連続ドラマ「相棒」シリーズ(テレビ朝日系)や「あぶない刑事」シリーズ(日本テレビ系)、「踊る大捜査線」シリーズ(フジテレビ系)など、人気“刑事ドラマ”を見ていると、銃撃戦や犯人が殺害現場で自供をしたりします。また、「相棒」では、「特命係」といった特別な課が登場したりもします。そこで、元警視庁公安部外事課捜査官でありながら、刑事経験もある日本カウンターインテリジェンス協会代表理事 の稲村悠さんに、気になった刑事ドラマの「ホント」と「ウソ」を聞いてみました。

“特命係”は実在する? 銃撃戦が繰り広げられた事件があった…

Q.ずばり、「相棒」の「特命係」といった特別な課などが存在したりするのでしょうか。
稲村さん「いわゆる“追い出し部屋”としての解説か、杉下右京水谷豊さん)とその相棒が難事件を解決していく“捜査チーム”としての解説かで悩みますね(笑)。

公式サイト によれば、『警視庁生活安全部特命係。またの名を“警視庁陸の孤島”。生活安全部の所属となっているのは、あくまでも便宜上。よほどのことがない限り仕事が回されることがない特命係は、いわば警視庁の“窓際”だ」と示されています。各部門・係ごとに主管の対象事件がある中で、その範ちゅうを超えて自由に捜査を行うことは組織上認められていません。

Q.「あぶない刑事」のように刑事が拳銃を持って銃撃戦を繰り広げたりするケースはあり得るのでしょうか。

稲村さん「銃を使用した事件は過去にも複数発生していますが、現状では銃撃戦となった事件は多く発生していません。

代表的な例としては1972(昭和47)年の『あさま山荘事件』や1965(昭和40)年に発生した『少年ライフル魔事件』が挙げられます。少年ライフル魔事件では、当時18歳の少年Aライフル銃を使用し、殺人・逃走。渋谷で警察と銃撃戦を繰り広げ、検挙されています。この事件では多くの死傷者が出ました。また、2007(平成19)年に発生した「函館市銃撃戦」事件では、韓国籍暴力団組員の男が拳銃を使用して乗用車を強奪し、警察との間で銃撃戦となり、射殺されました」

Q.街で事件が起こり、銃弾を発射したというニュースが流れたりしますが、刑事や警察官はどのような処遇を受けたりするのでしょうか?

稲村さん「よく言われるのが、拳銃を使用したことで不利な処遇になるのではないかという話題がありますが、一方的に不利な処遇になることはあり得ません。

一方で、拳銃の使用は警察法施行令(昭和29年政令第151号)第13条の規定に基づき『警察官等拳銃使用及び取扱い規範』という規定に厳しく規定されており、厳格な検証がなされます。

例えば、拳銃使用の際には以下の段階を踏むよう規定されています。
(1)拳銃の取り出し
(2)相手に向け構える(ここから“使用“とされます)
(3)射撃予告(事態が急迫している場合、相手の違法行為を誘発する場合などは不要)
(4)威嚇射撃(事態が急迫している場合、威嚇射撃によって相手が違法行為を中止しないと認める場合などは不要)
(5)相手への射撃(警察官は、相手に向けて拳銃を撃つことができる。規定により拳銃を撃つときは、相手以外の者に危害を及ぼし、または損害を与えないよう、事態の急迫の程度、周囲の状況その他の事情に応じ、必要な注意を払わなければならないなど)

このように規定されている中で、相手に危害を与える態様で拳銃を使用して良い要件は以下の通りです。
(1)正当防衛または緊急避難に該当する場合
(2)死刑または無期もしくは長期3年以上の懲役もしくは禁錮にあたる兇悪な罪の現行犯人などが警察官による逮捕などから逃れるために抵抗している場合
(3)逮捕状による逮捕や勾引状・勾留状の執行から逃れるために抵抗している場合
そして、(2)と(3)については、他にとるべき手段がなかったと信ずるに足りる相当な理由がある場合のみです。

このように厳格に規定されている中で、拳銃使用が適正だったかの検証が行われるため、拳銃を使用した警察官はこの検証に対応しなければなりません。ここで、適正な判断でないと判断された場合には、処分などもあり得ます」

Q.「踊る大捜査線」で、上層部の人物から「所轄の人間が手錠をかけるな」と命令を受けるシーンがありました。実際、犯人に手錠をかける人は、どのようなポジションの人なのでしょうか。

稲村さん「これはその場で犯行が行われた場合などの現行犯逮捕か、逮捕状の発付を受けて通常逮捕する場合かで分かれますが、まず『逮捕=手錠をかける』かという論点もあります。

捜査実務上の規範を規定した犯罪捜査規範第126条1項では、逮捕を行うにあたって“必要な限度を超えて実力を行使することがないように注意しなければならない”と規定した上で、127条1項『逮捕した被疑者が逃亡し、自殺し、又は暴行する等のおそれがある場合において必要があるときは、確実に手錠を使用しなければならない』と定められており、逮捕した被疑者に逃亡、自殺や暴行などの恐れがない場合には手錠をかける行為は必要ないと判断できますが、この逃亡のおそれについては解釈が難しい部分があります。

事実、私が担当した事件で、取り調べ中の再逮捕時には、取調室内では逃走の恐れもないため、手錠をかけずに令状を提示し、逮捕する旨を告げてから逮捕したケースも多々あり、『逮捕=手錠ではない』パターンもあるのが前提です。

その上で、まず現行犯逮捕ではその場で被疑者の身柄を確保しなければならないため、その場に居合わせた警察官が手錠の使用が必要と判断すれば手錠を使用します。

そして、通常逮捕の場合も特に決まりはありませんが、捜査の実務的責任者が令状を示し、同じ班のメンバーが手錠をかけることが多いですが、捜査責任者自ら手錠をかけることもあります。

例えば、捜査一課が入っているような事件では捜査の実務的責任者(捜査一課)が令状を示し、同じ班のメンバーが手錠をかけることが多いですが、班の編成次第となります 。

Q.連続ドラマ「古畑任三郎」や「教場」(共にフジテレビ系)などで、主人公が殺害現場で尋問をしたりするシーンがありました。そういうことはあり得ますか?

稲村さん「ある程度はある、という答えになるかと思います。例えば、現行犯逮捕や緊急逮捕の場合、何がその場で起きたか周囲の方から話を聞かなければなりません。そのため、現場で話を聞く状況が発生し、その中で、被疑者から『XXから盗みました』というような話が出ることも多々あります。

しかし、取調べは病気で病室から動けないなど特殊な事情がない限り基本的に取調室で行われます。犯罪捜査規範にも、取調べは基本的に取調室内を前提とし、任意性を確保して行う旨を規定しています。

実務的にも、敢えて現場で捜査内容を突き付けて被疑者を尋問するようなことはほぼないと言っても過言ではないでしょう。

『ああだこうだ』とへりくつを交えながら説明しましたが、ドラマ上での演出は必要だと思っています。現実と乖離(かいり)したシチュエーションがドラマを魅力的にし、視聴者を満足させているというところは重々承知しています。

今後も、リアリティーとエンターテインメントを両立させた素晴らしい刑事ドラマが世に出てくることを楽しみにしています!」

オトナンサー編集部

刑事ドラマの「ホント」と「ウソ」