強いニッポン男子バレーが復活!世界最強を決める今夏のネーションズリーグ(VNL)では主要な国際大会で実に46年ぶりの表彰台となる銅メダルを獲得。人気も再燃し一躍注目される中、1972年ミュンヘン五輪以来の金メダルを本気でめざす来年のパリ五輪出場をかけた予選大会が開幕する。

グループ8か国総当たりで2枠を争う熾烈な戦いは東京・代々木を舞台に期待度MAXで盛り上がる――そこで今回、自著『2.43 清陰高校男子バレー部』(集英社刊)を人気シリーズに育て、10年超も男子バレーに魅了され追い続ける作家・壁井ユカコ氏がファン目線で見どころを語る。にわかでもOK、ここから新たな歴史が始まるというその魅力を前編記事に続き、要チェック!!

【画像】山本智大と髙橋健太郎

―― 他のポジションということでは、やはりディフェンス力がベースとなるその鍵として注目されるのがリベロの山本智大(ともひろ)選手ですか。VNLでの躍進はベストディガー賞に輝いた成長に拠るところも大きいのでは?

壁井 彼のディグはスゴいですよね。個人の力量ももちろんのこと、男子の球の速さだと反応だけで拾えるものではないので、アナリストの分析による戦術の浸透もあってブロックとの連動とか兼ね合いが機能してるんだと思います。

※ディグ=スパイクのレシーブ

山本智大選手
山本智大選手

――すでに"ディグの神"とも称されているとか。ポーランドフランスなどの強豪国は世界を代表する30代のベテラン選手が務める中、28歳と脂がのって伸びしろも......。

壁井 日本は元々、ディグに強くてイイ選手がいるとはいえ、その中でもポジショニングがまずスゴくて、さらに指示力があってムードメーカーになれるのも山本選手なんです。アタックを拾って、ラリーを続ける面白さにハマらせてくれる立役者はリベロなんだと、彼のおかげで伝わるんじゃないですか。

――世界の高さであり大型化に対抗できず、お家芸のスピードやコンビ力でも違いを生み出せなくなったところで、サーブやデフェンスをより極めていくのは必然だったのかと。

壁井 そうですね。ただ、大型化は日本でも起こっていて、山内昌大(あきひろ)選手は204センチですか。彼はサーブもいいのでブレイクを結構取れたり、ミドルブロッカーもどんどんよくなっていると思います。あとは海外のスゴいミドルブロッカーたちって、ブロックでもクイックでも怖いほど圧を敵に与えるので(笑)、それくらい成長してくれたらと。そんな存在感を出せそうな髙橋健太郎選手(202センチ)にも期待してます。

※ミドルブロッカー=旧称センター

髙橋健太郎選手
髙橋健太郎選手

――山内選手は高校からバレーを始めた遅咲きでやはり伸びしろに期待ですね。

壁井 セッターも関田誠大(まさひろ)選手がスゴいですけど、今回の予選では控えの山本龍選手が若手で面白い個性があるので活躍が見られるのを期待しています。東海大学時代からずっと見てきた好きな選手で、ミドルを使うのもうまいし185センチと日本では身長があるセッターなのでブロックもいいし......隙あらば、自分でスパイク打っちゃったりするんです。高校時代は大塚(達宣・たつのり) 選手とチームメイトで日本一にもなっています。

――その背景にもまたドラマがありそうな......若手による底上げも進化を促して、個々がオールラウンダーとして新しい男子バレーの未来を今まさに築き始めているといえますね。

壁井 スパイクの決定力、ブロック力、サーブ力、守備力、それにこれはシビアな話ですが身長と、もう全部が揃ってないと代表の中で活躍できないというハイレベルな凌(しの)ぎ合いが起こっている。これからがまさに明るい未来の始まりだと思っています。

バレーってスパイクを打った選手やレシーブした選手のスゴさはわかるけれど、ボールがこない場所で他の味方がどう動いて、セッターがどんなトスを上げて、敵がどう動いたからその1本に繋がった、というところまでわかるのは正直難しくて。私もいまだにそこまで辿(たど)り着けません(笑)。

展開が速い上にローテーションがあって1点ごとにフォーメーションも動くので......でもだからこそ、知れば知るほどその奥深さも面白くて。ただカッコいいだけじゃない競技の魅力をわかりたくなる。

――男子バレーが栄光から遠ざかった時代も長きにわたり、再びこうしてスポットライトが当たるまでこの10年以上、ウォッチし続けただけに説得力があります。

壁井 石川(祐希) 選手は27歳ですけど、その後に続く選手も続々出てきていますし、今の日本がやっている戦術であったり、フィジカルや意識の強化もこれからさらに浸透していくはずです。今回だけじゃなく大学の試合なども無料で動画配信されているので、未来の代表の卵を是非探してみてほしいですね。

――著作の『2.43』も人気シリーズとなり裾野を育んできたわけですが、その個性的なキャラクターたちを通じて、バレーに興味を持った読者も多いとのこと。逆に代表の注目とともに、小説の存在を知って読まれるようになれば素敵ですね。

壁井 私が『2.43』を書き始めた頃は男子の競技人口も減りつつあったけど、最初に見に行ったインターハイで生で観戦した男子バレーの面白さ、迫力がスゴくて魅了されて。このカッコよさを伝えたいと試行錯誤してきましたが......こういう社会現象として、先日の男子バスケみたいにもっと熱の高まりが起こってくれることを期待したいですね。

すでに個々で人気はスゴく出ていますが、試合ごとに活躍する選手も違ったりするのが今の層の厚さなので「今日はこの選手がよかった」「自分はこの選手が一番好き」みたいな推しが見つかって、観る人それぞれに盛り上がってもらえれば嬉しいなと思います。

――そのためにも、まずはパリ五輪の出場権を今大会で掴み取ってほしい! 熱狂し盛り上がること間違いなしの男子バレー、必見です!!

●壁井 ユカコ (かべい・ゆかこ)
沖縄出身の父と北海道出身の母を持つ信州育ち、東京在住。学習院大学経済学部経営学科卒業。第9回電撃小説大賞〈大賞〉を受賞し、2003年『キーリ 死者たちは荒野に眠る』でデビュー。21年に「2.43 清陰高校男子バレー部」シリーズがTVアニメ化、『NO CALL NO LIFE』が実写映画化、他著書多数。


シリーズ完結!『2.43 清陰高校男子バレー部 next 4years』が2ヵ月連続刊行(〈Ⅰ〉絶賛発売中〈Ⅱ〉10月5日発売)特設サイト公開中

写真/五十嵐和博、Andrzej Iwanczuk/NurPhoto/共同通信イメージズ、共同通信社

『2.43 清陰高校男子バレー部』の著者・壁井ユカコ氏