「妊娠は病気ではない」。そんな言葉がしばしば使われたりもするが、では妊娠が“辛くないもの”といったらまったく違う。代表的なのはつわりだが、つわりが落ち着いた後にも便秘や、貧血やむくみ、それに伴うだるさなどなどさまざまなトラブルが存在する。中には妊娠したがゆえに引き起こされる病気も…。

【漫画】赤ちゃんはどうなっちゃうの!?ある日告げられた「妊娠糖尿病」という病名

イラストレーターとして活躍する奥田けいさんは、第2子を妊娠中に「妊娠糖尿病」と診断される。第1子である長女を妊娠していた時は「病院から太鼓判を押されるくらい健康優良妊婦」だったという奥田さんにとって、「妊娠糖尿病」と診断されたことは衝撃だったそう。そして、妊娠糖尿病についてのリアルな経験談がないことを実感。妊娠糖尿病で悩んでいる人に向けて自分のリアルな体験談を残したいと漫画「2人目妊娠したら糖尿病になった話」としてウォーカープラスで連載、2023年5月に書籍を刊行した。

今回、書籍の発売を記念して、奥田さんと書籍の監修を務めた医療法人鉄蕉会 亀田総合病院産婦人科の門岡みずほ先生の対談を実施。妊娠糖尿病に対して、どんな心構えが必要なのか聞いた。

■日本では7〜8%の妊婦が発症する「妊娠糖尿病」とは?

※OGTTでの採血の回数は病院ごとに異なる場合があります。受診した病院での指示に従ってください。

――まずは妊娠糖尿病とはなんでしょうか?通常の糖尿病との違いを教えてください

門岡先生:「妊娠中に初めて発見、または発症した糖尿病に至っていない糖代謝異常である」という医学的な定義があります。なので、糖尿病に比べると一段階下の状態で、軽度なものが妊娠を機に見つかったと考えていただくとよいと思います。診断には75gブドウ糖負荷試験という検査を行うのですが、数値としては空腹時血糖が92mg/dl、食後1時間値が180mg/dl、2時間値が153mg/dlを1つでも超えたら診断がつきます。この数値は糖尿病と比較すると「厳しい」と感じられるかもしれません。この診断基準は、2010年に世界的なスタンダートに合わせて変更になりました。そもそも糖尿病の診断基準というのは、網膜症などの合併症がどれくらいで発症するのかというのを基に決まっています。妊娠糖尿病はお母さんだけの問題ではなく、胎児にも影響があるものです。周産期の合併症の問題、将来の糖尿病の移行率が高いと言われているので、リスクのある人たちを振り分けるために、糖尿病とは別の診断基準が必要となり、2万5000人を調査したデータからこの数字が妥当だろうということで決められています。

――どれくらいの方が妊娠糖尿病と診断されるのでしょうか?

門岡先生:日本だと7〜8%の妊婦さんが診断されています。食事をとると血糖があがり、すい臓からインスリンというホルモンが分泌されて高血糖を抑えてくれるのですが、妊娠をすると、どなたでも胎盤の影響でインスリンの効きが悪くなってしまうんです。ただ、高血糖になるかどうかは個人差があります。

――奥田さんはどうやって妊娠糖尿病と診断されたんでしょうか?

奥田さん:別の検査で数値がよくないということで、「75gブドウ糖負荷試験」というのを受けました。空腹時の血糖を測定するために採血したあと、ガムシロップみたいに甘い炭酸水を飲んで30分後、1時間後、2時間後と4回の採血を経て血糖を測定するんです。そしたら数値がこの基準を超えてしまったということで診断がつきました(※30分後の血糖測定実施は病院による)。

――妊娠糖尿病の判断には、奥田さんもされた「75gブドウ糖負荷試験」を行うのでしょうか?

門岡先生:そうですね、確定診断としては75gブドウ糖負荷試験を用います。妊娠糖尿病かどうかのチェックは、妊娠初期と中期に行います。妊娠初期には随時血糖での診断です。中期での診断は施設によって変わるのですが、50gブドウ糖負荷試験か随時血糖かで診断します。

――妊娠糖尿病と診断されたらどのように治療していくのでしょうか?

門岡先生:日本ですと、食事療法とインスリン処方の2つの方法がとられます。欧米ですと、経口血糖降下薬という内服薬もあるのですが、日本ではまだ未認可です。まずは食事を見直すことで、血糖のコントロールをしていきます。ただ、どうしても妊婦さんはインスリンの効きが悪くなってしまうものなので、食事療法だけでは血糖コンロールが難しいこともあります。その場合は、インスリンを注射してコントロールしていきます。

奥田さん:栄養指導の方が食事についていろいろとアドバイスをくださって、それを基に食事療法を進めていきました。食後2時間後のタイミングで血糖測定をしていたんですが、「食後2時間後血糖が120mg/dlをあと2回超えたらインスリン注射ね」と言われていました。

――奥田さんは、1人目ご出産に際しては特に指摘がなかったんでしょうか?

奥田さん:はい。1人目のときは最初から栄養バランスを考えて、なるべくいい食事というのを意識していました。運動も散歩をしたり。「健康妊婦さんですね」と病院から太鼓判を押されていました。2人目は長女がいることで、何もかも適当になってしまって…。白米をかきこんで、長女の寝かしつけをして、そのまま寝落ちしてしまったり。デスクワークなので、口寂しい時につい間食をしてしまったり。そういう生活を続けていた結果、こういう診断が…。

門岡先生:私も子供が2人いるので、2人目になると手が回らなくなって、自分のことが適当になってしまうというの、非常によくわかります。なまじ医学的な知識があるので…これは悪い話ですね(苦笑)。

――これくらいならまだいけるって考えてしまいそうですね(笑)。奥田さんは、つわりで食事がとれないというようなことはなかったんでしょうか?

奥田さん:1人目のときも2人目のときもつわりはほとんどなかったんです。ただ、食事内容は子供の好きなメニューを作っていたので、例えばハンバーグとポテトサラダ、みたいに高カロリー気味でした。

――奥田さんは妊娠糖尿病と診断されたあと、栄養士の方からの栄養指導と糖尿科を受診されていましたが、これは同じ病院で受診されていたんですか?

奥田さん:はい。総合病院で、産婦人科と同じ敷地内で妊娠糖尿病について診てもらっていました。

――さまざまなケースがあると思いますが、産婦人科のみのクリニックで妊娠糖尿病と診断された場合は、糖尿科のある病院の紹介状を書いてもらって、受診することが多いのでしょうか。

門岡先生:そうですね、食事療法だけでいくのか、インスリンが必要かによってケースバイケースではあります。インスリンが導入された場合は、産婦人科と内科での密な連携が大事だと思うので、産科は転院をして一つの病院の中で診てもらうのもスムーズかもしれません。我々のところでも近くに産院もあるんですが、Webカンファレンスを利用するなどして密にやり取りをしています。食事療法の間は産院で管理してもらって、インスリン導入になったら転院してきてもらうということがあります。

インスリンを導入したほうが経済的?血糖測定が高額だった理由とは

――奥田さんは血糖コントロールをするために1日4回の血糖測定をする必要があったんですよね。

奥田さん:はい、朝起きた時の空腹時血糖と、3食の食後2時間後血糖を測っていました。

――毎食2時間後となるとそのタイミングで外出したりしていると、測定も大変ではなかったですか?

奥田さん:私は血糖測定用の機械を病院から貸し出してもらっていました。その時にポーチも一緒にもらっていたので、そこに測定に使う針とセンサーチップを何個か入れるようにして、必ず持ち歩くようにしていました。血糖測定は指に針を押し当てて血液を出し、その血液をセンサーチップに当てて測定するんです。指に不純物が付着していると正しい血糖が測れないので、事前にアルコール消毒が必要なんですが、コロナ禍ということもあって、どこでもアルコールがあったので、その点はやりやすかったですね。長女の七五三の衣装合わせの時にも、時間になったらトイレで測定していました(笑)。

――妊娠糖尿病では血糖コントロールが必要不可欠なので、食事療法だとしても日々の血糖測定が欠かせないのですね。経済的な負担はどうだったのでしょうか?

奥田さん:産婦人科の診療では、妊娠糖尿病だからといって特別なことがあったわけではないのですが、糖尿科の受診料、栄養指導、それから血糖測定のための針とセンサーチップがすべて保険適用外で自費診療でした。「残り2カ月だから頑張ってね」と励まされたんですが、針とチップだけでトータル2万円ほどかかりましたね。妊娠初期から血糖測定をしていたら20万くらいかかってしまったことになるので、かなりの負担ですよね。

門岡先生:これは、妊娠糖尿病における診断ポイントが理由なんです。75gブドウ糖負荷試験のような検査のことをOGTTというんですが、3回採血をしたタイミングで1回でも基準値以上だったら妊娠糖尿病と診断されます。ただ、通常保険適応になるのは、「1ポイント陽性で、BMIが25以上の方」もしくは「2ポイント以上陽性の方」になります。奥田さんのようにBMIが標準で1ポイントしか陽性でなかった場合は自費診療の扱いになってしまうんです。インスリン導入になると、病名がつけられるので保険適用になります。奥田さんは食事療法で頑張られてインスリン導入にならなかったから余計にお金がかかってしまいました。

奥田さん:インスリンは嫌だ!という気持ちで食事療法を頑張っていましたが、それを知っていたら、ちょっと迷ったかもしれないです(笑)。

――余計な血糖を上げないためにも間食を控えられていましたね。妊娠前までは気にしていなかっただけに、我慢するのも大変だったと思います。どうやって気を紛らわせましたか?

奥田さん:間食をしてしまうのは口寂しいのが問題なのかなと思って、そんなときは水分をとるようにしていました。普段、意識をしないと水分をとれないタイプなんですが、ルイボスティーとか桑の葉茶、ノンカフェインのコーヒーなどを飲むようにしたらだいぶ気が紛れました。どうしようもない時はナッツをかじっていることもありましたね。

門岡先生:奥田さんがとられていた糖質を含まないものをおやつにするといったことは私もおすすめすることがあります。ただ、個人的見解も含みますが、日頃から妊婦さんには「ストレスを溜めすぎるのもよくないよね」とお話をしているんです。妊娠糖尿病の治療、その食事療法は自分と赤ちゃんのためにすること。その治療でストレスを溜めこんでしまう状況というのは肉体的にも精神的にも避けてあげたいところです。

――食事療法ではどんなことが一番大変でしたか?

奥田さん:長女となるべく同じものを作って食べたいというのがあったんですが、それができなくって。もち麦ごはんだったり、サラダをたくさん取るようにしていたんですが、長女は食べないので別のものを用意する必要がありました。子供の世話をしながらというのもあって、食事の準備が一番大変でしたね。

――食事の記録をまめにとっていらしたようですが、これは毎日続いたのですが?

奥田さん:1日も欠かさず、血糖測定のノートにみちみちと書き込んでいました。書いていると安心できましたね。毎食の内容を書き出すことで暴飲暴食を防ぐこともできました。

門岡先生:ここまで毎日しっかり書かれる方は素晴らしいですね。食事の記録を取ると奥田さんのように振り返ったときの励みになりますし、急に血糖が上がってしまっているときにその原因がわかったりします。野菜、タンパク質、炭水化物の順番で食べると血糖値の上昇がマイルドになると言われていますが、「この日は外食でできなかったな」というように食事の状況がわかるんです。一過性の上昇であるならば、インスリンの量を増やす必要はないというように、医療介入にあたって我々も助かります。

――奥田さんは低糖質の食事をとられていました。病院では糖質制限はしないように話があったそうなんですが、糖質をカットするとどんな影響がありますか?

門岡先生:赤ちゃんのエネルギー源って糖質、ブドウ糖がほとんどなんです。それが供給されないと、赤ちゃんが発育不全になってしまうんですね。そして、エネルギー源が不足していると、お母さんの貯金を切り崩していくことになります。通常の妊婦さんでも、妊娠後半になると赤ちゃんのニーズが高まってきて、相対的に糖質が不足することがあって、お母さんの脂肪を分解し始めてそれをエネルギー源にするんです。そうなるとケトン体というのが出始めて、体内のバランスが狂い、“アシドーシス”といって救急搬送されるような事態にもなりえます。ケトン体が溜まっている状態が続くと赤ちゃんのIQに影響するという研究もあります。

――ケトン体が出ているかどうかは尿検査でわかりますよね。出ていたらやめるというような認識でもいいんでしょうか?

門岡先生:ケトン体って妊婦健診の必須項目ではないんです。毎回の妊婦健診時に尿検査自体はありますが、このときに見るのは尿蛋白と尿糖。しかも尿検査も毎日のことではなく、ほんの1、2週間に1回のことなので、そのとき大丈夫だからってOKというふうには言えないですね。なので、栄養指導に沿った炭水化物もきちんととって、それで血糖が上がるようだったらその分はインスリン注射で打ち消すようにしていただきたいです。

――なるほど。奥田さんは栄養指導で指示された炭水化物の量より少なめに食べていたそうですが、もともと指示されていた量は診断前に食べていた量よりは少なかったんでしょうか?

奥田さん:それはもう(笑)。餃子とご飯とラーメンみたいに炭水化物たっぷりの食事でした。朝もカフェオレはちみつを入れたり、パンにホイップクリームを絞っていちごジャムをのせたり……欲望の赴くままに食べてしまっていました(笑)。

門岡先生:それはおいしそうです(笑)。

――運動はされていたんでしょうか?

奥田さん:1人目妊娠時よりお腹が張りやすかったので、家事をテキパキするくらいでした。食べてすぐに座らないでねって言われていたので、食べた後は洗濯物を干したり、掃除機をかけたりして意識してキビキビ動いていました。夏だったので、夕方涼しくなったあと娘の保育園からのお迎えがてら散歩したりはしましたが、それくらいです。

門岡先生:運動をすると、血糖が下がりやすくなったり、インスリンが効きやすくなったりということがあります。ただ、負荷がかかりすぎると、筋肉への血流が増える分、子宮の赤ちゃんへの血流が減るということがあるので、過度すぎず、危なくない、有酸素運動がいいです。「過度ではない」に対する1つの指標としては、心拍数が150くらいまで、と言われていたりします。なので、奥田さんがとられていた方法はよいですね。妊娠糖尿病でなくとも、お腹に張りがなく、赤ちゃんの発育に問題がなければ妊娠前にやっていた軽い有酸素運動であれば問題ないと言われています。

■妊娠糖尿病は改善できる病態「健康的な食生活を手に入れるチャンスと考えて」

――奥田さんはインスリンの注射に抵抗感があったそうですね。なぜでしょうか?

奥田さん:小さい頃からすごい注射が苦手で。気絶するまではいかないものの、冷や汗ダラダラで怖すぎて震えてしまうことがありました。それぐらい注射が嫌いだったので、毎回血糖測定の針を刺すのも緊張してしまって。押し当てると針が飛び出してくる仕組みなんですが、当たりどころによっては結構痛いんです。なので毎回「痛くありませんように」と祈るような気持ちでいました。手汗をかきすぎてしまって、血液と汗が混ざってしまって反応しなかった…なんてこともありましたね。それくらい緊張していたので、お腹に、ましてや自分でインスリンを打つなんて絶対無理!という考えがありました。それからインスリンを打ってしまうと真の糖尿病患者になってしまうという思いがあって、絶対に打ちたくない一心でした。糖尿病に対して、偏見だとは思うのですが、幼い頃から糖尿病を患っている方は別として、大人からの糖尿病には生活習慣病ということで太っていたり、不摂生というようなマイナスイメージがありました。私、子供のころ太っていまして、小学校の高学年のころは今よりも体重が8キロくらい重くって。親が糖尿病なんじゃないかって心配して血液検査に連れて行かれたこともあって「糖尿病=肥満」のイメージがあったんです。

――妊娠中はインスリンが効きづらいため、高血糖になりやすいといっても妊娠糖尿病に至らない妊婦さんのほうが多いですよね。何が原因として考えられるんでしょうか?

門岡先生:前回の妊娠時に妊娠糖尿病だった、妊娠前からの肥満、ご家族に糖尿病患者さんがいる、高齢出産であることなどがリスク因子としてあります。なので、奥田さんが糖尿病に対してイメージされていた肥満や不摂生も原因の一つとして考えられますが、太っていない人も妊娠糖尿病になることはあります。体格のいい人は妊娠前からインスリンが効きづらいという性質があって、妊娠をしたことで余計にインスリンが効きづらくなるということがあるんですが、痩せている方の場合は、インスリンの出る量自体が少なくて発症するということがあります。あとは一見痩せてはいるんだけど、前回の妊娠から体重が増えっぱなしというのもリスクだったりしますね。ご自身の中での体重の増加率も関係しています。

――奥田さんは妊娠糖尿病と診断されたとき、非常にショックを受けたとのことですが、振り返って「もしこういう説明を受けていたらここまでショックを受けていなかった」というようなことはありますか?

奥田さん:「産んだら治るから」と先生は声掛けをしてくださっていましたし、フォローはあったかと思うのですが、“糖尿病”というワードでガーンときてしまって…。元々、私はネガティブ気質なので、先生の言葉を聞き入れられなかったというのは反省点です。なので、私が言うのもなんですが、妊娠糖尿病と診断された方には、あまり重く捉えないでほしいなと思ったりします。

門岡先生:妊娠糖尿病になった方に毎回「妊娠をきっかけに軽度の糖代謝異常を見つけることができて、健康的な生活が手に入れられるチャンスだよ」と声をかけるようにしています。「気をつけていたのになんで」「なんで私が」とか落ち込まれてしまう方が多いのですが、でも妊娠もせず、食事も体重も気をつけてないで生活をしていたら5年後10年後に急に「糖尿病」と診断されていたかもしれません。妊娠糖尿病はそこに至っていない病態で、必ずしも糖尿病になるというわけではありません。自分は注意しなければならない体質だというのがわかって、食事や体重増加を気を付ければ”将来糖尿病にならないように心がけて生活できる”というのは妊婦さんだからこそ与えられた機会です。診断されてすぐに「わかってよかったね」と言ってもなかなか受け入れにくいと思いますが、時間が経って、診断を受け止められたところでこうしたお話をすると、「そうですね、頑張ります」と言ってくださる方が多いですね。妊娠糖尿病をしっかり治療することは、ご自分の身体だけでなく赤ちゃんが大きくなった時の肥満や生活習慣病も抑えられるので、前向きに一緒に取り組んでいこうね、と話をしています。

――奥田さんは注射への恐怖心がおありだったと。妊娠糖尿病のことを抜きにしても、妊娠していると採血の機会って多いですよね。

奥田さん:はい、ストレスでした。

門岡先生:こればっかりはお母さんと赤ちゃんのためなので、すみません!お産もそうですが、心許している人がいると乗り越えられるというのはあるかもしれません。例えば採血室にご家族に一緒にきてもらうとか。とはいえ、コロナのこともあって、なかなかご本人以外の来院を断らざるをえない状態なので難しいですよね。インスリン注射が嫌だとおっしゃる妊婦さんに関しては、なぜ嫌なのかを把握するのが大事かなと思っています。奥田さんのように針自体が怖いという方もいますし、お腹にいる赤ちゃんに針を向けたくないという方もいます。面倒とか大変そうだからという方もいらっしゃいます。針が怖いという方への1つの提案としては、血糖測定も含めて別の方にやっていただくという手があります。痛みは感じづらい、吸収速度が早いということから、インスリン注射はお腹に打つのが通常なのですが、太ももや上腕に打っても大丈夫なんです。面倒という方には、いかにきちんと管理することが赤ちゃんとお母さんにとって大事なのかをとうとうと説きますね(笑)。赤ちゃんが成長していく過程にも影響すると話をすると「なら頑張る」と思ってくださる方がほとんどです。やみくもに打て打てとはしたくないですね。医者がこうしてほしいと話をするのは、あくまでも妊婦さんと赤ちゃんのため。納得して取り組んでいただきたいです。

奥田さん:もし、また妊娠の機会があったらまずはバランスのよい食事と運動をしていきたいです。それでも妊娠糖尿病になってしまってインスリンを打たなければならないとなったら、腹を括りたいと思っています。

――門岡先生から「妊娠糖尿病は健康的な食生活を手にいれるチャンス」というお話がありましたが、奥田さん、現在の食生活はどのようなものでしょうか?

奥田さん:朝昼は普通に炭水化物を食べて、夜は遅いことが多いのでタンパク質と野菜だけにするようにしています。おやつも今まではがつがつ食べてしまっていたんですが、低糖質のものを取り入れたり、半分量にしたりして、健康的な食生活を意識しています。妊娠糖尿病を経て「長生きしたいな」と思うようになりました。コロナ禍だったり、子供が小さいこともあって運動が全然できていなかったんですが、最近はステッパーマシンを買って、家でふみふみしています。主治医の先生にも有酸素運動をするようにすすめられたので、子供が寝た後2、30分運動しています。出産前よりも健康であろうとする意識は高まりました。

――最後に、奥田さん、門岡先生それぞれから妊娠糖尿病の方へメッセージをお願いします。

奥田さん:私もそうでしたが、妊娠糖尿病と診断された方はストレスを感じていると思います。門岡先生も話されていましたが、いかにお母さんがストレスを感じず血糖をコントロールできるかが大事なんだと思います。書籍を通じて、こんなお母さんもいるんだということで、私のアホなところとかミスも踏まえて、笑ってもらったり、レシピを参考にしてもらったり。少しでも気持ちが軽くなってもらえたらうれしいです。

門岡先生:先にお話したことと少しかぶりますが、診断にショックを受けるとは思いますが、こんなに軽度な糖代謝異常が見つかる機会は妊娠以外なかなかありません。これを一生の長期的なスパンでいい機会だと思って、自分と赤ちゃんの将来のために治療を頑張っていただきたいです。辛いことはたくさんあると思うのですが、医師・栄養士・助産師・看護師に弱音をどんどん吐いてほしいです。医療従事者と悩みを共有して乗り越えていってください。共有という点では友達って大事だと思います。妊娠糖尿病仲間を見つけた方って和気あいあいと一緒に頑張ろうとされているので、奥田さんの著書がその友達がわりになって「こういう人もいるんだ、頑張っているんだ」と捉えてもらえたらと思います。

取材・文=西連寺くらら

イラストレーターの奥田けいさん。2人目の出産予定日まであと2カ月のタイミングで、思いもよらぬ診断を受けてしまう。「2人目を妊娠したら糖尿病になった話」より/(C)奥田けい/KADOKAWA