
ついに10月1日から導入される「インボイス制度(適格請求書等保存方式)」。
写真はイメージです(以下同じ)
声優をはじめとした、フリーランスで働く人々の反対の声が報じられるケースが多いため、会社に勤務している人からの関心は低い。しかし、導入が間近に迫った今、会社員であってもインボイス制度による弊害が少ないことが露見し始めている。
◆「インボイス導入するなら経理を辞めたい」
「インボイス制度を考えるフリーランスの会」は9月22日、インボイス制度が導入されたことによって業務量が増えることが目されている、企業の経理業務担当者を対象に実施した調査結果を発表した。インボイス制度が施行されて業務量が増えた場合、「異動」(9.3%)もしくは「退職/転職」(24.0%)を考えると回答した割合は約3割だ。
年代別で見ると、20代は「異動」(13.9%)もしくは「退職/転職」(24.1%)。30代は「異動」(11.9%)もしくは「退職/転職」(28.6%)と、若い世代のほうが拒否反応が強い傾向が伺えた。この結果からインボイス制度は、現場の経理業務担当者にとって想像以上に面倒な制度であり、経営層からすれば人手不足を招くリスクを含んだ制度であることがわかる。
そもそも、同調査では「将来的にも導入するべきではない」(83.1%)と8割以上が回答しており、インボイス制度を望んでいる人は圧倒的に少ない。未だにインボイス制度のメリットが語られることがないのはなぜか。実際は厄介なだけで恩恵を受けられる人がいるのかどうかも怪しい制度なのではないか。
◆経理以外にも「インボイス残業」が発生する恐れ
インボイス制度が施行された後、「売り手側はインボイス(適格請求書)の発行」「買い手側はインボイスの保存」など様々な業務が発生するが、どの程度業務量が増えるのだろうか。

株式会社LayerXが9月19日に発表した調査結果では、インボイスの導入で新たに増える支払処理時間は、1件あたり15分、経費精算の処理は1件あたり5分と算出された。
加えて、経理担当者1人あたりの負担は月換算した場合、1~2営業日かかることが判明。つまりは1~2営業日ほどの時間を残業しなければいけなくなる。経理担当者がインボイス制度で発生した業務に追われた場合、他の従業員にも何かしらのしわ寄せがいくだろう。“インボイス残業”は経理担当者だけではなく、まわりまわって会社全体の残業時間を増やしかねない。
◆会社員にとってもインボイス制度は死活問題に?
経理担当者に対する負担が大きく、他の従業員にとっても少なくないリスクが生じるが、やはり経営層にとってもかなりの負担になる。
インボイス制度によって対応しなければいけない人件費として、日本全国で毎月約3413億円が発生することがわかった。残業代や新しく人を雇うことなど、インボイス制度導入以前ではかからなかったコストを余計に支払わなければならない。経営は今以上に困難になるだろう。

また、コスト増ともなれば給料アップにも大きく影響するため、やはり会社員にとってはインボイス制度は死活問題になる可能性は高い。フリーランスはもちろん、これまで“我関せず”だった会社員も、インボイス制度の影響については考えなければならない。
◆岸田首相は署名の受け取りを拒否
様々なデメリットが見えてきたインボイス制度。前出の「インボイス制度を考えるフリーランスの会」はオンライン署名サイト「Change.org」で「インボイス制度」に反対する署名を募り、集まった署名は9月時点で52万筆を超えた。この署名数は歴代最多であり、いかに望まれていない制度なのかは一目瞭然。
ただ、同会が25日に岸田文雄首相に署名を渡そうとしたところ、岸田首相は受け取りを拒否したと報じられている(日刊ゲンダイdigital、2023年9月26日)。首相就任直後は“聞く力”を謳っておきながら、52万人の声に耳を貸す気がない姿勢には憤りを覚えてならない。
岸田首相の不誠実な態度に加えて、まもなくインボイス制度が施行されることを鑑みると、もはや導入を延期、中止することは難しい。まずは「インボイス制度はフリーランスのみが不利益を被る制度ではない」「経理担当者をはじめ、会社員の業務量を増加させ、コストも増大する」と知っておくことが大切である。
<文/望月悠木>
【望月悠木】フリーライター。主に政治経済、社会問題に関する記事の執筆を手がける。今、知るべき情報を多くの人に届けるため、日々活動を続けている。Twitter:@mochizukiyuuki

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