大企業で部長職に就き、最高年収1,200万円超…羨ましいばかりの“勝ち組”といえそうですが、実はそうした人ほど、「老後破産」に注意が必要です。退職金も合わせ、十分な貯蓄を持って老後生活を迎えられるはずなのに、一体どうしてでしょう。詳しくみていきます。

破産者は年間6~7万人…多重債務に陥る原因は?

日本では年間に6万~7万人が「破産」に至っているといいます。破産債務者の平均月収は14万2,021円(日本弁護士連合会『2020年破産事件及び個人再生事件記録調査』より)と、厚生労働省が調査した会社員の平均月収(所定内給与額)31万1,000円の半分以下の水準です。

破産債務者が多重債務に陥った背景としては、「生活苦・低所得」や「病気・医療費」、「負債の返済」というような、低所得に起因するものが目立ちます。一方で、「失業・転職」をきっかけに破産に至るケースも多く、たとえ現在は平均的な収入を得ていたとしても、潜在的には誰もが破産に至るリスクを抱えていると考えたほうがよさそうです。

【破産理由(多重債務に陥った原因)】 生活苦・低所得 61.69% 病気・医療費 23.31% 負債の返済(保証以外) 20.48% 失業・転職 17.58% 事業資金 16.13% 生活用品の購入 14.76% 浪費・遊興費 11.37% 教育資金 9.84% 給料の減少 9.60% ・ ・ 日本弁護士連合会『2020年破産事件及び個人再生事件記録調査』より

上の表をみると、多重債務に陥った原因として「給料の減少」を挙げた人が9.6%に上っています。勤め先の業績悪化や病気・ケガによる休職など、給料が減る要因はいくつかありますが、そうしたトラブルがなくとも、大半の会社員が定年退職時に大幅な「給料の減少」を経験します。厚生労働省『高年齢者雇用状況等報告』によれば、21年6月から22年5月の間の1年間、60歳定年制のある企業で定年に達した人は約37万9,120人でした。

最新の報告では、1年間に約40万人がこの節目を迎えています。とはいえ、60歳で「引退」を選択する人は全体の10%強と少数派。大半は定年後も働き続けるという選択をしていますが、60歳定年を機に、雇用形態は嘱託社員や契約社員などとなり、現役時代に比べて平均3割ほどの給与ダウンを経験するといわれています。

昨今は70代になっても仕事を続ける人が珍しくありません。経済的な要因や「生きがいのため」など、働く理由は人それぞれですが、いつかは完全に引退し、年金暮らしに突入する時期がやってきます。嘱託社員・契約社員、あるいはパート・アルバイトとしての収入も途絶え、完全引退を機に、定年退職時に次ぐ収入減を経験することになります。

60歳での定年退職と、それに伴う働き方の変化。その後、仕事から完全に引退して年金暮らしに突入していく際の収入減は、すべてのサラリーマンを待ち受けているのです。

「高給取り」の元・エリートこそ注意が必要な老後破産

以下では、現役時代に給与水準が高かったエリートサラリーマンの50代以降の家計について、みていきます。

シミュレーションするのは、従業員数1,000人以上の大企業の部長。大企業・部長の平均年齢は52.7歳で、月給は73万7,100円。賞与等も含めた年収は1,200万円超と、多くの人が「高給取り」とみなす年収1,000万円をはるかに上回る“勝ち組”です。

総務省の『家計調査』によれば、世帯年収1,200万円台の世帯の消費支出が月間42万円ほど。ただ、この水準の世帯の平均貯蓄額は約2,300万円とされており、一方で住宅ローンなどの負債は1,100万円程度ですから、定年時に退職金を受け取れるとすれば、老後の心配はあまりなさそうです。

この部長が仮に退職金として2,000万円を受け取ったとすると、60歳時点での貯蓄は4,000万円。ここで住宅ローンの残債1,000万円を完済したとすると、貯蓄は残り3,000万円となります。60歳以降、嘱託社員として仕事を続けていたとしても、年収は定年退職時の3割減。55歳の役職定年で3割減となった給料のさらに3割減ですから、60代の給与はピーク時の50代の約半分です。

その後、65歳で受給開始となる年金は、現役時代の給与水準が高かった人であっても約14万円、国民年金と合わせても20万円程度。妻が専業主婦だった場合は世帯で月に26万円、収入は年間で300万円程度ということになります。つまり、年金生活に入れば収入はピーク時の25%にまで減少します。

こうした状況下でも現役時代と同等の生活を続けていたとすると、60~65歳の5年間で毎年80万円ほどの貯蓄を取り崩すことになります。すると、年金生活に入る65歳のときには貯蓄はすでに2,600万円ほどに。さらに、年金生活に入っても金銭感覚が変わらなかったとすると、年間の赤字額は200万円超。元・部長にとっては「普通の暮らし」をしていただけなのに、単純計算では13年後には貯蓄が底をつき、70代後半で家計が破綻することになります。

収入の減少や加齢により、多くの人は消費・生活スタイルを見直すでしょうから、すべての元・エリートサラリーマンが上記のようなルートで破産に至る訳ではありません。ただ、「一度高めた生活水準を下げるのは難しい」というのは厳然たる事実。現役時代に派手な生活を送ってきた人ほど、注意が必要なのは間違いありません。

老後破産という最悪の結末を避けるには、収入の多い現役時代のうちから、「夫婦2人で暮らすには広すぎるマイホームから引っ越す」「週末しか乗らない自動車を売却する」など、固定費を削るための行動が求められます。また、「老後はまだまだ先」という30~40代は、給与が増えるたびに生活水準を高めることのリスクを認識しておくことが、豊かな老後を迎えるためには必須といえそうです。

(※写真はイメージです/PIXTA)