Huluで配信中の「THE HEAD」シーズン2は、福士蒼汰がメインキャストに名を連ねる超大型国際ドラマ。シーズン1は冬の南極基地という閉ざされたシチュエーションだったが、シーズン2では太平洋を航海する科学探査船アレクサンドリア号が舞台となる。南極と海、場所は違えど“どこにも逃げ場がない”クローズドシチュエーションだ。気候変動に立ち向かうべく結成された科学者チームが乗る船で、突如巻き起こる怪事件。首のない死体は、一部の乗員たちに「南極基地ポラリス6」での惨劇を思い出させる。大人気サスペンススリラーの緊迫感あふれるシーズン2を、振り返っていこう。(以下、シーズン1およびシーズン2のネタバレを含みます)

【写真】南極基地「ポラリス6」で起きた惨劇、「THE HEAD」シーズン1を全話振り返り

■今度の舞台は海上の秘密研究基地「アレクサンドリア号」

第1話はシーズン1終了後の時間軸からスタートする。南極科学研究基地「ポラリス6」において、8人を殺害した罪でアイルランド刑務所に収監されていたアーサー。しかし彼は刑務所への移送中にある組織の仲間によって救出され、娘であるレイチェル・ルッソ(オリヴィアモリス)とともにアレクサンドリア号でおこなわれる新たなプロジェクトへ参加していた。

科学探査船アレクサンドリア号は、貨物船に見せかけた「秘密研究基地」。研究チームは数週間に及ぶ研究調査の末、ついに世界の環境問題を解決する“藻”の発見という大きな成果をあげた。しかし船内で祝賀会がおこなわれた翌朝、首がない研究員コワルスキーの遺体が発見される。その姿を見たアーサーが思い起こすのは、当然「ポラリス6」での事件。死体を見たアーサーは言う。「彼女が乗船してる。斬首は私へのメッセージだ」。シーズン1でアーサーを陥れた真犯人マギー・ミッチェル(キャサリン・オドネリー)が、司法の手から逃れたアーサーを追いかけてきていると考えたのだ。混乱して乗員たちを疑うアーサーだが、陸地までの距離は2700km…すぐに港へ向かったとしても、たどりつくまで4日はかかる。

一方他の乗員たちも同じく混乱していた。施設内には間違いなく顔見知りしかいない。犯人は昨日までともに研究成果を喜び、肩を抱いていた友人の誰かなのだ。そしてコワルスキーと“特別な仲”だったことから疑われた第一容疑者マーカスは自死し、遺体の爪に残っていた皮膚をDNA鑑定していた乗組員ザックも何者かに背後から襲われてしまう。

混乱極める船内では、さらにアーサーがコンピューター・エンジニアのユウト・ナカムラ(福士蒼汰)に協力を求める一幕も。彼の腕を頼り、彼が真犯人と確信しているマギーの捜索を依頼する。やがてユウトマギーと思しき人物がSNSに投稿していることを知り、アーサーに相談の上でメッセージを送信。すると相手は船内の状況を見ているかのように、「コワルスキーによろしく」と返信してきたのだった。

■うごめくマギーの影、疑心暗鬼が加速する(第2話)

第2話、DNA鑑定に使われていた装置は壊され、血痕が船外へ続くことからザックは恐らく海へ落とされたことが判明。ユウトマギーのことを探らせていたアーサーは、彼女がサラ・ジャクソンの娘で、オリヴィアジャクソンという名前であることを知る。「ポラリス6」で起きた惨劇の理由を、ここで初めて理解した形だ。サラは傲慢なアーサーが欲望のために死なせてしまったかつての研究仲間で、彼女の死はアーサーの栄誉と研究のために「不幸な事故だった」と世間に偽られていた。

ザックまでもが犠牲になったことで、船内はさらに混迷を極める。船員と科学者チームの間に溝ができ、誰もが疑心暗鬼に陥っていった。一番慌てていたのはアーサーで、彼は直ちに帰港して全メンバーを入れ替えることを決定。当然これまで研究を共にしてきたメンバーは大反対するが、アーサーの意思は曲げられない。そして全科学者メンバーに娘・レイチェルへ研究データを渡すよう指示する。

全員がデータをレイチェルに渡したあと、ラボに1人残っていたレイチェルは何者かによって冷凍室へ閉じ込められてしまう。冷凍室の電源を落とすことで間一髪助かったが、心臓マッサージなどの救命措置が必要なほどギリギリの状況だった。

さらにDNAの鑑定結果が装置のメモリに残されていることがわかり、ユウトが復元。第一の犠牲者の爪に残されていた肉片が、機関士・チャーリー(ホヴィク・ケウチケリアン)のものであることが判明する。

■兄弟を襲う悲劇(第3話

第3話では、チャーリーを拘束して部屋に監禁したことで大きく話が動いていく。容疑者となったチャーリーは、人一倍大柄で純粋無垢。ネズミのブランダが唯一の友達で、そして機関長である兄・オスカル(エンリケ・アルセ)以外とはうまく話せないほど人見知りの男だった。

場面は変わって本土。マギーの妹・シルヴィアが姉が暮らす家を訪れる。マギーアーサーの娘・レイチェルがチームに加わっていることを知って捜索していたが、シルヴィアレイチェルが最後に住んでいた住所を突き止めたのだ。しかしその直後、突如2人の男が銃を手に家へ押し入ってくる。姉妹は力を合わせてなんとか返り討ちにしたものの、銃で撃たれたシルヴィアは間もなく息を引き取ってしまう。マギーは妹の死を看取りながら、自身の復讐に巻き込む形で殺してしまったアキ・コバヤシ(山下智久)の幻影に、復讐の先に待っているものを聞かれて黙り込んだ。

さらなる悲劇が起きたのは第3話の終盤。弟の無実を信じて奔走していたオスカルは、ついに機関を止めることで抗議に出る。弟を解放するまで機関を再始動させないという脅しは、すなわち研究成果である“藻”の死滅を意味した。しかし折り悪く、大柄なチャーリーは混乱の果てに自力で監禁された部屋の扉を打ち壊して脱出してしまう。

彼は無垢だが、大柄だけに混乱して暴れたら手を付けられない。オスカルは船長であるルノー(ティエリ・ゴダール)と一緒にチャーリーを助けにいくのだが、恐怖のあまり見境をなくしたチャーリーは相手を見ずに攻撃。しかし自分が殺してしまった相手は、最後まで心配し続けてくれた兄だった…。

タイムリミットが迫るなか、コワルスキーのPCに奇妙なデータが…(第4話)

第4話、機関は依然停止したまま、藻に供給される酸素は刻一刻と減っていく。せっかく成果をあげた研究対象の藻があと2時間しかもたない。そこで保安責任者でもあるアレック・カーツ(モー・ダンフォード)が延長用電源ケーブルを持ち、機関と藻の培養装置を直接接続するために船内へ向かうことに。

愛する兄を自らの手で殺害してしまい、正気を失ったチャーリーが潜む船内。危険な道行だが、アーサーが50万ドルの報酬を約束したことから料理人のワンが機関室までの案内を名乗り出る。しかし機関室が目の前というところでチャーリーに見つかり、2人は倒されてしまった。

一方、最初に殺されたコワルスキーのノートPCを解析していたユウトがついにパスワードを引き当てる。パソコンの内部には、アーサーの研究とは異なるレポートが書かれていた。アーサーの部下・グロリアアーサーの部屋へレポートの内容を報告に行くと言い、ラボを後にする。

■歪んだ思いが交錯し、謎が混迷を深める(第5話)

第5話の冒頭、船内に2発の銃声が響いた。部屋に駆けつけたクルーたちが見たのは、手を出血するアーサーと、浴室で倒れるグロリアアーサーは彼女が銃を出したため自己防衛し、その末に銃の暴発によってグロリアが死んだと話す。彼女のポケットからは殺されたコワルスキーのIDカードが発見され、同カードがザック殺害時に使用された経緯から彼女が研究結果を盗もうとしたスパイだったと結論付けられた。

しかしその結論に違和感を覚える人も。ユウトは直前までグロリアと一緒にいて、彼女がアーサーの部屋へ報告に行ったことも知っている。レイチェルアーサーグロリアの犯行が信じられないと言うと、救護室で治療を受けていたアーサーは人生哲学を明かす。「人間は皆弱くて、惨めで、おびえた魂を隠して生きてる。愛情や思いやりを受けるに値するフリをしてるんだ。本性は違う。仮面舞踏会のようなものさ。残酷さも隠してる」と、グロリアが本性を皆に明かさなかっただけだという。

そしていままで研究のために一切家庭を顧みなかったこれまでの人生を悔やみ、レイチェルに「救いたい命は1つだけ。娘のために世界を救う」と声をかけた。

場面は変わり、マギーの姿が映される。彼女はレイチェルの動向からアーサーの行方を追っていたが、何者かによって誘拐されていた。目覚めた彼女に事情を話すのは白髪の老婆。彼女は組織の利益のために、マギーにすべての真実を告白するよう迫る。「ポラリス6」での殺害がマギーの手によるものであること、計画的にアーサーへ罪をかぶせたこと、裁判での偽証…。もちろんアーサーの名誉のためではなく、彼の研究成果が生む金のためだ。そして組織にとってもアーサー自身はもう不要で、“彼の身になにかあったとき”はマギーの告白ビデオは公開しないと約束した。ただ老婆はこれがフェアな取引ではなく、マギーには選択肢もないと告げる。

場面は再び船へ。真のスパイは生物学者のエイミー(ジョゼフィン・ネルデン)だった。彼女はユウトに自分がスパイであることを明かした上で、誓って誰も殺していないこと、500万ドルを払う代わりに藻を外に持ち出す協力をしてほしいと願った。一時は協力したユウトだが、エイミーが言葉とは裏腹にレイチェルを冷凍庫に閉じ込めた張本人である証拠を見つけて揉みあいになってしまう。エイミーは一瞬の隙をついてユウトを押し倒すと、彼が構えていた液体窒素のボンベでユウトを撲殺した。

ユウトが死に、マギーは告白ビデオを証拠として押さえられ、そしてさらに船内では狂ったチャーリーの手によって機関が暴走を始める。このままではオーバーヒートの末に船が爆発してしまう。一刻の猶予もない、緊迫した状況が船を包み込む。

■「生存者は1名」マギー執念の追跡の果てにあったものは(第6話)

最終章である第6話。冒頭でアレクサンドリア号の発見、そして「生存者が1名」であるとの報道が流れる。船が爆破の危機にあることを知ったアーサー、アレック、レイチェルエミリーの4人が1つだけ残った救命ボートで脱出を試みることに。そしてマギーは事件の生存者が運び込まれたという病院へ忍び込む。マギーの復讐の行方は、そしてすべての殺人事件の犯人は誰だったのか…。

どこにも逃げ場がない船の上という極限状態、莫大な金を生む研究成果、名誉に取りつかれた科学者たちの歪な人間関係が、シーズン1以上に複雑な謎を張り巡らせる。物語が進むにつれて謎のピースの1つひとつがはまっていく感覚と、ラストの一瞬まで目が離せないどんでん返し。誰が、なぜ、どのように…シーズン1以上に研ぎ澄まされた濃厚なミステリーとその結末は、決して期待を裏切らないはずだ。

■ラストの一瞬まで結末が読めない緻密な描写の妙

クローズドシチュエーションといえば、ミステリー・サスペンスの世界では長く愛用されてきたテーマの1つ。疑心暗鬼に陥った登場人物たちの織りなす人間模様はもとより、限られた登場人物の誰かが犯人という状況は視聴者に「誰が犯人なのか」を考えさせる。

なかでも名作と呼び声高いタイトルの条件は、「視聴者にもすべての謎を解くヒントが開示されていること」。あとから見返したときに「この描写はこの手口を暗示していたのか」「言われてみれば、たしかにこのキャラクターが急に不審な動きをしていた」といった発見ができるのも、秀逸なサスペンスの楽しみ方といえるだろう。

「THE HEAD」シーズン1のカタルシスは言うまでもないが、シーズン2は最後の最後まで結末がわからないという構成に重きを置いていた。事件の犯人がわかり、動機も手口も明らかになったあと、それでもマギーという船上の事件とは別に動いていたキャラクターのおかげで、一貫して緊迫した空気が連続する。特にラスト6話冒頭「生存者は1名」という言葉は強力だった。スタッフロールが流れる直前まで「まだ終わりじゃない」と頭で理解させられているからだ。

こうした構成の妙によって、「ラストのどんでん返し」だけに頼らない上質さをも備えた「THE HEAD」。全話が公開されているいま、まだ見ていない人は一気に怒涛の物語を駆け抜けてみてほしい。

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