに、個人作業の備忘録を書き込むメンバーもいます。「備忘録」と書いて、何月何日までにこの作業、何日までにこの作業とメモを記入する。このやり方には4つのメリットがあります。

1つ目は自分自身へのリマインド効果。チャットを確認すれば作業の抜け漏れを防げます。

2つ目は他のメンバーとの連携。同僚が「備忘録」を見て、声をかけてくる場合があります。例えば「このお客さん、私も接点があるので連携しませんか」といった形で。備忘録に関係者が「この指とまれ」する機会が生まれるのです。

そして3つ目は報告の簡略化です。わざわざ報告の時間をつくらなくても、進捗状況が可視化されます。「いつ報告しよう/させよう」のような気遣いがなくなっていきます。

さらに4つ目、その人以外の人でも対応できるようになる。例えば本人や家族の突然の体調不良などで、期日にその対応ができなくなった場合。備忘録程度にでも案件チャンネルに残しておけば、他のメンバーが引き継げたり、その備忘メモをお互い見ながらチャット、オンラインミーティング、音声通話などで他のメンバーにフォローをお願いしやすくなります。

【ポイント】お互いをリスペクトする業務プロセスに

マネージャーやリーダーは忙しい。メンバーは報告のタイミングがつかめない。そのままではいつまでたっても情報共有の接点をつくれません。まるで天の川の織姫と彦星状態。「報告の時間」を設けたり、いつでも報告できる「案件チャンネル」をつくったりして、報告なる行為のハードルを下げましょう。

業務プロセスを見直して、お互いの立場をリスペクトする形に整えていく。報告しやすい仕組みをつくる。それによって、情報共有の遅れはなくなっていきます。無駄ないざこざも起こらなくなっていくでしょう。さらには「報告」なる上下関係を匂わす行為が、横でフラットに情報共有をし、解決する「相談」の文化に変わっていきます。

日頃のコミュニケーションの仕方は、ツールの使い方次第でも変わってくるのです。

沢渡 あまね

作家/ワークスタイル&組織開発専門家、『組織変革Lab』主宰

400以上の企業・自治体・官公庁で、働き方改革、組織変革、マネジメント変革の支援・講演および執筆・メディア出演を行う。著書『新時代を生き抜く越境思考』『うちの職場がムリすぎる。』『職場の問題地図』ほか。#ダム際ワーキング推進者。

(画像はイメージです/PIXTA)