中国経済の第2四半期の景気インデックスをみると、前四半期のGDP成長率(前年同期比6.3%増)を大幅に下回る結果となっています。本稿では、ニッセイ基礎研究所の三尾幸吉郎氏と三浦祐介氏が、中国経済の第2四半期のGDP成長率を分析し、10月18日に公開予定の第3四半期のGDP成長率について、予測して解説します。

1.中国経済の概況

第2四半期(4-6月期)のGDP成長率は、実質で前年同期比6.3%増と、前四半期(同4.5%)から高まったが、前期比(季節調整後)では+0.8%増と、前四半期(同+2.2%)から減速し、ゼロコロナ政策の解除後のリバウンドの勢いは一時的なものにとどまった(図表-1)。

7月~8月の指標からは、その後も経済活動が停滞していることがうかがえる。不動産市場の低迷や財消費が振るわない状況は続いている。

都市部調査失業率は5%台前半で推移しており(図表-2)、全体としてみれば雇用が目立って悪化しているわけではないものの、7月から公表が中断された若年労働者(16~24歳)の失業率は、依然高止まりしている可能性が高い。

預金残高は高水準のままであり(図表-3)、先行きへの不透明感から消費意欲は盛り上がりを欠いている。外需についても、輸出の減速が続いており、経済好転の兆しはまだ十分にみられない。

インフレ状況を見ると(図表-4)、工業生産者出荷価格(PPI)は、2022年10月以降、前年同期比で下落を続けているが、7月から8月にかけて、マイナス幅は縮小している。

他方、消費者物価(CPI)は、7月に前年同期比0.3%とマイナス圏に入ったが、8月には同0.1%とプラス圏に戻った。うち、食品・エネルギーを除くコアコアは同0.8%と前月比から横ばいであった。

サービス物価は、同1.3%上昇(前月は同1.2%)し、中でも旅行費は同約15%と、サービス消費の需要は堅調に回復している模様である。

2.供給面の3指標

鉱工業生産(実質付加価値ベース)を見ると(図表-5)、今年1-8月期は前年同期比3.9%増と昨年通期(同3.6%増)をやや上回る伸びとなった。

内訳を見ると(図表-6)、鉱業は前年同期比1.7%増、電力エネルギー生産供給業は同3.5%増と、それぞれ昨年通期の同7.3%増、同5.0%増を下回る伸びにとどまったが、製造業は同4.3%増と昨年通期(同3.0%増)から持ち直した。

特に電気機械・設備製造と自動車製造は2桁の伸びを示した。他方、家具は前年同期比9.6%減と昨年通期(同6.7%減)を下回り、住宅販売不振の影響を受けていることがうかがえる。

他方、製造業PMI(製造業購買担当者景気指数)を見ると(図表-7)、第1四半期には急回復し、拡張・収縮の境界線となる50を上回る水準で推移していたが、4月以降は50以下の水準で推移を続けている。

8月には49.7と、5月の48.8を底に上昇を続けているほか、予想指数も6月以降上向いているものの、雇用指数は弱含んでおり、先行きはまだ楽観視できない状況だ。

また、非製造業PMI(非製造業商務活動指数)を見ると(図表-8)、4月以降低下を続けており、年初来3月までの回復のペースは衰えている。もっとも、製造業PMIとは違って50を上回る水準を維持しており、予想指数も58.2(サービス業57.8、建築業60.3)と高水準にある。

3.需要面の3指標

個人消費の代表指標である小売売上高を見ると(図表-9)、7・8月は前年同期比3.5%増と、第2四半期(同10.8%増)から低下した。財、飲食とも、上海ロックダウンの反動で年初から4月にかけて伸びが高まった後、昨年のベース効果のはく落もあり、伸びの鈍化が続いている。

投資の代表指標である固定資産投資(除く農家の投資)を見ると、7・8月は前年同期比1.6%増と第2四半期(同3.1%増)から低下した。

内訳を見ると(図表-10)、7・8月の不動産開発投資が前年同期比11.6%減と第2四半期の同9.5%減からマイナス幅を拡大させた。

製造業の投資については、前年同期比5.7%増と第2四半期(同5.5%増)から伸びを小幅に高めた一方、インフラ投資は、同5.8%増と第2四半期(同9.8%増)から低下した。

所有形態別にみても(図表11)、民間、国有・国有資本ともに伸びが低下(それぞれ、0.6%減→2.0%減、7.1%増→5.5%増)しており、不動産開発投資の低迷やインフラ投資の減速が足元で下押ししていることがうかがえる。

輸出(ドルベース)の状況を見ると(図表-12)、7・8月期は前年同期比11.6%減と第2四半期(同4.7%減)からマイナス幅を拡大させた。なお、輸入についても、同9.8%減と第2四半期(同6.7%減)からマイナス幅が拡大している。

4.その他の4指標と景気の総括

以上で概観した供給面3指標と需要面3指標に、電力消費量、道路貨物輸送量、工業生産者出荷価格、通貨供給量(M2)の4指標を加えた10指標に関して、それぞれ3ヵ月前と比べて上向きであれば“○”、下向きであれば“×”、横ばいなら“-”として一覧表にしたのが図表-13である。

なお、3ヵ月前比とした理由はGDP成長率(前期比)を予測するためだ。その四半期に“○”が多ければ景気が加速したことを、“×”が多ければ景気が減速したことをそれぞれ示唆している。

まず評価点(〇の数)を見ると、第2四半期は4月が5点、5月が3点、6月が1点と、分岐点(5点)から徐々に低下し、GDP成長率(前期比)も減速していた。

第3四半期については、7月・8月がそれぞれ4点、3点と、いずれも5点を下回っているものの、5・6月からは改善しており、GDP成長率(前期比)は若干加速する可能性がある。

需要面に焦点を当てると、小売売上高および輸出は第2四半期には、5・6月と“×”に減速した後、7・8月も “×”が続いている。固定資産投資は、第2四半期を通じて“×”の後、7月には一時“○”もみられたが、8月には再び “×”へと悪化しており、需要は弱まっているようだ。

供給面を見ると、鉱工業生産は、第2四半期には4月が“×”、5・6月が“〇”であった。その後、第3四半期に入ると、7月は引き続き“〇”だったが、8月には“×”へと悪化している。

もっとも、製造業PMIは、第2四半期には3ヵ月ともに“×”であったが、第3四半期に入ると2ヵ月とも“〇” と改善に転じている。生産が持続的に回復するか、今しばらく様子を見る必要がありそうだ。

非製造業PMIについては、4月まで“〇” と加速していたが、5月以降、8月にかけて“×”が続いており、足元で悪化している。

その他の指標を見ると、電力消費量は昨年12月以降6ヵ月連続で“○”の後、直近は3カ月連続で“×”となっているほか(図表14)、道路貨物輸送量も今年1月以降5カ月連続で“○”であったが、6・7月は“×”(8月“○”)となっている(図表15)。

工業生産者出荷価格(PPI)については、第2四半期は全て“×”であったが、第3四半期に入ると2カ月連続で“○”となっている。 通貨供給量(M2)は、4月以降8月にかけて“×”が続いている(図表16)。総じて一進一退の状況であり、景気の方向感はまだ判然としない。

最後に、鉱工業生産、サービス業生産、建築業PMIの3つを説明変数として、GDP成長率(前年同月比)を推計した「景気インデックス」を確認しておこう。

推計結果は7月が前年同月比3.7%増、8月が同4.6%増で、7-8月期は前年同期比4.2%増である(図表-17)。前四半期(1-3月期)のGDP成長率は前年同期比6.3%増だったので、それを大幅に下回っている。

したがって、10月18日に公表される7-9月期のGDP成長率(前年同期比)は、9月の景気次第で振れるとは言え、4%台となる可能性が高いだろう。なお、現在の市場コンセンサスは4.3%前後となっている。

(写真はイメージです/PIXTA)