中国不動産バブルの崩壊による世界経済への影響が懸念されています。日本でも約30年前にバブル崩壊が起き、その影響は現在も残っているといえるでしょう。しかし、中国の不動産バブル崩壊は、日本よりもさらに深刻なシナリオが待ち受けていると、株式会社武者リサーチ代表の武者陵司氏は警鐘を鳴らします。中国バブル崩壊の現状と、今後予想される“最悪の未来”について、詳しくみていきましょう。

中国の「不動産バブル崩壊」はまだ序の口

中国のバブル崩壊の現状は、バブル崩壊の初期、日本の推移と比較すると1990年代前半に相当する、といえるのではないか。日本の6大都市市街地地価指数32.5(1971)、67.8(1980)、285.3(1991)、68.6(2005)、67.8(2013)と推移してきた。11年で4.2倍となった後、バブルの高値からは13年間で75%低下し底入れをした。

他方、中国の不動産価格下落はいま始まったばかり、当局の公表値は数%の下落に過ぎない(図表2)。

しかし、アリババ本社近くの中古物件、21年終盤の高値から25%安になったとのメディアの報道がなされており(ブルームバーグ)、仲介業者データではすでに高値から15~25%下落したと推測されている。

むしろ、現在最も大きく変化しているのは中国の不動産販売の激減である。大手100デベロッパーの販売額はピーク2021年比7割減で推移しまだ底入れしていない。また家計の住宅ローンも激減している。

ということは、不良債権の発生と処理も今の中国にはほんの入り口に過ぎないということである。

日経新聞8月31日)は、中国不動産デベロッパー11社のバランスシート合計値を発表した(図表5)。

主要11社の6月末のバランスシートは資産総額が約12兆3,300億元(対GDP比10%)に対し、負債総額が約10兆3,400億元。差し引き約1兆9,900億元が資本となっている。総資産のおよそ半分を占める開発用不動産の評価が仮に32%下がれば、資本不足で債務超過に転落する計算だ

しかし、開発用不動産以外の資産もバブル崩壊で評価が大きく下落するだろうこと、価格下落はこれからが本番、大幅な評価減は不可避であろうこと、を考えれば、ほぼ全社が債務超過に陥ることは避けられないのではないか。

日本の場合、全国銀行の不良債権のピークは2001年の43兆円、累計の銀行処理額は80兆円程度、GDP比20%程度に上ったものと推定される。日銀は銀行の不動産処理による損失に対して巨額の量的金融緩和で対応した。損失処理が進展した1998年から2005年にかけて、日銀総資産はほぼ80兆円増加した(図表6、7)。

これは銀行の処理額はまるまる日銀信用によって補填され、銀行のバランスシートの収縮は避けられたことを意味する。このように日本の不良債権処理の過程を振り返ると、未だ中国では不良債権の処理すら始まっていない段階といえる。

中国は「日本化」するか

中国は固定資本形成のGDP比40%超という歴史上例のない「投資主導経済」を20年にわたって続けてきた(図表8)。

この投資主導経済の実態はコスト先送りによる需要創造である。投資とは会計的には支出し(=需要を創造し)、コストを資産計上によって先送りするという危険な行為である。建設された設備や構築物が有効に活用できないものであれば、不良資産の山を作り続けることになり、非常に大きなリスクを伴う。共産党主導の地方政府は、そのリスクに無頓着で、成長競争のみにこだわる投資暴走を続けてきたのだ。

2年余りでアメリカ100年分のセメントを消費したといわれるほどの天文学的投資資産の多くが、価値を生み出す健全資産とは考えられず、潜在的不良資産が積み上がっていると推測される。

固定資産投資による経済成長を続けてこられた背景には、土地の錬金術があった。地方政府が土地利用権を売り、その売却代金が地方政府の収益の四割を占めたことで、地方政府は極めて収入が潤沢になった。

そうした潤沢な資金をインフラ投資やハイテク企業への支援に向けることができた。この成長パターンは、バブルが崩壊し、地方政府による土地利用権売却収入が止まると維持できなくなる。そして、いまその崩壊が実際に始まったのである(図表9)。

投資とは逆に、過去40年間に消費対GDP比は53%から38%へと15%低下し、消費が投資を下回り続けたことも異例である(図表10)。

今後予想される投資の落ち込みは消費の増加でカバーするしかないが、バブル崩壊習近平政権の奢侈を非難するイデオロギーは、家計の防衛的貯蓄の引き上げに結び付き、一段と経済活力を奪っていくことが想定される。

短期的困難を、①バブル崩壊先送り、不良債権の隠ぺい、追い貸しなどの弥縫策、②家計に対する減税などの消費支援で、糊塗するだろうがその効果は短命であろう。中国の困難はかつて日本が陥ったバランスシート不況とは異なる。

日本のBS不況は、資産価格下落による金融上の損失の発生であり、時間をかけてその処理が完遂された。しかし中国の根本問題は、実物資産の作り過ぎ、過剰住宅・過剰設備・過剰インフラにある。そこからの脱却は実物経済の急収縮をもたらす。深刻な大恐慌型の経済困難がありえる。

ということは、中国が日本化(Japanification)するかどうか、という問いは甘すぎる。より深刻な将来が待っていることを念頭に置くべきである。

武者 陵司

株式会社武者リサーチ

代表

(※写真はイメージです/PIXTA)