新築マンションの世帯主(一次取得者)の平均年齢は39.9歳。期間30年・3,600万円の住宅ローンを利用して、マイホームを取得する人が多いようです。しかし、その平均的なプランではローンの完済時期は70歳。現役を引退し、年金生活突入後も、返済が続くことになります。今回は、安定収入のある現役時代のうちに「繰上返済」を利用するシミュレーションを行います。

新築マンション購入者の住宅ローン完済年齢は平均「70歳」

国土交通省の調査によると、21年末時点で国内のマンションストック総数は約685万9,000戸。1世帯あたり平均人員2.21人(総務省統計局『令和2年国勢調査』より)であることを考えると、実に国民の1割超がマンションに居住していることになります。

同『令和4年度住宅市場動向調査』で新築分譲マンションを購入した人(一次取得/世帯主)についてみてみると、平均年齢は39.9歳で世帯年収は923万円(三大都市圏/一次取得)でした。購入資金は同じく三大都市圏で5,048万円。そのうち借入金は3,610万円、返済期間は29.7年となっています。

この平均像に近いシミュレーションとして、40歳のときに3,600万円・30年のローンを利用して、5,000万円の新築マンションを購入した場合の住宅ローン返済プランをみていきましょう。

返済方式は元利均等、金利は0.5%と仮定すると、利息分は277万4,775円。3,600万円を30年で返済する場合、月々の返済額は10万7,708円。新築マンションの一次取得者の平均世帯年収は923万円ですから、世帯年収に占める返済割合は14%ほど。平均像をみる限り、かなり余裕のある返済プランであることがわかります。

ただ、マイホームの一次取得者の平均世帯年収を購入した住宅の種別にみてみると、「注文住宅」は784万円(三大都市圏)、「分譲戸建住宅」は722万円、「既存(中古)戸建住宅」は682万円、「既存(中古)集合住宅」は609万円であり、新築マンション一次取得者の世帯年収が際立って高いことがわかります。

これは、都心を中心に続々と登場している1億円超の超高級マンションを購入した「富裕層」が平均年収を大きく引き上げているため。そこで、あくまで「一般人」に限定し、ほかの住宅と同様に世帯年収を700万円と仮定すると、上記の月10万7,708円の住宅ローン返済の年収に占める返済負担率は、18%ほどということになります。適正なローンの返済割合は20~25%とされていますので、これでも余裕のあるプランといえそうです。

一方で、40歳時点で30年ローンを組むとなると、気になるのは完済時の年齢。年金受給開始年齢は基本的に65歳~となりますから、およそ5年間、年金暮らしをしながらローンを返済していくことになります。

厚生労働省によると、厚生年金受給者の平均年金額は月14万円程度。65歳以上男性に限ると月17万円、女性だと10万円程度とされており、共働き夫婦であれば月27万円程度を受け取れる計算です。無職の高齢者夫婦の平均消費支出は22万~23万円程度であり、税金・保険料の天引き額を考えると、年金だけではどうしても赤字が発生しそうです。

年金をローンの返済に充てられないということは、その分貯蓄の取り崩しが発生するということ。

上記のシミュレーションの通り、毎月の返済額が10万7,708円の場合、7年間の返済総額は646万円超。年金生活者にとっての貯蓄は、生活費の補填や突発的な医療費が発生した際の備えとなる大切なものですから、65歳以降も住宅ローンの返済が続くということは、当然ながらその分、老後の家計がリスクにさらされることになります。

回数を減らすか、期間を短縮するか…2パターンの「繰上返済」

このように考えると、40歳で30年ローンを組むことには慎重になるべきといえそうです。

では65歳で完済できるよう、25年ローンを組んだとすると、返済プランはどうなるのでしょうか。上と同条件で考えると、利息分は230万4,196円と50万円弱の減額。一方で月々の返済は12万7,681円と月2万円ほど上昇し、世帯年収に占めるローン返済負担率は18%から21%と3ポイントほど高まります。

期間を短縮しても返済負担率は適正な水準に収まってはいますが、60歳からの5年間は現役時代に比べて収入が大きく減るか、完全に途絶える人もいるでしょうから、まだまだ不安は残ります。そこで、繰上返済を選択してみるとどうなるでしょう。借入条件は上記のシミュレーションと同様とし、5年に1度、繰上返済をするとします。

総務省の『貯蓄・純貯蓄・負債現在高階級,年間収入階級別1世帯当たり1か月間の収入と支出 』(23年1~3月)をみると、世帯年収750万~800万円世帯では1ヵ月あたりの貯蓄純増が7万3,331円。貯蓄の金額の3割を繰上返済にまわすことを想定すると、1回あたりの返済額は130万円ほど。そうすると、完済となるのは21年後。利息分は201万5,058円となり、30年返済時に比べて30万円ほど減る計算になります。

上記は繰上返済で返済回数を減らすシミュレーションですが、繰上返済には月々の返済額を減らしていくパターンもあります。諸々の条件等は前出の通りに返済額を変えていくと、5年目以降は12万1,987円、10年目以降は11万4,490円、15年目以降は10万3,381円、そして60歳を迎える20年目以降は8万1,438円と最終的に10万円を大きく割り込む水準になります。

利息額は213万8,591円と、回数を減らしたパターンと比較して12万円ほど高くなりますが、繰上返済を行わない30年ローンと比べれば60万円超の利息圧縮効果が期待できます。回数が変わる返済プランに比べて現役引退後の月の返済負担を軽減できるため、「こちらのほうが安心」という人もいるでしょう。

ただ、繰上返済を検討する際に考えなければならないのが手数料。そのコストは金融機関によって異なりますが、返済のたびに手数料が発生するようだと、その負担は無視できない水準になります。繰上返済を検討する際には、こうしたコストにも注意が必要です。

年金生活に突入後の貯蓄の減少スピードを抑制するために、返済の回数を減らすのか、月々の返済負担を徐々に減らしながら、老後の資産形成に回す資金を確保できるようにするのか、繰上返済を行う際、選択すべきプランは人それぞれです。

ただ1ついえることは、大半のサラリーマン世帯は60歳以降は収入が激減するということ。住宅ローンの返済負担による老後破産を避けるため、安定収入のある現役時代のうちに、返済と貯蓄を同時に行えるプランを検討することが重要です。

(※写真はイメージです/PIXTA)