扶養控除は、家族を扶養する場合に受けられる控除です。同じ家計において、養う子どもや親族がいる場合に受けられます。一方で、離婚後の養育費は、経済的な援助をしているという意味で、扶養控除の対象にできるのでしょうか。今回は離婚にかかわる控除や節税について、税理士の伊藤俊一氏による著書『税務署を納得させるエビデンス 決定的証拠の集め方』シリーズ(ぎょうせい)より、同氏が解説します。

離婚後の扶養控除や財産分与について

Q

離婚とそのエビデンスについて教えてください。

扶養控除の適用を受けることについてのエビデンスについては、離婚協議書にその詳細を明記する必要があります。財産分与の分割払いについて、生活困窮以外の理由であれば離婚協議書、又は分割払いに至った後で作成する覚書で支払額、支払時期等をあらかじめ確定しておき、それに従い支払えば特段問題は生じません。

離婚後、養育費の支払いに「扶養控除」は認められるのか

生活費・養育費を元夫婦で別々に負担しているあいだは、「扶養控除」の対象になる

養育費と扶養義務者、扶養控除などの取扱いは下記です。

離婚に伴い、子に対する養育費の支払いが、①扶養義務の履行として、②「成人に達するまで」など一定の年齢に限って行われる場合には、その支払われている期間については、原則として「生計を一にしているもの」として扶養控除の対象とすることができます。

甲(夫)が丙(子)の学費である養育費を負担し、乙(妻)が丙(子)の生活費を負担しているので、甲、乙いずれもが丙と生計が一であり、丙を扶養していると考えられます。

「扶養控除」は元夫・元妻のどちらかにしか認められないので、協議が必要

このように、子が元夫の控除対象扶養親族に該当するとともに元妻の控除対象扶養親族にも該当することになる場合には、扶養控除は当然のことながら元夫又は元妻いずれか一方だけにしか認められません。

したがって、扶養控除の適用を受けることについてのエビデンスは、

・離婚協議書において、  →養育費を支払っている親  →もしくは実際に同居して生活全般の扶養をしている親 のいずれかにすることを、  →離婚の協議内において、お互いに合意しておくべきもの

となります。

住居を譲った場合、課税はどうなるのか

もう「配偶者」ではないので、特別控除・軽減税率が認められる

〇居住用財産を分与した場合の課税の特例の適用の有無

個人が居住の用に供している家屋及び敷地を譲渡した場合には、譲渡所得金額から3,000万円の特別控除(措法35)の適用があり、その居住用財産の所有期間が10年を超える場合には、居住用財産の軽減税率の特例(措法31の3)の適用がありますが、その個人の配偶者その他の親族に対する譲渡については、居住用財産の譲渡所得の特別控除及び軽減税率の特例の適用は認められていません。

しかし、離婚に伴う財産分与は、離婚により夫婦関係が終了した後にされるものであり、配偶者に対する譲渡に該当しないので、居住用財産の譲渡所得の特別控除及び軽減税率の特例の適用が認められます(措通31の3-23、35-5)。

離婚前に住居を譲渡しても、その後すぐに離婚していれば認められる

この際、

・離婚前(戸籍の除籍手続前)に財産分与があっても、 ・その後速やかに除籍手続が行われた場合には、  →その譲渡は財産分与時ではなく除籍後に効力が発生したもの

と考えられるため、居住用財産の譲渡所得の特別控除及び軽減税率の特例の適用は認められます。この時系列を明確に整理し証拠保全します。

離婚前に「生活困窮」のため分割払いで財産分与した場合は、その証拠が必要

協議離婚成立前に一部財産を支払った、また、その後何かしらの事情で事実上の分割払いになった場合、その背景、事情に係るエビデンスを用意しておけば財産分与の一部として認められ、贈与の課税関係は一切生じません。

仮に分割払いに至った原因が、生活困窮の場合、対個人であるため生活困窮に係る証拠保全をしたいところです。対個人における証拠について強く主張できる決定的なものがありません。

残高の少ない、生活費で全て費消してしまうような経済状況を示した通帳、行政から何かしらの補助を受けている等々を残しても、当局から少しだけでも捻出できる、と指摘される可能性はあります。

生活困窮以外の理由であれば離婚協議書、又は分割払いに至った後で作成する覚書で支払額、支払時期等をあらかじめ確定しておき、それに従って支払えば特段問題は生じません。

伊藤 俊一

税理士

(※写真はイメージです/PIXTA)