
インターネット上での誹謗中傷は、人権侵害にあたる可能性があります。それは相手が有名人であろうがなかろうが関係なく、すべての人にあてはまることです。今回は、インターネット上での誹謗中傷と人権侵害の関係性について、Authense法律事務所の弁護士が解説します。
誹謗中傷と人権侵害との関係性
インターネット上での誹謗中傷が、大きな社会問題となっています。
インターネット上で誰もが気軽に情報発信ができるようになった反面、他者を傷付ける書き込みも指先の操作だけでできてしまうようになりました。他者を傷付ける書き込みは、人権侵害にあたる可能性があります。はじめに、誹謗中傷と人権侵害との関係性について解説しましょう。
インターネット上の誹謗中傷は「人権侵害にあたる」可能性が高い
インターネット上での誹謗中傷は、人権侵害にあたる可能性が高いでしょう。たとえば、次の行為などは、人権侵害にあたると考えられます。
・誹謗中傷行為
・他人に知られたくない事実や個人情報などを不特定多数の人々の目にさらす行為※1
誹謗中傷への法的対応には人権侵害があることが前提
次で解説をするように、誹謗中傷は損害賠償請求や刑事告訴の対象となり得ます。ただし、一口に「誹謗中傷」といっても、その範囲は非常に広く、すべての誹謗中傷が法的措置の対象になるとまではいえません。
そこで前提となるのが、誹謗中傷が人権侵害にあたるかどうかです。人権侵害にあたるか否かは、具体的には個々の事情や書き込みの内容などによって異なります。そのため、法的措置の可否を自分で判断しようとせず、被害に遭ったらすぐに弁護士へご相談ください。
インターネット上の誹謗中傷へとり得る法的措置
インターネット上で行われた誹謗中傷は、法的措置の対象となる可能性があります。誹謗中傷に対してとり得る主な法的措置は、次のとおりです。
削除請求
削除請求とは、誹謗中傷にあたる書き込みを削除するよう、SNSやインターネット掲示板の管理者などに対して請求することです。
Twitterなど多くのSNSなどでは削除依頼フォームを設けているため、所定の方法で通報することで削除してもらえる可能性があります。
削除請求は自分で行うこともできますが、弁護士などに、削除請求を代行してもらうとよいでしょう。ただし、相手に対して損害賠償請求や刑事告訴をしたい場合には、すぐに削除請求をすることはおすすめできません。なぜなら、削除請求が認められれば投稿が消えてしまい、誹謗中傷の証拠が消えてしまうためです。そのため、削除依頼をする前に、スクリーンショットを撮影するなどして証拠を残しておきましょう。
また、自分で撮影したスクリーンショットには、漏れがあることも少なくありません。そのため、スクリーンショットを撮影したらすぐに削除依頼をするのではなく、スクリーンショットの撮影後、弁護士に相談したうえで削除請求を行うことをおすすめします。
損害賠償請求
損害賠償請求とは、誹謗中傷により被った損害の賠償を、金銭で請求することです。損害賠償請求は、まず、弁護士などから相手に対して直接行うことが多いでしょう。
請求額どおりに相手が支払った場合や、謝罪を受け入れて減額などの交渉がまとまった場合には、示談の成立となります。一方、相手との交渉が決裂することや、相手が請求を無視することなども考えられます。
このような場合には、裁判上で損害賠償請求を行うこととなるでしょう。なお、損害賠償請求をするためには、相手の住所や氏名が特定できていなければなりません。そのため、誹謗中傷をした相手が匿名である場合には、まず相手が誰であるのか特定することが必要です。
相手を特定するためには、誹謗中傷が投稿されたSNSなどの運営者や、相手がそのSNSへの接続に使用したアクセスプロバイダなどから、情報を得なければなりません。しかし、プロバイダなどが任意に開示に応じる可能性は、ほとんどないといえるでしょう。
そこで、通常は、裁判手続きを申し立て、裁判所からプロバイダなどに対して発信者情報開示命令を出してもらう手続きを踏みます。このようにして相手を特定したうえで、損害賠償請求へと進みます。
刑事告訴
刑事告訴とは、犯罪の事実を警察などへと申告し、犯罪者を処罰してほしいとの意思表示をすることです。人権侵害にあたるレベルの誹謗中傷であれば、刑法上の「名誉毀損罪」や「侮辱罪」などにあたることが多いでしょう。
これらの罪は、被害者からの告訴がなければ起訴することができない、「親告罪」に該当します。刑事告訴は口頭でも認められるとされていますが、通常は、告訴状を提出して行います。
また、損害賠償請求をする場合と同様に、先に相手を特定してから行うことが一般的です。なお、捜査の後、検察の判断で不起訴となる可能性もあれば、起訴されても裁判所の判断で無罪となる可能性もあるでしょう。さらに、相手が有罪となっても、損害賠償請求とは異なり、被害者が金銭を得られるわけでもありません。
そのため、刑事告訴をするかどうかは、弁護士と相談のうえ、慎重に検討することをおすすめします。
インターネット上で人権侵害の「加害者」とならないために
インターネットやSNSが普及し、一般個人が簡単に情報を発信することが可能です。以前であれば声をかけることさえ難しかった有名人に対しても、ブログやSNSの投稿にコメントをすることなどで、簡単に言葉を投げかけることができるでしょう。
これは非常に便利でありプラスとなることが多い反面、ひとつ間違えば人権侵害の加害者となってしまいかねません。いまや、誰もが人権侵害の被害者となる可能性も、加害者となる可能性もあるのです。
では、インターネット上での書き込みで人権侵害をしてしまわないためには、どうすればよいのでしょうか? 注意すべき主なポイントは次のとおりです。
個人アカウントの日記のつもりでも、投稿が不特定多数に見られることも
インターネット上になにか書き込みをする際には、投稿が不特定多数に見られる可能性があると理解しておきましょう。
SNSなどに投稿をする場合、その場には相手が存在しません。そのため、あたかも自分の日記帳に感想を書き込んでいるような錯覚に陥ることもあるでしょう。自分の日記帳であれば、なにを書いても自由です。しかし、日記を書くような感覚でインターネット上に書き込みをしてしまえば、人権侵害にあたる可能性があります。
インターネット上の書き込みは、不特定多数が閲覧することができます。インターネット上に書き込んだ以上、何気ない自分の言葉が広まってしまう危険性や、本人に伝わってひどく傷つけてしまう可能性があることを知っておきましょう。
他人を誹謗中傷する内容を書き込まない
人権侵害を避けるためには、インターネット上には他者を誹謗中傷する内容を書き込まないよう、徹底しましょう。
これは、相手が有名人である場合であっても同様です。SNS上などにおいて、「有名税」という言葉を目にすることがあります。これは、「有名人は目立つのだから、多少の誹謗中傷をされても仕方がない」という意味合いで使われることもあるようです。しかし、当然ながら、有名税に法的根拠は存在せず、相手が有名人であることだけを理由に人権侵害にならないわけではありません。
むしろ、相手が有名人であれば人権侵害の投稿が仕事に直結する可能性もあり、損害賠償額が高額となる可能性さえあるでしょう。
完全な匿名はないと理解する
SNSなどの投稿は、匿名で行われることも少なくありません。そして、匿名であることから気が大きくなり、人権侵害にあたるほどの誹謗中傷をしてしまう場合もあるようです。
しかし、インターネット上に、完全な匿名は存在しません。誹謗中傷など法的に問題のある行為をすれば、被害者側が発信者情報開示請求などをすることで身元が判明します。そのため、実名では言えないことは、匿名であっても書き込まないよう心がけましょう。
法的責任を追及される可能性を知っておく
誹謗中傷をした場合には、上で解説をしたとおり、法的責任を追及される可能性があります。誹謗中傷などの書き込みをする人のなかには、軽い気持ちから行うこともあるようです。
これは、相手に面と向かっていうのではなく、自分のパソコンやスマートフォン上のみで行っているためでしょう。しかし、たとえ気軽に行った行為であっても、誹謗中傷や人権侵害は法的措置の対象となり得る行為です。
インターネット上に書き込みをする際には、このことをよく理解しておきましょう。
インターネット上で誹謗中傷の被害に遭ったら…
いまや、誰もがインターネットを利用して簡単に情報を発信することが可能となりました。しかし、その反面、誰もがインターネット上で誹謗中傷の被害に遭う可能性もあります。では、誹謗中傷やの被害に遭ったら、どのように対処すればよいのでしょうか? 主な対処方法は、次のとおりです。
スクリーンショットなどで証拠を残す
インターネット上で誹謗中傷と思われる書き込みを見つけたら、すぐにスクリーンショットで証拠を残しておきましょう。スクリーンショットは、次の情報がわかるように撮影します。
投稿の内容
投稿の日時
投稿のURL
SNSの場合には投稿者のユーザー名やアカウント名、プロフィールページ
なお、スクリーンショットをスマートフォンから撮影する場合には、画像ではなくPDFでの保存をおすすめします。画像の場合には、投稿のURLなどが完全な形で掲載されないことが多いためです。
PDFでのスクリーンショットの撮影方法は、Apple社のホームページなど、メーカーのホームページをご参照ください※2。
できるだけ早く弁護士に相談する
誹謗中傷問題を、自分で解決することは容易ではありません。自分で直接誹謗中傷をした相手と交渉するなどすれば、トラブルがより大きくなる可能性さえあります。
そのため、投稿のスクリーンショットを撮影したら、可能な限り早期に弁護士へご相談ください。なぜなら、時間が経過すればログが消えてしまい、法的措置をとることが困難となるためです。
また、相談先の弁護士は、誹謗中傷問題に力を入れている事務所を選ぶとよいでしょう。誹謗中傷問題にくわしい弁護士であれば必要な手続きをスムーズに進行させることができ、ログが消える前に適切に対応してもらえる可能性が高いためです。
まとめ
インターネット上の誹謗中傷は、人権侵害にあたるケースが多いでしょう。そして、人権侵害にあたる誹謗中傷であれば、その多くが法的措置の対象となります。法的措置とは、たとえば損害賠償請求や、相手の刑事告訴などです。
また、相手が匿名であったとしても諦める必要はありません。誹謗中傷の被害に遭ったら、できるだけすぐに弁護士へ相談するとよいでしょう。
<参考文献>
※1 政府広報オンライン:インターネット上の人権侵害に注意!
※2 Apple:iPhoneユーザガイド(iPhoneでスクリーンショットを撮る/画面を収録する)

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