ふるさと納税の制度が10月から改定される。自治体の側での「経費」の範囲や、返礼品として認められる「地場産品」の基準を変更するものであり、利用者にとって「改悪」だとの指摘もある。新ルールは何を目的とするものなのか。ふるさと納税のしくみ、新ルールの内容、そこから見えてくるふるさと納税の課題について、税理士の黒瀧泰介氏(税理士法人グランサーズ共同代表)に聞いた。

ふるさと納税はなぜ大人気なのか

10月からのふるさと納税の改定がどのようなものなのか説明する前に、まず、ふるさと納税のしくみについておさらいしておきましょう。

ふるさと納税は、好きな自治体に対して「寄付」をしたら、翌年の税金から「寄付額-2,000円」の金額が差し引かれて戻ってくるしくみです。よく「節税」の手段といわれますが、厳密にいえば節税ではありません。寄付額のうち2,000円を超えた部分の額が戻ってくるだけです。

ふるさと納税の実質的なメリットは、2,000円の自己負担と引き換えに、寄付先の自治体から「返礼品」を受け取れることです。返礼品の市場価格と2,000円との差額が大きければ、その分だけ得をするということです。

したがって、自治体は、多くの寄付を集めるために、豪華な返礼品を用意するようになります。「返礼品競争」といわれるものです。これが人気を博し、ふるさと納税を利用する人は年々増えてきているのです。

10月から新ルール|何が「改悪」といわれるのか

では、ふるさと納税について10月から施行される新ルールはどのようなものでしょうか。何が「改悪」だといわれているのでしょうか。

ルール総務省6月27日に発表したもので、大きく、2つの内容となっています。

10月からの新ルールの内容】

1. 経費に算入する費目の拡大:経費は「ワンストップ特例」に関する事務や寄附金受領証の発行などの付随費用も含めて寄附金額の5割以下におさめる

2. 返礼品の条件の厳格化:加工品のうち「熟成肉」と「精米」について、原材料がその自治体と同一の都道府県内産のものに限り、返礼品として認める

◆新ルール1|経費に算入する費目の拡大

ルールの1つめは、ふるさと納税の「経費」に関するものです。

もともと、ふるさと納税の業務にかかる経費は寄付額の50%以内、返礼品の価格は寄付額の30%以内に収めなければならないというルールがあります。これは、返礼品競争が激化するのを防ぐためのものです。つまり、返礼品を調達するのにかかるお金は経費に計上されますが、返礼品の価格があまりに大きいと、経費率が高くなり、本末転倒になってしまいます。それを防ぐためのルールです。

ルールは、経費に算入しなければならない費目の範囲を広げるものです。これまで、経費に計上されていない「隠れ経費」があることが指摘されていました。以下のようなものです。

・仲介サイトの事業者に支払う手数料

・寄付者が「確定申告」をする際に必要な「寄附金受領証明書」の発行事務にかかる経費

・寄付者が「ワンストップ特例」を利用する際の事務にかかる経費

今回の本題ではないので詳細には立ち入りませんが、ふるさと納税をした場合にお金を返してもらう手続きは2通りあります。確定申告を行うことと、「ワンストップ特例」を利用することです。いずれにしても、自治体には上に挙げたような事務コストがかかります。しかし、それらの費用はこれまでふるさと納税の経費として計上されていませんでした。

ルールは、改めて、それらを経費として計上しなければならないとしたものです。これにより、経費率を50%以内に収めるために返礼品のグレードを下げるケースが多くなるものとみられます。利用者のメリットの点からみれば「改悪」といわれるのも無理はないかもしれません。

◆新ルール2|返礼品の条件の厳格化(熟成肉、精米)

2つめのルールは、返礼品の条件を厳しくしたことです。これは、加工品のうち「熟成肉」と「精米」の2品目をターゲットとしたものです。

返礼品の条件については「地場産品基準」という定めがおかれています。これは、ごく大ざっぱにいえば、地元の名物であることを求めるものです。そのうち、今回のルールで改定されるのは、加工品に関する以下の基準です。

「当該地方団体の区域内において返礼品等の製造、加工その他の工程のうち主要な部分を行うことにより相応の付加価値が生じているものであること」

噛み砕いていうと、加工品の原料を他の場所から調達する場合は、その加工品が「その自治体ならではのもの」でなければならないということです。

たとえば、岩手県遠野市の返礼品に「ジンギスカンラム肉とタレのセット」があります。ラム肉オーストラリア産やニュージーランド産ですが、上記の基準にてらし、「地場産品」として認められています。なぜなら、遠野市ジンギスカン鍋が一家に1台あるといわれ、ジンギスカンがご当地の名物として定着しているからです。そして、精肉等の主要な加工のプロセス遠野市内で行っているので、遠野市の「地場産品」として扱ってよいということです(これは新ルールの下でも変わりません)。

上記基準に関し、10月からは「熟成肉」と「精米」の2品目については、原料が同じ都道府県内で生産されたものに限られるということが明記されました。

まず、「熟成肉」は、ホルスタイン等の比較的安価な牛肉を熟成させることにより付加価値をつけるものです。しかし、加工地の自治体の名前よりも、むしろ加工業者の熟成技術が重要と考えられたものとみられます。

次に「精米」は、精米された自治体よりもコメの品種や原産地が重視される傾向が強いものです(「新潟県魚沼産コシヒカリ」等)。

ただし、これらのうち「熟成肉」については「これから自治体を挙げて町おこしのための名物にしていこう」というケースもありうるので、一概にNGとしてしまうのは「やりすぎ」ではないかとも考えられます。

ふるさと納税の「経費率」を抑えなければならない2つの理由

ここまでみてきたように、10月からの新ルールの中身は、「経費率」を抑えることと、返礼品の「地場産品」の範囲をより明確にすることです。「改悪」との意見もありますが、いずれも、ふるさと納税の制度を本来の制度趣旨に沿ったものにするためのものといえます。

このうち、より深刻なのは「経費率」の問題です。

まず、ふるさと納税の経費率が高いと「増税」または「財政赤字の拡大」につながるおそれがあります。経費率が50%だとすれば、単純計算して、その分の額が、全国の自治体トータルでみて財源から流出していることになります。

経費率の高さにはもう1つの問題があります。それは、前述のような「隠れ経費」があると、その分だけ豪華な返礼品を用意できることになります。そうなれば、返礼品競争が激化し、自治体間の競争力の格差がさらに拡大するおそれがあります。

たとえば、東京23区など、ふるさと納税によって、税収が他の自治体に流出している自治体があります。その程度によっては、住民の日常生活に密着した行政サービス、たとえば「ごみの収集・処理」、「上下水道」、「道路整備」「公共施設の設置・維持管理」等に支障をきたす可能性があります。

地方交付税の「交付団体」であれば、不足分を「地方交付税交付金」により補てんしてもらうことが考えられます。しかし、その出所は税金なので、増税、あるいは赤字国債の発行につながる可能性があります。また、東京23区のような「不交付団体」の場合は、「増税」をせざるをえなくなる可能性があります。

もちろん、ふるさと納税の制度は、単純な足し算引き算では割り切れない効果をもたらす可能性があります。返礼品競争も、自治体の知名度の向上や、地域の経済発展につながる可能性があります。しかし、上述した問題点があることは、留意しておかなければなりません。

ふるさと納税のもともとの制度趣旨は、自治体ごとの税収の不均衡を是正し、地方の活性化につなげることです。10月から新しいルールがその趣旨に沿って適正に運用されるのか、見守っていく必要があります。

黒瀧 泰介

税理士法人グランサーズ 共同代表

公認会計士

税理士

(※画像はイメージです/PIXTA)