老人ホームへの入居を検討する際、まっさきに考えたいのが費用面。自身の年金と預貯金で賄えることを前提に施設を比較・検討していきますが、めでたく入居が決まったとしても、果たして想定通りにいくかどうか……みていきましょう。

老人ホーム…実際、いくらかかる?

老人ホームにかかる費用は、大きく2つ。入居するときに支払う「入居一時金」と、毎月払う「月額利用料」があります。

入居一時金⁉ 耳慣れない言葉かもしれませんが、これは一定期間の月額利用料を前もって払うもの。家賃の前払い金と考えるといいでしょう。入居後は利用した期間に応じて、年次、または月次で償却されていきます。そのため、長期間の入居が想定されている施設ほど高額の設定がされている場合や、年齢が若い人ほど高額の設定がされている場合があります。その相場はゼロ円~数億円とピンキリです。月額利用料は、賃料や管理費運営費、食費、自己負担分となる介護保険サービス費などが含まれます。

老人ホームを検討するとき、まずはパンフレットなどで費用を見比べるでしょう。しかしパンフレットに書いてある金額と実際の請求額に差があり、「聞いていた金額と違う!」トラブルになりがち。

老人ホームの多くは「毎月の利用料」のほか「その他の発生する費用」が合算され毎月請求されます。「その他の発生する費用」は利用した内容に応じて請求がされるうえ、何が毎月一定額でかかる費用なのか、何が含まれていないのかは施設によって異なります。そのあたりの事情も考慮せずに、ただ金額だけを比較するのはNG。もちろん入居前に施設から金額の説明もあるので、きちんと聞いて、疑問点・不明点は解消しておくことが肝心です。

老人ホームの費用の相場はその種類によって変わりますが、大きく「公的な施設」と「民間の施設」にわけられます。

公的な施設の代表といえる介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)の月額利用料は、要介護5で多床室を利用した場合、約10万円。要介護5でユニット型個室を利用した場合、約14万円です(厚生労働省ホームページより)。一方、民間企業の施設で最多となる有料老人ホーム(サ高住除く)は、14万円~といったところ。一般的に民間の施設のほうが設備面はもちろん、サービスも充実しているので、その分、割高になりがち。一方で公的な施設は、割安な分、希望者も多く、1年も2年も退去待ちしているということも珍しくありません。

母娘の皮算用「10年くらいは年金と預貯金で払えるが…」

老人ホームへの入居を検討する場合、充てにするのは自身の年金と預貯金。厚生労働省の調査によると、厚生年金受給者の平均受給額は男性で月17万円、女性で10万円程度です。初期費用となる入居一時金は貯蓄で賄うとして、月額利用料はまずは年金、そして足りない分は預貯金を取り崩しての対応となるでしょう。施設への入居期間は平均5~6年といわれているので、そこからトータルコストを逆算。それを基に施設を検討します。

しかし、人生、想定通りにいくかは未知数。もし想定以上にコストがかさんだら、入居者の家族が負担するのが一般的です。

母が有料老人ホームに入居しているという50代女性。月々の利用料は15万円程度で、母の年金は月10万円程度。毎月5万円ほど赤字となり、母の貯金を取り崩して何とかやっているといいます。

――計算上、10年くらいは大丈夫

入居前、そんな会話を母娘でしたといいます。現在、母は82歳。いまさらながら「90歳を超えて長生きすることなどよく耳にする話だから、もっと余裕のある施設を選べばよかった」と後悔することも。子どもの学費もあるし、自身の老後のこともある。とても赤字分を補填してあげることは難しいし、この物価高のなか、利用料が値上げとなってしまっては、さらに状況は厳しくなることは明らか。母の長生きを願いつつも、将来の不安は付きまとう……何とも言えない日々を過ごしているといいます。

厚生労働省令和3年 簡易生命表』によると、80歳女性の平均余命は12.12歳。85歳では8.60歳、90歳では5.74歳。ただこれもあくまでも「平均」。人生100年時代というのも大げさではなくなってきた昨今、十分すぎるほど余裕をもって準備をしておくことが肝心です。

(※写真はイメージです/PIXTA)