『ちょっと思い出しただけ』(22)や『シン・仮面ライダー』(23)など、いまや日本映画界に欠かせない実力派俳優となった池松壮亮。彼が1人2役で2人のジャズピアニストを演じ分け、運命が大きく狂いだす一夜を描いた『白鍵と黒鍵の間に』が10月6日(金)に公開される。

【写真を見る】池松壮亮が1人2役で、理想と現実に葛藤するピアニストを熱演!

本作はジャズミュージシャンでエッセイストとしても活躍する南博が、ピアニストとしてキャバレーや高級クラブを渡り歩いた3年間の日々をつづった回想録「白鍵と黒鍵の間に-ジャズピアニスト・エレジー銀座編-」を冨永昌敬監督と共同脚本の高橋知由が大胆にアレンジ。南博をモデルとした主人公を“南”と“博”に分け、3年におよぶタイムラインがメビウスの輪のようにつながる一夜の物語を描いている。

試写会で作品を観た人たちからは「話の展開がまったく見えなくておもしろかった」(20代・女性)や「前半はすてきな作品だと思い、中盤で変な映画だなと思い、最後はとてもおもしろかったという感覚でした」(20代・女性)など満足度の高い声が数多く寄せられている。ここでは試写会アンケートに寄せられた感想を交えながら、本作の魅力をひも解いていく。

■2つの時間軸がつながる…!斬新な構造が表現することとは?

昭和末期の夜の街、銀座。ジャズピアニストを夢見る博(池松)は、場末のキャバレーでピアノを弾いていたところ、ふらりと現れた謎の男(森田剛)によってリクエストされた「ゴッドファーザー 愛のテーマ」を弾いてしまう。しかし、銀座でその曲をリクエストしていいのは重鎮の熊野会長(松尾貴史)だけで、演奏を許されるのも会長お気に入りのピアニストの南(池松)だけ…。2人のピアニストの運命を変える一夜の騒動が幕を開けてしまう。

欲望が渦巻く水商売の裏側やヤクザ同士の争いといった様々な人間模様が、銀座を舞台につづられる本作。3年前と現在を一夜として同時進行で描くファンタジックな作品の構造により、理想と現実に打ちのめされていく1人のピアニストの心情が浮き彫りになっていく。

「頭を整理するのが難しかったが、点と点がつながるととてもおもしろい」(20代・女性)

「時間の前後が多々あったため難しかった」(20代・女性)

「予想外の展開で、いろんな解釈ができる終わり方だった」(20代・男性)

上記のコメントからもわかるとおり、物語のテーマを表現するトリッキーな構造は難解だが、深みを感じた人も多かったよう。南と博が同じ空間にいる演出についても「1人の人物の異なる時系列での話を、同じひと晩で描くという設定がよかった」(20代・男性)、「現在の時間軸で、未来と過去の2つを描いている斬新な設定だと感じた」(20代・男性)など好意的な意見が並んでいた。

池松壮亮の演技力に感嘆…実力派が演じる魅力あふれるキャラクターたち

そんな物語を主人公として引っ張るのが南と博。南は才能にあふれているが、夜の世界に染まり夢を見失ってしまったピアニスト、一方の博は希望に満ち、ジャズマンになる夢に向かって邁進する若きロマンチストだ。顔はまったく同じだが、心のなかは真逆。そんな裏表のような人物を繊細に演じ分けた池松の演技には、

「いまの南も3年前の博も悩みもがいている心情を表現した池松さんの演技がよかったです」(20代・男性)

「池松さんの演じ分けがすごかった」(20代・女性)

「まったく別の人のような演技がすごかった」(20代・女性)

と多くの称賛が寄せられた。また、主人公の心の移ろいを、南と博という2人に分けて表現した“ややこしい”キャラクターゆえ、印象や考察の声も。

「夢や希望を持って新しい場に踏み込みながらも抜け出せなくなっているのがかわいそうに感じた」(20代・女性)

「最初は気づかず、違和感がずっと続いていました。3年で人は変わる。でも根本はやっぱり変わっていないんだなと」(20代・女性)

「南…ゴッドファーザーに魅せられ狂気に堕ちていく=黒鍵、博…先生の教えを胸に明るい道へ進む=白鍵」(20代・女性)

主人公の脇を固める人物も「全員印象に残った」との声があったほどクセ者ばかりで、実力派たちが魅力的に演じている。例えば、刑務所上がりのチンピラである“あいつ”は、騒動の発端となるキーパーソン。危ない香りとつかみどころのない飄々とした雰囲気を漂わせた森田剛の演技には、思わず目を奪われる。

「渋さと小物感の演技がよかった」(30代・男性)

「森田剛さんらしい演技でキーパーソンとなり、作品に必要な人物だった」(20代・女性)

「難解な映画のなかで意志や意図が明確だったと思います」(20代・女性)

仲里依紗が演じる、博の大学時代の先輩であり、クラブでは南のバンド仲間でもある千香子には「昔の博を知っている重要な人物であり、"2人"とのほどよい距離感のある演技が絶妙だった」(20代・男性)という声が寄せられた。また「愛嬌があり、すてきな人でありながら実は不満や寂しさを抱えて生きている人とわかったから」(20代・女性)という言葉が寄せられたクラブのバンドマスターである三木役の高橋和也、「出演シーンは少ないですが、大切な人物なんだと感じた」(20代・女性)という主人公の恩師、宅見を演じた佐野史郎ら、ベテランたちのさすがの演技は物語に深みをもたらしている。

■本物のミュージシャンたちによる圧巻の音楽シーン

ジャズを題材とした作品ゆえに音楽シーンに気合いが入っている本作。池松も半年の猛特訓を重ね、「ゴッドファーザー 愛のテーマ」を実際に演奏したそうだから驚きだ。

「すべての音楽がよかったですが、K助のサックスの演奏が特によかったです」(20代・男性)という声が寄せられたサックス奏者のK助役の松丸契をはじめ、アメリカから来たシンガー、リサ役のクリスタル・ケイといった実際のミュージシャンがキャスティングされたほか、若きジャズピアニストとして注目を集める魚返明未が音楽を担当している。

「クラブの中心で、みんなで演奏し、歌い、踊るシーン。あの場の全員が音楽に魅せられている姿が見ていて楽しかった」(20代・女性)

「いろいろな楽器で合奏が始まるシーン。いままでの安定をぶち壊していくように見えたから」(20代・女性)

「博の演奏を聴いて、先生が自由にピアノを弾きだすところ。灰を鍵盤にこぼしながら弾くところにノンシャラントを感じました」(20代・女性)

ジャズに触れたことがなかったが、すてきな音楽が聴けて、今後意識して聴きたいと思った」(20代・女性)

終盤のセッションは大きな見せ場で、本物たちが奏でる説得力抜群のサウンドが印象に残った人も多かったよう。常にBGMが流れ、音楽シーンも多い本作は「音響がいい映画館で観るべき」(20代・男性)作品といえるだろう。

■夢を追う主人公の姿が染みる…自身に重ね合わせる人が続出!

時間軸を超越したユニークな物語構造、魅力的なキャラクター、本格的な音楽など様々な要素が絡み合いながら、夢を追いかけるピアニストの葛藤や選択といった人生を描きだす『白鍵と黒鍵の間に』。夢を追う博と夢を失った南の姿を見て、自分自身と重ね合わせた人も多かったよう。

「いまは夢がないですが、あった頃を思い出した」(30代・女性)

「自分はなにをしたいのかを改めて考えさせられました」(30代・男性)

「私はいま夢を追いかけている最中ですが、常に変化と成長を求め続けようと思いました」(20代・女性)

「夢を持つこと」について改めて考えさせられたという言葉がアンケートには並んでいた。そんな本作を誰に、どんな言葉で薦めたいかを質問してみたところ、

「同い年の友人に。やりたいことが見つかっていない時に観ると考えさせられる映画」(20代・女性)

「自分と同じくくすぶっている人に。自分の未来についての考え方がわかるから観てほしい」(20代・女性)

ジャズを知らない人に。展開が見えないおもしろさがあるうえに、ジャズに触れることができる」(20代・女性)

「音楽好きの人に。音楽の光と闇を堪能できる映画」(20代・女性)

など本作の持つ多彩な魅力を証明するようなバリエーション豊かな言葉が並んだ。音楽映画であり青春映画、そして実験的な側面も楽しめる『白鍵と黒鍵の間に』は、ぜひ劇場に足を運び、いい音響で堪能してほしい。

構成・文/サンクレイオ翼

『白鍵と黒鍵の間に』の見どころを試写会コメントと共にひも解く!/[c]2023 南博/小学館/「白鍵と黒鍵の間に」製作委員会