国際的なNGO、トランスペアレンシー・インターナショナルが毎年発表している腐敗認識指数は、その国の政治家や公務員の汚職度合いを示すものだ。

2022年の1位、つまり最も汚職度合いが低いのはデンマーク、次いでニュージーランドフィンランドノルウェーシンガポールと続く。日本は18位、韓国は31位だ。北朝鮮は、調査対象となった180の国と地域の中で171位だった。2017年から改善傾向にあるものの、依然として世界最低レベルだ。

役所の窓口の手続き、旅行証(国内用パスポート)や運転免許の発行、大小様々な事件のもみ消し、減刑など、ありとあらゆる場面でワイロが求められる。

将来、金正恩総書記の身辺警護を務める護衛司令部の候補生である「6課対象」の選抜とて、その例外ではない。

金正恩氏のためなら命を平気で投げ出すほどの、極めて高い忠誠心を求められる職業だが、そのポストでさえカネで売り買いされるのだ。その実態を、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じている。

両江道(リャンガンド)の幹部情報筋は、最近、朝鮮労働党の甲山(カプサン)郡委員会(郡党)で起きた、6課対象選抜を巡る不正について語った。

郡党の組織部に属する6課は、朝鮮労働党中央委員会(中央党)の組織指導部の指示に従い、家庭環境、成分や土台(身分)に問題がなく、学業の成績、身長、体重、体格、性格など、あらゆる面で優等生である高校生、大学生から選びぬき、6課対象に指定する。

ところが今年6月末、この選抜を行う郡党の6課が、上部機関である朝鮮労働党両江道委員会(道党)による集中検閲(監査)を受けた。

6課のトップである副部長は、取り調べに対して当初は知らぬ存ぜぬで押し通していたが、ある親が、自分の息子を6課対象に選んで欲しいと、副部長に5000元(約10万2000円)のワイロを渡していたことが明らかになった。

その程度のワイロなら、さほど大したことではない。だが、事が事だけに大問題となった。北朝鮮では、金正恩氏とその一家に関わる事柄で事件、事故の発生は一切許されない。金正恩氏を批判する落書きが見つかっただけで、上を下への大騒ぎとなるほどのお国柄だ。

別の情報筋によると、副部長は長年そのポストに居座り、受け取ったワイロのごく一部を部下に渡し、ほとんどを自分の懐にしまい込んでいた。これに恨みを抱いた部下が、道党に報告して事件となった。

また、ワイロは副部長の方から親に要求したものだったことも明らかになった。ある親は、あまりにもしつこい要求に、息子のためを思って、致し方なく全財産をワイロとして渡したという。

副部長は解任され、出党(朝鮮労働党から除名)させられた上で、農場員として追放される処分を受けたが、情報筋は「これでもまだマシな処分」だという。上述の通り、金正恩氏に関連する事柄で悪事を働けば、反党反革命分子との烙印を押され、よくて管理所(政治犯収容所)送り、最悪の場合は処刑されることもある。

比較的軽い処分で済まされた経緯は不明だが、検閲に当たった道党、あるいは中央に強力なコネがあったことは、充分ありえる話だ。

護衛司令部の要員たち(前列)により鉄壁の警護を受ける金正恩氏(2018年4月27日、板門店写真共同取材団)