夏から秋にかけて、日本列島に次々と上陸する台風。日本人にとって台風は身近な存在だが、「そもそも台風とは何なのか?」について詳しく知っている人は少ないのではないだろうか。また、「天気予報でよく聞く『非常に強い台風』と『猛烈な台風』の違いは?」「右側の方が勢力が強いというけどなぜ?」など、よく考えてみたら知らないことがいっぱい!

【写真】伊勢湾台風当時の被災水位を示す表示板

そこで今回は、台風に関する身近な疑問を解き明かすべく、気象庁 名古屋地方気象台に取材オファー。気象情報官の常盤実さんに、台風に関するさまざまな話を伺った。

■台風はどうやって生まれる?

―― そもそも、台風とは何なのでしょうか?

【常盤さん】赤道より北で、東経180度より西の領域、または南シナ海に存在する熱帯低気圧のうち、最大風速(10分間平均)がおよそ毎秒17メートル(34ノット)以上あるものを「台風」といいます。ざっくり言うと、東アジア東南アジア(ただし赤道より北の地域)に存在する、威力の強い熱帯低気圧のことですね。

―― そんな台風はどのように生まれるのか教えてください。

【常盤さん】台風へと発達する前の「熱帯低気圧」は、主に熱帯〜亜熱帯の海上で発生します。そのあたりの海水は日本の周辺より温度が高いこともあって蒸発しやすく、大気中に大量の水蒸気が供給されます。水蒸気は大気中をどんどん上昇していき、上空の冷たい空気で冷やされて水の粒となります。それが「雲」ですね。水蒸気が水の粒=「雲」になる際、熱を放出するので、その周辺の空気は徐々に温度が高くなっていきます。すると、さらに上昇気流が発生し、たくさんの水蒸気が上空に昇ります。それを繰り返すことで次々と積乱雲が発生します。

積乱雲の中心部に強い上昇気流が発生して気圧が下がると、積乱雲の外側から中心部に向かって強い風が吹くようになります。洗面所で水を一気に流したときの光景を思い浮かべてもらうとわかりやすいかもしれないですね。水が排水口に吸い込まれるように、空気も気圧が高い方から低い方へ、地球の自転の影響で渦を巻きながら流れていきます。これらの現象が相互に引き起こされることで、多数の積乱雲がまとまって熱帯低気圧となり、さらに威力が強まると「台風」と呼ばれるようになるのです。ちなみに、北半球では反時計回りに渦を巻きますが、南半球では時計回りに渦を巻きます。

ハリケーンサイクロンとの違いは?

―― 台風のほかにも、ハリケーンサイクロンといった呼び方がありますが、何が違うのでしょうか?

【常盤さん】発生した場所や最大風速によって、呼び方が変わります。ハリケーンは北大西洋、カリブ海、メキシコ湾、北太平洋東部で発生した熱帯低気圧のうち、最大風速が毎秒およそ33メートル以上になったもの。サイクロンインド洋や南太平洋で発生した熱帯低気圧のうち、最大風速が毎秒およそ17メートル以上になったものを言います。

最大風速に目を向けると、サイクロンは台風と同じく毎秒およそ17メートル以上としていますが、ハリケーンはその約2倍となっており、基準となる値が違います。そのため、「ハリケーン」とは呼ばれない規模の熱帯低気圧でも、台風と同等の勢力を持っている場合があります。

―― 台風はなぜこのような字を書くのでしょうか?

【常盤さん】もともと「台風」の「台」の字は、左側に「風」、右側に「台」と書く、「颱」という字でした。つまり、「颱風」と書いて「たいふう」と読んでいたんですね。「中央気象台」(現・気象庁)の台長も務めたことがある岡田武松氏が明治時代にこの字を用いて以降、次第に「颱風」の字が一般的になったそうです。その後、1946年に当用漢字が定められると、現在の「台風」の字が使われるようになりました。

ちなみに、「颱風(たいふう)」の言葉の由来は諸説あり、「台湾の方からやってくるから」「中国で激しい風のことを『大風』と言っていたから」などと言われています。

■台風の勢力や大きさを決めるカギは、風の強さ!

―― 天気予報で「非常に強い台風」「猛烈な台風」といった言葉を耳にしますが、何が違うのでしょうか?

【常盤さん】「非常に強い」や「猛烈な」といった言葉は、台風の勢力を表しています。勢力は最大風速によって分けられており、「台風」の中でも、毎秒約33メートル以上44メートル未満のものは「強い台風」、毎秒約44メートル以上54メートル未満は「非常に強い台風」、毎秒約54メートル以上は「猛烈な台風」と呼んでいます。

―― なるほど、最大風速によって分けられているのですね。「大型の台風」「超大型の台風」といった言葉も聞きますが、これは勢力とは違うのでしょうか?

【常盤さん】「大型」や「超大型」といった言葉は、台風の物理的な大きさを表しており、こちらは強風域(風速毎秒15メートル以上の風が吹いている、またはその可能性がある範囲)の半径によって決まります。半径が500キロ以上800キロ未満は「大型の台風」、800キロ以上は「超大型の台風」と呼びます。

20年ほど前までは「弱い台風」や「小型の台風」という言葉も使っていましたが、「大したことがない台風だ」と勘違いされるのを防ぐために使われなくなりました。

―― 天気予報では、「950ヘクトパスカル(hPa)」といったように台風の中心気圧も表示されています。この気圧の高低は、台風の勢力や大きさにも直接的に関係するのでしょうか?

【常盤さん】そうですね。台風の風の強さは、周りとの気圧差などによって左右されます。台風の中心気圧が低いほど、周りとの気圧差は大きくなるので風は強くなります。なので一般的に、中心気圧が低い台風は勢力が強くなると言えますが、そのような台風でも大きさが「大型」あるいは「超大型」に至らないケースもあります。

■大雨が降ることも!台風の勢力に降水量は関係ある?

―― 台風は風の強さが特徴ですが、雨による被害も多く見られます。勢力を示す際に、降水量は考慮されないのでしょうか?

【常盤さん】台風の風速や中心位置などは、気象衛星で解析することができます。しかし雨に関しては、そうではありません。雨を降らせる雲が遠くにあると気象レーダーの電波も届かないですし、大しけや猛烈なしけとなっているような海上へ出て行って降水量を測るわけにもいきません。また、台風の北側に前線が停滞しているなど、降水量はそのときの気圧配置や台風の進路などにも影響を受けます。そのため、台風の勢力は風速を基準として決めているのです。

―― 台風は進行方向に向かって右側の勢力が強いと聞きますが、それはなぜでしょうか?

【常盤さん】前述したように、台風は上から見ると反時計回りに渦を巻いています。風の向きをイメージすると、右側では台風に吹き込む風と、台風を動かす周りの風が同じ方向に吹きます。そのため、風が強まるのです。一方で、左側では台風に吹き込む風と、台風を動かす周りの風の方向が逆になって打ち消し合うため、右側に比べると風は少し弱くなると言われています。

■2つの台風が近づいたとき、合体することはある?

―― 台風が近くに複数発生することがあります。そのようなときに、複数の台風が合体することはないのでしょうか?

【常盤さん】合体はしませんね。ただ、2つの台風が接近する場合には、台風以外にも気圧の谷や高気圧、偏西風などの影響を受けて、複雑な動きをする可能性があります。

―― 1959年伊勢湾台風は、愛知県をはじめ、各地に甚大な被害を及ぼしました。もし現在、同じような勢力の台風が上陸したら、被害は抑えられるのでしょうか?

【常盤さん】風速や進路、降水量などの予測技術は当時よりもかなり進歩しているので、早めに台風の情報をお伝えできるようになっています。また、警報などで警戒すべき時間帯をお知らせしています。それらも活用していただけることに加えて、建物などの防災設備も進化しました。ですので、たとえ今、伊勢湾台風と同程度の勢力の台風が来たとしても、当時ほど人命に関わる被害は出ないのではないかと思います。とはいえ、自然の威力は恐ろしいものなので、油断せずしっかりと対策をすることが大切です。

夏から秋にかけて、天気予報やニュースで目にすることが多い台風情報。台風の仕組みを知れば、天気予報の解説がよりわかるようになるはず!また、台風は身近な存在であると同時に、恐ろしい災害を引き起こすこともある。しっかりとした知識を身につけることで、災害に備えておこう。

取材・文=溝上夕貴



日本では身近な存在である台風だが、意外と知らないことも多い