第17回「このミステリーがすごい!大賞」を受賞した倉井眉介の同名小説を亀梨和也主演、三池崇史監督で映画化した超刺激サスペンス『怪物の木こり』が12月1日(金)より公開される。本作は亀梨演じる若きエリート弁護士の二宮彰が、謎の連続殺人鬼に狙われるサスペンス。しかし追われる立場の二宮の正体は、追う者である連続殺人鬼を凌駕するほどの狂気をはらんだサイコパスだった…。犯人への逆襲を誓う二宮を中心に、二転三転しながら進んでいく予測不能なストーリーや驚愕のラストに圧倒される。

【写真を見る】亀梨和也が演じるサイコパス弁護士が血まみれ…怪物との対峙はどうなるのか?(『怪物の木こり』)

リアルな時代の空気を反映し人の心の闇に迫る「サイコパスもの」は、映画や小説、コミックなどメディアを超えて高い人気を誇るジャンル。国内外を問わず、すぐれたサイコパス映画が次々に生みだされている。そんななかから、一度見たら忘れられなくなるとびきり“ヤバい”サイコパスが登場する映画をピックアップしたい。

■2つの顔を持つ“エリートサイコパス”『怪物の木こり』二宮彰

優秀な弁護士として、婚約者である映美(吉岡里帆)の父親の弁護士事務所に勤める二宮。ところが彼は、目的のためには手段を選ばず、殺人も辞さない冷血非情なサイコパスだった。そんな彼がある時、絵本「怪物の木こり」に登場する怪物の仮面を被り、斧を使って脳を奪い去る連続猟奇殺人鬼の標的にされてしまう。

二宮のヤバさはなんといっても、見た目と行動のギャップにある。暴力性とはかけ離れた平静さを保ったまま、獲物に牙を剥く様は思わず背筋が寒くなるほど。表情一つ変えずに凶行を重ねる亀梨の演技は圧巻だ。本作の”サイコパス監修”を務めた脳科学者の中野信子も「亀梨さんご本人は非常に温かみのある快活なキャラクターをお持ちだと思いますが、いわば真逆といえる主人公の危険な魅力、サイコパスならではの血の通わない表情、表層的に人柄の良さを演出する計算高さを演じる俳優としての力に唸らされました」とその演技を絶賛している。二宮と秘密を共有する同じくサイコパスの外科医・杉谷九朗(染谷将太)、警視庁プロファイラーで違法すれすれの強引な捜査で連続殺人鬼を追う戸城嵐子(菜々緒)、違和感を覚えつつも二宮を支えようとする映美…それぞれの想いを抱えた人々がたどり着く衝撃の結末に、戦慄せずにいられないサイコパス映画が誕生した。

■残虐な猟奇殺人を続ける『ミュージアム』カエル

雨の日をねらって犯行を繰り返す“カエル男”が暗躍するのが、小栗旬主演の『ミュージアム』(16)だ。ある雨の晩、鎖で縛られた状態で、腹を空かせたドーベルマンに食い殺された男の死体が発見される。その後も同一犯のものと思われる殺人事件が多発。捜査にあたった刑事の沢村(小栗)は、犠牲者たちがある殺人事件の裁判員をしていたことを突き止める。そんななか、沢村の前にカエル男が現れる。

自らを“アーティスト”と呼ぶカエル男は、手の込んだ猟奇的な方法で次々と犯行を重ねていく。標的にされたのは、かつて起きた凄惨な殺人事件を担当した裁判員たち。その理由は、彼らが自身の芸術的な殺人を理解せず、まったく別の人物の犯行であると誤った判決を下したためだった。 表現としての殺人に徹底してこだわり抜くカエル男は、最も危険なサイコパスと言える。

■恐怖の対象を操る不気味なピエロ「IT/イット」二部作ペニーワイズ

スティーヴン・キング原作の「IT/イット」二部作に登場するのは、神出鬼没な道化師ペニーワイズ。人間とはかけ離れた存在だが、その言動はまさにサイコパスそのものだ。メイン州の田舎町で暮らす7人の子どもたちの前に現れたペニーワイズ。彼は相手が最も恐れるものに姿を変える力を持っていた。

赤い風船を手に陽気なペニーワイズが求めているのは“恐怖心”。幼い子どもに言葉巧みに近づき、彼らが心に抱えるトラウマを利用して恐怖のどん底に突き落とすタチの悪い奴である。白塗り顔に微笑むような化粧をしているが、その目がまったく笑っていないところは見るからにサイコパス。道化師には、人をイジメる“クラウン”と人にイジメられる“ピエロ”がいるが、もちろんペニーワイズイジメる側のクラウンだ。

■自らの手で理想の世界を作ろうとする『DEATH NOTE デスノート夜神月

大場つぐみ(原作)、小畑健(作画)による大ヒットコミックを映画化した「デスノート」シリーズには、その名を書かれた者は死ぬ“デスノート”を使用するサイコパスが登場する。凶悪犯を裁くため司法試験を突破した夜神月(藤原竜也)は、死神が落としたデスノートを偶然手に入れる。犯罪者が野放しの現状に疑問を抱いていた月は、このノートを使って次々に凶悪犯を葬っていくが…。月を演じたのは、当時20代前半だった藤原竜也。正義感の強い青年が、巨大な力に取り憑かれ自滅していく様を熱演し絶賛された。

初めてデスノートを使った時には人を死なせたことに戸惑いを感じた月だったが、すぐにその感覚は麻痺。犯罪のない世界を目指す彼は犯行を繰り返し、やがて「キラ」と呼ばれ神格化されていく。自分の正義を貫くために、意に反する者を裁いていく月は、救世主ではなく独裁者で、いわば立派なサイコパス。正義とはなにかを考えさせられる1本だ。

■狂気と悪のカリスマジョーカージョーカー

バットマンで知られる眠らぬ街、ゴッサム・シティで暗躍する悪のカリスマを新たな視点でリブートした『ジョーカー』(19)は、名もなき男が狂気に駆られていく姿を描いた異色サスペンス。貧富の格差が拡大しているゴッサムで細々と暮らす道化師アーサー・フレック(ホアキン・フェニックス)は、職を失くしたことから精神的に追い詰められ殺人者となっていく。次第に心が壊れてゆくアーサーを熱演したフェニックスは、アカデミー賞主演男優賞ほか多くの賞に輝いた。

自分の存在に価値を感じられずにいたアーサーは、いわば承認欲求の塊地下鉄ビジネスマンを殺した翌日、「謎の殺人犯」として世間から注目を浴びたことを喜ぶ姿は、現代の闇にリンクしている。自らの母親を手にかけ、テレビの生中継中に司会者を射殺するなどの暴走ぶりは思わず言葉を失うほど。すべては異常者の妄想か、ジョーカーらしい作り話だったのか、観る者に答えを委ねるラストも議論を呼んだ問題作だ。

■他人への共感や良心を一切持たない『悪の教典』蓮実聖司

黒い家」や「青の炎」の貴志祐介の同名小説を、三池崇史監督が映画化したサスペンスが『悪の教典』(12)。生徒や学校からの信頼も厚い高校教師“ハスミン”こと蓮実聖司(伊藤英明)は少年時代から邪魔者を殺害してきたサイコパスだ。文化祭の準備に紛れ、自分の素性に気づいた同僚や生徒たちを皆殺しにする計画を実行する。爽やかなイメージそのままに伊藤が演じた蓮実のサイコぶりは圧巻だ。

蓮実は人当たりのよい好青年だが、良心を持たないどころか人を殺すことに迷いも躊躇もない男。微笑んでいた次の瞬間、容赦なく相手を手にかける。その動きは無駄がなく、焦る素振りも見せず、まるで単純作業をこなしているよう。教室に盗聴器を仕掛けたり、女子生徒と親密になって情報を聞きだすなど、常に周囲に網を張り、不穏な動きがあれば即対処。一度狙われたら逃げられない、殺人マシンのような怪物である。

■「ゲーム」と称する殺人儀式を行う「ソウ」シリーズ ジグソウ

見知らぬ場所に監禁された人たちが命懸けのゲームを強いられる…先読みできない展開と残酷な殺人ゲームで世界中の度肝を抜いたのが、ジェームズ・ワン監督のデビュー作『ソウ』(04)。世界中で大ヒットした本作はシリーズ化され、最新作の第10作『Saw X』が本国で公開されたばかり。そんな本シリーズに登場するサイコパスが“ジグソウ”だ。

モニターに映しだされる不気味な腹話術人形ビリーの姿を借りたジグソウの正体は、脳腫瘍で余命わずかな男ジョン・クレイマー(トビン・ベル)。彼の目的は、命を粗末にしている人たちに生きることの大切さを実感させることだった。ただし、自分の肉体を切り取らせたり、体中の関節を潰す装置から抜け出させるなど、用意するゲームは生還率ゼロに近い難易度を誇るものばかり。容赦のなさ、綿密な計画性はサイコパスならではの所業と言える。

■狂気をはらんでいる精神科医『羊たちの沈黙』&『ハンニバル』レクター

トマス・ハリスのベストセラーの映画化で、プロファイリングを導入したサイコスリラーの先駆けでもあるサイコパスの金字塔『羊たちの沈黙』(91)。作品、監督(ジョナサン・デミ)、主演男優、主演女優、脚色(テッド・タリー)と主要5部門でオスカーに輝いた。女性の生皮を剥ぐ連続猟奇殺人事件を追うFBIの訓練生クラリス(ジョディ・フォスター)は、犯人逮捕のため監禁中の凶悪殺人犯ハンニバル・レクター(アンソニー・ホプキンス)の心理分析を試みる。

レクターは元精神科医で、自分の患者を含む10数人を殺して食べた男。頭脳明晰、狡猾で危険なために監視体制も別格。移送時にマスクを含む拘束衣で、ミイラのように固定された姿も話題を呼んだ。圧巻なのはクラリスとの面会シーンで、レクターは射るような視線でクラリスを見つめ性格を細かく分析。口調はあくまで紳士的だが、存在しているだけで不気味なオーラを放つ怪物級のサイコパスだ。続編である『ハンニバル』(00)では残酷描写を満載し、レクターの狂気をストレートに描いた。

■快楽殺人者『死刑にいたる病』榛村大和

『凶悪』(13)や『孤狼の血』(18)などの話題作で知られる白石和彌監督が櫛木理宇による同名小説を映画化したミステリー『死刑にいたる病』(22)。24人もの殺人で死刑宣告を受けた榛村大和(阿部サダヲ)は、1件だけ冤罪があるので調べてほしいと知人の大学生・雅也(水上恒司)に手紙を出す。直接的な描写はほとんどないが、白石監督作だけに拷問シーンの壮絶さは圧巻。

榛村の怖さは几帳面な性格にある。被害者は17歳か18歳のまじめそうな高校生の少年少女。目を付けると偶然を装いながら時間をかけて関係を築き、頃合いを見計らい睡眠薬を使って誘拐。小屋に監禁し時間をかけてじっくり拷問を繰り返し、死体は同じ方法で処分する。罪悪感はゼロ、裁判でも犯行は自分に必要な行為だと断言し、よどみなく胸の内を語る姿には背筋が寒くなる。さらに彼には洗脳という奥の手も持っている。

■サイコパスに共通する恐ろしさとは?

サイコパスの怖さは、彼らを理解できないこと。自分のルールに従い生きる彼らは、常識や決まりごとが一切通じず、予測も不可能。それぞれの物語では、そんな彼らにどう立ち向かうかがキモになる。狙われる側がサイコパスという、かつてない展開を見せる『怪物の木こり』で、サイコパス弁護士・二宮はどう連続殺人鬼に立ち向かうのか。なぜ二宮が狙われたのか。そしてプロファイラーの戸城はなにを暴きだすのか。じっくりと味わってほしい。

文/神武団四郎

優秀な弁護士としての表の顔を持つも、裏では何人もの人を手にかけてきた二宮(『怪物の木こり』)/[c]2023「怪物の木こり」製作委員会