近年、都会だけでなく地方でも開発が進むタワマン。マンションの修繕積立金の高騰や、税制の見直しが予定されている現状にも関わらず、その人気は根強いものがあるようです。しかし、購入にあたっては本記事ではFP1級の川淵ゆかり氏が、東京でタワマンを購入したAさん夫婦と、地方でタワマンを購入したBさんの事例から、タワマン購入の注意点について解説します。

上京して成功したパワーカップル、タワマン購入の苦労

Aさん夫婦は西日本のある地方出身のご夫婦。Aさんは34歳のUX(ユーザーエクスペリエンス)デザイナー※1、奥さんは31歳のwebデザイナーで、世帯年収が1,500万円を超える幼馴染のパワーカップルです。子どもはまだいませんが結婚して3年目を迎え、東京で成功したことを実感した二人は、現在の賃貸住まいを脱出し、タワーマンション(以下、タワマン)を購入することを考えます。

※ webサイトなど、いかに使いやすいか、いかにわかりやすいか、を重視した設計をする人

しかし、Aさんは1年前、奥さんも2年前に転職したばかりのせいか、ネット銀行とメガバンクの住宅ローンの審査に立て続けに落ちてしまいます。まだまだ年収も上がっていけそうで自信のあった二人です。これには相当ショックを受けたといいます。年齢も二人とも30歳を過ぎていることから、住宅ローンを組むならこれ以上遅くしたくない、という気持ちもあったようです。

そんなAさんは里帰りしたときに、地元の地方銀行に勤める高校時代の同級生と飲みに行き、住宅ローンの審査が通らない悩みを打ち明けます。すると、同級生は「うちの銀行なら審査が通るかもしれないよ。こっちにいるうちに一度うちの銀行においでよ」と話してくれました。

Aさんはこの地方銀行の口座を、高校時代のアルバイト代の振込先として作ったときからずっと持ち続けていたものの、「東京でのマンション購入に離れた地方の銀行が貸してくれるわけがないだろう」と半信半疑で同級生が勤める銀行に出向きました。

ところが、Aさんの心配をよそに、その後めでたく審査に通り、憧れのタワマンを購入することができたのです。

ネット銀行やメガバンクよりも借りやすい「地方銀行」

銀行金利のよさや手数料の低さでネット銀行に口座を開設する人も増えてきました。実店舗を持たず、インターネットでの取引で手軽にサービスを利用できるネット銀行は、年々利用者数を延ばしています。

住宅ローンもメガバンクに比べると金利が低いため、是非利用したいと思うところですが、住宅ローンの審査基準が厳しく、対面相談できる店舗も少ない、といったデメリットもあります。

また、メガバンクも返済の安定性を重視する面があり、公務員や大手企業に勤務している人や長期間同じ企業に勤務している人が借りやすい、といった傾向にあります。

そのようななかで地方銀行は、ネット銀行やメガバンクよりも借りやすく、個人事業主や零細企業に勤務している人でも収入があれば審査に通ることもあります。

東京のマンション購入に地方銀行の住宅ローンを利用できるワケ

地方銀行の住宅ローンというと、住んでいる地域にある住宅を購入する際に利用できる住宅ローンというイメージがあります。しかし、最近では地方銀行が県外の企業や個人に貸し付けを行う「越境融資」が広がっているのです。

新型コロナウイルスの影響で業績が低迷するなか、大都市や隣接する県もターゲットに企業への貸し出しや住宅ローンでの貸し出しを広げています。日本銀行が2021年に実施した調査によると、地方銀行の越境融資残高は2021年3月期で約60兆円まで増加(2年間で約10兆円の増加)しており、地方銀行の事業性融資全体の約4割を占める結果となっりました。

地方でも増えるタワマン

さて、上京後に成功して夢のタワマンを手に入れたAさん夫婦ですが、地方でもタワマンが増えているのをご存じでしょうか。東京・大阪・名古屋といった三大都市圏ではマンションの建設用地はすでに少なくなっており、地方の駅のすぐそば等でもタワマン開発はどんどん進んでいる状況です。

地方都市では超高層ビルや高層マンションはまだまだ数が少ないために珍しさもあって、購入する人がいるのでしょう。また、(夜景はどうかわかりませんが)眺望がよくリッチな暮らしをイメージできるタワマンは地方でも人気があるのかもしれません。

さらに、前述のように地方銀行は住宅ローンの審査が通りやすい、とあれば、タワマンのターゲットとして地方はいいのかもしれません。ですが、地方だからといっても価格は決して安くはありません。高層階では1億円を超える物件もありますので、やはり資産のある人でなければ買えるものではありません。

地方のタワマンを購入して失敗したBさんの例

Bさんは3年前にある地方の駅前のタワマンの一室を購入した45歳の老舗菓舗の3代目です。駅の構内の商店街(駅ナカ)に出店していることもあり、タワマンの建築中の時点で購入を決めました。

しかしながら、昨今の電気代高騰により自分の部屋の電気代だけでなく、エレベーターや内廊下の空調設備などの共用部の電気代も上がったことで今年に入って管理費までが上がってしまいました。将来は修繕積立金の値上げの噂もありますし、Bさんの住む地方の人口も減っていることからBさんは購入した部屋の売却を考えます。

「修繕積立金」が何倍にも値上がりするマンションが増加

ですが、中古でも通常のマンションよりも価格の高いタワマンはそう簡単には買い手が見つかりません。タワマンはある程度の資金力がある人しか買いませんが、資金力のある人であれば中古のマンションではなく新築を好む傾向があります。しかも地方ではあまり馴染みのない高い管理費や修繕積立金は嫌がられ、お金持ちのお得意様に声をかけても「ちょっと車を飛ばせば半分の値段で倍の広さの中古の一戸建てが買えるよ」と言われてしまう始末です。

地方では馴染みの薄いマンションの管理費や修繕積立金ですが、人件費が高騰し、管理会社に支払う管理委託費や工事代金が上昇傾向にあることから、管理費や修繕積立金を何倍にも値上げするところも増えています。都会地方問わず、益々イメージは落ちいていく可能性もあります。

「タワマンは節税にもなりますよ、と言われて買ってしまったタワマンですが、税制の見直しもあるようですし、やはり地方だと東京の都心部みたいに簡単には売れないんでしょうか? お店の経営も原価が上がってきて大変ですし、最近は悩みの種が増えるばかりです」

と頭を抱えているBさんです。

川淵 ゆかり

川淵ゆかり事務所

代表

(※写真はイメージです/PIXTA)