いま住んでいる住宅に不満を抱いたことがある人もいるのではないでしょうか。日本と中国、どちらの国でも「遮音性」が低いことへの不満が多いようです。本稿では、ニッセイ基礎研究所の胡笳氏が、日中住宅の「遮音性」が低い原因と簡易的な「防音対策」の方法について解説します。

住宅環境への不満で多いのは「遮音性」

日常生活において、住宅環境に関する不満を感じることはあるだろうか。日本と中国の既存調査からは、住宅の遮音性に関する住民の不満が顕著であることを示唆された。本稿では、日本と中国における住宅の遮音性に対する住民の不満度に関する調査結果を整理し、その背景や要因について考察する。

また、住宅の遮音性を向上させる方法及び改修工事に利用できる補助金等情報の入手方法を提示する。なお、本稿における「遮音性」とは、外部からの騒音に対する遮音性と、上下階や隣戸からの生活音などに対する遮音性を包括した広義の遮音性を指す。

住宅の遮音性に対する不満度、日中とも高い

平成30年 住生活総合調査」1によると、住宅の評価について、個別要素ごとの不満率では、「遮音性」に対する不満率が全項目の中で、「高齢者への配慮(段差がない等)」、「地震時の安全性」に次ぎ3番目に高いことが報告されている。

加えて、従前の調査と比較すると、「高齢者への配慮」、「地震時の安全性」は平成20年より改善傾向にあるものの、「遮音性」については平成20年と比べて不満率が増えている。

また、地域類型別に見た住宅及び居住環境の評価の不満率においても、「木造住宅密集地」では、「遮音性」に対する不満度が最も高いことが示されている。

更に賃貸住宅入居者を対象とした住宅改良開発公社の調査2では、現在居住する賃貸住宅について、「遮音性」に対する不満度が全項目の中で最も高いことが確認された。

また、新型コロナウイルスの影響で在宅時間の増加に伴うライフスタイルの変化に着目した調査3でも、ステイホーム前、ステイホーム中に関わらず、「不満+とても不満」の割合が最も高いのは「住戸内の防音、遮音」の項目だと報告されている。

一方、中国生態環境部が発表した「2022年中国騒音汚染防治報告」4によると、2021年における全国「12345」市民サービスホットライン5、および生態環境部、住宅と都市農村建設部、公安部、交通運輸部、都市管理総合行政執法局等政府部門で受理された騒音に関する苦情・通報は合わせて401万件である。

その中では、「社会生活騒音」に関するものが最も多く、57.9%を占める。次いで、「建設工事騒音」は33.4%、「産業騒音」が4.5%、「交通運輸騒音」は4.2%となっている。

国民の健康に重点を置いた中国政府系機関紙「生命時報」が2021年に実施した調査は、9割の人が上下階や隣戸からの生活音などの騒音問題に困っていることを明らかにした。その発生源として、最も多いのは「子どもの飛び跳ねや遊びによる騒音」、次いで「内装工事」、「深夜のパーティ」、「夫婦喧嘩」、「自宅トレーニングの音」などが続く。騒音が発生する時間帯を見ると、「深夜22時以降」が最も多いと報告されている6


1 国土交通省(2020)「平成30年住生活総合調査結果」、P48、P109

https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001604240.pdf

2 一般財団法人住宅改良開発公社(2020)「賃貸住宅市場の動向と将来予測(展望)調査」、P87

「不満度」とは、住宅に対する満足度を5段階評価のうち、「やや不満」および「不満」の合計値で計算している。

 https://www.kairyoukousya.or.jp/wp-content/uploads/2022/07/2020_syouraiyosoku.pdf

3 冨田隆太; 阿部今日子. 新型コロナウイルス感染症によるステイホーム中を対象とした共同住宅の音環境に関するアンケート調査. 日本建築学会技術報告集, 2021, 27.67: 1303-1308.

4 中国生態環境部(2022)「2022年中国噪声污染防治报告」https://www.mee.gov.cn/hjzl/sthjzk/hjzywr/202211/W020221116716100586404.pdf

5 「12345」市民サービスホットラインは、各地方政府より開設され、一般市民向けに24時間365日体制で、オペレーターが問い合わせ、相談、苦情などを受けるプラットフォームである。電話番号12345のほか、電子メール、公式アプリ、コミュニケーションアプリWechatの公式アカウントなどでも対応可能で、英語や日本語など外国語にも対応している。

6 「生命時報」(2021)「九成受访者遭遇噪音困扰,邻里噪音何时休」、

 https://www.lifetimes.cn/article/43GOIjmmDpi

住宅の遮音性が低い理由、日中とも住宅の壁が薄い

日本の場合、建物の遮音性能はその構造によって大きく異なり、一般的には重量のある資材を用いた建物ほど遮音性能が良い傾向にあると認識されている。具体的には、鉄筋コンクリート造(RC造)の住宅は遮音性能が高く、一方で木造住宅は遮音性能が低い傾向がある。

賃貸住宅の遮音性に対する不満度が高い理由は、木造の借家が多いのではないかと考えがちだが、国土交通省の「平成30年住宅・土地統計調査」のデータによれば、実は民間借家の8割以上が非木造のものである7

それでもRC造住宅の遮音性が低い理由について、一級建築士に話を聞いてみたところ、建築費を抑えた物件、特に古い建物では、外壁と床だけをRC造にして、住戸間の隣接する壁はRC造でないことがあり、このような物件は「建築基準法」が求める最低限の基準に従った仕様で造られていることが多いという。

中国の住宅は基本RC造の共同住宅8だが、その仕様が国家基準の最低ラインを満たしていない建物が多い。北京建築大学建築と都市計画学院の教授が、2021年に北京市内の複数の竣工前の住宅小区を対象に、床衝撃音の測定を行ったところ、測定値の多くが約78デシベル程度であり、国家基準の最低ライン75デシベル9を満たしていないことが判明した10

その背景には、ここ数十年の急速な都市化の過程で、他地域から大都市への人口流入が増加し、驚く速さで建物が立ち並ぶようになったが、不動産開発業者は、単に住居の数を増やすことに焦点を当て、人々の生活のニーズを考慮しなくなったことが一因と考えられる。

また、中国の新築住宅は一般的に内装がない状態で引き渡され、壁紙や床材はなく、給排水管も露出しており、このような住宅は「毛坯房(マウピーファン)」と呼ばれる。その場合、内装の質や防音材の利用については住民ぞれぞれの判断によって行われるため、遮音性能も住戸によって異なる。

さらに、中国では個人間売買による既存住宅の取引が盛んに行われているため、住棟内の内装工事が常に行われている。このようなリフォーム工事の騒音は道路交通騒音よりも住民の心理的健康状況に悪影響を与えていることが学術論文によって実証されている11


7 国土交通省(2019)「平成30年住宅・土地統計調査」https://www.stat.go.jp/data/jyutaku/2018/tyousake.html

8 中国は日本のような1棟の賃貸マンションが少なく、賃貸物件は基本分譲マンションの1室を賃貸として出されている。

9 測定当時の「民用建筑隔声设计规范(民間土木建築物の遮音設計に関する規範)」の基準によると、住宅の建物の隔音性能は、衝撃音による騒音の隔離能力を示す単一の評価指標の最低基準の評価値が75デシベルを超えないことであるが、その後最低基準は70デシベルに改正されている。https://www.usx.edu.cn/info/1401/16791.htm#_Toc4421892

10 前出「生命時報」記事。

11 李春江, 马静, 柴彦威, 等. 2019. 居住区环境与噪音污染对居民心理健康的影响: 以北京为例 [J]. 地理科学进展, 38(7): 1103-1110.

[Li C J, Ma J, Chai Y W, et al. 2019. Influence of neighborhood environment and noise pollution on residents' mental health in Beijing. Progress in Geography, 38(7): 1103-1110.] DOI: 10.18306/dlkxjz.2019.07.014

http://www.progressingeography.com/CN/article/downloadArticleFile.do?attachType=PDF&id=42882

遮音性をアップする方法は?

住宅の防音対策の基本は、室内や屋外の音を遮断することである。騒音トラブルを防ぐため、自ら床・壁・天井を二重構造にすることや、排水管に防音材を巻くなどの対策を講じる人もいる。

居住者ができる簡易な対策として、厚手の防音シートや防音カーペットを床や壁に敷くこと、ドアや窓からの音漏れに防音テープを貼ることが挙げられる。さらに、窓全体を遮音カーテンで覆うと、音漏れの心配は減るだろう。これらの材料はホームセンターや通販サイトなどから比較的簡単に入手でき、手軽に防音アップの効果を得られる。

賃貸住宅の断熱性向上や遮音対策のための大家向けガイドブック持ち家や賃貸住宅の所有者には、遮音改修を行うのが効果的である。遮音改修を行えば、木造住宅でも十分な遮音性能を得られることができる。

さらに、床、壁、天井に断熱材を充填したことで、断熱性が向上したとともに、上下階(床・天井)や隣戸間の遮音性も向上できる。これらの方法を組み合わせて遮音性を向上させることで、快適な住環境を実現できる。

条件が合う改修ができれば、申請できる助成金もある。そこで参考にしてほしいのが、国土交通省の補助事業12でニッセイ基礎研究所13が作成した、「賃貸住宅の断熱性向上や遮音対策のための大家向けガイドブック」である。

これは賃貸住宅の大家向けに作成したもので、賃貸住宅の遮音改修事例を掲載している他、持ち家も対象となる補助制度や参考になるお役立情報、相談窓口も参照できる。入居者から騒音のクレームを受けている大家、騒音に悩んでいる持ち家居住者などに是非ご覧いただきたい。

賃貸住宅の断熱性向上や遮音対策のための大家向けガイドブック(A4版)

https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001624284.pdf

※ガイドブックのA3版およびその他の関連情報は以下をご覧ください。

国土交通省「民間賃貸住宅」のページ

https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000016.html


12 令和4年度住宅市場整備推進等事業費補助金(共生社会実現に向けた住宅セーフティネット機能強化・推進事業(民間賃貸住宅計画修繕普及事業(断熱性能向上・遮音対策改修普及支援等事業)))

13 筆者の他、社会研究部 塩澤誠一郎 都市政策調査室長、島田壮一郎 研究員が担当した。

(写真はイメージです/PIXTA)