
チェコ共和国、プラハ盆地にある4億6500万年前の地層で三葉虫の化石が発見された。この化石が貴重なのは、内部に最後に食べたものが残されていたからだ。
およそ2億5千万年もの間、2万種以上の仲間たちが海底にひしめいていた三葉虫は、古代生物のシンボルのような存在で、これまで多くの化石が発見されている。
だが、基本的生態はあまりよくわかっておらず、彼らが何を食べていたのかも明確ではなかった。
今回、お腹の中に食べ物を残したまま死んだ三葉虫が発見されたことで、謎のヴェールに包まれた彼らの暮らしぶりがほんの少しだけ明らかになったようだ。
【画像】 最後の食事をたらふく食べて化石になった三葉虫を発見
最後の晩餐をしていた三葉虫は、「ボヘモリカス・インコラ(Bohemolichas incola)」という種だ。
4億6500万年前(古生代、オルドビス紀)の地層から発掘された体長5cmほどのその化石は、ケイ土の小石に包まれて、細部まできれいに保存されていた。
三葉虫の一種、ボヘモリカス・インコラ(Bohemolichas incola) / image credit:Kraft et al., Nature, 2023
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だがプラハ・カレル大学をはじめとする古生物学者チームが驚いたのは、その大昔の消化器官の中に、貝殻などの破片がぎっしりと詰まっていたことだ。
興味深いことに、貝殻のフチの部分はまだ溶けておらず鋭いままだった。ここからB. インコラの消化器は酸を利用したものではなく、全体的に中性か塩基性だったろうと推測されている。
こうした特徴は、三葉虫に近いとされる現代の甲殻類やクモ類にも見られるものであるという。ただし、甲殻類やクモ類はそれぞれ別の門に分類され、三葉虫の直接の子孫というわけではない。

番上の黄色の部分が口。そこから続く消化管に食べ物の残りが残されている / image credit:Kraft et al., Nature, 2023
三葉虫は底生無脊椎動物を食べていた
三葉虫、B. インコラの消化管はほぼ全体に食べ物が詰まっており、中にははっきりと正体を特定できるくらい大きなものもあった。
それらを調べたところ、最後の晩餐のメニューは、海底に生息していた底生無脊椎動物だったことがわかっている。
一番多かったのは、小さなミジンコによく似た「貝虫類」という甲殻類の仲間だ。その子孫は現代でも生きている。
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ほかにも「ヒオリテス」(絶滅した冠輪動物の仲間)、「スティロフォラ」(絶滅したヒトデやウニの仲間)、「二枚貝らしき殻の薄い生物」もお腹の中に入っていた。
研究チームによれば、「B. インコラの選り好みのない食事は、いつもチャンスをうかがっている海の掃除屋的存在だった」ことを示しているという。
どうやらこの三葉虫は、それほど噛み砕く力は強くなく、消化しやすいか、丸飲みできるほど小さい動物やその死骸なら好き嫌いすることなく食べていたようだ。

内容物は種類ごとに色分けされている。最後の晩餐のメニューは「スティロフォラ」(赤)、「ヒオリテス」(紫)、「貝虫」(青)などだ / image credit:Kraft et al., Nature , 2023
この三葉虫は脱皮をしようとしていた可能性
またB. インコラの完全な消化管と胸の歪みをあわせて考えると、ちょうど脱皮しようとしていた可能性もあるという。
節足動物は成長するために、それまでの古い殻を脱ぎ捨てることで、新しい殻に衣替えする。そのとき、新しい殻のスペースを作るために、消化管が膨らんで古い殻を押し退けることがあるのだ。
こうしたことから、「三葉虫の摂食行動は、現代の甲殻類のライフサイクルのようなものだった可能性がある」と研究チームは結論づけている。
少なくともB. インコラについては、ほとんどの場合、お腹の中は空か、適度に満たされてた。だが、ときおり特殊な生理的な要求が起こり、たらふくエサを食べていた可能性があるのだそうだ。
この研究は『Nature』(2023年9月27日付)に掲載された。
References:What did the ancient trilo-bite? - Scimex / Fossil of a Trilobite Discovered With Its Last Meal Still Visible Inside : ScienceAlert / written by hiroching / edited by / parumo

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